鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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第三鎮守府

第三鎮守府。

そこは、主に水雷戦隊を中心に構成される鎮守府だ。

その為、必然的に遠征の担当にされる事がある。

対潜哨戒、護衛船団、資材確保。

どれも、日本の存続には必要な事だ。

そこへ、提督と荒潮は憲兵の運転する、ご丁寧な程に重装甲な護送車、というかトラックに乗せられている。

ちなみに、やって来た憲兵は二人。二人とも前方の運転席と助手席に乗っており、たまに開閉可能な小窓からこちらの様子を見るだけだ。

提督と荒潮は後ろのだだっ広いコンテナの中、左右にある腰かけにそれぞれ腰をかけていた。

荒潮は、暴れない様に手錠や首輪をしてある。

提督は持ってきたベレッタの整備をしていた。

出発して三十分。向こうにつくまで、あと一時間半だ。

「はあ・・・」

突然、荒潮がため息をつく。

「この首輪。首がかゆくなった時はどうすればいいのかしら?」

「知らん」

「あらそう・・・・それにしても、それ、何の役に立つの?」

「俺のナイフ」

「ああ、そういう事・・・・意味あるのかしら?」

「分からん。だが持ってきておいて、損はないと思う」

そんな淡々に告げる提督と、退屈そうな荒潮の会話。

ふと考えた荒潮。

退屈で何か話題がないかと考えていると、思い出したかのように提督に持ち出す。

「ねえ。鎮守府に来る前は何をしていたの?」

「話す気は無い」

「良いじゃない。別に誰かが聞いている訳じゃないんだし」

「そういう問題ではない」

「じゃあどんな問題なの?」

その荒潮の質問に、提督は間髪入れずに即答する。

「俺の兜に関わる問題だ」

「え・・・・?」

その返しに、困惑する荒潮。

だがそれもお構いなしに、提督は続ける。

「ただそうだな。大雑把に言えば――――」

 

 

「――――軍隊でどこにでもいる一兵卒をやっていた」

 

 

それ以上、提督は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退屈にもトラックの運転で揺らされながら、眠りについていた荒潮。

「おい、起きろ」

「!?」

突如、殺気を感じ、跳ね起きるように目を開ける荒潮。

目の前には、こちらに赤い双眸を向ける提督の立ち姿があった。

「ついたぞ」

「・・・・・起こすのに殺気なんて必要かしら?」

「俺の時は毎日そうだった」

「あ、そう」

突然、扉が開け放たれる。

「降りろ」

荒潮に向かって放たれた見下すような口調に、荒潮は素直に従い、立ち上がり、降りるべく歩き出す。

その後をついていく提督。

ふと、トラックから飛び降りて両足を地面についたときだ。

 

足を払われた。

 

「!?」

かかとから払われた上に不意打ちである故に、荒潮には態勢を立て直すすべがない。

このまま倒れてしまうかと思った瞬間。

「いてぇ!?」

突然の悲鳴。

それと同時にどん、と背中を誰かに支えられる。

「司令官・・・」

見上げると、そこには片手で荒潮を支える提督の姿があった。

提督のお陰で元の態勢に戻った荒潮は、ふと右を見る。

そちらは僅かに提督のいる方。

そこでは、そちら側に立っていた憲兵が片足を抑えていた。

「・・・・ふん」

提督は鼻で不機嫌そうに見下す。

提督はその憲兵の次に反対側の憲兵を見る。

そちらは荒潮の足を払った方だ。

「ッ・・」

提督に威圧され、後ずさる憲兵二号。

「行くぞ」

「ええ」

荒潮もすっかりと冷めた目を二人に見せ、歩き出す。

「あ、おい!?」

「さっさと来い」

「・・・チッ、提督風情が・・・」

提督の上から目線の態度に、悪態吐く憲兵二号。

どうにか復活した一号共々、二人の後を追う。

ちょっとしたいざこざの後、彼らは第三鎮守府前に辿り着く。

そしてそこには・・・・

「ようやく来たか」

大人としては低身長ではあるが、逆に横に大きい、遠慮なしに言うと太っている白軍服姿の男と、その傍らには、男とは対照的に高身長であり、ノースリーブの制服に加え、独特なベルト。黒髪にポニーテールといった感じの女性が立っていた。

