A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第11章 Tea_time

 事務員から渡されたスタミナドリンクを一気飲みする、スーツ姿の人物。

 パソコンによる作業を一時中断し、ショボショボした目を押さえる。

 346プロダクションのアイドル部門プローデューサーは、ぐーっ、と座ったまま背伸びをした。

 巷は夏休み。

 アイドル達の仕事を制限していた学業が休みとなり、仕事が増加するこの時期は必然的に激務となる。

 連日の社泊も、事務員と担当アイドル達の苦言により、今日のところは無い。

 が、この調子だとまた近いうちに社泊する可能性がある。

 少なくとも、この時期を乗り越えないと厳しい現状は続くだろう。

 

「………………。」

 

 しかし、つらい仕事に対して弱音は吐かない。

 でなければ、アイドル達の現場に義務でも無いのに顔を出したりはしない。

 アイドル達も大変な仕事をこなしているのだ。

 重圧(プレッシャー)もあるだろう。練習(レッスン)も厳しいだろう。

 だが、アイドル達の輝く姿は何物にも代えがたい。

 だからこそ、現場へアイドル達に会いに行く。

 アイドル達も、背中を押してくれるプロデューサーから勇気を貰う。

 

 コキッ、コキッ。

 

 自身の身体から音を鳴らし、作業へと戻る。

 正直、連日の疲れは取れないが、睡眠時間はまだとれている。

 もう少し頑張ろう、と気合を入れなおすプロデューサー。

 

 

 

 これは、346プロダクションのとある一コマ。

 

 

 

 なお、空となったいくつものドリンクのビンや缶の転がる惨状を目にした事務員から。

 

「ドリンクをちゃんぽんするぐらいなら、しっかりと休みなさい!」

 

 と、また叱られてしまうプロデューサーなのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界から帰還し、休息を取ったカルデアの五名はカフェに訪れていた。

 杏、きらり、蘭子はこの場にいない。

 杏は「LittlePOPS」、きらりは「Love Yell」、蘭子は「Rosenburg Engel」でのお仕事である。

「ニュージェネレーションズ」は後で合流するので、今いるアイドルはかな子と智絵里の二人。

 以前と同様、アイドルがいると騒ぎになるのを防ぐ為、エミヤの認識阻害魔術が適応されている。

 

「ん~♪おいし~い!」

 

 目の前のチョコレートパフェに舌鼓を打つかな子。

 満面の笑みで、パフェを堪能していく。

 彼女に限らずここに集まった七名は、メニューは違えどティータイムを楽しんでいた。

 もくもくと、大納言小豆パフェを食べ進めるアルトリア。

 思案顔でチーズケーキを分析するエミヤ。

 ひとくちひとくち、ゆっくりとフルーツパフェ味わうジャンヌ。

 ほろ苦いガトーショコラを一口食べた後、コーヒーを啜るマスター。

 王道であるショートケーキを、キラキラとした目で一心不乱に口に運ぶマシュ。

 これから真剣な話し合いが行われるところなのだが、ゆったりとした空気が漂っている。

 もちろん、このお茶会にも意味がある。

 かな子と智絵里は、念話と記録のみでしか結界の情報を持っていない。

 実感が無い彼女たちの緊張をほぐすため、一緒に美味しいものを食べる。

 認識阻害魔術も実際に見せることで、非現実感をアピールする。

 卯月とも行ったことであり、有効なのは証明済み。

 事前情報が以前より多いので、スムーズに事が進んだ。

 

 なお蛇足だが、凛、未央、きらりは結界で会う前に顔を合わせており、カルデアに悪意が無く信頼できると理解できた。

 杏は持ち前の頭脳で、状況を正確に理解した。

 蘭子にいたっては念話だけで実感としては十分であり、皆の力になるために張り切ってノートに書き込んでいたのであった。

 

 閑話休題。

 

 デザートを食べ終え、おかわりした飲み物だけとなった一同。

 ほぅ、とした雰囲気となり、マシュが口火を切った。

 

「美味しいカフェの紹介、ありがとうございます。流石、お菓子アイドルのかな子さんですね」

 

