A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第1章 現代日本

A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ

 

 

 

亜種特異点である新宿を乗り越えたカルデアの面々。

新たな仲間、シャーロック・ホームズを加え次なるレイシフト先を伝えるブリーフィング。

集まった面々はマスターたる少年、藤丸立香。

彼の最初のサーヴァントであり、現在療養中のカルデア職員、マシュ・キリエライト。

カルデアに召喚された英霊三号であり万能の天才、現在は実質的なカルデアのトップ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

そして、新たなカルデアのご意見番にして最も有名な探偵、シャーロック・ホームズ。

カルデア首脳陣の会議はいつもより、ややゆるい空気の中進行していた。

 

「現代日本へのレイシフト、ですか?」

 

「その通り。今回のレイシフトはいつもとは毛色が違う」

 

「特異点、といえるのかも微妙なゆらぎだからね。だが、どんなに小さなものでも異変は異変。もとより人類史においてそうした異変など決して多いものではない。」

 

「だけど、今回のはかなり平和染みていると思うよ。何せ特異点の座標は西暦2012年の東京。新宿や冬木よりも現在(いま)に近い現代日本。それも冬木や新宿のようなレベルの異常でもない。神秘の薄いこの時代なら、そうそう大きいことは起こっていないだろう。」

 

「隠蔽、という可能性もあるだろうがそれだったとしても限界は伺える。数人の戦闘特化サーヴァントで対処できる範囲だろうね」

 

「だからこそ、今回はマシュもレイシフトしてもらうよ。リハビリ、という意味も兼ねてね」

 

「無論、手に負えないレベルの異変である場合は即撤退し、後日に再編成した部隊で挑む。緊急の場合は追加でカルデアのサーヴァントをレイシフトさせる予定だよ。」

 

「まあ、肩肘張らずに行ってくるといいよ。時代に沿った軍資金も用意しとく。マシュはそういった娯楽を経験してないからね、調査ついでに遊んでくるといいよ」

 

「えっと、先輩はどう思いますか?」

 

→「マシュと遊ぶの、楽しみだよ」

 

「……はい、私も楽しみです」

 

「ああ、それと軍資金による時代の混乱も心配することは無い。持っていくのは紙幣のみだからね」

 

→「紙幣だけ?」

 

「そう、紙幣の寿命は短い。一定の期間が過ぎれば回収されてリサイクルされる。あまり大きすぎる買い物をしない限りすぐに均されてしまうレベルの変化だ。立香君とマシュ嬢、サーヴァント数名が遊覧する程度は問題ないだろう」

 

「とりあえずの調査期間は一週間。それ以上は臨機応変に対処、という方針だ。立香君、マシュのエスコート、頼んだよ」

 

→「はい!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

アンサモンプログラム スタート

霊子変換を開始 します。レイシフト開始まで あと3、2、1………

全工程 完了

アナライズ・ロスト・オーダー

人理補正作業(ベルトリキャスト) 検証を 開始 します

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ここが、今回のレイシフト先なんですね……」

 

『そうなるね。今回のレイシフト先は、ブリーフィングでも言ったとおり。今までで最も現在に近い時代である現代日本。マシュ達が以前レイシフトした二つの冬木よりもさらに今に近い時代だ。そこはまだ、人波から外れているが、大通りに行けば人は今までに無いほど多いだろうね』

 

『人口は歴史を進むごとに増え、近代では爆発的に増加した。首都ではなかった冬木や、そもそも異常事態だった新宿とは違い、正常な東京の都市部であれば人の数は今までの比ではないだろう。近代トップクラスの人口密度の都市だ、はぐれないように注意してくれ』

 

「了解です、ホームズさん。それに今回のメンバーは特に頼もしい方々ばかりですから」

 

「おっと、これは責任重大だ。その期待に応えるとしよう」

 

ニヒルに笑い、答えたサーヴァント。

英霊エミヤは、普段とは違う黒と赤を基調とした現代風の装いをしている。白い髪と褐色の肌が多少目立つだろうが、もとよりさまざまな人物が集まる東京ではさして問題にならないだろう。

 

「なぜだか、懐かしい装いです。正直、少し気恥ずかしいですが……」

 

やや赤面しつつ、少しそわそわしたサーヴァント。

英霊アルトリア・ペンドラゴン。

彼女の装いはマスター礼装にもあるアニバーサリーブロンド。

金髪碧眼の外国人は東京では取り立てて珍しいものではない。

強いて言うならば、彼女の可憐な容姿が目立つくらいだろうか。

 

「近代の服は初めてではないですが、この衣装は少し新鮮です。……どこかで着ていたような気もしますが」

 

シャツとミニスカートといったJK風な格好をしたサーヴァント。

英霊ジャンヌ・ダルク。

マシュ含めた彼女たち四人が今回のメンバーであり、その選考理由は常識人。

癖の強いカルデアのサーヴァント達の中でも社会への適応能力が高いサーヴァントたちである。

 

