A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第5章 青と黄のシンデレラ

 新たに現れた二人のシンデレラ。

 渋谷凛と本田未央。

 卯月のユニットメンバーでもある彼女たちは、シャドウサーヴァント相手に二人で奮戦していた。

 だが、戦闘特化のサーヴァントなしではやはり多勢に無勢。

 しかし追い詰められる寸前で、カルデアのサーヴァントたちが到着した。

 

「凛ちゃん!未央ちゃん!」

 

「卯月!?」

 

「しまむー!?」

 

 現実感のない状況の中、突如現れた卯月の姿に困惑する2人。

 しかも、卯月と一緒に現れたのはミスコンで出会った三人と、おそらく同僚らしい男性二人。

 衣服もアイドルのような衣装であるが、手に持つ武器が彼らが戦闘者であることを如実に表している。

 混乱する二人をよそに、シャドウサーヴァント同士が戦いを始める。

 

「助太刀に参りました。二人とも、ご無事で何よりです」

 

「もう大丈夫。皆さん、とても頼もしい方たちなんです」

 

「いや!正直わけわかんないし!」

 

「後でちゃんと説明してよ、卯月!」

 

 笑顔で語る卯月を横目に、まだ危険は去っていないと臨戦態勢を維持する凛と未央。

 対するシャドウサーヴァントは十三体。

 反覆の将、呂布奉先。

 天下の義侠たる暗殺者、荊軻。

 剣闘士、スパルタクス。

 ブリタニアの勝利の女王、ブーティカ。

 軍師の魂を宿すロード、諸葛孔明(エルメロイⅡ世)

 若き日の征服王、アレキサンダー。

 古代ペルシャの王、ダレイオス三世。

 ゴルゴン三姉妹の長女、ステンノ。

 文明の破壊者、アルテラ。

 終身独裁官、ガイウス・ユリウス・カエサル。

 古代ローマ帝国第三代皇帝、カリギュラ。

 古代ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウス。

 ローマの父、神祖ロムルス。

 第2特異点、ローマの地で共闘あるいは敵対したサーヴァント。

 それに加えて、ローマ兵と思われるシャドウサーヴァントも増援としてやってくる。

 敵の数が多く、飽和戦術ともいうべき戦法。

 しかし、シャドウサーヴァントに声はなく、最低限の連携しかできていない。

 ローマ兵も同じだ。

 軍を率いることを得意とするサーヴァントが軒並みそろっているにもかかわらず、見た目以上の戦力にはなっていない。

 そしてそれは、カルデアの戦法が通りやすいということも意味する。

 

 

 

 

 

約束された(エクス)――――」

 

 

 

 味方のシャドウサーヴァントは既に離脱している。

 軍を押しとどめているのは、アーチャーであるエミヤの連続狙撃。

 数に任せ、こちらに向かってくる敵はジャンヌが防御する。

 ジャンヌが守り、エミヤが足止め。

 準備は整った。

 本来、軍ではなく城を対象とする過剰なる力――――対城宝具。

 まともですらない軍など、最強の星の聖剣を持つアルトリアの敵ではない。

 

 

 

勝利の剣(カリバー)アアアァァァ!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の中において、昨日の戦闘の爪あとが修復されていたのは既に確認済み。

 しかし、たった一発の宝具によって、昨日以上の破壊痕が街に刻まれていた。

 シャドウサーヴァントは星の聖剣で消滅し、シャドウローマ兵などの雑兵は宝具の余波で消し飛んだ。

 近くにサーヴァント反応がないことを確認していたとはいえ、少々やり過ぎ感が否めない。

 エクスカリバーが初見のニュージェネレーションズなど、完全に放心状態である。

 最短の戦法だったとはいえ、もう少しやりようはあったのではないかとも思ってしまう。

 

「えっ!?ちょっ、何今の!?」

 

「もう何がなんだか……」

 

「お、落ち着いて。今から説明するから」

 

 混乱する凛と未央をなだめ、何とか説明しようとする卯月。

 二人の格好は卯月と同じ。

 白をベースとしたシンデレラのようなドレス、そして足には硝子の靴。

 そろったドレス衣装があいまって、まるでこれから三人のライブが始まるかのようだ。

 

『さーて、情報交換といこうか。お嬢さんたち』

 

「モナ・リザ!?」

 

「ホログラフ!?」

 

『うんうん、新鮮なリアクションありがとう。ついでに自己紹介しよう。私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれ』

 

「おい、二人が余計混乱しているぞ。すまないな。改めて、私の名はエミヤ。二人のことは話には聞いている」

 

 →「はじめまして、藤丸立香です」

 

「あっ、はい。これはどうもご丁寧に……」

 

