A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第6章 硝子の靴のお姫様

「風よ、舞い上がれ!」

 

アルトリアの風王結界(ストライク・エア)が、魔力放出スキルもあいまって魔神影柱をなぎ払う。

 

偽・虹霓剣Ⅱ(カラドボルグ)!」

 

エミヤもまた近距離から遠距離まで、幅広く戦場をカバーする。

 

「そこですっ!」

 

ジャンヌも自身の武装たる旗を駆使し、敵をマスターたちに近づけさせない。

この三人が主戦力であるのは、ある種当然といえる。

今回は、エクスカリバーによる殲滅は行わない。

その発動には、ある程度の攻撃準備が必要な為だ。

その時間を稼ぐのに、九体もの魔神影柱相手では討ち漏らしが出てしまう。

シャドウサーヴァント達では、盾にするには心もとない。

マスターこそ彼らの要である以上、守らなければならないのだ。

近距離で防御するマシュ含めて4人による防御の布陣。

しかし、いかに強化されたとはいえ、魔神影柱9体は手に余る。

 

だが、忘れてはいけない。

ここには、新しいが頼もしい仲間ができたのだ。

 

「おっそいなぁ。そんなんじゃ何時までたっても杏は捕まえられないよ」

 

縦横無尽に空を翔る杏。

彼女のウサギソファーは非常に素早く、魔神影柱の周りを飛び回り撹乱する。

攻撃手段である魔力攻撃は威力に欠けるが、的確に味方への援護射撃となっている。

初戦闘にもかかわらず、彼女は怖気づくこともなく、淡々と役割をこなす。

 

「皆さん、がんばってください!硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)

 

卯月もまた、宝具にてサポートを行う。

重ねがけは出来ないが、強化の上書きは行える。

強い魔力をこめた真名開放ならば、効果の程は上昇する。

 

「…………。」

 

無言で佇む未央。

もちろん、ただ立っているだけではない。

傍目に見ても、魔力が練り上げられているのがわかる。

彼女のスキルによってそれは行われ、宝具発動の準備を行う。

 

「いくよ」

 

アイドルサーヴァントは、総じて彼女たち自身の戦闘能力としては高くない。

故に、前衛としての足止めや殲滅には不適格だ。

だが、だからこそ(・・・・・)彼女たちこそが鍵となる。

 

「これが、私の足跡――――」

 

魔力が凜へと集中する。

一足先に、彼女の宝具が発動する。

 

「これこそが、私のステージ!!」

 

明りが灯る。

その青い光は、彼女を照らすいくつものステージライト。

さらに、魔神影柱を青いオーラが包んでいく。

縛られるように動きが制限され、悶え暴れる魔神影柱。

 

 

 

 

 

 

「魅せてあげる!硝子の靴のお姫様(Never say never)!!」

 

 

 

 

 

ステージライトが矛先を変え、魔神影柱に突き刺さるビーム(・・・)と化す。

その威力は高く、複数のライトが魔神影柱の一体を貫通(・・)した。

 

これが、彼らの戦法。

前衛をカルデアのサーヴァントに任せ、とどめの攻撃として彼女たちアイドルを起用する。

仮契約によるステータス確認。

その際に判明した彼女たちの宝具。

前衛に適さないなら後衛で活躍する。

彼らの作戦は完全に機能していた。

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

声なき魔神影柱の崩壊音(だんまつま)

だが、魔神影柱はまだ八体。

しかも、捨て置いていた凛たちを脅威と認識してしまった。

残党が凛と未央、マスターとマシュに狙いを集中する。

敏捷ランクが高くない彼らでは、もはや逃げることはできない。

 

 

 

もう遅い。

 

 

 

「――――準備、OK」

 

 

 

それは、魔神影柱の方にこそ言える事だった。

 

 

 

「いざ!未央ちゃんの新たな力」

 

 

 

本田未央の宝具は発動に時間がかかる。

が、それ以上に彼女は時間をかけていた。

それが彼女の持つスキルの効果。

自身の攻撃時、チャージ行動を取ることによる威力上昇。

 

 

 

「ここに参上!!」

 

 

 

そうして発動した彼女の宝具。

 

その分類は――――――対軍宝具。

 

 

 

「飛び掛かれ!!硝子の靴のお姫様(ミツボシ☆☆★)!!」

 

 

 

魔神影柱に降り注ぐ、数多の流星群(・・・)

隕石とは違う、デフォルメされた星の豪雨。

ランクにしてA+の対軍宝具は、八体もの魔神影柱を撃破していく。

 

「――――――――――!?」

 

なぜだ何なのだ!?

そうとでも言いたげな魔神影柱。

彼女たちはただの一般人(アイドル)のはずだと。

決して、かつて武功を示した英雄(サーヴァント)ではないのだと。

だが、その考えこそ甘い。

確かにもともとは一般人だ。

純粋な意味でのサーヴァントでもないだろう。

 

だが、それでも――――やはり彼女たちは、サーヴァントなのだ。

 

スキル「真のアイドル」。

 

知名度による能力の補正。

本来は、生前の能力値に何処まで近づけられるかという指標。

それを、このスキルは飛び越える。

自らの存在を、姿を、名前を、世界に知らしめることで効果を発揮する。

これが、ただの特異点であればここまでの効果は発揮できないだろう。

しかし、ここは彼女たちの特異点(ホーム)

彼女達が、今を生き、アイドルとして全力で過ごしている時代(とき)

 

