A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
「あの、今、解除しますね」
おどおどした少女がそう告げると、クローバー畑が消えていった。
どうやら防御結界を張る宝具らしく、シャドウサーヴァントによる破壊の痕が結界の境目を作っている。
「二人とも、無事でよかったにぃ」
「きらりちゃん達こそ、助けてくれてありがとう。危ないとこだったよ~」
きらりと談笑するのは、ふわふわした雰囲気を持つ少女。
三村かな子。
お菓子作りが趣味のアイドルで、好物も甘いお菓子。
彼女の武装である、マシュマロキャッチガンがそれを表している。
これは、テレビでも良く見かけるマシュマロキャッチなのだろうと予想をつけるマスター。
事実、かな子はこういった企画にも縁があった。
アーチャークラス適正としては無理やり感が無いことも無いが、もとよりアーチャー適性の範囲は広い。
シンデレラにアーチャー適正があるとも考えにくいので、これはかな子がクラス適正を持った例なのだろう。
「智絵里ちゃんも無事でよかったです」
「ありがとう、卯月ちゃん。皆すごいね。あっという間だったよ」
再びお礼を告げる少女、緒方智絵里。
先ほど展開していたクローバー畑は、彼女の宝具によるものらしい。
趣味も四葉のクローバー集めなので、まさにそれを表した宝具なのだろう。
→「はじめまして」
「は、はい……。はじめまして……。緒方智絵里です。えっと、カルデアのマスターさん、……ですよね?」
「はじめまして、三村かな子です。皆さんにも助けていただいて、ありがとうございます」
→「どういたしまして」
記録の共有からか、友好的に接してくれる二人のアイドル。
昼間に調べたこともあり、彼女たちの姿と名前は知っているマスター。
自己紹介と仮契約はつつがなく進む。
「私たちも、皆さんの力になりたいです。この世界が危険かも知れないですし、アイドル達も助けたいですから」
「わ、私たちみたいに、襲われてしまうアイドル達がいるかもしれない、なら……私も、協力します」
宝具で防いでいたとはいえ、怖い目にあっていた智絵里とかな子。
だが、勇気を振り絞り、力強く宣言する。
一人一人は決して力強いとはいえないが、人数が増えるたびに「皆とならできる」と思わせてくれるアイドル達。
「陣地作成C+++」という仲間と力を合わせるスキルを持つのも、アイドル達全員にそういう意識が根底にあるからなのだろう。
→「こちらこそよろしく!」
「とても心強いです。共に力を合わせて頑張りましょう」
アイドル達から勇気を貰い、快く返答するマスターとマシュ。
これで、八人のアイドルが仲間になった。
この結界では、敵となるシャドウサーヴァントや魔神影柱の数が多い。
味方になるシャドウサーヴァントも増えていくが、いつまでもそれが続く保証も無い。
これほどの規模の結界を張れる者が敵であるならば、戦力はいくらあってもいい。
それに、今までの傾向からするのならば、近くに魔神影柱がいる可能性が高いのだから。
――――――――――
かくして、その予想は正しかった。
既に予想がついていたからか、遭遇しても冷静に状況を判断した一同。
魔神影柱、合計九体。
突如現れるため、先制攻撃はできない。
だが、此度はこちらも戦力は十分。
心強い後輩、マシュ。
百戦錬磨の英霊、エミヤ、アルトリア、ジャンヌ。
味方のサポートに適した卯月。
宝具による遠距離攻撃が可能な凛、未央。
スキルによる様々な攻撃を行える蘭子。
撹乱と援護を得意とする冷静な杏。
とにかく強力な宝具を召喚できるきらり。
影でありながら強力無比な、ヘラクレスをはじめとしたシャドウサーヴァントたち。
それに加え、新たに智絵里とかな子も味方となった。
戦況は、比較的有利に進んでいく。
「――――――!!」
声は無くとも、威圧感を漂わせながら猛攻するヘラクレス。
しかし、彼はあくまでシャドウサーヴァント。
影とはいえ、魔神影柱九体との近接戦闘は、大英雄の身体に次々と傷を刻んでいく。
「ヘラクレスさん、頑張ってください!!」
そう言いながら、かな子はヘラクレスを
「――――――!!」
すると、撃たれたヘラクレスの
これがかな子の持つスキル、「おかしな国のおかし屋さんEX」。
マシュマロの形状をした魔力弾を撃つことで、その対象の回復を行えるスキル。
これにより、かな子は狙撃手と回復役を同時に行うことができる。
そして、もう一人のアイドル。
緒方智絵里は、再び宝具を展開していた。
「私の小さなおまじない」
「皆の助けになりますように」
「お願い!
