鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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先日、艦これの劇場版のブルーレイが届きました。

そして、ラストに感動してしまいました・・・・・

自分的には、駆逐艦では吹雪が一番好きです。

大和もカッコよかったな!

では、本編をどうぞ!


どうしろと?

季節は、夏。

 

 

 

 

「あちぃ~」

その日射に、早くもくたばりかけている摩耶。

食堂の机につっぷし、注文したものが今か今かと待ち望んでいる。

「もう、摩耶ったら。まだまだ初夏でしょ?」

「でも暑いのは暑いんだよ!はぁぁあ・・・・どうして提督はこんな暑い中であんな長袖でいられるんだよ・・・・」

抗議する摩耶だが、すぐさま猛暑に負けて項垂れる。

それは、この場にいる全ての艦娘たちも同じ事だ。

「はーい、番号十五番でお待ちの方、アイス出来ましたよ」

「アタシだぁぁぁああ!!」

十五と書かれた札を持って、すっ飛んでいく摩耶。

「やれやれ・・・・まあ、こんな猛暑の中で中袖をしている馬鹿といえば、提督ぐらいしかいませんよね・・・・」

と、鳥海は呆れたように、猛暑だというのに長袖の軍服のまま、台所で冷たい甘味作りに必要だという事で没頭している鉄兜の男を見る。

 

 

 

 

 

 

 

季節は夏。

 

第四鎮守府は今日も、平和に暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この男以外は。

 

 

 

 

 

 

 

