艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※ 途中、視点が入れ替わります(提督→扶桑→提督)
 本文でも分かりやすいように区切って書いてありますが、一人称等で見分けが付くと思います。


第41話  ネアオリンポス作戦 バシー海峡制圧

 

アンノウン(識別不明)が15……。深海棲艦の艦隊1つ……」

 

 すぐに俺は檄を飛ばす。

 

「状況を報告せよ……ッ!!」

 

「はッ!! 偵察艦隊 伊-五八(ごーや)より入電。我、タヤバス湾にて小規模な戦闘を確認。漁船、モーターボートが深海棲艦 水雷戦隊と交戦中。深海棲艦による発砲は確認せず。但し、不明船による小口径機関銃の射撃や手榴弾と思しき投擲有り」

 

 この場に居た誰もが思っただろう。深海棲艦と戦闘中なのは人間であり、フィリピンの住民であることは。

続いて、戦域担当妖精が報告を続ける。

 

「不明船の乗員は現地民。服装はバラバラ。戦闘は組織的且つ連携を意識した戦闘を行っている」

 

アンノウン(識別不明)をフィリピン国籍の戦闘艦とする」

 

「了解」

 

 俺は続けざまに指示を出した。

 

「偵察艦隊は引き続き水上で行われている戦闘の報告をせよ。手出し無用だ」

 

「り、了解……」

 

 正面のモニタを凝視する。現在海上に展開中の艦隊は比叡率いるバシー海峡制圧艦隊。既に戦闘態勢に入り、敵味方双方に探知されていることだろう。その他にも沖縄・高雄から出撃している偵察艦隊が3つある。沖縄からは1つ。北東から南西に掛けて偵察を命じた吹雪率いる水雷戦隊。台湾からは2つ。バシー海峡制圧艦隊の援護を命じた神通率いる偽装遠征艦隊と、台湾南部の哨戒を命じた暁率いる水雷戦隊。全て水雷戦隊編成であり、沖縄・台湾に向けた空母や水上機搭載艦は全て停泊中だ。唯一、水上機・艦載機を発艦出来るのはバシー海峡制圧艦隊のものと、神通が搭載する非武装の水上機のみ。

今後出撃予定の艦は整備と補給を行っており、その他艦艇は満載している物資荷降ろし等を行っている艦もある。そこから予定通り進んでいれば手すきになっているであろう艦娘が存在していた。

 

「台湾で待機中の扶桑へ通信」

 

「了解」

 

「台湾より護衛2つを付けて出航。安全海域にて瑞雲隊を発艦し、タヤバス湾に向かわせる。装備は完全、対地・対艦装備だ。道中、バシー海峡を通ることになるだろうが戦闘は避けろ。場合によっては戦闘終了後の艦隊に回収してもらえ」

 

「了解。HQより台湾CP、HQより台湾CP」

 

 すぐさま動き出す。台湾の高雄基地から、停泊中の扶桑と手すきであった満潮、時雨が出撃。台湾南方海域洋上に向かった。その後、安全海域内にて瑞雲隊4機の発艦を行う。

その後、扶桑は当海域に留まるとCPに報告。その報告はそのままHQに届けられた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 バシー海峡で開戦。どうやらこちらの偵察機が艦隊を発見してから、かなり後に比叡さんらが発見されたようでした。艦隊に近付きつつある翔鶴航空隊の発見に遅れたバシー海峡に居座る深海棲艦の艦隊は、対空砲火も疎らなまま戦闘に突入。航空戦は小規模ながら起きはしたようですが、殆どが発艦前に撃墜出来たために攻撃隊付き護衛のみで殲滅。艦隊戦でも航空戦が終了し制空権を獲った翔鶴航空隊が残り、密な弾着観測射撃を行ったようです。比叡さんの第二斉射が旗艦と思しき戦艦の艦橋に直撃、撃沈。その後も追撃に入っていた比叡さんらは翔鶴航空隊の彗星を1機被弾したのみで完全勝利を収めたようです。

 その最中、私の航空隊所属、瑞雲4機は戦闘空気を上空6500mを飛行することで通過し、タヤバス湾上空に到着していました。出撃までにはHQ(横須賀鎮守府艦隊司令部)との直接通信が可能な状態を確立するように提督からのご命令があったそうです。通信妖精さんがあちらの戦域担当妖精さんとの長距離無線を通じて航空隊との密な通信状況を整えて居ました。それと次いでに、HQから私の艦橋に向けての通話も可能としています。

 

「タヤバス湾に向かわせた航空隊の状況は?」

 

「現在上空待機中。高度を下げない限り確認は出来ないそうです」

 

「……では高度を下げなさい。戦闘はこちらが良しというまでは禁止です」

 

「了解しました」

 

 私が航空隊に指示した内容はすぐさまHQに知らされます。HQがどのようになっているかは分かりませんが、恐らく各地の報告が飛び交っていることでしょう。それに先程通信妖精さんが言っていましたが、バシー海峡の艦隊は撃破したとのことでした。恐らく、その情報がHQに届き、提督が次の指示を飛ばしている頃でしょう。

今、私が行っていることは提督ご自身が指示なさったことだとか。まだ参加予定の戦闘まで日数があるからということで、緊急で命ぜられました。とはいえ、何を目的にタヤバス湾に艦載機を飛ばすのかは伺っていません。それは通信妖精さんも聞いていないそうです。

目的不明な単独行動は少々不安ではありますが、きっと必要だからこその行動なんでしょうね。

 

「1番機より入電」

 

「……読み上げてください」

 

「タヤバス湾内にて深海棲艦と思しき艦影6つ、その他小型高速艇が9つ」

 

「っ?!」

 

