艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第4話  南西諸島北海域制圧作戦 その1

 

 台湾攻略艦隊の出撃を見送った俺は、その足で執務室に戻って必要書類やら諸々を持って地下司令部に向かう。

今日から作戦終了、帰投するまでここで過ごす。執務もここで行い、食事もここで食べることになる。それだけが出来る設備が整っているので、問題なかろう。秘書艦には少し苦労を掛けることになるのと、作戦行動中ということもあり、鎮守府自体がそれなりの警戒態勢に入るのもあって、結構騒々しくなる。地下司令部には艦娘、門兵の頻繁な出入りが予想されるからな。

そうは言っても、これまで通りに身構えておけばいい話。

 地下司令部に入り、俺は作戦室の全体の見渡せるところに立つ。前回ここに立ったのは、近海から南西諸島に抜けるために橋頭保を確保した時以来だ。あの時は沖縄周辺で戦闘し、あの後、空軍の輸送機が沖縄本島に飛んでいったのを覚えている。色々とあったみたいだが、報告が下りてきていないので気にしても仕方ないだろう。もう少し時間が立てば、沖縄のどこかに海軍の軍港が建設されるだろうしな。否応なしに情報は下りてくるだろうし、利用することにもなる。

 

「支隊の現在位置は」

 

 作戦室に立ち、俺は戦域担当妖精たちに俺は状況確認を促した。

 

「現在、支隊は14ノットで紀伊半島沖30kmを針路250で航行中。接敵なし」

 

 いち早く対応できた妖精が報告してくれる。それを俺は聴き、指示を出した。

 

「戦域担当はそのまま続行」

 

「「「了解」」」

 

 まだ本隊が出撃したばかりだ。何か行動が起こるとすれば、鹿児島沖を通り過ぎて沖縄に差し掛かるところ辺りになるだろう。だが、本隊・支隊両隊は一度端島鎮守府に寄る。そこから巡航で向かったとしても、4日は掛かる予定ではある。だがこれは道中、戦闘にならないことを想定した時間であるので、何が起こるか分からない。

 少し考え事をした俺は、自分の机の上に作戦書を置いて腰を下ろした。いつでも事態に対処できるよう、ここで待機することにしているのだ。だが1週間以上も気張っているのも無理な話。俺はここで本を読んだり、勉強をしながら火急の時以外は時間を潰す予定だ。気が向いたら他のこともする予定ではあるが、時間を潰せるだけのものは持ってきているし、事前に運び込んでいるものもある。

作戦室の隣の倉庫は、作戦室で使う機材の予備が置いてある他、空いているところには本やら色々と置いてある。そこに行けば大概のものがあるので大丈夫だ。

 俺はここに入ってくる時に持ってきていた荷物から、本を取り出して机の上に置く。そして本を開き、中に挟んである栞を取って本を読み始めた。秘書艦で、一緒に入って来た夕立も、既に隣の机に荷物を置いて勉強を始めている。ちなみにウチの夕立はあまり『ぽいぽい』言わない。それどころか犬っぽさの欠片も感じられないくらいに真面目で勤勉だ。かなり優秀な艦娘で、人として生きていくことになっても優秀であるといえる、と思っている。さっき始めた勉強も、正直俺にはよく分からないものだからな。表紙を見ると『重商経済学』とかいうらしい。それって、昔の経済思想・経済政策についての本だろうか。学説か論文を読んでいるらしいが、ぶっちゃけ俺にはさっぱりだ。最近、夕立がどこを目指しているのか分からなくなってきている俺がいたりする。

一方で、夕立と同じくらい勉強をしている時雨はというと、結構現実的なものをやっているそうだ。移動中に夕立から聞いた話ではあるが、どうやら心理学をやっているみたいだ。こちらも学説や論文を読んでいるんだとか。まぁ、夕立よりかはマシな部類ではあると思う。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 少なくとも4日は戦闘にならないことは、ある程度の艦娘が知っていたみたいだ。なので、今地下司令部に遊びに来ている艦娘が居る。

 

「ヘイッ!! 提督ぅ~!!」

 

 金剛だ。確かに、金剛が作戦の詳細を知っていてもおかしくはないが、作戦決行日に遊びに来るのか。そんな風に考えつつも、金剛を出迎える。

その一方で夕立の雰囲気が変わったのは気のせいだろうか。開いている本の表紙の向こう側から目だけを覗かせてこっちを見ているのだ。

 

「どうした?」

 

「どうしたもこうしたもないデース」

 

「ん?」

 

 何しに来たのかと思っていたが、何か重要なことでも手土産に持ってきたのだろうか。とか考えていた時期が俺にもあった。

 

「少し、矯正をしようと思いマシテ」

 

「矯正?」

 

 そう聞き返すと、金剛は説明を始めてくれた。

金剛曰く『この口調をどうにかしてみようかと考えてマシテ、少し提督に手伝って欲しいデース』とのこと。自分からキャラクターを棄てるようなことをするのか、この金剛は……。片言な日本語で元気で姉御肌だけど、本当は臆病なところとかがある……ってほとんど関係ないな。

とにかく、金剛の良いところの1つをむざむざと手放すのか、と考えてしまった。

 

「少し練習してきたノデ、少し見ていてくだサイ」

 

「お、おう」

 

 俺が『やらなくても良いんじゃないか?』と言おうとしたんだが、金剛に防がれてしまった。

とりあえず、金剛の今までの成果を見てみるとしよう。金剛は咳ばらいをしてから呼吸を整え、スッと話し始めた。

 