横須賀。

そこは、日本にある四つの鎮守府を統括する本営が存在する。

そこに、提督は招集をかけられ、今そこにいた。

廊下をずかずかと威圧的に歩く提督。

「やあ、久しぶりだな」

ふと背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「上杉大将・・・」

「うむ。元気そうで何よりだ」

振り向けば、そこには、中々に二十代くらいのイケメンな赤茶色の紙をした青年が立っていた。

彼の名は『上杉(うえすぎ) (かえで)』。階級は大将だ。

その人当たりの良さと部下からの高い信頼から大将に抜擢されており、深海棲艦との戦争面においては、艦娘の状態を考えて行動する上層部唯一の慎重派。

そして、提督の恩人でもある。

「ご無沙汰しております」

「どうだ?最近のあの鎮守府での生活は?」

「慣れてきています。皆」

「それは重畳」

ハッハッハ、と見た目に似合わず高笑いするが、実はこの男、実年齢は()()である。

どこぞの波紋使いか何かか。

行き先は同じなので、上杉の後ろをついていく提督。

「今回は俺も会議に呼ばれてな」

「そうなのですか」

「うむ。どういう訳か分からんが、まあ()()()()()()()()には変わりはないだろう」

「はい」

なんとも和やかな笑いを浮かべながらそう言う上杉に相槌を打つ提督。

「お、そうだ。朝潮は元気にしているか?」

「朝潮、ですか?」

思い出したかのように振り向く上杉に、首をかしげる提督。

「駆逐艦の朝潮だ」

「朝潮でしたら、特に問題はないかと。ただ、霞や満潮には特に毛嫌いされているようですが・・・・」

「ふぅむ・・・やはりそうか」

「?」

さらに首をかしげる提督。

「いやな。俺の友人が朝潮の義理の父親でな。今は事情があって退役していて俺が面倒を見るつもりだったんだが、ちょいと大きな事件があってな」

「事件ですか?」

「ああ」

うなずく上杉。

「ある遠征でな。輸送船団の護衛についていたんだがな。ある時、敵の大規模な襲撃にあってな」

「輸送を阻止するのにですか?」

「ああ。といっても、駆逐艦や軽巡に、重巡を入れた、いわば、物量によるゴリ押しの部隊だったんだがな。その時、輸送船の一隻が沈んでな」

「はあ・・・・」

「それで、朝潮が一人、旗艦としての役割を放棄して救助に向かったんだ。それで・・・・」

「その時、仲間の一隻が沈んだと・・・」

「その通りだ」

少々、その答えに、黙ってしまう提督。

「その時の混乱で、随伴艦は次々と沈んで、残ったのは朝潮以外、全員沈んだそうでな」

上杉は、そう真剣に言って、一度切る。

「そうですか」

「そのさい、第三のほとんどの艦娘に罵倒を喰らったみたいでな。あの時は、見るも耐えられない程に酷い顔をしていたな」

「それで、その為の救済処置の為に第四に移したと?」

「うむ。俺ではまともな理由もそろえられないからな。着任しようにも、すぐに弾かれる」

「そうですか・・・・」

考える提督。

だが、何かを言い出す前に、上杉が止まる。

「ついたぞ」

そちらを見ると、そこには『第一最高会議室』の文字と扉があった。

コンコン、と上杉が扉を叩く。

「上杉だ」

「入れ」

中からの返事を聞き、上杉は扉を開ける。

そこには、数名の白軍服姿の人物たちが、それぞれの席についていた。

そして重く苦しい重圧が、その空間に満ち満ちていた。

 

提督にとってはどうでも良いが。

 

上杉に続いて遠慮なしに入り、空いている席に座る。

「全員、揃ったな?」

ふと、提督の座る席の向かい側に座る男が、そう呟く。

その身分は、元帥。

その傍らにいるのは、赤が基調としたセーラー服を着た女性。

「それではこれより、海軍最高会議を始める」

元帥『(いかり) 煉雅(れんが)』が、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍最高会議。

それは、海軍上層部及び日本の四つある鎮守府の提督たちのみ参加できる、軍最高機密を取り扱う会議だ。

その席には、元帥も同席し、さらに、元帥の『傍付き』も同席可能なのである。

そして、現在の元帥の『傍付き』の名は――――

 

 

――――『大和』

 

 

 

かつての、提督の同志だった―――――()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回、この会議で議論する事は、近日発見された『新型』についてです」

参謀の眼鏡の男が手元の資料を見ながらそう言う。

「け、どうせろくでもない雑魚なんだろ?気にする必要なんてないっての」

提督の隣の第三鎮守府提督の天瀬玄大佐のさらに隣。色素の薄い短い髪にそれなりに顔立ち良い顔。傍から見れば、数人は美男子と思うその顔には、明らかにうんざりした様な表情が浮かんでいた。

その階級は少将。

その階級に見合い、有能な男だ。他の提督よりは、ずっと。

その名は『斑鳩(いかるが) (まこと)』。

空母中心の構成を主とする『第二鎮守府』の提督だ。

「まあまあ、そう言わず、きちんと聞き給え」

「うるせえ、俺よりも階級が下な癖に口答えしてんじぇねえよ」

玄の言葉にさぞうざそうに答える真。

(・・・・うるさい奴だ)

提督は内心そう思った。

ついでに、絡まれるとろくな事になりそうにないとさとり、視線を参謀へと戻す。

「もうよろしいでしょうか?」

「チッ、わあったよ」

背もたれに大きく体重をかけ、そう答える真。

これでも、腕は確かだ。

「では」

「ちょっと待った」

そのまま会議は進むかと思いきや、ある人物によってそれは止められる。

「そこにいる男、第四の提督についてだ」

真の更に隣、顔に斜め一文字の傷がついた軍刀を携えた男だ。

第一鎮守府提督にして、かの名家南雲家当主『南雲(なぐも) (いさむ)

