A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
アイドル達には、特に仲の良いメンバーというものがある。
年齢の近しい者、趣味が合う人、同じユニットで活躍するチームメイト。
そして、カルデアへと来たアイドル達には、また新たな組み合わせが加わった。
それは、サーヴァントとしての『クラス』。
基本7クラスとエクストラクラスに振り分けられたそれは、アイドル達に新たな仲間意識を芽生えさせるきっかけとなった。
今回は、そんな同クラスで交流するアイドルと英霊達の様子をご覧頂こう。
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Servant class アルターエゴ
エクストラクラスの一つ、『別人格』のサーヴァント。
該当者が少ないエクストラクラスの中でも、とりわけ人類史に刻まれている名の知れた英霊が極端に少ないクラスである。
その性質上、カルデアのような特異な場所でなければ、かなり召喚が困難だと言えるだろう。
縁あって、幾人かのアルターエゴが召喚されたカルデア。
パッションリップがキュートなメンバーとのお茶会に誘われたり。
メルトリリスが人形好きのアイドル達と趣味に興じたりすることも多く見られる。
そして実は、二百人近く加入したアイドル達にこのクラスに該当された人物達が居たのである。
場所は食堂。
一つのテーブルを囲み、おいしい食事に舌鼓を打つ件のメンバー。
わいわいと、楽しく料理を食べている彼女たち。
その料理とは、――――『おでん』である。
「うん。おでんはおいしい。やっぱり、ちくわぶは最高だな。この、『もむちゃっ』とした舌触りがなんともいえない……」
魔神セイバー…………。もとい、アルターエゴ、沖田総司[オルタ]。
ある事件を経て、カルデアへと加入した特殊なサーヴァント。
実はオルタの中で、[悪]属性ではなかったりする。
余談だが、彼女の属性は[中庸]。
ランサーオルタのアルトリアは[善]。
サンタでオルタの二人も[善]であったりする。
「確かに、おでんはおいしいですよね。だから是非、いろんな人にこう言いたいです。おでんを食べに
そう言って日本酒をグラスで、くいっ、と傾けたオッドアイの美女。
アルターエゴ、高垣楓。
おでんを食べると聞いて、一升瓶片手に突貫してきたようだ。
普段はお酒に目がないという飲兵衛であり、ややだらけた様子を見せたりする。
が、ライブなどでクールな姿を見せる紛れも無いトップアイドルであり、その歌声から『世紀末歌姫』などと呼称されたりしている(主に蘭子から)。
「フヒ……。シ、シイタケもいい感じに、煮えてきた……。出汁を吸って、食べごろだ……」
今回のおでんには、きのこ類が多めに入っている。
その原因であり、きのこ限定の鍋奉行をしている少女。
アルターエゴ、星輝子。
ヘビメタアイドルとして活躍しており、きのこを愛する人物としても有名である。
普段は大人しいというか、ジメジメした様子をみせる。
だが、ライブなどの時には一変というか豹変し、メタルでロックな歌唱力を見せ付けるというギャップもあり、それがまた彼女の人気の秘訣でもある。
「いいわね、しいたけ……。うん、熱燗とよく合うわ……」
ほう、っと息を吐き、余韻に浸るミステリアスな美女。
アルターエゴ、高峯のあ。
冷静な表情をあまり崩さない、どこか浮世離れした美貌のアイドル。
アヴェンジャーの二人、神崎蘭子と二宮飛鳥の憧れであるらしい。
そんな彼女も、ジョークのネタを仕込んだりとお茶目な一面を見せることもある。
「ワタシは食事を行えません。ですが、こういった交流が好ましいことは理解しています。のあが用意してくれた機械オイルも、質が良くて気分が良いですし」
鋼鉄の身体ゆえに、料理ではなくオイルを摂取するメカメカしいサーヴァント。
アルターエゴ、メカエリチャン。
最初はしぶしぶであった彼女も、アイドル達と関わっていくにつれて好意的に受け止めていったようだ。
特に高峰のあと関わる事が多く、彼女からの差し入れであるオイルがずいぶんとお気に入りらしい。
偶然だが、今日はアルターエゴのみの面子である。
それぞれ仲が良いアイドルや、ぐだぐだな彼らが参加したりもするが、今回はこの5人がおでんを囲んだ鍋パーティーに興じているようだ。
平和に鍋を突く一行ではあるが、どうやらそのままでいられないらしい。
「おや、アルターエゴの面々がご一緒のようで。私もその一員として、ぜひ参加させてくださいな」
横から話しかけてきたのはアルターエゴ、殺生院キアラ。
淑やかで上品な見た目とは裏腹に、自己愛と快楽を突き詰めた魔性菩薩。
幾分かは丸くなって、こうしてカルデアへと召喚されることを是としたが、性根は微塵も変わっていない。
純粋な者を堕落させるのを楽しみとしながら、それに抗うのを応援するという二面性。
ある種、アイドル達とは最も遠い存在である。
「ふふふ、参加したいのなら構いませんよ。人数が増えれば、もっと楽しいですから」
「あら、ありがとうございます」
警戒心無く、キアラを受け入れたように見える楓。
