※注1 『アメリカ西海岸沿岸の制圧』
『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』 第百六十二話『FF作戦①』以降『FF作戦』より―――
・アメリカ海軍主導のアリューシャンからクイーン・シャーロット諸島、チャネル諸島、カリフォルニア半島を深海棲艦を排除しながら往復する形ばかりの掃討作戦。
米海軍は戦前唯一の原子力空母やその他艦艇を多く失い、端島鎮守府派遣艦隊の航空隊や水上戦闘艦の練度不足が露呈した作戦。
目の前にある資材の問題は解消され、俺は早速南西諸島への再進出を検討し始めていた。本来ならば国内で消費される筈だった資材たち、それを半ば徴用の形で接収した俺は、一刻も早く資材供給の目途を立てなければならない。誰に言われる訳でもないが、勝手に俺はそう感じていた。
行動に移す前に、先ずしなければならないことがある。
再度攻略に乗り出すに当たって、俺は大本営・政府からあることを言われていた。それは『該当海域の国家との外交を同時進行で行う』だった。俺が銃撃を受け、軍病院に収容されるまでは、言い方は悪いが俺が好き勝手に海域開放を行っていた。それを今回からの海域攻略に乗り出すこととなったので、滞っていた外交も進めることとなったのだ。
現状の確認を取るが、現在こちらに制海権がある海域は日本皇国領海、経済水域、日本皇国近海と呼ばれる海域と、鹿児島・長崎から沖縄の先まで続いている南西諸島海域北部だ。ここまでは一応、日本皇国の領海及び公海に該当する海域ではあったが、この先は台湾やフィリピン等々の東南アジアに突入することになる。今までは完全に無視していた外交ではあるが、今回より解放した先々で隣接している国家と外交を行う方針を取ったのだ。
つまり何が言いたいのかというと、海域への侵攻作戦を行う度に周辺海域の掃討等を行い、空海路で外国にアプローチをかけるとのこと。それに伴い、目に見えて深海棲艦掃討は時間の掛かるであろうものになってしまったのだ。一応、政府からは『横須賀鎮守府の歩調に合わせ、我々も外交を行う』ということになってはいるんだがな……。
溜息を吐きながら、俺は作戦草案を考えていた。そして今回はおそらく台湾との外交が始まるのではないか、と俺は睨んでいた。
一応、前回南西諸島を取った後、台湾海軍とコンタクトを取ってはいたが、オフレコな上に大本営が勝手にやったことだった。国としての接触ではなかったので、今回の作戦が成功した暁には、台湾との外交関係を構築することとなっていたのだ。
「……お疲れのようですね」
「あぁ。本当にな」
今日の秘書艦、榛名は俺の表情を読み取ってそんなことを言う。表情というか、多分溜息で咄嗟にそういう風に言葉を掛けてきたのだろう。
「今回からは政府も付いて回りますから……私たちの調子で進めれれば良いんですけど」
「今回も俺たちの歩調は変わらないぞ」
どうやら榛名は俺が政府と足並みを揃えていく、と考えていたみたいだな。だが、残念ながらそれは必要に応じて一方的に無視するつもりだ。確かに外交は大切だ。だがそれで、日本皇国は何を損するというのだろうか。日本国だった頃、外国に頼っていた食料も頼る必要は無くなった上に、労働力も現在では飽和している。古臭い慣習が無くなり、現在では効率的な経済循環がなされているというではないか。国単体でも一応、存続は可能であると評価できる。
とはいえ、強制的鎖国状態が長らく続いてから、外交を行うようになってからの世界情勢は分からないところが多くなるだろう。グローバリゼーション云々とは言われていたそうだが、国際交流が回復した時に果たして『グローバリゼーション』がどのように形を変化させる等分かったものではない。
俺はそんなことを考えつつ、榛名の言葉に返答を続ける。
「戦って、生きて、笑って……それだけだ」
「……はいっ」
それで納得したのかよ……。俺的にも意味不明だったと思うんだが……。
それはそうと、作戦草案を完成させて、具体的な作戦書を作成しなければならないな。南西諸島海域制圧など前哨戦に過ぎない。それからが大変なのだ。
俺は自分にそう言い聞かせて、作戦を煮詰めていく。
次は資材輸送船団が航路とする海域の確保だ。とは言っても、南西諸島までの航路ではあるんだけどな。それ以降は最深部を攻略した後に作ればいいと思う。
それに乗じて、台湾周辺の海域も抑えることになるだろう。
これで方針は確定だ。南西諸島までの橋頭保を確保しているが、それを台湾まで押し広げる。これを軸に作戦を考案しないといけない。
「……なるほど。南西諸島北部から押し広げる、そういうことですね」
「よく分かったな」
「見ればなんとなく、ですが……。南西諸島に入るには台湾の東西のどちらかを航行するのが良いですからね。今回の立案なさっている作戦だと……台湾周辺の海域を確保する、ってことですか」
「あぁ。そのまま台湾から南方に進んでいくつもりだ」
フムフムと顎に指をあてて、榛名は眉を潜めて俺の書いている作戦草案を覗き込んでいた。真剣に覗き込んでいるその姿は、何というか真面目な榛名だからそこなのだろう。かなり前のめりになっているものだから……。
「は、榛名?」
「はい?」
「ちょーっと頼まれてくれないか?」
首を傾げる榛名に、俺はあることを頼むことにした。
今回の作戦ではそこまで重要ではないが、後に必要になる可能性のある事柄の対処を行うための情報収集だ。
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ーーー
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作戦草案から具体的な作戦案を作成。そこから裏付けのために榛名に頼んでいたことを始めていた。
