A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第12章 激戦 その間

 第五特異点のシャドウサーヴァントを倒し、346プロダクションにて羽を休める。

 次の魔神影柱に備え、体力と魔力を回復するよう休息に務める。

 ただ、休息は何もしないと同義ではない。

 身体を休めながら、ブリーフィングを行っていた。

 

『魔神影柱の強さは、初めて出現したときから殆ど変化していない。アイドル達も増えたし、第五特異点のシャドウサーヴァントを味方にできたことも大きい。連日の戦闘で疲れはあるだろうが、このまま行けば、危なげなく勝てるだろう』

 

「戦闘に余裕ができるのはいいことだ。何が起こるかわからない以上、急な事態に対処できる余力が要るからな」

 

「魔神影柱は変化無しと予測できます。問題は、それ以降の戦闘ですね」

 

『魔神影柱との戦闘中、もしくは戦闘後に第六、第七特異点のシャドウサーヴァントや追加の魔神影柱と遭遇したとしても、時間を稼げば午前六時まで持ちこたえることは出来るだろう』

 

「遭遇戦の有無は別として、今後の展開を予想するに超したことはないと思います」

 

『第六特異点のシャドウサーヴァントは円卓の騎士、エジプトのファラオ、そして初代を含めた歴代のハサンたち等。こうして並べるだけでも、錚々たる面子だね』

 

「円卓の騎士ですか!?」

 

 話の中に上がった、円卓の騎士という有名な英雄たちに対し、口々に声を出すアイドル達。

 ここにいるアルトリアの部下たちである為、余計に考えてしまう。

 かつて獅子王と名乗った、女神ロンゴミニアド。

 今までの傾向から彼女の円卓の騎士達が、シャドウサーヴァントとして敵対する可能性は高い。

 

「円卓の騎士は強敵だが、剣技で名を馳せた英雄たちだ。シャドウ化による影響も少なくは無いだろう。膂力も無視は出来ないが、懸念があるとすれば、やはり『ギフト』の存在だな」

 

「最大の焦点はそこになるでしょう。ただ、『ギフト』は権能によって女神ロンゴミニアドから騎士達へ下賜されたものです。女神ロンゴミニアド自体も、英霊の座に登録されてはいない」

 

 『ギフト』。

 第六特異点でカルデアを苦しめた円卓の騎士達。

 彼らに与えられた、女神による強化であり祝福。

 さまざまな効力があり、そのどれもが強大で強烈だ。

 しかし、アルトリアの言ったように女神ロンゴミニアドは召喚することは出来ない。

 神霊であるロンゴミニアドでなければ、ギフトは付与できない。

 聖杯があれば、話は別だろう。

 だとしても、この特異点において聖杯の存在自体が未確認である。

 

 

『だが、この大きな結界の維持に聖杯が使われているかもしれない。ただ、アイドルは聖杯によって召喚されていないから、可能性としては微妙なとこだけどね』

 

 ただ、聖杯が無いとも言い切ることは出来ない。

 結界の維持、多くのシャドウサーヴァントと魔神影柱。

 以上を鑑みても、この特異点は規模が大きい(・・・・・・)

 結界の維持に聖杯が使用されている、という考えは自然と出てくる。

 だが、ダ・ヴィンチちゃんが言ったように、アイドル達は聖杯によって召喚されていない。

 そもそも聖杯があるならシャドウサーヴァントではなく、通常のサーヴァントを召喚すればいい。

 聖杯がある可能性としては、五分五分と言ったところだ。

 

 閑話休題。

 

 女神ロンゴミニアドのシャドウサーヴァント及び『ギフト』が出てくるかは分からない。

 が、ランサー・アルトリアの存在もあるので、いると仮定する。

 次に話題となるのは、アサシンの語源となった者達。

 ある種、最も警戒しなければならない相手だ。

 

「歴代の暗殺集団の頭目たちへの警戒は怠るわけにはいかないだろう。シャドウサーヴァントは戦術の乏しい『英霊の現象』。だが、技術を振るうこと自体は出来る。暗殺という手段は、彼女たちアイドルとは相性が悪い。最悪、何人かがやられてしまう可能性もある」

 

 アイドル達はファンからの信仰心を受け、スキルや宝具が強力だ。

 しかし、そうであってもアイドル達は個々人が劇的に強いわけではないのだ。

 戦術や経験も、暗殺への対処も決して秀でていない。

 蛇足だが、もし彼女達が個人の力だけで戦えば、戦士系サーヴァントに勝つことはかなり難しいだろう。

 アイドル達は、個人ではなく集団で動く事を前提としているサーヴァント。

 彼女たちの真価は、チームプレイによって成り立つ。

 故に、暗殺を武器とするハサン達は非常に危険だ。

 その中でも、特筆するべきハサンがいる。

 

「一番危険なのはやはり、初代『山の翁』ですね。ただ、気になる点もあるのですが……」

 