よく分からない様子といった輝子と沖田オルタ。
警戒レベルを引き上げた様子を隠さないメカエリチャンとのあ。
ただおでんに舌鼓を打ちたいというのであれば、断る理由は無い。
相手の過去をあまり気にしない、というスタンスをシンデレラ達は取る事が多い。
エリザベートやネロなど、悪名高い人物とも仲良くやっている秘訣である。
ただ、今回はどうやらその行動は間違いのようで――――――。
「ああそういえば、こちらには良い隠し味がありまして――――」
「そこまでだ」
ゴインッ!と
懐から怪しい小瓶を取り出そうとしたキアラの頭に、銃剣での峰打ちが炸裂した。
そのまま普通に参加すればお咎め無しだっただろうに、問題ありとして判決が下ったようだ。
「………………。」
それを行った張本人、エミヤ・オルタ。
銃で殴った様子の彼だが、悪びれた様子も無く無言で佇んでいる。
「いきなり何をしますか!」
涙目で抗議するキアラ。
確かにキツイだろうが、自業自得なのはキアラのほうである。
「マスターからの
がしっ、とキアラの首根っこを掴むエミヤ・オルタ。
そのままズルズルと、引きずって食堂を後にする。
「ちょっと、これは女性の扱いとしてはどうなのでしょうか!?断固抗議させていただきます!!」
「好きにしろ。だが、お前を裁くのはオレではなくマスターだ。まあ、オレからすれば甘い裁定になるだろうがな」
一方的にギャーギャーとした二人組みが去った食堂は、嵐の後の様な静けさだった。
「……あ、エリンギが煮えた」
「もぐもぐ。うん、ちくわぶ程じゃないけど、これもまた美味しい」
マイペースな二人を呼び水に、皆が我に帰る。
「ええ、気にすることはありませんね。ええ、いつもの事です。それよりも今はオイルと共に、このパーティーを楽しむとしましょう」
「そうね、そうしましょう……」
「キアラさん、参加できなくて残念ですね」
呆れた様子の二人と、暢気にも見える様子の楓。
この後もおでん会はつつがなく進み、無事に解散することとなった。
なおキアラの処遇を知る者は、この食堂内ではおらず、深く気にすることも無かったそうな。
蛇足だが、アンデルセンにからかわれるネタが増えたと、憤慨する様子のキアラが別日に見られたことをここに記録しておく。
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Servant class バーサーカー
『狂戦士』のサーヴァント、バーサーカー。
会話が困難なほど理性を失っているものが多く、一見は理性的でも、根本的に意思疎通が不可能な人物が多々存在するクラスである。
だが、バーサーカークラスのアイドル達は基本的に意思疎通は可能であり、理性も失ってはいない。
ただ、時折暴走したり、制御不能になったりと実は問題児が多かったりする。
そんな彼女達も、普段は普通の女の子。
個性的ではあるし、アイドルである以上は特別であるが、決して特殊ではない。
だからこそ、今日のように誰かのマイルームで菓子パーティーを開いたりもするのだ。
絨毯の敷かれたその部屋は、複数の皿に幾種ものお菓子が盛り付けられている。
お茶とお菓子を楽しむ会、というよりは、だらだらと寝転がっておしゃべりに興じる女子会という雰囲気だ。
「うーん!キャットちゃん特製ポテチ、サイコー!いくらでも食べれちゃうね。ゼボーンッ!!」
パリパリと、ポテチを食べ進める金髪の少女。
バーサーカー、宮本フレデリカ。
感嘆詞に「C’est bon」を使っているし、血統もフランスの血が入っているのだが、発音も含めて絶妙に使いこなせていない。
クッションを胸の下に敷き、うつ伏せになって足をパタパタさせて美味しさを表現している。
そんな彼女はフリーダムな自由人。
ルンルンと普段をテキトーに、その場のノリで過ごす。
ただ、本当に大事に至った時は空気を読み、助けに入れるように細心の注意を払う聡い子でもある。
「……おはぎ、おいしい……。あんこは、正義」
己の世界に入り、黙々と和菓子を消費するのは謎のヒロインXオルタ。
和菓子、というよりはあんこが好物である彼女は、いつの間にか紛れ込んでいたというのが正しいだろう。
「はい!この、しっかりとしていて、それでいて優しい甘さ!熱いお茶にピッタリです!」
だらだらとした空間の中で、ビシッとした正座でお茶を堪能する声の大きい少女。
バーサーカー、日野茜。
熱血乙女な全力少女である彼女だが、やっぱり甘いものは好きなようで、こうしてバーサーカーの女子会に参加したようだ。
「にゃはははは!キャットを褒め称えよ。おだてれば、追加ぐらいは出してやらんことも無いぞ」
今回の女子会の要であり、お菓子担当であるタマモキャット。
所々にあるキャロットケーキやキャロットマフィンが、彼女がいることを実に表している。
無論、その味は保証されており、彼女たちをはじめとしたアイドル達にも好評だ。
「せっかくなら、ショーコやノノ、ユーキも来れれば良かったのにな。ま、用事があるってならしょうがないか……」
お菓子は楽しんでいるが、ここにいないメンバーに思いをはせる少女。
バーサーカー、早坂美玲。
