A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第13章 円卓の騎士、その後

 紆余曲折あって、再結成した「*(Asterisk)」。

 彼女たちが加わったことで、戦力の地盤がより強固なものになった。

 マテリアルによってスキルを確認した後、話題となったのは先ほどのシャドウサーヴァントについて。

 ギフトについてはまだいい。

 シャドウ化した際、宝具と同様に再現できないものとして考えうるからだ。

 しかし、奇妙な点がある。

 

 それは、現れなかったシャドウサーヴァントについて。

 

『倒したシャドウサーヴァントに、モードレッド、アグラヴェイン、そして「私」の姿は確認できなかった』

 

「登場したサーヴァントに、法則があるのだろう。……そこの所、どうなんだね?シャーロック・ホームズ」

 

 エミヤの言葉の後、全員が一斉にホームズへと目線を向ける。

 世界最高にして、唯一の顧問探偵。

 彼の頭脳による推理であるならば、核心に迫った情報が出てくるだろう。

 

『確かに、大方の推理は付いている。だがしかし、証拠が無い(・・・・・)。名探偵を名乗る以上、現状の推理で現場を引っ掻き回すことなど出来ないよ』

 

 しかし、彼は不確定要素に対しては口にしない。

 彼の癖でもあるが、しかし戦場においては正しい点もある。

 推理によって、その物事を真実だと決め込んでは、違った場合に痛いしっぺ返しをくらうことになる。

 無論、悪い点もある。

 少ない情報でも有ると無いとでは全く違う。

 時には、命に関わることもあるだろう。

 ただ、それは戦場の理屈であり、事件解決とは考え方が違う。

 ここは戦場でもあるが、特異点という事件現場(・・・・)でもある。

 物事を妄信し、視野を狭めてはいけない。

 

 かつて、シャーロック・ホームズはロマニ・アーキマンを信用していなかった。

 

 それは、今にしてみれば間違いである。

 カルデアにとって、Dr.ロマンは終始頼れる人物であり、信用に値する人間だった。

 重要参考人という意味では、間違いではないのだが。

 そして、彼はDr.ロマンのことを、こう称してもいた。

 

 “どうしているのか分からないが、事件とは無関係の、別にいてもいなくてもいい傍迷惑な謎の人物”と。

 

 それもまた、最終的(・・・)に見れば間違いだ。

 あの時はそういう風に目に映るのだろうが、答えとしては違った。

 Dr.ロマンがいたからこそ、人理焼却事件は解決へと至ったのだから。

 

 名探偵であるホームズといえども、情報が揃わなければ推理は当たらない。

 故に、事件解決にはいつだって「決定的な証拠」が必要だ。

 そうでなければ、何かしらの事象で推理がひっくり返ってしまう可能性もある。

 

「……そうか。ならば今は問うまい」

 

 カルデアの頭脳の一角である、彼が話さないのであれば、今は言及しない。

 それだけの信頼関係が、彼らカルデアにはあるのだから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 →「来た!?」

 

 再び合間見える、九体の魔神影柱。

 先の戦いとのインターバルは短く、連戦となってしまった。

 シャドウサーヴァントも、十全とはいえない。

 いかに逸話的に優位といえども、さっきまで敵対していたのは高レベルのシャドウサーヴァント達。

 相性がよかったのも、モードレッドとアルトリアだけであった。

 シャドウサーヴァント達は、特に消耗している。

 しかし、嘆いてなどいられない。

 準備万端のときだけに、敵が来るとは限らないのだ。

 この戦場に、開始の合図など無く。

 

「はっ!」

 

 エミヤの射撃が、その代わりとなった。

 それに伴い、マスターが始まりの指示を出す。

 

 →「魔神影柱戦、行くよ!」

 

「にゃ!前川みく、気合入れていくにゃ!」

 

「私の『ロック』、見せ付けてあげる!」

 

 仲間になったばかりだからこそ、やる気に溢れたみくと李衣菜。

 

 シャッ!!

 

 ダッ!!

 

 そんな二人は、魔神影柱に向かって速攻で駆け出した。

 

 

 

「――――――!!」

 

 

 

 攻撃を仕掛ける魔神影柱。

 

「甘いにゃ!」

 

 機敏に攻撃を避けるみく。

 動きに無駄が無く、その動きはある動物を連想させる。

 

「にゃ!!」

 

 手を振りかぶり、それに対応するように斬撃が出現し、魔神影柱を切り裂く。

 その戦い方は、まるで猫の挙動。

 四足で動いているわけでもないのに、どうにもその姿を連想させる。

 

「くらえー!」

 

 魔神影柱に、手に持った何か(・・)を振りかぶる。

 

「――――――!?」

 

 魔神影柱に、その何か(・・)が当たり、ダメージを与えていく。

 それは、アルトリアの「風王結界(インビジブル・エア)」に近い印象を受ける。

 

 これこそが、多田李衣菜の持つスキル「エアギターA」。

 

 彼女がランサーとして召喚された原因とも言えるスキル。

 個数は一機しか出すことは出来ないが、出せる回数に際限は無い。

 エミヤと同じく、彼女には武器破壊が意味を成さない。

 形状も自由が利き、よくよく見れば切り傷もあるのが確認できる。

 楽器として出すことも出来るが、武器専用に改造したギターを出すことで攻撃の手段としているのだ。

 