「ううん、ぜんぜんいいよ~」

 

 ぽわぽわした返答をするかな子。

 本人としては、美味しいデザートを食べた後なのか幸せそうだ。

 

「えっと……、ご馳走様でした……。ありがとうございます。その……、奢っていただけるなんて……」

 

 →「大丈夫だよ」

 

「気にすることは無い。こちらの軍資金は十分ある。これぐらいの散財では、懐は痛まんさ」

 

 緊張もほぐれたところで、今後のブリーフィングに入る一同。

 今までの探索を、二人に対して説明する。

 

『深夜の結界に現れる敵。確認されているのは、カルデアが今まで関わってきた特異点。そこで召喚されていた英霊のシャドウサーヴァント。そして、人理焼却事件の主犯。魔術王ソロモンの力を利用した魔神ゲーティアが使役していた七十二柱の使い魔、魔神柱。その劣化である影、魔神影柱だ』

 

『我々も、結界に召喚されているアイドルを探すと同時に、結界の術者について調べていた。が、今のところいい結果は出ていない』

 

 当然、最初の予想である結界の基点であろう、中央部へは足を運んだ。

 だが、そこには何も無かったのだ。

 シャドウサーヴァントも、魔神影柱も同様に。

 

『おそらく、結界に「部屋割り」が出来ているのかもしれない』

 

 →「部屋割り?」

 

『その場所にいける条件。ありていに言ってしまえば「鍵」が必要なのかもしれない。物理的なものか、達成した功績が必要なのかもわからないが』

 

「あの、……それはつまり、七つの特異点?を、全て乗り越えること……なんでしょうか?」

 

『ありがちな考えだが、智絵里ちゃんのその意見、一考の余地は大いにあるね。今までの聖杯探索(グランドオーダー)を、結界は再現しているのかもしれない』

 

「じゃあ、これからの方針については……」

 

『変わりなし。アイドル達の探索による戦力増加、及び各特異点のシャドウサーヴァントと魔神影柱の撃破、だね』

 

『………………。』

 

 ダ・ヴィンチちゃんのやる気のある声と、推理中だからか無言のホームズ。

 少しして、ホームズからも異論は無いと、お墨付きを貰った。

 

 残るシャドウサーヴァントは、おそらく三つの特異点。

 その前に、味方としたシャドウサーヴァントについて、今一度おさらいする。

 ちょうど、「ニュージェネレーションズ」のメンバーも合流したようだ

 

『もしもし、今着きました』

 

 卯月からの念話。

 今の彼女たちは、念話が使える意外は魔術に関わりない一般人だ。

 故に、エミヤの認識阻害を撥ね退ける力が無い。

 このような合図は、彼女たちには必須である。

 

 →「エミヤ」

 

「了解した、マスター。彼女たちを、魔術の対象から外したぞ」

 

 真っ直ぐこちらへ歩みを進める卯月達。

 それに加えて、二人のアイドルが一緒に来ていた。

 

「あれ~?かな子ちゃん、智絵里ちゃん、お友達~?」

 

「卯月ちゃんたちのお友達って、この人達なの?」

 

 初めて会う二人のアイドル。

 第一印象は、少女でありつつ幼さも残っていると感じる。

 実際、年齢は小学五年と中学一年なので、間違いではない。

 赤城みりあ、城ヶ崎莉嘉。

 共にローティーンのアイドルで、元気な笑顔が眩しい。

 男性がこの場にいることに、やや戸惑っている様子だ。

 

「はじめまして、アルトリアといいます。ウヅキとは友人で、日本に寄ったので顔を出しに来ました」

 

「マシュ・キリエライトです。みりあさんと莉嘉さん、素敵なアイドルと会えて嬉しく思います」

 

「ジャンヌと申します。普段は海外で仕事をしていますが、今は休暇として日本を観光しに来ました」

 

「私はエミヤという。この三人の同僚であり、仕事仲間だ。アイドルたちとは、多少縁があってご一緒している。野次馬やパパラッチの対策もしているので安心して欲しい。そして、こちらが私たちの上司だ」