時刻は昼前。俺の目の前には榛名の他に3人の艦娘が居る。その表情は引き締まってはいないが、緩んでもいない。いつも通りの表情だ。
「球磨たちが呼ばれたということは、そういうことクマ?」
「ニャー」
「だと思いますよ」
軽巡球磨、多摩、吹雪型駆逐艦 磯波。本来ならば遠征として出すものだが、これまでずっとこうして来ている。それに彼女たちにこの仕事を任せているのはいつものことだ。
それに行先も察しているようだしな。言質を取って出撃するだけ、既に準備は整っているようにも見える。
「"強行偵察艦隊"はこれより南西諸島北部に向けて強行偵察を実施してもらう。目的は台湾周辺に蔓延っている深海棲艦の数・編成・脅威度の確認。戦闘はなるべく避けてくれ」
強行偵察艦隊。俺がここに着任してからずっと、海域攻略に乗り出す前には必ずこの3人が予定航路を確認し、偵察。敵情を確認、情報を持ち帰る任務を任せていた。
任務の重要性や危険度からしてみても、かなり危険な任務ではあるが、彼女たちは失敗した試しがない。かといって絶対的な信用をしていても後で痛い目を見ることは明らかだった。だがそれでも、未経験の艦隊に偵察任務を任せても彼女たちほど上手くやってのける保証はない。
俺は3人に命令を下し、指令書を渡す。内容は俺が読み上げているから理解しているだろうし、彼女たちに見てもらうのは指令書と一緒に渡した予定航路図くらいだ。これで全ての情報を集めてきてもらう。
「了解したクマ」
「近い遠足にゃ」
「お任せくださいっ!!」
それぞれ返事、意気込みをして退出していく。これからすぐに出撃し、情報収集任務にあたることだろう。
俺はすぐさま榛名に次の指示を出す。
「攻略艦隊、偽装遠征艦隊はもう編成してあるからこれを見てすぐに該当艦娘へ伝達。兵装・艦載機の積み下ろし作業を進めておいてくれ」
「了解しました」
「それと金剛と妙高に出頭命令だ」
「はい」
榛名が書類を持って執務室から出ていくのを確認した俺は、机の上に置いてある固定電話の受話器を取った。
電話をかける先は大本営海軍部長官の新瑞だ。本当に電話することが多くなったな、と俺は考えつつもコール音を聞く。
『はい。こちら大本営海軍部』
「日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部 天色です。長官はいらっしゃいますか?」
『はい。少々お待ちください』
呼び出し音が鳴る。いつも深くは考えないが、何の曲だろうか。電話の製造会社によって違うのは分かるんだがな。
そうこうしていると、受話器を取ったのか呼び出し音が切れる。
『海軍部の新瑞だ』
「天色です」
『おぉ、天色中将か』
少し間を置いた新瑞さんは、落ち着いた声で言った。
『要件を聴こう』
「本日より南西諸島北部からフィリピン方面に抜ける航路の制海権を確保する準備に入りました」
『分かった。政府と陛下には私が伝えよう。それで、危急の要件は……外交官か?』
「はい。それについて事前にお聞きしたいことがあります」
当日とか近づいてから言われても、慌てて準備を始めたりしてバタバタするのは嫌だからな。
最初に聞いておけば、こっちでそれなりに準備をしておけるだろうし。
「使節団を派遣される、またはあちらから派遣されるのでしたら、移動の際にはどのような対応を?」
そう訊くと、新瑞さんは少し唸って考え始める。多分だが、航空機での移動は無理だ。それはもちろん深海棲艦に理由がある。
深海棲艦の艦載機または陸上基地から飛び立つ航空機には、恐らくだが高々度戦闘機が配備されている。一応前例はある上に、"イレギュラー"のことも考えると配備されていないと考える方がおかしな話だ。
となるとおのずと海上移動か、航空機編隊による低空飛行になるかどちらかになるだろう。ここまでは俺も分っている。だが、どうなるのかは新瑞さんや台湾の使節団による。今のうちにどちらになる可能性があるのかを、俺の方で用意しておく必要があるのだ。
『恐らくだが、こちらから出向くことになるだろう』
となると海上移動になるだろうな。と、俺は内心考える。
「了解しました。制圧後に連絡用艦隊と派遣護衛艦隊を用意しておきます」
『頼んだ。まだ
「そうですね」
端島鎮守府は以前、アメリカ合衆国海軍と俺のところの合同でアメリカ西海岸沿岸を攻略しようとしたことがあったのだ(※注1)。
その作戦に於いて、アメリカ海軍の艦隊は壊滅し、端島鎮守府派遣艦隊の空母機動部隊も編成に見合った戦果を得ることができなかったのだ。唯一、俺のところから派遣されていた艦隊は少ない損傷で済んだが……。
その作戦は国内でも報道され、一応は日本皇国海軍の損害は軽微だったことを伝えられている。ということは、鼻っから端島鎮守府は戦力に乗算されていないのだ。あれから1、2年ほど経っているが、それまでは行動不能の絶海の孤島になっていたため、練度が伸びているはずもないとのこと。
つまり、そういうことなのだ。
「手練れを出しますから、安心してください」
『そうでないと困る。要件は終わりか?』
「はい」
『では切るぞ』
「失礼します」
受話器を置くと、丁度榛名が金剛と妙高を連れてきたところだったみたいだ。
執務室の扉が開き、榛名の後から金剛と妙高が入ってくる。
さて、これから色々と話をしようじゃないか。
今回から以降、ちょくちょく注が出てきます。その度に前書きで説明書きをしていきます。
それと、追加で『設定 用語』に『強行偵察艦隊』の設定を追加しておきます。
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