A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第4章 結界の外のシンデレラ

結界からの―――強制的な―――脱出後、卯月との念話で再会の約束をした立香は仮眠を取ることにした。

深夜にわたってぶっ通しで活動していた為、マスターとマシュの眠気はピークに達していたためである。

時は過ぎ、時刻はただいま午後三時。

場所は東京都市部のとあるカフェ。

夏休みである為か、学生を中心ににぎわっている。

その一角のテーブルに着席しているカルデアのメンバー+卯月。

当然だが、服装は街中で違和感のないものだ。

とりわけ、卯月は眼鏡に帽子と変装ルックな格好でありながらオシャレさは犠牲にしていない。

六人とカフェの客としてはやや大所帯となった面々の話題は、やはり昨晩、いや、今晩のことだった。

 

「つまり、卯月さんは夜に起こった出来事をはっきりとは覚えていないと……」

 

「マシュさんの言ったとおりです。夜中に人の居ない所にいて、影みたいな人や巨大なナニカのこととか、うすぼんやりと。なんて言ったらいいのか……。覚えているはずなのに実感がない(・・・・・)といえばいいんでしょうか?」

 

「なるほど。そういうことなんですね……」

 

アルトリアが察したことは、ほぼすべての英霊の共通認識といえるだろう。

おおよそのことを理解できたが、卯月は理解できていないだろう。

卯月の記憶以前に、前回の説明でも話していない内容だ。

説明役として、ダ・ヴィンチちゃんからの通信が入る。

 

『なーるほどね。つまり卯月ちゃんは肉体自体が「英霊の座」の役割を担っているという事だね』

 

「――えっ!?ちょっと、ダ・ヴィンチちゃん!?他のお客さんから目立っちゃ……う?」

 

カフェに突然現れた、明らかにオーバーテクノロジーであるホログラフ。

しかもそこに写るモナ・リザは、周りの注目を集めるだろう。

卯月の懸念はもっともだったが、辺りの客に騒ぐ様子はない。

それどころか、大声を上げた卯月に注目することすらなかった。

 

「ああ、流石にこの大所帯とアイドルの組み合わせは目立つと思ったのでね。話す内容も聞かれる訳にはいかないので、認識阻害の魔術を使ってある」

 

エミヤはアーチャーとして現界している英霊だが、その本質は魔術使い。

神秘の薄い現代においても、投影などを除いて秀才とは言いがたいが一般的な魔術は修めている。

優秀な魔術師相手ならばともかく、一般人相手ならばこれで十分だった。

 

「あの……、えっと……、本当に魔法使いさんなんですね……。蘭子ちゃん、よろこびそうだなぁ~……」

 

夜の出来事に実感がなかったためか、目の前で起きている非現実的な光景に尻すぼみになる卯月。

卯月が言った魔法使いという呼び方に、複雑な顔をするエミヤ。

訂正をしたいのだろうが、もともと魔術世界に疎い卯月に対して訂正を求めたところでたいした成果はないだろう。

己の不満を口に出さず、ため息で洗い流したところで本題に入る。

 

「さて、夜中の出来事を話し合う、……前にやるべきことがあるだろう」

 

→「自己紹介、だね!」

 

卯月の記憶が記録として処理されている。

そうであるならば、お互いについて理解を深めるのが優先だろう。

深夜の結界では、周りが安全と言い難かったため、満足できるほど話はできていなかったから。

 

「はい。改めまして、346プロダクションから来ました。アイドルの島村卯月です!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

もう一度行われた卯月の自己紹介と、カルデアの説明。

薄れていると言えど、卯月にも知識としての『記録』が残っている為か、カルデアについては復習程度で済んだ。

主に行われていたのは、卯月の紹介と346プロダクションの説明。

その中でも、彼らの注目をひときわ集める内容があった。

 

「シンデレラガールズ、ですか?」

 

「はい。私たち346プロダクションのアイドルは、シンデレラをメインコンセプトにしているんです」

 

シンデレラガールズ。

彼女たちが行う大型ライブでも、出演アイドル全員で行う自己紹介。

346プロダクション全体のコンセプトだが、卯月が以前言っていたようにアイドルたちの個性は非常に多岐にわたる。

必ずしも、お姫様や王女様らしいアイドルしかいないわけではない。

少女、あるいは女性がアイドルとして変身する。という様を、シンデレラとして表現しているのだ。

 

「そうなると、これが卯月さんのシンデレラとの縁なんでしょうね。シンデレラガールズという名称を持っているがために、シンデレラの外殻が形成された」

 

「しかしそうなると、ますますあの仮説が有力になる。シンデレラガールズを名乗れる人物は、他にもいるのですから」

 

アルトリアの考察は鋭い。

卯月がシンデレラというサーヴァントになれるのなら、その条件を満たしているアイドルは他にも多く存在している。

むしろ一人だけ、と言うほうが不自然だろう。

 

