艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※注1 『高雄』

・台湾南部に位置する都市。第二次世界大戦・太平洋戦争中、大日本帝国海軍が港湾・航空隊基地として使用していた。中華民国海軍に賠償艦として接収された駆逐艦 雪風のスクリューが置かれている。
現在は台湾海軍高雄基地が置かれており今も尚稼働中。ただし軍艦はなく、地対艦ミサイル群や自走砲、戦車集団が陸地から海を睨んでいる状態にある。



第3話  南西諸島北海域制圧作戦前ブリーフィング

 金剛と妙高は神妙な面持ちで、俺の前に立っていた。それは榛名も同じで、出頭、呼び出しはいつも赤城くらいで、他の艦娘は俺が探し回ったりするからだ。

だが、今回は出頭させた。話す内容が内容だけに、その辺で駄弁っても仕方ない内容だったからだ。それは3人にも伝わっていたみたいで、状況から只事ではないことを察していたんだろう。

 電話が終わったのを確認した妙高が、俺に要件を聞き出そうとする。

 

「提督、如何様な」

 

「金剛は話を最後まで聞いてもらうことは確定だが……」

 

 チラッと金剛を見て、俺は妙高の顔を見る。妙高は何やら、俺の発言に思うところがあったのか、少し考えているようだった。

だがすぐに俺へと目線を向ける。考え終わったのだろう。その時の妙高の表情は、少し浮かれているようなそんな表情に見えた。

 

「妙高」

 

「はい」

 

「確か英語の勉強をしていたな?」

 

「は、はい」

 

 多分、これだけで金剛も妙高も話がどういう内容なのか掴めているだろう。金剛は恐らく、来る前から呼び出された時点で分かっていたかもしれないが……。金剛だからな。うん。

 

「話せるようにはなったか?」

 

「日常会話程度ならば」

 

「よし」

 

 会話程度出来るのなら、まぁ問題ないだろう。次は金剛に目線を向ける。何の話だか察している金剛は、得意気な表情にいつの間にか変わっていた。

 

「私は全然問題ないデース!! 日常会話も専門用語も煽りもできマース!! もちろん、他のも……」

 

「最後と煽りは要らないが、それは俺も分っていたから呼んでいる」

 

「つれないデース」

 

 唇を尖らせている金剛は少し肩を揺らして、不意に話し始めた。

 

「……台湾の件デスネ」

 

「金剛はやっぱり分かるんだな」

 

「勿論ネ。さしずめ私たちが呼び出されて確認されたのは、外交の際に派遣する武官に付ける英語の話せる護衛といったところデショウ。恐らくその武官は提督デース。となると、通訳は派遣された人を付けるか、横須賀(横須賀鎮守府)の人間のどちらかになるデース。門兵さんをいきなり海外出張にするのには色々と手を回す必要があるから正直面倒デース。他の人間もまた然り。となると、艦娘から選出するのが、護衛も兼ねるので一石二鳥という訳デスネ」

 

「よく分かってるな」

 

「そりゃ金剛デスカラ!!」

 

 よく分からない根拠を最後に持ってきた金剛だが、金剛の言う通りだった。

そういう状況になる可能性を考慮して、俺はあらかじめ2人に言っておく必要があったと思ったからだ。これだけの内容だったら道すがら話しても良かったと思うかもしれないが、外交に関する内容は相手を選ばないと猛烈な反対が出るかもしれない。だが、『出頭命令』の下で話された内容ならば、猛烈な反対が出来ない状況を作りやすくなる。俺の気分で動き、俺がしたいからするような内容ではないこと。そして、それを疎かにした場合、大なり小なり後に面倒ごとになることが予想されるもの。そして、大本営や政府、陛下が何らかの干渉があることが分かる。なので、頭ごなしに反対させない状況を作り出す必要があったのだ。

 妙高は少し不安そうな表情をしているが、恐らくどこまで話せるのかが見当ついていないのだろう。英語の勉強はかなりしているとは思うが、それはリーディングとヒヤリングくらいだ。恐らくスピーキングはあまり回数を重ねていない。そこに不安を感じている、と思う。

 

「妙高」

 

「な、なんですか?」

 

「少し、スピーキングの練習をしまセンカ? ああ云ったケド、少し確認したいことがあるデース」

 

 金剛も妙高の表情から読み取ったんだろうな。俺が言わずとも、金剛が進んで言ったのならそれで良い。言われて練習するよりも、誰かと一緒に練習する方が良いだろうからな。

 