『どうかしたのかね、ジャンヌ』

 

「彼の英霊は、第七特異点でも助力をいただきました。そうなると――――」

 

 →「どっちかに召喚されているのか……」

 

「もしくは、どちらにも召喚されているかですね、先輩」

 

「分からんぞ。どちらにも召喚されていないのかもしれない」

 

 →「どうして?」

 

 エミヤの発言に、首をかしげる立香。

 今までのシャドウサーヴァントは、かつての特異点の英霊達。

 カルデアにとって、大きく関わった初代山の翁が不参加とは考えにくいはすだ。

 しかし、エミヤには気がかりがあったようだ。

 

「今までの特異点も、全ての英霊がシャドウサーヴァントとして出現したわけではない。だからこそ、少ないながらも出てこない可能性もある」

 

 →「そういえば……」

 

「ええ、確かに。エリザベートは、第二特異点でも召喚されていました。が、シャドウサーヴァントとして召喚されたのは、第一特異点と第五特異点のみです」

 

「ネロさんも第五特異点に召喚されていたはずなのに、先ほどはいませんでした。全ての英霊が召喚されるとは限らない、ということなんでしょうか?」

 

『…………………。』

 

 マシュの疑問に、答えられるものはいない。

 推理が完全ではないからか、ホームズも沈黙している。

 呼ばれなかったシャドウサーヴァントに、共通点があるのだろうか。

 

「あの~、エジプトのファラオの方って、どのような人達なんですか?」

 

 卯月が場の空気を換えるためか、残る英霊について質問する。

 第六特異点で召喚されていたファラオは二人。

 

『ラムセス二世こと、太陽王オジマンディアス。天空の女王ニトクリスの二名だよ』

 

「だれ……ですか?」

 

 日本のティーンエイジャーで、この二人を知っている人物は少ないだろう。

 歴史を勉強していれば別だが、どうやら智絵里は知らなかったようだ。

 

「ニトクリスはエジプト第六王朝最後のファラオ。ペピ二世の娘といわれているね。ラムセス二世は、セティ一世の息子。エジプト最大の建築家で、古代エジプト最大のファラオと呼ばれる人だよ。現在もミイラが残っているしね」

 

 その少ない人物に、杏は当てはまっていたらしい。

 ものぐさゆえにムラがあるが、彼女の知識量はかなり多い。

 

『ニトクリスはキャスター。オジマンディアスはライダーで召喚されていた。気をつけるべき相手だけど、シャドウサーヴァントであれば本当に幸いだ。特にオジマンディアスが宝具を使えないのは非常に大きい』

 

 トップサーヴァントの一角、太陽王オジマンディアス。

 強力な宝具を多数所持しており、もし全て使えていたら、かなり厳しい戦いを強いられていただろう。

 

『後は三蔵法師、俵藤太、アーラシュかな』

 

「三蔵法師!知ってる☆西遊記だよね!」

 

「みりあも知ってるー!」

 

 日本では抜群の知名度を誇るからか、アイドルの年少組も知っていたようだ。

 玄奘三蔵は徳の高いキャスターだが、シャドウサーヴァントであれば戦闘能力は高く無いだろう。

 俵藤太も、本領を発揮するのは戦闘ではない。

 注意すべきはアーラシュだが、彼もまた宝具が使えないことが幸いだろう。

 無論、アーチャーとしての能力も高いので、楽観は出来ないが。

 

『考察は以上にしよう。休憩も出来ただろうからね』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉通り、休息は十分取った。

 現れるだろう魔神影柱を撃破するため、346プロダクションを後にする一同。

 今後の敵を予想することも大事だが、今は魔神影柱へと意識を切り替える。

 十分倒せる算段はあるが、油断はせずに向かう。

 アイドル含めたサーヴァントは十五名。

 マスターである立香と共に、再び戦場へと赴いた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 魔神影柱、九体。

 眼前の巨大な敵に対し、恐れる気持ちは微塵もなし。

 魔力は十分、気力は十二分。

 アイドル達は、その能力(ちから)と絆を用いて戦う。

 スキルや宝具、チームワークを駆使して。

 第五特異点のシャドウサーヴァントも、強力な戦力として機能した。

 想定外の事態は起こらず、誰も欠けることなく戦いは終わりへと向かう。

 順調そのものであり、魔神影柱との戦いは何事も無く終了した。

 時は過ぎ、鐘が鳴り、結界は再び閉じる。

 残る敵は、半数を切っている。

 彼らの探索は、終わりが見えるところまで到達した。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の時針は進む

 

 全ての敵を倒したとき

 

 最奥への道は開かれる

 

 かつての戦いを再現する

 

 終点にいる存在は、――――――

 

 

 

 

 

「――――――。」

 

 

 

 

 

 カルデアと、シンデレラたちを待っている。

 

 

 

 

 


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