パンクファッションを好む孤高の一匹狼。
ではあるが、仲間を大事にし引っ張るリーダータイプ。
だからこそ、友人がここに来られず残念な様子だ。
「皆さん、いろんな繋がりがあるからですよ。ご友人が多くいるのは良い事だと思います」
茜とはまた違った、ごく自然な様子で正座をするマシュ。
女子会というものに参加し、楽しくおしゃべりに興じている。
なお、マシュの言った通り、星輝子は鍋パーティー。
森久保乃々は成宮由愛やダ・ヴィンチちゃんといった絵描き達と。
乙倉悠貴は新田美波やネロ・クラウディウス達とスポーツへ、それぞれ参加している。
「いや、あっちはあっちで楽しんでいるなら良いんだ。ウチはウチで楽しんで、後で皆との話題にするからな!」
ここでのおしゃべりを、別の友人とのおしゃべりの話題にする。
ここにいないのは残念だが、後で皆の話題が集まれば、もっと楽しいはずだと美玲は語る。
「そういう手段もあるのですね。女子会とは、実に奥が深いです……」
と、感心した様子のマシュ。
私は勉強中です、といった調子で堅苦しさが抜けていない。
そういうのも含めてマシュらしい。
「そんなに難しいことじゃないよ~。今は今で、てきとーに楽しんじゃえばいいんだよ。そうすれば、後で自然に楽しかったな~、って思い出すし」
「そうですね!楽しかったことは、後で皆に話したくなるものです!私も、後で未央ちゃんと藍子ちゃんにいっぱい話すつもりですから!」
「そ、そういうものですか……。そうですね、私も、後で先輩にいっぱい話したくなると思います」
「そうそう、その調子だよ~♪」
とまあ、このように女子会はつつがなく進む。
バーサーカー達のおしゃべりは、実に平和に進んでいった。
問題児が多いとはいえ、別にバーサーカークラスだから問題を起こすわけではない。
「逃げろ~♪」
「逃げるでごぜーます!」
扉に近かったからか、自動で開いたドアの向こうでは、鬼ごっこをしている様子のジュニアアイドル達とカルデア年少組。
龍崎薫、市原仁奈。
「楽しいわ!楽しいわ!楽しいわ!」
「うわーい1こっちだよ~♪」
「こっちよこっち!捕まえて御覧なさいな!」
ナーサリー・ライム、ジャック・ザ・リッパー、アビゲイル・ウィリアムズ。
どうも、主に彼女たち5人が逃げているようだ。
「廊下は走ってはいけません!ダメですよ!」
「こら~!待ちなさーい!」
それを窘めてはいるが、結局5人と同様に走ってしまっている少女。
ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィと赤城みりあ。
年少組の中でも、お姉さんという位置づけにいる彼女たちだが、夢中で追いかけているうちに自分も走っていることに気がついていないようだ。
「にゃ?あの子、みりあと言ったか……。なんか、以前見たよりも大人っぽくなっていた気がするのである」
「それは、みりあさんの宝具ですね。未来の先取り、肉体年齢を成長させる宝具ですので」
「……ん?なら、彼女達もそうなの?」
ここまで沈黙していた、Xオルタが指を指す。
そこに居たのは――――。
「待つんです!危ないです!誰かにぶつかりますよ!」
「待って~、置いてかないで~!」
みりあやジャンヌ・リリィと同様、5人を追いかけるアイドル達。
橘ありす、佐々木千枝。
ジュニアアイドルの中でもしっかり者の彼女たち。
注意する為に追いかけているのは、まあ、目を瞑ろう。
スピード違反を追いかけるのに、速度制限を律儀に守っては意味がない。
ただ、おかしいのは一点のみ。
なぜ二人とも、5歳近く成長しているのだろうか――――。
「あれ?二人とも、そういった宝具は持っていないはず……。これは!?事件です!!」
即座に立ち上がり、事情を聞くために突貫するマシュ。
それに協力するため、続いていくアイドル3人。
「ずずっ」
「はむもむもぐ」
いつもの事と静観し、変わらずゆったりするキャットとえっちゃん。
犯人に目星はついているので、落ち着いてマスターへと連絡する、できたサーヴァントであるキャットなのであった。
なお、二人の成長の原因であり犯人は二人。
キャスター、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。
同じくキャスター、一ノ瀬志希。
大人っぽさに憧れる二人の少女を誑かし、成長の秘薬を渡したらしい。
この後、廊下を走り回っていた五人と、怪しい薬に手を出した二人は揃って仲良くお説教。
パラケルススと志希の二人には、一週間の工房への立ち入り禁止が言い渡された。
まあ、キャスター二人がこれで懲りることは無いだろう。
一週間たてばまた、怪しい薬を作成し始めるのだ。
別にバーサーカーが問題行動を起こすわけではない、という出来事なのだった。
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同クラスとなったアイドル達と、同じクラスである英霊達。
彼ら、彼女らとの関係は、また新しい。
他のクラスの様子もまた、後々見られる――――かもしれない。
また機会があれば、その時はよろしく。