しかしその眼は、限りなく濁っていた。

間違いなく、艦娘だ。

「第三鎮守府提督、『天瀬(あませ) (げん)』大佐殿、ご苦労様です」

「ああ、ご苦労だったな」

男、この第三鎮守府の提督を務めている大佐、天瀬玄がそう笑顔で返事を返す。

「艦娘の引き渡しをしに参りました」

「うむ。久しぶりだな、荒潮」

「ええ」

玄は人当たりの良い笑みで嬉しそうに、大して荒潮はつまらなさそうに返事を返す。

というか、殺気まで滲み出そうな程に警戒している。

「ところで、君が第四の新しい提督かね?」

「そうだ」

提督は特に自己紹介するでもなくそう返す。

「貴様・・・」

背後で憲兵が提督を足で小突こうとするが・・・・

「ふん」

「いでぇ!?」

すかさず提督がタイミングよく憲兵の足を踏む。

「ぃぃい!」

そうとうな痛撃だったのか、片足でぴょんぴょんと跳ねる憲兵一号。

二度目の反撃である。

それを気にした様子もなく、提督は玄に向かってこう言う。

「今回はこちらの要望に応えてくれて感謝する」

「いいのだよ。おたがい、鎮守府を預かる提督同士。どうぞ中を見て行ってくれ」

「では」

許可を貰ったと認識した提督は見事に躊躇いも無く第三鎮守府内に入り込む。

「さて、荒潮も中に入ったらどうだい?大潮や霰もいるよ」

「そうさせてもらうわ。貴方の顔を一分一秒も見たくないから」

と、荒潮も玄の横を素通りし、建物内に入っていく。

「では、我々もこれで」

「うむ」

ニコニコと憲兵を見送る玄。

車に乗って去っていく憲兵を見て、ふと振り返る。

その人当たりの良い笑みは、どこかおぞましいものになっていた。

「さて、君から見て、彼はどう思う?」

「上司に対する敬意が無いかと」

淡々と、機械的に答える矢矧。

「そうだろうねぇ・・・」

嫌らしい笑みを浮かべる玄。

「北上と大井を見張りとして置いておいた。彼が()()()かどうかはさておき、好き勝手な事は出来ないよ。ついでに、我々の秘密というものも知られる事も無い」

その言葉に、僅かに反応する矢矧。

「いいかね?君たちの復讐を手伝う代わりだ。その為に私に服従する事を忘れてはならないよ」

「ええ。分かっているわ・・・・」

確かな怒気を孕ませた矢矧の声に、まるで甘味を食べたかの様な笑みを浮かべる玄。

そしてそのまま、二人は鎮守府に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府廊下を歩く提督。

そこは幾人もの艦娘が行きかい、中の清潔さは見るに良いものだった。

雰囲気は、提督に向けられるものとして険悪なものだった。

どうやら、ここの提督と同じ格好をしているという理由で恐怖の対象、あるいは悪者とされているのだろう。

その証拠に。

「あ・・・」

ふらふらとしていた駆逐艦の艦娘にぶつかってしまう。

その艦娘は、とても青い髪をしており、ノースリーブの制服に手袋といった服装をしていた。

 

白露型六番艦『五月雨』だ。

 

ふと視線をその艦娘に向ける。

鉄兜を被っているが故に、視界は制限されるのだ。

だから、顔を僅かにそちらに向けなければならないのだが・・・・・

「ひぃい!ごめんなさいごめんなさい!わざとじゃないんです!だから許して!お願いだから許してぇ!」

喚き散らす様に、地面に這いつくばる様に、そう懇願しはじめた。

「・・・」

が、提督にとってはどうでも良く、無視した。

ただ視線を向けただけで興味が失せたのだ。

そして内心でこう思った。

 

――――あれでは使い物にならない、と。

 

怯える少女をそのままに、提督は、まっすぐに()を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人目のつかない森の中。

そこで立ち止まる提督。

「・・・・もういいぞ」

そう言うと、先ほどまで、()()()()()()()()()()()()二人が姿を現す。

片方は黒髪で三つ編み、なんともおっとりとした印象のある少女であり、服装は半袖ライトグリーンの制服だ。

一方で、もう片方は茶色のセミロング。どこかツンツンとした雰囲気はあるものの、その顔立ちは穏やかなもの。服装は片方とは色とデザインは同じなのだが、対照的にも長袖だ。

その二人の人物は、提督に近付き、およそ二メートルの所で止まる。

すると・・・・

「やっほー、久しぶり~」

「久しぶりです」

警戒の色無しに、軽巡洋艦『北上』、同じく『大井』がそう気軽に話しかけてきた。

「ああ。三年ぶりだな」

提督も、そう返した。


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