「えぇ。お願いしますね」

 

 妙高の返事を聞いた金剛はニコッと笑い、俺の方を向いた。

俺の要件も終わったことだし、俺に対する質問もないみたいだ。

 

「じゃあ早速練習しに行くデース!! では、これで失礼するデース!!」

 

「あぁ」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 強行偵察艦隊が戻ってきたのは、出発した約80時間後だった。3隻での往復だけだったため、ほぼ全速での航行だったのと、燃料がギリギリだったことを報告された。

そして偵察結果だが、やはり水雷戦隊や空母機動部隊がうろちょろしているとのこと。海域までの航路を移動中、深海棲艦との接敵はなかったとのことだった。

 作戦へと行動を移すことになる。俺は偵察結果を纏めた資料を基に、仮称『台湾攻略艦隊』と『偽装台湾支援艦隊』へ召集を掛ける。

今日の秘書艦だった蒼龍も該当艦になるので、共に執務室で作戦伝達と積み込み装備の確認、念のために端島鎮守府を訪れる趣旨の説明をすることとなった。

 

「来たよー」

 

「おい伊勢、もう少しだな……」

 

「いいじゃんかー。ねぇ、提督?」

 

 伊勢と日向に続いて、該当艦の暁、響、飛龍が執務室に入ってくる。それに続いて更に龍驤、鳳翔、雷、電、雪風、島風が入ってきた。秘書艦の蒼龍を足して総勢12名の艦娘。

この全員で台湾周辺を手中に収めることを主眼に置いた作戦案を用意している。

 全員が揃ったことを確認すると、執務室に常に置かれているパイプ椅子を並べてホワイトボードを引っ張り出す。

作戦行動を取る前のブリーフィングでは、必ず執務室でこのような形を取って話を始めるのだ。

 

「手元に艤装・装備の指定要項と作戦書があると思う。それでは、大雑把に説明をする」

 

 あ、日向がガクッとなった。まぁ、そうだろうな。大雑把に説明なんてされたらたまったもんじゃないだろうからな。

 

「簡単なことだ。基本的に橋頭保から攻め込む訳だから、作戦らしい作戦なんて立案出来ない。入って、蹴散らして、制圧だ」

 

「なんちゅー脳筋」

 

「艦隊戦は俺よりも伊勢達の方が前線指揮を執った方が良いだろうからな」

 

「そうだけどねー」

 

 伊勢は手元の資料を見ながら、俺の言葉に返事を返す。

 少し間を置いて、俺は説明を再開した。

 

「作戦開始は2日後。初日0630に横須賀鎮守府から端島鎮守府へ向けて出撃。39時間後の2日目2100頃に端島に立ち寄り、1日かけて燃料補給。その後4日目の0700に端島鎮守府を南西諸島海域北部を目指して出撃。目的地到着予想は5日目2100頃だと思われる……大筋はこうだ」

 

 ホワイトボードにおおよその時間を書いて説明する。

 

「翌6日目から停泊していた海域から台湾を囲うように反時計回りで深海棲艦と戦闘しながら1周。終わった後、状況を見て可能であれば、そのまま反時計回りで回って高雄(※注1)へ。そこから無線と残存航空隊を使い、台湾にビラを空中投下する。作戦概要は以上だ」

 

 そう言って切り上げてから、すぐに間髪入れずに疑問に思っているであろうことの趣旨を伝えていく。

 

「端島鎮守府に寄るのは、伊勢達に状況確認してきて欲しいのと、燃料弾薬の再確認・燃料は補給を行って欲しい。恐らく足りなくなることはないだろうが、念には念を、だ。次にビラの意味だが、これは無線での呼びかけに応じなかった場合の予備案だ。台湾に人がいるのは確実だが、それらに俺たちの存在を知らせるために行ってもらう。よろしく頼む」

 

 全員が黙って頷いた。よし。これで俺は送り出すだけになる。

 

「現場では伊勢たちの判断に任せる。戦闘中、俺も無線で指示を出すが、基本的には伊勢の指示に従ってくれ。以上だ」

 

「「「「「「はッ!!」」」」」」

 

「次は偽装台湾支援艦隊の作戦行動について説明する」

 

 次は遠征艦隊に偽装させる支援艦隊の動きを説明する番だ。

 