「何か用か?」

提督は、その男に視界が悪い兜を僅かに向けて応じる。

「貴様、何故その兜を外さん」

男は、威圧的にそう提督に向かって言う。

だが提督はそれに対して。

「別に外す必要は無いだろう?」

そう即答した。

その反応が気に喰わなかったのか、さらに突っかかってくる男。

「この大事な会議に、自らの素顔も晒さずただ話を聞きに来るなど言語道断ではないのか?」

「言語道断だろうが関係無い。俺は外す気は無い」

「そんな我儘が通ると思っているのか?自惚れもほどほどにしろ」

「自惚れている訳ではない」

「そんな事はどうでも良い。俺は兜を外せと言っているんだ」

「断る」

「なあちょっと聞いてて思ったんだけどさぁー」

終わらない言葉のキャッチボールに割り込むもう一人の人物。

「そこの兜野郎ってさぁ、上官に対する礼儀ってものが全然なってないよねぇ~」

真だ。

「お前、階級少佐のくせに中将相手に生意気な態度とって良いって思ってんの?せめて敬語使えよ敬語」

「少なくとも、お前に使う気にはなれない」

「ああ?」

挑発的な真の言葉に、提督は反撃する気なしに、ただ本心を述べた。

それに青筋を浮かべる真。

「俺はよぉ、階級が上の相手には()()()敬語を使えって言ってんの。何?分かんないのお前?バカなの?」

「知らんな」

更に受け流される。

それにさらに眉間にしわを作る真。

「テメェ・・・」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ真少将殿」

そこへ仲裁へ入るように玄が割り込む。

「君も、上官には敬意を表するべきだよ。君()()()よりずっと()()なんだよ。だからちゃんと従いたまえ」

「優秀なのは、認める。だがそれで敬語を使う理由にはならない」

「おやおや、嫉んでいるのかい?」

「嫉んで何になる?」

「才能が無いから、せめてもの抵抗に敬語を使わないでいるんじゃないのかね?」

「・・・・・はあ」

提督は、呆れたようなため息を吐く。

どうやらどう返しても返されてしまうらしい。

「さっさと先へ進めよう。こんな事で時間を食っている時間は無い」

「お前が兜を外せば済む問題だ。さっさと外せ」

「まあまあ、落ち着きたまえよ、中将よ」

終わらない話に割り込む様に、上杉が声を出す。

「上杉大将殿・・・」

「それなりに話したくない事情があるのだろう。無駄な詮索はやめて、そろそろ会議を進めた方が良い。であろう、元帥」

いきなり話を元帥である碇にそう話しを振った上杉。

対して碇はため息を吐いた。

「そうだな」

そう短く、言った。

これには流石に男もこれ以上言えない。

「チッ」

「・・・」

真は不完全燃焼の様に、玄は不満そうに引き下がる。

「では」

参謀は、自分が持つタブレットを操作する。

すると部屋が暗くなり、会議室の中心に、ホログラム映像が展開される。

そこには、臀部から下を異形の怪物と融合し、上半身は美しい女性そのもの。骨色の肌と同じ髪を頭の後ろで結っており、その下半身の怪物の巨大な口の横には見るもおぞましい巨大な腕が生えていた。

「これは・・・・」

「第一鎮守府の第三艦隊が確認した新型の深海棲艦です」

ざわり、と空気が揺れる。

「新型だと?」

「それは本当なのですか?」

真と玄が、目を丸くしてそう問いかける。

「はい。他にも、別の作戦を実行していた第二艦隊にも、同じように、この様な深海棲艦が確認されました」

次に表示されたもの。

「ッ・・・・!?」

それは、提督を十分に驚愕させるのに十分なものだった。

こちらも、先ほどの深海棲艦と同じ下半身を異形の怪物と融合しているが、問題はそこではない。

上半身は、先ほどの女性よりも明らかに小さく、艦娘でいう駆逐艦。服装は帽子にノースリーブのセーラー服を着ている。

そして髪型は長いサイドテール。

「・・・・・春雨」

「ずいぶんと春雨に似ているね」

ふと隣で聞こえた声で現実に引き戻される提督。どうにか仮面を被っていた事で他人に動揺はバレなかったようだ。

「ええ。この艦娘は、七年前の艦娘の存在が()()した『本営襲撃事件』にて、敵に亡命を企てた十人のうち、唯一死亡が確認された『伊吹(いぶき) 雪斗(ゆきと)』に、原因不明の攻撃で死んだ七隻の艦娘の一人、白露型駆逐艦五番艦『春雨』に、非常に酷似しております。これがどういう事なのかはわかりませんが・・・」

