A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
深夜十二時。
もう六度目になる深夜結界。
敵対するであろう予想戦力は、第六または第七特異点のシャドウサーヴァント。
どちらも強敵であり、場合によっては味方の誰かを失いかねない。
故に慎重、そして確実に攻略する必要がある。
誰か一人を失うだけで、戦力の低下は激しくなる。
多人数で行動することが、アイドルサーヴァントの前提であり特性であるからだ。
そうでなくとも、マスターである立香は仲間を犠牲にすることなど望んでなどいない。
→「行こう!」
「はい、マスター!」
出てくるであろうシャドウサーヴァント達をおさらいし、情報の整理を行った一同。
以前に話し合っていたことでもあり、比較的短い時間で終わった。
そしては346プロダクションを後にし、探索へと向かう。
偵察と索敵に出るエミヤ、蘭子、杏。
先頭を行くアルトリア、殿を務めるジャンヌ、皆を守るマシュ。
この数日間で、彼らのチームワークはまるで熟練のそれであるかのようだった。
――――――――――
アイドル達を含め、全員警戒を怠らない。
結界の探索も慣れた様で、自身の役割をきちんとこなす。
慣れ始めが一番油断を誘う時期だが、そのような様子もない。
『アイドル達は頼もしいね。戦いとは無縁だった少女たちとは思えないよ』
→「本当に助かってる」
「えへへ、そんなに褒められると照れちゃうな~」
「危ない人には注意すること!アイドルの基本だもん☆」
『サーヴァント化し、能力を獲得したとしても、それを使いこなせるかは本人次第だ。アイドル達は、それを十全にこなせている。まるで、一般人であるマスターが、サーヴァントの助けを借りて世界を救ったようだね』
「ふふ。私達って似たもの同士なのかも知れませんね」
ホームズとかな子の言ったことも、的を射ている。
一般人であったが、突如力を振るえるようになり、成長し偉業を成し遂げた。
そういった意味では、ある種同じ経験をしてきたと言えるだろう。
マシュもまた下地があったが、デミ・サーヴァントとしての能力を獲得した時、最初は宝具すら使えなかった。
最初期に出会った卯月もまた、初めはぎこちなかった。
しかしカルデアと過ごし、アイドル達とも共闘し、いまや立派なサーヴァントだ。
アイドル達は知識を共有しているが、その始まりを担ったのが卯月。
そんな彼女に続き、アイドル達も共に成長した。
現在、総勢十人のアイドルサーヴァント。
彼女たちには、まだ伸び代がある。
サーヴァントとしては異質である、成長する力があるのだから。
『シャドウサーヴァントを確認した、マスター。どうやら、そちらへ向かっている』
エミヤからの念話が入り、戦闘体制へと移行する。
ただ、念話越しだが歯切れが悪い印象を受ける。
→「どうしたの?」
『……そちらに向かったのは、シャドウサーヴァントだけではないと言うことだ』
『確認した。霊基反応あり、シンデレラの霊基で間違いないようだ。新たなアイドルサーヴァントだよ』
「それって大丈夫なんですか!?」
凛が声を荒げるが、偵察のメンバーからは焦った様子はない。
ピンチではない、と言うことなのだろうか?
『杏から見ても、致命的なピンチじゃないよ。そっちへ向かって、シャドウサーヴァントから逃走している。皆なら十分追いつけるよ』
『我の「瞳」から覗いても、彼女たちの逃走は力を余らせている』
(私から見ても、余裕を持って逃げてると思います)
『ここからだと、私達が本隊に合流するほうが早い。彼女たちの様子は、見れば分かる』
どこか言いづらそうな、もしくは呆れている様子の三人。
すぐさま立香たちの本隊と合流し、目の前からやってくる存在も視認した。
こちらへ向かってくる、アイドルとシャドウサーヴァント。
その先頭にいるのは、スターリースカイ・ブライトを着た少女。
「李衣菜チャンが音を立てるからにゃー!あれがなければ気づかれることもなかったのにゃー!」
「その後に声を上げたのはみくちゃんだもん!そっちでバレたんでしょー!」
二人のアイドルが、喧嘩しながら全力疾走で逃げていた。
「……余裕あるじゃん!あの二人!」
「喧嘩しながら逃げてるって、お二人らしいですけど……」
突っ込む未央と、笑顔を引きつらせている卯月。
逃げに徹しているとはいえ、言い争いながら撤退戦を成している。
だが、アイドル達の敏捷値はあまり高くないはず。
シャドウサーヴァントとはいえ、敏捷ランクがAを超える者もいるはずだ。
「――――――!」
事実、今まさに追いつき、手に持つ刃で切り裂かんとする影が三つ。
「おっ!?――っとう!!」
手には何も持ってないはずなのに、短刀とシャドウサーヴァントを牽制する。
「にゃ!?にをするにゃー!!」
どこかしなやかな身のこなしで攻撃を避け、腕を振る少女。
空振ったはずなのに、影には確かな切り傷ができていた。
喧嘩する二人、言い争いは止まらない。
しかし、彼女たちは抜群のチームプレーを発揮していた。