「基本的には遠征艦隊に偽装して本隊出撃の半日前に出撃してもらう。その際、燃料弾薬は満載。他甲板や貨物室に入るだけの燃料弾薬食糧を積んでいってもらう」

 

「本隊に洋上補給をせぇっちゅうことやな」

 

「そういうことだ。基本的には戦闘には参加せず、遠征艦隊を装ってもらう。だが、本隊の近くを航行して欲しい。本隊戦闘時は任意に支援攻撃を行うように。ただし、危険と判断した場合は燃料弾薬食糧を投棄して離脱、横須賀鎮守府か端島鎮守府に向かってくれ。話は付けてある」

 

 支援艦隊にも説明を終わらせた。後は全体への連絡のみ。

 

「端島鎮守府も空母機動部隊を近海に展開するという。緊急時には支援航空隊を出してくれるとのことだ。あまり期待できないがないよりかはマシ。存分に支援要請をするといい。以上。出撃に備えて準備を始めてくれ」

 

「「「「「「了解ッ!!」」」」」」

 

 12人の艦娘たちが執務室から走って出ていく。その後ろ姿を見送った俺は、手元の作戦書に目線を落とす。そして少し書き込みをした後、ふとあることに気付いた。

今日の秘書艦の蒼龍も準備に行ってしまったのだ。まぁ、一応執務は終わっていたから困ることはないんだが、蒼龍はそれで良かったのだろうか。

少しした後、下準備を終わらせてきた蒼龍が走って戻ってきたが、気付くのに結構時間が掛かったみたいだった。

 

「なんで教えてくれなかったんですか!!」

 

「呼び止めようと思ったけど、もう行った後だったからな。それに一番最初に出て行ったのは蒼龍だろうに……」

 

 そういうと、蒼龍は凹んでしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 この1日と半日後、偽装台湾支援艦隊は世闇に紛れて出撃。翌明朝、作戦通りに本隊が出撃した。

その際、いつものことになってしまっているが、埠頭には俺や秘書艦、出撃や遠征が入っていない艦娘たちの見送りに加えて、門兵や酒保の人たちも埠頭に集まって送り出す。何度注意しても治らないから、俺ももう諦める。いくら言っても聞かないからなぁ……。

 

「電ちゃーん!! 無事に帰ってくるんだよぉぉぉ!!!!」

 

「はいなのです!!」

 

 門兵の1人が涙を流しながら見送っているが、まぁ周囲を見ればそういうのは多い。妻子持ちの多い門兵ではあるが、娘や妹のように可愛がっているからなぁ……。

 

「暁ちゃんたちーー!! 頑張って来いよぉ!!」

 

「おじちゃーん!! 頑張ってくるわー!!」

 

 元気に艦橋から手を振る暁を見て、涙する門兵たち。まぁ、良く遊んでる門兵たちの姿を見るもんな。

そんな門兵たちの一角で、一際騒がしいところが1つ。

 

「おっちゃん、見っともないっすよ!!」

 

「うるせぇ!!」

 

 今回の編成は特筆して選りすぐる必要が無かったから、出撃する艦娘を選ぶときにクジにしたんだが、暁型を引いた時には本当に不味かったか……。門兵の中でも屈強過ぎる200cmの兵が大泣きしてる。俺が全て決めるという指揮系統をしているから……。ただまぁ、見送りをするのもいい気はしないだろうし、俺もしない。

 俺はそんな風に考えつつも、心の中の言葉は口には出さずに無表情を突き通す。

 

「ほら解散して仕事に戻ってくださいよ!! 戦況は私が口止めしててもどうせ聞くことになるんでしょうから、ちゃんと仕事してくださいよ!!」

 

 と言って、門兵や酒保の人たちに仕事に戻ってもらい、俺や艦娘たちも本部棟に戻るのであった。

俺はこれから執務室から色々持ち出して地下司令部に籠る。作戦指揮をしなければならないからな。

 

「すぐに行くの?」

 

「勿論」

 

 今日の秘書艦である夕立を連れて、俺は最初に執務室を目指すのであった。

 




 いよいよ台湾周辺の掃除が開始されます。遠征艦隊に偽装させた云々というのは、本シリーズ独自設定のものですが、実際の艦これでもある『支援艦隊』のようなものです。遠征として出撃させた艦隊を攻撃中の艦隊の戦闘で支援をさせるものです。
それと、送り出しの時の200cmの門兵も、『設定 登場人物』に追加させておきます。

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