「私は金剛型戦艦 一番艦 金剛です。よろしくお願いします」

 

 これは不味い。面白過ぎる。今まで片言で話していた金剛が真面目な顔をして普通に日本語を話しているものだから、違和感しか感じない上に若干榛名っぽくなっているのが余計に面白さを増している。

まだ、特徴的かつ日本語らしい日本語ではないが、それでも片言なところは無くなったと思う。

 

「……金剛は普段、何をしているんだ?」

 

 内心、というか今にも吹き出しそうではあるが、俺は金剛に突然質問を投げかける。そうすれば、自然とその口調のまま話すことになるだろうからな。

金剛は『口調を矯正してみる』と言ったのだ。最低限、付き合ってやろうとも思って、質問をすることにした。そんな質問をぶつけられた金剛は、少し戸惑いつつも返答をしてくれる。

 

「普段は散歩や読書、戦闘に関することを勉強しています。それ以外ではティータイムや提督のところに行こうか悩んだりだとか……」

 

 そういった金剛の顔がカーッと赤くなっていくのが分かる。自分でも顔が赤くなったのが分かったのだろう。パッと振り返ってしまい、こっちに顔を見せてくれなくなった。

 何にせよ、俺にとっては金剛の『今の口調』は違和感しか持てない。『矯正してみようかな』とは言っていたが、俺は反対することにする。

それが金剛のアイデンティティであり、良いところでもある。器用に物事をこなすことの多い金剛ではあるが、そういうところで不器用な面が見えるのは何というか良い。良いから、その良さを残しておいて欲しい。もしここで口調を矯正してしまったら、榛名っぽい金剛になってしまうような気がしたのだ。……榛名は金剛ほど元気ではないと思うけどな。

 そんな風に俺は考えつつ、金剛に質問をしていく。

会話になるような形で、だ。

 

「そうだな……金剛」

 

「はい」

 

「俺に訊きたいことがあれば、出来るだけ答えよう。何かないか?」

 

 改まってこんなことを言われると、何も聞かないか距離感を測って質問を選んでくるだろう。少し焦ることだろうと思いつつ、俺はふと金剛の目を見た。

どうして輝いているんだろうか。そこは萎縮するか何かネガティブなアクションをすると思っていたのに……。

忘れていた。金剛は元からそういうタイプだったのだ。数秒も経たないうちに、金剛は俺にあることを聞いてくる。

 

「提督って恋愛経験ありますカー?!」

 

 ふはは。地に戻ってるぞ、金剛。それを悟られないように、俺はその回答をする。

 

「そうだな……金剛はどう思う?」

 

 真剣な表情をする金剛が小首を傾げて考えているが、この場に居る妖精たちや夕立は苦笑いをしていた。そりゃそうだ。地に戻っているんだからな。

だが誰一人として話しかけることはなく、俺と金剛の会話に耳を傾けているみたいだ。

 

「分からないデース。提督は昔、経験がないことを揶揄するような発言をしていたのを覚えていマスガ、行動や振る舞いはなんだかそうは思えないデース」

 

「ほうほう」

 

「それが分からないから訊いてみたんデスケド……」

 

 まだ気づかないのか、金剛は。自分の口調が元に戻っていることに。

そんな金剛を見守りつつも、俺はいつでも金剛の質問に答えられるように身構える。

 

「ウ~ン……考えれば考えるほど分からくなるデース……」

 

「はははっ、ごめんな。いじわるして」

 

 これだけ話しても気づかないなんてな。そう考えつつ、俺は金剛の言葉に耳を傾け続ける。

 

「本当デース!! って……アレ?」

 

 急に何かに気付いた様子の金剛が、アホ毛をぴょこぴょこ動かして俺に訴えた。

 

「口調が戻ってるデース」

 

「今頃気付いたのか?」

 

 そうニヤニヤしながら言うと、金剛がプクーっと頬を膨らませる。怒らせてしまったみたいだ。

 

「酷いデース!! 戻っているのなら、そう言ってくれればいいノニー!!」

 

「悪かった。でもまぁ、俺は片言の方が良いかな」

 

「へ?」

 

 金剛のアホ毛がピーンと逆立ったぞ。

 

「そっちの方が金剛らしい」

 

「そ、そうデスカ?」

 

「元気があって、頼りになって、器用なところ、いつもニコニコしているところ、たくさんある金剛の良いところの1つだ」

 

 ……あれ? 金剛が急にしおらしくなったな。

 

「う、うぅぅぅぅ」

 

「どうした?」

 

「な、なんでもないデース」

 

「そうか?」

 

 そう返して、俺は金剛の方から少しだけ目線を外す。夕立や妖精たちの方を見てみる。なんだか夕立がジト目をしているが、本の向こう側から見える赤い瞳の眼力は凄まじいの一言に尽きる。

出来れば早急にいつもの目に戻してくれないだろうか……。

 この後、金剛は何か深く考え始めたようで、少し距離を置いた。この部屋(作戦室)からは出ていかないみたいだが、夕立も追い出す気はないみたいだし、ここに金剛が居ても問題なんて1つもない。俺は金剛が来たことで読むのを中断していた本を手に取り、栞を取って読み始めるのであった。ちなみに読んでいる本は俺も専門書だったりする。何の専門書かは伏せておこう。

 





 今回は息抜き回のつもりでした。こういった回をメインでやる作品が多いですが、純粋に戦記っぽくなってしまうかもしれません。息抜きは必ず入れ込みますけどね。

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