 

 →「いや、上司って……」

 

「間違ってはいないだろ?マスター(・・・・)

 

 海外で仕事をしている人物。

 それも、少年といっていい若さで彼らの上司であると言われている。

 マスターという言葉も、上司的な意味合いで言われているのだと理解し、羨望の眼差しで立香を見る二人。

 

「すっご~い!海外で働いている偉い人なんだ!」

 

「ちょー、すごいじゃん☆ねえねえ、名前はなんていうの?」

 

 物怖じしない性格なのか、キラキラとした目で立香に詰め寄る。

 興奮しているのか、手も力強く握り、振っている。

 

 →「藤丸立香。よろしくね」

 

「赤城みりあです!よろしくね!」

 

「城ヶ崎莉嘉だよー☆こっちこそよろしくね!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 力強く挨拶した二人だったが、ハッとして我に帰る。

 今ここは公共の場。

 それも、アイドルとして知名度のある面子で、声を張り上げてしまった。

 エミヤが対策をとっているとは言ったが、普通の客もいる中で、男性といるのはまずいのではないかと思うみりあと莉嘉。

 

 しかし、その心配は杞憂だった。

 なにせ、誰一人としてこちらを注目していなかったのだ。

 不思議を通り越して、不自然に思う二人。

 何が起こっているのかわからないままだったが、自分たち以外は普段通りにしていることに気づいた。

 

「対策した、と言っただろう?」

 

 ニヒルな笑みを浮かべ、したり顔のエミヤ。

 よくわかんない様子の二人に両手のひらを差し出す。

 

 すると、手の上にアクセサリーが投影された。

 

 これが、今回カルデアがとった作戦。

 エミヤによる、魔術の実践(・・・・・)である。

 目の前の非現実的な光景を前に呆然とした二人だったが、太陽をモチーフとしたアクセサリーを受け取り、その重さが現実だと理解して――――。

 

「ええぇぇ!?何!?今何やったの!?」

 

「すっごーい!ねぇねぇ、今何やったの!?手品!?」

 

 素直に、今の光景を受け入れた二人のアイドル。

 それを見て、まだまだ子供なんだな~、と思う一同。

 

「実は私たちはね、――――――魔法使いなんだ」

 

 なにか懐かしい、と顔に浮かべ、二人のアイドルにふと口を零したエミヤであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「本物の魔法使いさんなんだ~。すごい人達に会えちゃった♪」

 

「卯月ちゃんが、私のお友達もいるけど大丈夫かな? って言ってたときは、まさかこんなことになるとは思わなかったよ~……。」

 

「あはは……。ごめんね、驚かせすぎちゃったかな?」

 

「ううん、大丈夫。それにこんな体験、ちょ~レアだし☆あっ!?なら、蘭子ちゃんも知ってるの?」

 

「らんらんも知ってるよ。その様子だと、何かがあった、って分かってたみたいだね」

 

「流石に予想外だったけどね。でも、私たちのプロダクションだって依田芳乃(うらないし)安部菜々(うちゅうじん)堀裕子(サイキッカー)サンタクロースだっているんだもん!」

 

 純粋なのか、卯月達との信頼がなしたことか、はたまた既に非現実的な状況に慣れているからなのか……。

 どうやら、カルデアのことを信じてもらえた様子の二人。

 カルデアからしても、今回は離れ業と言っていいだろう。

 幼さが残り、信じやすいこの二人だったからこその荒業である。

 現在進行形で、ホログラフのモニターがあるのも一因だろう。

 

『確実ではないが、もし君達がサーヴァントになったのなら、まずはプロダクションを目指して欲しい。今、詳しいことは分からないかもしれないが、そうすれば比較的安全に合流できる』

 

「プロダクションだね。正直、あんまりよくわかんないけど了解☆」

 

 

 

 カルデアの作戦は功を奏し、予定通り深夜結界では無事に合流を果たすことになる。

 新たな仲間を加え、また夜の舞台に挑むのであった。

 

 

 

 

 


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