A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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行間 一

 346プロダクション、その事務所の一つ。

 アイドルたちの主な集合場所であり、憩いの場。

 休憩で利用することもあれば、仕事における連絡事項を直接伝える場としても使われる。

 そこへ、一仕事を終えたアイドル達が帰ってきた。

 

「お疲れ。あれ?蘭子だけかい?」

 

 神崎蘭子とのユニット「ダークイルミネイト」でコンビを組んでいる、もう一人の中二病アイドル、二宮飛鳥。

 彼女が既に事務所にいた蘭子に対し、声をかけるが反応が無い。

 

「………………。」

 

 なにやら、一心不乱にノートへと記入している。

 集中している為か、飛鳥が入ってきたことにすら気づいていないようだ。

 

(いつものノート、かな?)

 

 蘭子は、自身の世界観をノートに字で、時には魔法陣(ずけい)で、もしくは絵で表現する。

 よく一緒にいることが多い飛鳥にとっては珍しい光景ではない。

 が、自分のことさえ気づかなくなるほど集中しているのは、ちょっとレアだ。

 

「蘭子」

 

 近くに寄って、声をかける。

 ここまで近づけば流石に気づいたようで、こちらへと振り向く。

 

「あ!飛鳥!っと、んんっ……。ユートピアへと帰還したようね。共に旅立った偶像たちも同様か?」

(《前略》事務所に帰ってきたんだね。皆も一緒?)

 

「ああ。撮影は終わったからね」

 

 飛鳥の言葉通り、一緒に戻ってきたアイドル達が事務所へと入ってくる。

 

 霊感アイドル、白坂小梅。

 カリスマJC、城ヶ崎莉嘉。

 パンクな鉤爪、早坂美鈴。

 そしてニート系アイドル、双葉杏。

 

 飛鳥もまた所属するユニット、「LittlePOPS」のメンバーたちである。

 

「蘭子ちゃん、おはよう!」

 

「煩わしい太陽ね、莉嘉」

(おはよう。莉嘉ちゃん)

 

「おは、よう…。今日も、ノート書いてるの?」

 

「左様。我は昨夜、闇の神による天啓を受けた。しかし、我の記憶は封印を受けた。今は、これを解呪しているのだ」

(うん。昨日の夜、いいことがあったの。でも、あまり覚えてないから。だから、こうして書き留めて思い出してるの)

 

「なんだ?いい夢でも見たのか?」

 

「ええ、当たらずとも遠からずよ、美鈴」

 

「そうか。邪魔して悪かったね、蘭子。ボクたちは好きにやってるから、キミは気にせず、自分のセカイを書き留めるといい」

 

「言われるまでも無い」

(うん。そうするよ)

 

 会話を終え、またノートへと没頭する蘭子。

 その集中力は、彼女達が入ってくる前と変わりないように見える。

 そこまでノートに書き留めたくなるようなことを考え付いたのか、と予想する「LittlePOPS」のメンバー。

 

「………………。」

 

 その中でただ一人、杏だけが沈黙を貫いている。

 彼女の視点から見れば記録だけとはいえ、彼の有名な英雄たちと肩を並べて共闘したのだ。

 しかも、現実へと帰還してから念話による会話まで可能となった。

 夢か幻かという虚構への疑いは、この事実だけで現実だと認識できた。

 ノートへと書き込みたくなるのは、蘭子の趣味からすれば当然の帰結だろう。

 

(しかも、それが実際有効なんだよな~)

 

 蘭子の持つスキル。

「覚醒魔王A」、「ローゼンブルクエンゲルEX」。

 これらのスキルは、彼女の世界観や想像力がそのまま蘭子にとっての手札となる。

 共に、蘭子の想像、世界観を具現化させるスキルであるためだからだ。

 結界の中だけとはいえ、ノートに書き込んだことが、実際に使用することが出来る。

 つまり、蘭子にとってこの行動は、そのままサーヴァントとしての研鑽そのものなのである。

 

(そりゃあ、張り切るよね~)

 

 だら~、としながら、考える杏。

 そう思っているうちに、他のメンバーはどうやら違う話題へと変わっていたようだ。

 

「そういえば…、プロデューサーさん、は?外回り?」

 

「あー、違うね。ボクは現場を実際に見てたから知ってるよ」

 

「ん?じゃあ、ドコいったんだ?」

 

「ちひろさんに連行された」

 

「えー!?Pくん、何かやったの!?」

 

「やったといえば、やっただろうね。……むしろ、またやったのか……というのが、ボクの感想さ」

 

「……………社泊か……」

 