「しかし、東京というのはいささか暑いですね。今までとは、なんと言うか……種類の違う暑さです」

 

「ああ、それはこの時代では夏であること、そして湿度の違いだろう」

 

「体感温度の違い、ですね」

 

「そうだ、日本は数値的には高い気温ではないが、湿度が高いから不快指数によってより暑く感じてしまう。夏はそれがより顕著に出る。東京であれば、ある程度対策はされているだろうが、もとより人が多い街だ。加えてコンクリートジャングルがより熱気を生む」

 

『ちなみにダ・ヴィンチちゃんの補足だが、日本人は最も汗っかきな人種だ。四季による寒暖差、高温多湿な気候だから蒸散する汗による体温調節が発達しているからね』

 

→「知らなかった……」

 

「先輩が若干ショックを受けています!?」

 

「あのー、そろそろ行きませんか?」

 

「そうですね、人気の無いところで固まっているというのは悪目立ちします。それに、今回はマスターとマシュの休暇も兼ねているのでしょう?せっかくの遊覧です、こちらもしっかり護衛しますから、存分に楽しんでください」

 

→「みんなも一緒に、だよ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

『ああ、我々はここから黙るとしよう。せっかくの休暇に無粋な横槍は挟まないでおくよ』

 

『何か緊急事態があればすぐ連絡する。だから、安心して楽しんでおいで』

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「こ……」

 

 

「これは……」

 

ざわめく人波、都会の喧騒。

エミヤなどを除きおおよそこの光景は経験している人物は少ないだろう。

現代都市部の人の多さは過去の栄えた都市とは比べ物にならないほどに人が多い。

百聞は一見にしかずというが、一見しただけで圧倒されてしまうほどに。

 

「すごい人数です!?聞いてはいましたが、これほどとは……」

 

→「夏……、人ごみ……」

 

「気づいたか、マスター。これは、上二人はわざとこの時期(・・・・)にレイシフトさせたな」

 

「この時期?お祭りか何か、ですか?」

 

「いや、そうではない。まあ、ある意味、ジャンヌの言った通りでもあるがな」

 

→「夏休み!だね!」

 

「夏休み……、いわゆる夏季休暇ですね」

 

「その通りだ、セイバー。もっと正確に言えば、学生たちの夏季休暇だな。この時期は小学生から高校生、そして大学生も重なる大型休暇の時期だ。街に若者が多いのも、それが原因だろう」

 

「?エミヤ先輩、少し気後れしているように見えますが?」

 

「ああ、まあな。此度の面々は、見た目で言うならば私だけが成人だ。君たちも含め、若者に囲まれているというのは、少し疎外感がある」

 

→「エミヤも一緒に遊ぶんだよ」

 

「……了解だ、マスター。やれやれ、ある意味、難易度の高いレイシフトになりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度街を見て回っていたカルデア一行。

現在は休憩ということでオシャレなクレープ屋で舌鼓を打っていた。

マスターの立香はチョコバナナ。

マシュはブルーベリー&ストロベリー。

少し居心地が悪そうなエミヤはツナマヨのおかずクレープ。

残り二人は、

 

「むぅ、この小豆クレープ、あんこと生クリームの甘み、そこに黒蜜のほろ苦さがあいまって……、これはまさに至高のクレープ!」

 

「いえ、それならばこちらの色とりどりの冷凍フルーツとカスタードのクレープもですよ。シャリシャリした甘酸っぱいフルーツは現代で無ければ流通できない、この時代を象徴するスイーツです!」

 

「いや、日本が代表とする甘味の定番、あんこと黒蜜のこのクレープこそ、日本で食べるスイーツにふさわしい!」

 

「今は夏です、ならば冷たさを前面に押し立てたこのクレープこそ、今食べるのに最適です!」

 

各々のクレープ、どちらがおいしいのかという舌戦。

別にライバル店とかそういうの無いので、完全に不毛な争いである。

もとより、そんなに仲が悪いわけでもないのだが。 

女性を狂わすスイーツによって、タガが外れてしまったらしい。

 

「……ジャンヌ、セイバー、そこまでにしておけ。そんなに気に入ったのならばカルデアに帰ったら、私が作ってやるから」

 

「うっ、……そうですね。つい熱くなってしまいました。主と騎士王に謝罪を」

 

「はい、こちらからも謝罪を。しかし、私たちをここまで熱中させる。日本のスイーツとは罪作りなものですね」

 

「……これは、カルデアでのメニューにスイーツを増やしてやるべきか」

 

どうやら今回メンバーの中では、エミヤの負担が一番大きかったらしい。

やれやれといった様相でポツリとつぶやいた一言。

そして、それを聞き逃さなかった人物がいたようだ。

 

→「帰ってからの楽しみができたよ」

 

「そうですね。こんなにおいしいクレープがカルデアでも食べられるのは、とても楽しみです」

 

「マスターにマシュまでもか……。作るのはやぶさかではないが、おそらく味わいというのは変わると思うぞ」

 