『その仮説について、卯月嬢にお願いをしていたね。――――他のアイドルたちの様子について、ね』

 

卯月はサーヴァントであった時のことを、記録としてだが知識として保有している。

もし他のアイドルがサーヴァントとして召喚されていたのであれば、どこか様子がおかしかったりしていた可能性がある。

 

「それが、プロダクションに来てた人も電話してみた人も特におかしい様子はなかったんです。アイドルで体調が悪い人もいませんでしたし」

 

『そうか。そうなると、結界で退去ではなく消滅した場合は記録を回収できないのか……。それとも、就寝時のことだから夢として認知しているのか。判断に難しいところだね』

 

だが逆に、むしろうろ覚えになってしまったからこそ判定が難しくなってしまったようだ。

うろ覚えの記録であれば、夢であると判断しやすくなるだろう。

 

「もしかしたら、記録としてでも覚えている方はいるかもしれません。できれば、私たちで直接確認しに行きたいですが……」

 

「ジャンヌの言った事は難しいでしょうね。この現代日本で、アイドルに近づくことは容易ではありません」

 

「認識阻害の魔術では質問もできないし反応を伺えない。傍で姿を隠して実行する……完全に不審者だな」

 

アイドルの様子を確認すると言うことについて、エミヤの言った事は最終手段だろう。

カルデアの面々が頭を抱えている中、卯月が助け舟を出す。

 

「あの……、これ、役に立つかどうか分からないですけど……」

 

卯月が恐る恐る提示してきたのは、とあるパンフレット。

本日から行われるイベントらしく、アイドルたちが多数参加するらしい。

 

「これは……」

 

「……これしかないんでしょうか……」

 

「正直、恥ずかしいです……」

 

卯月から提示された絶好の機会。

であるはずなのに、難色を示す女性陣達。

そのパンフレットには、こう記されていた。

 

 

 

 

 

シンデレラガールコンテスト!!

君もこの夏のアイドルになろう!!

 

 

 

 

 

一般人参加型のイベント。

アイドルのように着飾って、投票によって優勝を決めるアイドル型のミスコン。

夜はドレス、昼はアイドル。

緊張感あふれる特異点であるはずなのに、衣装を着てばかりになりそうだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シンデレラガールコンテスト。

イベントとしての規模は大きく、予選と本選に分かれているようだ。

各地に散らばった予選会場で上位の成績を収めた者が、後日行われる大きい会場で行われる本選に出場する。

346プロダクションのアイドルが関わる為か、参加する人数は多い。

アイドルであるシンデレラガールズの人気を伺わせる規模だ。

当日参加もOKであることも、参加人数の多さに拍車をかけている。

なお、当然の事柄として。

 

「………………」

 

→「………………」

 

男性陣は会場の客席にて待機である。

ミスコンの会場という女の園は、当たり前だが男子禁制だ。

アイドルたちの確認をマシュ達に任せ、カルデアの首脳陣を含めた面々は静かに登場を待っていた。

そんな中、どんな姿で現れるのかと、少し期待をするマスターであった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「はい、メイクできましたよ。かわいいから、つい張り切っちゃった」

 

化粧というものを全くしたことがないマシュは、鏡に映るメイクされた自身の姿にあっけにとられた。

マシュの可愛さを引き立たせるナチュラルメイク。

メイクさんの腕がいいのも当然だが、彼女の素材のよさも大きな要因だ。

自身の着飾りに疎いマシュは、自らの変わり様をこう思った。

まるで、卯月の宝具による変身のようだと。

衣装はまだ着ていない。

装飾品もない。

にもかかわらず、そう思わずにはいられなかった。

もっと綺麗になりたい。

そんな世の中の女性の願いを、遅ればせながらマシュは理解したのだった。

 

「わぁ。綺麗ですよマシュさん!」

 

やや呆然としていたマシュの傍に現れた卯月。

本日は会場の司会進行を勤める彼女だが、当然控え室は別。

そして、メイク用の部屋に訪れたのは卯月だけではなかった。

マシュよりも先にメイクを終わらせていたアルトリアとジャンヌ。

彼女たちも、生前に化粧とは縁がない。

彼女達に施されていたのもまたナチュラルメイク。

しかし、もとより人形のようであった彼女たちの可憐さは、メイクによってまた数段引き上げられていた。

 

「よく似合ってますよ。マシュ」

 

「騎士王の言うとおりです。とってもかわいいです」

 

「ありがとうございます。お二人も、すごくお綺麗ですよ」

 

仲良く相手を褒め合い、歓談する四人。

最初の目的を忘れたわけではないが、話題が脇にそれるのも仕方のないことだろう。

彼女たち三人にとって、初めてのお化粧なのだから。

 

 

 

「やっほーしまむー!メイク終わったー!?」

 

「未央声でかすぎ。卯月、準備でき……知り合い?」

 

どうやら、最初の目的はあちらから来てくれたらしい。

 

 

 

 

 


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