「やああぁぁっ!」

 

「喰らいなさい!」

 

「莉嘉もいっくよー!」

 

「きらりんパーンチ!」

 

 前線にて奮闘する、アルトリア、ジャンヌ、莉嘉、きらり。

 

 空中で援護する、蘭子、杏。

 

 後衛には、エミヤ、マシュ、そして補助、追撃を行うアイドル達。

 

「――――――!!」

 

 しかし、やはり魔神影柱は手ごわい。

 一体一体は、本物の魔神影柱に及ばないが、九体という数がネックだ。

 

「危っ、なあ!?」

 

「大丈夫!?」

 

 蘭子の危なげな回避に、思わず声を張り上げる杏。

 やはり、先の戦いの疲れが出ている。

 チームワークでそれをカバーしているが、危うい場面がところどころ見える。

 特に前衛と空中のアイドルがそれに陥っているようだ。

 このまま行けば、地力の差で勝てるだろうが、アイドルの誰かがやられてもおかしくない。

 

「――――――にゃ」

 

 何かを決めた表情をするみく。

 そして、宝具発動の体制に入る。

 

 

 

「みくに、猫チャンの力を少し分けて」

 

 

 

「皆の為に、あたっくするにゃ!」

 

 

 

 

 

「これがみくの力、強くて可愛い、猫チャンパワー!(チャーミングビースト・キャット)!」

 

 

 

 

 

 宝具の真名が解放された。

 それにより、みくの手に猫の意匠が施された剣が現れる。

 セイバーである、みくが獲得した力。

 それを右手で握り、姿勢を低くしたみくは――――

 

 

 

 タッ。

 

 

 

 一瞬で、トップスピードで駆け出した。

 

 <ruby><rb>強くて可愛い、猫チャンパワー!</rb><rp>(</rp><rt>チャーミングビースト​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​キャット</rt><rp>)</rp></ruby>

 宝具の効果はいたって単純。

 展開することで、猫の如き身体能力を得る。

 

 それによって、みくは魔神影柱を駆け上がっている(・・・・・・・・)

 

「にゃっ!!」

 

「――――――!?」

 

 宝具である剣による攻撃。

 確実にダメージを与え、その敏捷性をもって敵からの攻撃を許さない。

 ヒットアンドアウェイを的確にこなし、強化された力を振るう。

 

 しかしそれは、この宝具の本質ではない。

 もとよりこれは、強化する宝具などではない(・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

 ザシュ!!

 

 剣を持たない左手で、「引っ掻き」をくらわせるみく。

 

 

 

 これは、猫という概念を操作する宝具。

 

 

 

 剣もまた、猫という概念をその形に収めただけに過ぎない。

 願いや信仰が、宝具という形を作るように、その剣は造られている。

 みくは、「セイバーになったから剣を持つようになった」という、クラス適正の因果が逆であるサーヴァントなのだ。

 

 

 

「私の信念、私の思い」

 

 

 

「そのココロは、『ロック』と共にあり!」

 

 

 

 

 

「これが私の『ロック』、心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)!」

 

 

 

 

 

 突如、ライブ会場が現れた。

 アイドルが、この形状の宝具を使うのは二度目。

 蘭子もまた、似たような宝具を所持している。

 

 

 

 固有結界、「心をこめてロックを歌おう(Beating my heart)」。

 

 

 

 この世界の主役は、彼女、多田李衣菜。

 手に持つギターは、皆にその存在を知らしめる。

 刃は無く、武器となりそうな形状をしていない、何の変哲も無いギター。

 

 それこそが、この世界における李衣菜の相棒。

 

「いっくよー!!」

 

 ジャーン!!

 

 みくとバトンタッチするように、李衣菜がギターをかき鳴らす。

 楽しそうに、笑いながら彼女はギターを弾く。

 

 

 

「――――――!?」

 

 

 

 すると、魔神影柱が攻撃を受けた。

 

 

 

 形は、あまり見えない。

 透明な波紋がライブ会場に広がり、それ自体が衝撃となってダメージを与える。

 音自体に、攻撃力があるわけではない。

 音は、あくまで合図であり指揮でしかない。

 

「いっけええぇぇ!!」

 

 攻撃のペースが早まる。

 すると、どんどん固有結界が狭まっている(・・・・・・・・・・・)

 

「――――――!!」

 

 彼女の行う攻撃の正体、それは固有結界そのもの(・・・・)だ。

 固有結界を削り取り、物理的な攻撃手段として用いる。

 そのため、固有結界の時間は短い。

 最後の最後まで、全力を出し切るように、攻撃の手を緩めない。

 

「李衣菜チャン!!」

 

「オーケー、みくちゃん!!」

 

 固有結界最後の攻撃。

 二人は飛び出し、魔神影柱が眼前に迫る。

 

 みくは、自身の宝具である剣を掲げ。

 

 李衣菜は、固有結界を蹴撃として足に纏い、振りかぶる。

 

 

 

「――――――!?」

 

 

 

 固有結界は解除された。

 その役目を終えたことを表すように。

 魔神影柱にはかなりのダメージが入っていおり、虫の息。

 

 トドメのダメ押しは、カルデアの英霊達によって完遂された。

 

 戦闘終了。

 魔神影柱は撃破された。

 

 

 

 

 

 これにより、倒した魔神影柱は合計54体となった。

 

 

 

 

 


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