「……アレンジ?でしょうか?」

 

「いや、違う。言ってしまえば雰囲気だよ。この空気を含めての味だ。まったく同じ作り方でも、食べる側の受け止め方が違えば味は変わる」

 

→「休日に街でみんなと食べてるからこそだね」

 

「そういうことだ。さて、話を変えよう。少し散策はしてみたが……」

 

「はい、異常は見当たりませんでした。なので、これからどこへ向かうかは、マスターの決定次第ということですね」

 

やや緊張した空気が流れるが、普段のレイシフトに比べればだいぶゆるい。

マスター本人が休暇の姿勢なので、それに倣っているようだ。

肩の力を抜いてはいるが、油断も腑抜けてもいないところは流石は歴戦の英霊といったところか。

休暇中のマスターの護衛、のついでに外遊なのだろう。

 

→「せっかくなら今しかできないことがしたい、かな……」

 

「今でしかできないこと、ですか?」

 

「日本における、夏休みならではのこと、ということでしょうか?」

 

→「うん。ジャンヌの言ったとおり」

 

「なら、もう少し街を散策してみるのはどうかな?夏休みならば、さまざまなイベントが行われているだろう。それを探してみたり、もしくは調べてみれば何か見つかるだろう」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「どこも人が多かったですが、ここは特に若年層が多いですね」

 

来たのは大型のショッピングモール。

中央に吹き抜けが続く、二階層のショッピングロードだ。

人通りは多く、買い物袋を下げている人が多い。

 

「ウィンドウショッピング、というやつだ。さまざまな商品が綺麗に並べられているからそれを眺めたり、会話の種にする。その中で気に入ったものがあれば購入するという買い物の仕方。若者、とりわけ女性に多い買い方だな。ゆえに、ここにいるのも女性が多い。男性もいるが、多くは女性の付き添いや目的の店までの移動がほとんどだ」

 

→「学生は、お金の余裕が無いからね」

 

「区画によって、主な店も異なるようです。飲食店、衣服、装飾品、電化製品、書店などがそれぞれの場所に集中しているようです。」

 

地図を見ながら分析するマシュ。

彼女の気質といってしまえばそれまでだが、どうも分析や知識のすり合わせなどが多くなりがちである。

だが、今日はそこで終わりではない。

此度は分析させに来たのではなく。

仕事もあるが、それ以上に楽しませに来たのだから。

知識だけでなく体験を。

そう決意したマスターは、マシュの手を握る。

 

→「いろいろ見に行ってみよう!」

 

マシュにとって未知の場所であるならば、手を引っ張るのは自分の役目。

もとより今日の自分はエスコート役。

デートを成功させるのは自分にかかっているのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

さまざまな店を巡る一行。

飲食店のたびに足を止めるアルトリア。

食器店でさまざまなデザインの食器や料理道具に対して解析(魔術)をするエミヤ。

アクセサリーショップでさまざまな十字架アクセサリーを見て、勘違いしてしまったジャンヌ。

そして、見るものすべてに新鮮さを感じているマシュ。

現代への適正を今回の選考基準にしたが、思った以上にみんな楽しんでいるらしい。

 

→「楽しいね」

 

「はい。楽しみすぎて、時間を忘れてしまいそうになります」

 

「現在の時刻は午後三時、少し前か……」

 

「む。あちらで、なにやら人が集まっているようです」

 

「男性、がやや多いようですね」

 

一同が目を向けるのは、ショッピングモールの吹き抜け広場。

いつもはないであろうステージが用意されていることから、何かしらのイベントが行われるらしい。

 

→「ちょうどいいし見ていこうよ」

 

「私はかまいませんが、一体何が始まるのでしょうか?」

 

「私にはわかりかねます。ジャンヌとアーチャーはどうですか?」

 

「私もわからないです。祭り、という雰囲気でもないようですし」

 

「私は理解した。集まった観客、いや、ファンの様子を見ればすぐ察せる。マスターも同じだろう」

 

女性陣の返事をかき消すように、ステージから盛大なミュージックが流れる。

それに伴い、ファンの歓声が爆発する。

これからのライブ(・・・)への期待と興奮を燃料にして。

それに応え、主役たちがステージ袖から現れる。

 

マシュは思う。

 

今まで美女や美少女はよく見てきた。

もとよりカルデアはそういった人物が集まりやすい。

しかし、彼女たちはそのどの人物たちとも違う。

人を平伏させるような神々しさは無く。

人間離れというほどの絶世の美貌とも異なり。

触れれば折れてしまいそうな可憐さとも違う。

思わず後ずさってしまうような妖しさでもない。

 

いうなれば、―――――普通。

 

そう彼女たちは普通なのだ。

普通であるはず彼女たちが、英霊達と遜色ないほどに輝いている。

まるで変身したように。

 

「皆さん!」

 

「こんにちは!」

 

「私たち!」

 

「「「ニュージェネレーションズです!!」」」

 

まるで、魔法にかけられたように。

 

 

 

 

 


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