「他人の空似ではないのか?」

ふと、参謀の言葉を遮るかのように、勇がその様に切り捨てる。

「確かにな」

「艦娘が深海棲艦化する事など、ありえないのではないんですか?」

「・・・・そうだな」

勇に続く様に、真、玄が同意し、提督も何拍か遅れてそう返事をする。

「ふむ・・・・いかがいたしますか?碇元帥殿」

煉雅の方を見る参謀。

しばし間をおいて、元帥は言う。

「私も同じ意見だ。どちらにしろ、敵に回ったのならそれは排除対象。見つけ次第、殺す事を考えておけ。良いな」

「はっ」

「へ~い」

「分かりました」

「・・・・分かった」

それぞれの返事を聞き、参謀は続ける。

ふと真は思い出したかのように、勇に質問を投げかける。

「一応、なんか似てる深海棲艦が現れたっていうのは分かったけどよ、沈めなかったのか?」

「ふん。出来たらとっくに殺している」

つまり、沈める事が出来なかったという事だ。

「マジかよ・・・・」

「おい」

提督が声をかける。

「なんだよ・・・」

「話はまだ、終わっていない」

「チッ、分かってんだよそんな事は」

前を見る真。

それを見て、参謀は続ける。

「では、我々は、これらを、その能力と性能から『装甲空母鬼』と『駆逐棲姫』と呼称する事にします。各鎮守府では、これを艦娘たちに報告し、これと会敵した場合は早急に打撃をあたえ、出来る事なら沈めてください」

そこで一旦話を切る参謀。

「では、次は各鎮守府の戦果について―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――以上を持ちまして、会議を終了とさせていただきます」

「全員、解散せよ」

元帥の一言で、次々と部屋を出ていく幹部たち。

その中には、提督の姿もあった。

 

どうにか、戦果や鎮守府の状態については、大淀があらかじめ用意しておいた資料によって、事なきを得た。

提督の機械的で無機質な喋り方のお陰で、それが偽装だという事はバレず、どうにか乗り切ったのだ。

 

 

ふと、一目につかない廊下で、提督は勢い良く前に飛び、そのまま前転するさいに腰のホルダーから一本のナイフを引き抜き、着地と同時に背後を見る。

「・・・・ふん」

そこには、軍刀を振り下ろした形でたたずむ勇の姿があった。

「なかなかに感の鋭い奴だな。武術でも習ったか?」

「・・・・軍隊格闘術を学んだ。このナイフも、その一環だ」

ナイフを左手に持ち、右半身を前に出す様に構える。

「・・・・左利きか」

「箸は右だがな」

緊迫した空気が流れる。

「・・・貴様、その兜、本気で外す気はないのか?」

「ない」

即答。

それから、数秒。

「・・・・・興が覚めた」

軍刀を納刀し、踵を返す勇。

それを見た提督は構えを解き、左手のナイフを腰のホルダーに収めた。

そして、気にした様子もなく、踵を返して歩き出す。

建物の外に出る。

すぐ近くには、第一鎮守府が存在する。

「・・・・・」

しばしの逡巡ののち、立ち去ろうとした提督であったが。

「Hey!ユ・・・・」

その声が聞こえた途端、提督はすぐさま方向転換し、猛ダッシュ。

そして、目の前にいる人物に口を塞ぐと同時に思いっきり押し倒した。

その間、0.3秒!

「・・・・お前、その名前を公然と呼ぶな」

「ムガ!ムガモガ!」

「?・・・・む、すまん」

口を抑えつけていたため、息苦しそうな彼女を開放する。

これを他人から見たら、綺麗な女性を押し倒している兜の変態男の図が仕上がっていただろう。

「ぷはぁ!Ho・・・sorryネ。でも、だからと言って、久しぶりに会ったんデス!一緒にteatimeしまセンカ?」

落ち込んだと思ったら元気に、元気になったと思ったら可愛らしく。

感情が自由気ままな感じの彼女に、提督はため息を吐きながら。

「はあ・・・・わかった――――」

そう、応じるのだった。

 

 

「―――金剛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、彼女『金剛』は、今自分を押し倒している人物の、手を塞いでいないもう一方の手が何を掴んでいるのかに気付く。

「あー・・・・テートクゥ?」

「なんだ?」

「チョット・・・ワタシの・・・その・・・胸・・・・」

「む」

そこで提督も気付く。

今、提督の片手が、がっしりと金剛の片方の乳房を掴んでいたのだ。

「・・・・・・これがどうかしたのか?」

そして、相変わらずの反応。

これに対して金剛は、分かり切っていた事だが、一応言っておくことにした。

 

「サッサと離してくだサーイ!!」

「どうしろと?」

 

金剛の渾身の一撃は、華麗にかわされるのであった。

 

 


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