再び咲き誇るクローバー畑。
その境界には、強力な防御結界が展開される。
内側にいる者には、防御と自然回復の恩恵をもたらす。
「ハッ!!」
その内側から、狙撃を行うエミヤ。
この結界は、智絵里が味方と認識している者の攻撃を通すことができる。
「未央ちゃんの一撃、くらえー!」
それは、遠距離攻撃を行うサーヴァントにとって見れば、頼もしい盾となる。
スキルによる魔力弾のチャージショット。
EXランクのスキルによって放たれた攻撃は、魔神影柱を怯ませていく。
智絵里の宝具の内側にいるのは、立香、エミヤ、卯月、凛、未央、杏、そしてかな子。
近接戦闘を行うのは、アルトリア、ジャンヌ、マシュ。
撹乱しながら攻撃を加える、蘭子、きらり。
各々の好きなように動いていくシャドウサーヴァントたち。
ゆっくりと、しかし確実に魔神影柱を削っていく。
戦闘も終盤。
カーテンコールの始まりは、クローバー畑から告げられた。
→「あった!あったよ!」
立香の手にあるのは、探し出した
これを探し出すこと。
それが、智絵里の宝具、
「ありがとうございます」
その四つ葉のクローバーを、かな子に渡すマスター。
目を瞑り願う。
その願いに、四葉のクローバーは応える。
かな子に魔力が溢れる。
クローバー畑から、四葉のクローバーを見つけ出した者に強力な魔力バックアップを施す宝具。
その潤沢な魔力によって、かな子もまた宝具を展開する。
宝具を準備するかな子の傍に、身を寄せるアイドル達。
「美味しいお菓子を一緒に食べて」
かな子の宝具は、決して複雑なものではない。
魔力による砲撃という、シンプルな対人宝具。
その砲身である、身の丈を軽く超えるほどのマシュマロキャノンが出現した。
「力になってくれる人達がいる」
しかし、この宝具にはとある特性がある。
宝具の真名開放を、仲間と力を合わせて発動できるという特性を。
卯月、凛、未央、杏、智絵里、そしてかな子。
力を合わせたその宝具は、
「皆で一緒に!
「――――――――――――!!」
アイドル六人の力を合わせた宝具による一撃は、消耗した魔神影柱ではひとたまりも無い。
その一撃がトドメとなり、魔神影柱が崩れ去る。
以前のように逃げられるということも無く、崩壊していく九体の魔神影柱。
戦闘は終わった。
幕を下ろしたのは、二つのアイドルユニット。
卯月、凛、未央の「ニュージェネレーションズ」。
そして、杏、智絵里、かな子の「CANDY ISLAND」のメンバーだった。
――――――――――
「戦闘終了。おつかれさまです、皆さん」
→「お疲れ、マシュ」
「お、お疲れ様でした~……」
「き、緊張、しました……」
戦闘能力が備えられていようと、戦場の空気を初めて体験した智絵里とかな子は緊張の糸が切れたようだ。
もともと、二人は体力に自身があるほうではない。
なお、ペース配分の上手い杏はケロリとしていた。
こういうところは杏らしいし、実際有用な技術だろう。
「おっつおっつ!みんな、ぱーぺきだったよ!」
「皆の者、闇に飲まれよ!」
(皆さん、お疲れ様でした!)
ピンチに陥ることなく、安定して魔神影柱を制圧できた。
予想通りであれば、残るは第五特異点、第六特異点、第七特異点。
そしてその特異点のシャドウサーヴァントに加え、九体ずつの魔神影柱がいるだろう。
結界の術者は未だ不明。
もし術者が敵だと仮定するならば、残るは半分。
しかし、ここからが本当の山場だ。
→「ありがとう。みんながいれば、これからもきっと大丈夫だよ」
心の底からそう思う。
頼もしい仲間達。
心強いアイドル達。
アイドル達の応援は、心に響く。
険しくなるであろう戦いへの不安は、もはや無い。
立香と肩を並べる皆は、それだけ大きな支えとなっている。
――――――――――
四つの試練は乗り越えた。
残る試練も激しい戦いは待っているだろう。
容易い試練などありはしない。
ここまできて、詳細不明の深夜結界。
この特異点を攻略する鍵は。
アイドルの、可能性――――。