「っと、皆がいるにゃ!」
「カルデアの人たちもだ!」
一同の目前で、自身のスピードにブレーキをかける二人。
「自己紹介は後でお願いするにゃ!」
「今は、目の前の相手に集中。でいいよね?」
真逆の構え、互いに背中を向ける二人。
それは鏡合わせの様で、普段の様子を如実に表している。
→「よろしくね、二人とも!」
「シャドウサーヴァント、来ます!」
マスターとマシュの合図で、戦闘は開始された。
――――――――――
確認できるシャドウサーヴァントは十三体。
徳高き三蔵法師、玄奘三蔵。
後の藤原秀郷、俵藤太。
太陽王ラムセス二世、オジマンディアス。
古き天空の女王、ニトクリス。
暗殺教団の党首、百貌のハサン。
同じく党首である、呪腕のハサン。
毒殺の名手たる党首、静謐のハサン。
太陽の騎士、ガウェイン。
竪琴の騎士、トリスタン。
湖の騎士、ランスロット。
東方の大英雄、アーラシュ・カマンガー。
隻腕の騎士、ベディヴィエール。
ロンゴミニアドを持つ謎の人物、獅子面の騎士。
その中でも、歴代ハサン・サッバーハが輪をかけて危険だ。
「来てるよ!」
「うぉおっと!?」
気配遮断によって近づかれ、素早い身のこなしでヒットアンドアウェイに徹している。
シャドウサーヴァントとなっていなければ、今頃幾人かのアイドル達はやられていただろう。
「未央!後ろ!」
「あっぶな!?サンキュー、しぶりん!」
互いが互いの死角を補うことで、奇襲への対策とする。
道路の中央である為、遮蔽物がないのも幸いしている。
しかし、厄介この上ないことには変わりない。
意識をそちらに取られ、十全なパフォーマンスを発揮できない。
「甘いっ!」
しかし、地力には大きな開きがある。
こちらの人数は、サーヴァントが十三人。
シャドウサーヴァントは、第四特異点の十四体。
サーヴァントのみでも同数の人数である上に、シャドウサーヴァントの援軍による差が大きい。
しかも、こちらにいるのは反逆の騎士モードレッド。
加えて、嵐の王アルトリア・ペンドラゴン。
対円卓の騎士とも言うべき二人は、逸話的にも優位を取れる。
しかしそれは、相手にギフトがあれば話は別だ。
さらに、姿を現していない存在である、初代山の翁も気になるところだ。
いつの間にか、自分たちの首が飛んでいたなんて事態になりかねない。
不気味な感情が、心の底に残る。
ザシュッ!!
首を切る音が響く。
モードレッドのシャドウサーヴァントが、ガウェインを<ruby><rb>討ち取った</rb><rp>(</rp><rt>・・・・・</rt><rp>)</rp></ruby>。
→「やっぱり……」
ここまでの戦いで気づいてはいたが、ここに来て確信した。
円卓の騎士たちは、
でなければ、いかに逸話的に不利とはいえシャドウサーヴァントに倒されなどしない。
結局、懸念していたギフトもなく、初代山の翁が現れることもなく。
程なくして、戦闘は終了した。
――――――――――
「助かったにゃ。改めて、お礼を言わせてほしいにゃ」
語尾に「にゃ」をつける、猫の耳を生やした少女。
前川みく。
猫系アイドルを売りにしていると聞いてはいた。
ピョコッ、ピョコッ。
彼女の言葉や感情に呼応し、動くネコミミが気になるところではあるが。
→「どういたしまして。……そのネコミミ、本物?」
「あ~、どうもサーヴァントになったら、生えてきたみたいなのにゃ」
そう言いながら、自身の白いネコミミを弄るみく。
尻尾も生えているようで、フリフリと左右に揺れている。
愛嬌があり、可愛らしい様子だ。
「さっきは助けてくれてありがとう。カルデアの皆、すっごく『ロック』だったぜ!」
こちらに向かってニカッっと笑い、サムズアップをする少女。
多田李衣菜。
カルデアのことを褒める形で、「ロック」と称しているらしい。
→「こっちこそありがとう。君も『ロック』だったよ」
「ありがとう!まあ、当然だけどね!」
何か琴線に触れたのか、大げさに声を上げる李衣菜。
喜んでいるのは間違いないようだ。
そんな彼女を、横からジト目で見るみく。
「……ギターはまだ練習中の癖に(ボソッ)」
「なっ!?それはそうだけど、今言うことじゃないでしょ!?それを言うなら、みくちゃんだってネコキャラなのに魚食べれないじゃん!」
「にゃ!?初対面の人がいるところでそれを言うにゃー!」
「それはそっちも同じでしょー!」
ギャーギャーと、言い争いを再び始めた二人。
オロオロとする立香とマシュ。
しかし、アイドル達はいつもと変わらない。
彼女たちにとってはいつものやり取りであるらしい。
それぞれ向ける表情や感情は異なるようで、呆れていたり、しょうがないなと言っていたり、仲がいいよね~、とも言っている。
新たな仲間として合流したアイドル。
前川みくと多田李衣菜。
真逆であり、喧嘩もするけど、根底では仲が良い。
カルデアと共闘するアイドルサーヴァントに、ユニット「*(Asterisk)」が加わったのであった。
『解散(にゃー)(だー)!!』
…………加わった瞬間、解散してしまったようだが。