「杏の言ったとおり。また社泊さ」

 

 346プロダクションは、福利厚生などはしっかりしている。

 テレビで報道されるような、残業手当も払わないブラック企業ということは一切無い。

 が、アイドルのプロデュースというのは、突き詰めてしまえばいくらでも仕事は湧いて出てきてしまう。

 やる気があるからこそ、仕事が増えてしまうのだ。

 しかも、現在は夏休み。

 普段は学校もあるアイドルたちが一日仕事に入ることも多くなり、夏休み特有のイベントも増える。

 年末業務さえ加わる冬休みよりはマシだが、企画しているイベントの数は夏休みのほうが上。

 需要も供給も増えると、仕事さえも増えてしまうのだ。

 

「たしかに、シンデレラガールコンテストも忙しかったし、まだまだ仕事は多いだろうけどさ……」

 

「それにどうやら、気になる人がいた様でもあったね」

 

「気になる人?誰?」

 

「さっきも美鈴が言ってた、シンデレラガールコンテスト。その参加者さ」

 

「あれ?あのコンテスト、参加者は…アイドル候補生、がほとんど、じゃなかった?」

 

「ほとんどと言うことは、一部は違うということさ。スカウト参加じゃない、応募での参加者でスカウトしたい人がいたそうだ」

 

「ということは見つけれてないんだ、Pくん」

 

「ああ。ずいぶん熱心な様子だった。が、ちひろさんの説教が効いたのか、今は仮眠中だ」

 

 なお。これだけやる気があるプロデューサーは、346プロダクションにおいては結構な数が存在している。

 程度の差こそあれど、自身がプロデュースするアイドルに対して、熱意を持たないものなど一人としていない。

 大企業とはいえ、これほどに人材に恵まれているのは幸運なことだろう。

 

 なお、スカウトしたいという人物に心当たりのある杏であったが、短い期間で確実に去ってしまう彼女たちを紹介するのは無意味と考えたからか、スルーすることにした。

 

「正直プロデューサー達さ、働きすぎだよね」

 

「杏のポリシーうんぬんは別にしても、同意見だよ。いつか、身体を壊すんじゃないか?ボクは心配だね」

 

「うん。私、も、心配」

 

「これに懲りて、Pくんもちゃんと休むように……ならないかな~」

 

「こういうのは、ウチたちからはっきりと言うべきだな!」

 

「賛成!Pくんが起きたら、抗議しに行こう、っと!」

 

 知らぬ間に、抗議運動が勃発してしまったらしい。

 各プロデューサー達は、担当アイドルたちを心配させてしまったとして、罪悪感から多少休むようになった。

 だが、またいつ無茶をするか。

 彼女たちは、なんとなく次の抗議運動を予感するのであった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 カルデアのメンバーは、今日は休息に徹していた。

 マスターとマシュはしっかりと睡眠をとり、栄養のある料理を摂る。

 サーヴァントたちもそれに倣い、睡眠や食事で微量ではあるが魔力を回復していった。

 結界の手がかりが日中に見つからない以上、動き回って魔力を消費するよりは賢明だという考えからだ。

 睡眠もとりすぎれば逆に疲れてしまうので、ある程度して目を覚ました一同はアイドルたちについて調べることにした。

 もちろん、調べるのはシンデレラの名を冠するアイドルたち。

 彼女達が所属する、346プロダクションのことだ。

 

「すごいですね、先輩。皆さん、今までのアイドルたちに負けず劣らず魅力的です」

 

 →「しかも個性的だね」

 

「警官アイドルに、着ぐるみアイドル。忍者アイドルに、サイキックアイドル……」

 

「もう言葉を並べるだけで強烈だな。特に最後のはなんなんだ?」

 

「ユニットの組み方が、ずいぶん流動的ですね。常に一つのユニットだけがあるのではなく、別のアイドル達でユニットを組むこともあるらしいです。ユニットを複数持つことも、珍しいことではないみたいですし」

 

「まさに、個性の掛け算だな。これだけ流動性があると、メンバーのスケジュール調整だけで大変だろう」

 

 →「でも、どんなユニットになるのかワクワクする」

 

「はい。きっと、それが目的なのでしょうね」

 

 彼らが関わってきたアイドル達も、様々なアイドル達と共演している。

 ユニットにもいろんなテーマがあったり、時にはファンの要望から生まれたユニットもある。

 その多様性こそが、346プロダクションのアイドル達の魅力なのだろう。

 

 カルデアのアイドル談義は、もうしばらく続くのであった。

 

 

 

 

 


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