「もう、驚くのも疲れてきた。卯月は平然と馴染んでてすごいと思うよ……」

 

 初対面である男性陣の紹介が終わったところで、凛と未央の状況から説明を聞く。

 卯月は最初の現界時から346プロダクションにいた。

 今宵も同様。故に、二人の現界した場所はプロダクションではないだろう。

 

「気が付いたら、私たちは近くの建物の中に立ってたの」

 

「しぶりんと二人でね。衣装もそのときにはもう着てたんだ」

 

「誰もいなかったから、探そうと思って外に出てしばらくしたら……」

 

「たくさんのシャドウサーヴァント(・・・・・・・・・・)に襲われて……あれ?」

 

 未央が言った何気ない用語は、彼らの注意を引くのに十分すぎた。

 アイドルサーヴァントは聖杯からのバックアップを受けない、が前提だったにもかかわらず。

 

『ふむ。お二人さん、一つずつ質問していくから答えていってくれないか。できれば卯月嬢も一緒に』

 

 三人の了承を得たホームズは、順を追って問いを投げかける。

 バックアップされた知識がいかほどのものなのかを調べる為に。

 三人の答えは、完全に同一。

 

『第一に、英霊とは何かな?』

 

「生前の偉人や伝説の人物が祀り上げられた存在。その魂」

 

『聖杯戦争とは?』

 

「願いを叶えることができる聖杯をめぐる戦いのこと」

 

『サーヴァントとは?』

 

「聖杯戦争で魔法使い(・・・・)が召喚する英霊」

 

『…………カルデアとは何か?』

 

「人類を救った組織。たくさんのサーヴァントがいるところ」

 

『魔術と魔法の違いは何か?』

 

「…………わかんないです。」

 

『凛嬢と未央嬢に質問だ。今まで答えてきた質問の知識は、結界(ここ)に来たときに既に持っていたものかい?』

 

「はい」

 

『なるほど。質問は以上だ、協力感謝するよ』

 

 ホームズがそうしめるが、しーんとした空気のまま少し時が過ぎる。

 カルデアの面々は、頭をフル回転して状況を理解しようとする。

 

 彼女たちの知識はツギハギだらけなのだ。

 まず、魔術と魔法の違い。

 サーヴァントを召喚する人物は原則魔術師だ。

 故に、魔術に対する知識が疎くても、魔法使いが召喚するとは言い出さないはずだ。

 加えて、カルデアの知識を保持していること。

 サーヴァントに対する聖杯の知識には、カルデアのことは含まれない。

 自身を召喚した人物が所属する知識など、召喚したてのサーヴァントが持っているはずなどない。

 

 →「何かわかった?ホームズ」

 

『ああ、私の推理でよければ聞かせよう』

 

 ホームズの推理。

 それはほぼ真実に近い。

 もとより確信がなければホームズは自身の推理を語らない為だ。

 故に、推理に対する信頼度は大きい。

 

『結論から言おう。やはり彼女たちは聖杯からの知識のバックアップは受けていない』

 

「ではなぜ、バックアップを受けていないのにお二人はある程度の知識があるのですか?」

 

『バックアップ自体は受けている。ただし、聖杯からではなく卯月嬢からね』

 

「私ですか!?」

 

『正確に言うなら、すべてのアイドルたちの記録は共有される(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということだ。あくまで知識の記録に対してで、経験の記録は別だろうがね』

 

 つまり、彼女たちが事情を知るほど、他のアイドルへの助けとなる。

 少なくとも、カルデアが味方であると伝えることができるだろう。

 

「凛ちゃん、未央ちゃん……。本当は私も不安だけど、マスターさん達が助けてくれたんです。皆さんいい人達で、今は私もお手伝いしてて……。もしかしたら、他のアイドルのみんなもいるかもしれなくて……。とにかく!私、マスターさんたちとみんなを探しに行きたいんです!」

 

 卯月の説明は上手なものではない。

 ところどころ、話も止まっている。

 しかし、その真摯な姿はこちらに気持ちがストレートに伝わってくる。

 みんなを助けに行きたい。

 凛や未央、卯月が助けられたように、他のアイドル達がピンチかもしれない。

 

「卯月。私たちの答えは一緒だよ」

 

「大丈夫!この未央ちゃんが力になれば、百人力だよ!」

 

 ならば行こう、助けに。

 正直、まだ頭はいっぱいいっぱいだ。

 だけど、考えるのはとりあえず後。

 卯月が言うことなら信じられる。

 これが、ニュージェネレーションズの絆。

 彼女たちの団結は揺るがない。

 どんな場所、どんな状況でも。

 

 それが、三人の友情の結束。

 

 

 

 

 


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