最大限に発揮された宝具は、決して――――英雄(サーヴァント)に劣る道理などない。

 

「――――――――――!!」

 

魔神影柱が崩れ去る。

強力な宝具をもって、今ここに打倒された。

それを成したのは、英雄でも英霊でもない。

 

 

 

 

 

それを成したのは、アイドルだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

激闘は終わった。

 

だがまだ戦いは続くだろう。

 

時は来た。

 

針はまた六時を指す。

 

結界の魔法が解ける。

 

灰かぶりの姫(シンデレラ)アイドルの少女(シンデレラガール)へと戻る。

 

次のステージまであと18時間。

 

ステージが終わるまで、この結界は繰り返す。

 

最奥に、待っているものがいる限り。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

魔神影柱は倒した。

一気に気が抜け、どっと疲れが押し寄せてくる。

アイドル本人たちの体は睡眠中であることは幸いだろう。

この疲れがフィードバックしたら、精神的疲労だけでも仕事に支障をきたすだろう。

もう、それを考えるような時間となった。

午前六時、約十分前。

彼女たちと、一時的な別れの時間である。

 

「あ~、疲れた~。こんなに働いたんだから、ちょっとくらい休みたいよ~」

 

「だめですよ、杏ちゃん。今日から、アイドルミスコンの本選なんですから」

 

「気持ちはわからなくもないけど。でも、体のほうは大丈夫なんでしょ?サボっちゃだめだよ」

 

「うえ~……」

 

「あはは。そういえば、ましゅましゅたちも出てたよね?」

 

「ま……、ましゅましゅ?」

 

「気にしないで。未央があだ名をつけるのは、癖みたいなものだから」

 

「は、はぁ……。私は、構いませんが……。出たほうが、いいですよねぇ……」

 

少々気疲れしているマシュ。

無理もない。

彼女たちとは違って、カルデアの面々は純粋な肉体と霊体。

どちらの疲れも、昼の間に癒す必要があるだろう。

睡眠の必要がないサーヴァントたちはともかく、マシュは体力回復が優先だ。

 

『マシュ、君の好きにしなさい。あくまで君はリハビリ中なんだ。いかに結界の中では影響がないとは言え、絶対に無理をしなければいけないわけではない。場合によっては、こちらのサーヴァントを追加で送ることもできるんだ』

 

「いえ、あの……。先輩を守るのは、私の使命であり願いです。最後までやらせてください」

 

『うんわかった。でもこちらがどうしようもないと判断したら、ストップをかける。そのときは、こちらの指示にちゃんと従ってね』

 

「はい、わかっています。ダ・ヴィンチちゃん」

 

『ということは、ミスコンのほうは騎士王たちに任せて、ゆっくり休むかい?』

 

「いいえ。わたしが決めてやり始めたことです。ちゃんと最後までやりたいです。それに……」

 

→「それに?」

 

「えっと……、卯月さんたちがとても楽しそうにアイドルについて語るので……、――――――ちょっと、やってみたくなりました」

 

体験だけですが、と締めくくる。

そんな彼女の発言に食いついたのは、やはり彼女たち。

卯月がマシュの手を両手で握る。

片手は大盾に、もう片方は卯月に封じられ、困惑するマシュ。

 

「こんなことを言っちゃ、運営側としては失格なんですけど……、応援しています!きっと、素敵なアイドルになれますよ。それに、なんたって――――――」

 

マシュさんの笑顔、とっても素敵ですから。

笑顔のアイドルである卯月ののお墨付き。

とても頼もしく、楽しそうな応援。

 

「そうとなっては、本気でやるしかありませんね。成り行きでしたが、私も本選出場者です。マシュ、加減はしません。全力でかかってきなさい」

 

生来の負けず嫌いからか、アイドルという分野に対しても挑む姿勢を見せるアルトリア。

西洋風騎士系アイドル。

一時的なイベントならともかく、恒常的な属性としては346プロダクションにも存在しない個性。

剣士はいるが、彼女は和の剣士。

可憐な容姿もあいまって、間違いなく強敵だろう。

 

「マシュと騎士王もやる気ですね。なら私も、がんばってみましょう。これでも、フランスのアイドル的存在でしたし」

 

もともと似たような経験があるからか、余裕の表情で迎え撃つジャンヌ。

しかし、ある種の先達者であるという立場でのプレッシャーがある。

負けられないという気合は十分のようだ。

 

そして、そんな彼女たちを見てエミヤはため息をついているが、心なしか楽しそう。

そしてマスターは――――。

 

→「がんばってね、皆」

 

競争である為に、誰か一人を贔屓はできない。

実際、皆にがんばってほしいのは本心から。

正直、誰が勝ってもおかしくない。

皆それぞれに違う魅力や個性がある。

誰かが劣る、ということは決してないだろう。

 

「……!はい、マシュ・キリエライト。がんばります!」

 

「あっ、私のセリフ!」

 

「はい。せっかくなので、真似てみました」

 

「……くすっ♪」

 

「……あはは」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「じゃあ、またあとでね!」

 

「はい!詳しくは、また念話で」

 

シンデレラは去った。

結界も解ける。

彼らがいるのはもといたホテルのロビー。

休息を取る為に各部屋のベットへと潜るマスターとマシュ。

仮眠を取るほんの少し前。

マシュの顔は、ニヤつくような笑顔で――――。

 

まるで、遠足を楽しみにしている子供のような笑顔だった。

 

 

 

 

 


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