 提督はこれを目的に命令を下したというのでしょうか。とはいえ、すぐにHQに報告が上がります。こちらから下す命令は少ないです。

 

「1番機へ」

 

「はっ」

 

「別命あるまで待機。発見されないよう、注意したまま監視を続行してください」

 

「了解」

 

 9つの小型高速艇。何故そのようなものがタヤバス湾内にあるのでしょうか……。日本皇国軍はまだ台湾以南へは出ていない筈です。私たち横須賀鎮守府艦隊司令部が安全を確認していない海域を、こちらの軍隊が航行する訳がありません。となると考えられることは1つ。その9つの船はタヤバス湾、フィリピンが保有する船舶ということになりますね。

提督からの命令を加味して考えるならば、恐らくタヤバス湾内でのこの出来事は想定外なのでしょう。そして何かしらの手段でその情報を手に入れ、私に航空偵察を命じた。そこまでのプロセスは簡単に想像できます。タヤバス湾には偵察艦隊のゴーヤちゃんとイムヤちゃんが居るのでしょう。でなければ、未だに先行隊がバシー海峡にいるのにも関わらず、この状況を察知出来る理由にはなりません。

 この後の事を考えます。HQからの命令ではタヤバス湾に向かわせた瑞雲は完全装備と言われています。無論、その通りに装備させて出撃させています。翼下には250kgが1発搭載されており、翼内20mm機関砲は徹甲榴弾、榴弾、曳光弾。軽装甲目標や無装甲目標には効果の高い弾種を装填するように命令を受けています。

これはつまり、軽装甲目標への攻撃を想定されているということです。"どちら"に攻撃をするかは分かりませんが……。

 思案に耽っていると、通信妖精さんが報告をします。

タヤバス湾からの続報みたいです。

 

「小型高速艇集団、深海棲艦に対し劣勢な模様。現在、残存3」

 

「……」

 

 提督からはまだ指示が出ていません。ですけど、私にもCPとして命令を下す義務と権利があります。瑞雲搭乗員妖精さんは恐らく、目下の状況に焦燥を感じているのでしょう。

 

「小型高速艇1、炎上」

 

「……っ。提督からの連絡は?」

 

「ありません」

 

「ならばこちらからお繋ぎして下さい」

 

 こうしている間にも、続報は少しずつ入ってきます。そして、別の通信妖精さんがHQとの通話を繋げました。私は受話器を受け取り、耳に当てます。

 

「台湾高雄基地 戦艦 扶桑です」

 

『良好に聞こえている。こちら横須賀鎮守府』

 

「上申します」

 

『……』

 

「タヤバス湾内にて戦闘中の小型高速艇集団への加勢を」

 

『……航空爆撃および機銃掃射3回を許可する。但し小型高速艇には当てるな』

 

「了解しました。それと、提督」

 

 この時、私は1つの疑問が生まれていました。何故、タヤバス湾内に居る偵察艦隊に深海棲艦への攻撃をさせなかったのか……。

 

『何だ?』

 

「何故提督はタヤバス湾内の偵察艦隊に攻撃命令を下さなかったのですか??」

 

『……偵察艦隊からの報告では、扶桑の云う『小型高速艇集団』を識別不明(アンノウン)とされていた。HQでも現時点では該当船舶集団を勢力不明と判断している』

 

「それはつまり"味方"でない可能性も考慮しているということでしょうか?」

 

 だとすれば、提督は生存が1になった時に加勢するように命じたのでしょうか? 更なる疑問が浮かびますが、今ここで尋ねても仕方がありません。

 

『そうだ』

 

 ……現状、撃破されている船舶は7つ。報告では聞きませんが、恐らく湾内は油と血で海面が染まっている筈です。ただ、私はそれに憤るべきなのでしょうが、それが出来ませんでした。

それはきっとタヤバス湾上空に待機している瑞雲隊の皆さんも同じことでしょう。それでも私が上申したのはきっと、どうしても勝つことのできない相手に抗うことを諦めなかったからでしょうか。

 

「……了解しました。通話を終わります」

 

 受話器を通信妖精さんに返し、私は命令を下します。

 

「CPより瑞雲隊へ。タヤバス湾内で戦闘中の小型高速艇集団を援護せよ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 驚いた。その一言に尽きる。扶桑が無線から通話に切り替えて上申してきたことに関して、そして、知る筈もない偵察艦隊の存在とその位置について。扶桑には『タヤバス湾に瑞雲を出せ』という命令を下しただけなのだ。もしかしたら瑞雲隊が潜水艦を捕捉したのかもしれないが、どちら側のものかなんて分かる筈もない。何を確証にタヤバス湾に偵察艦隊が居るとしたのか……。

考えればすぐに分かることで、現在の戦線はバシー海峡で止まっている。それ以南にあるフィリピンの内海、タヤバス湾には艦娘が向かっている筈もない。作戦企画紙にも現在の状況下でそれ以南に艦隊が居ることを示唆するような内容の記述はないのだ。とすれば、HQである横須賀鎮守府が直接運用している偵察艦隊、潜水艦隊がそこに居るというところに行き着いたのだろう。

少ない情報でそこまで考えて、それを元に仮説を立てるなんてなぁ……と関心しつつあったが、モニタではことが大きく動き出していた。

 

「扶桑航空隊 瑞雲隊。タヤバス湾にて戦闘開始」

 

 近くで監視している伊-五八(ゴーヤ)伊-一六八(イムヤ)が無線で状況報告をしてくる。

 

「航空爆弾命中3、夾叉1。駆逐艦1撃破、大破1。続けて機銃掃射。……撤退します」

 

「現時刻を以って通常配置に戻ってくれ。扶桑及び直衛は艦載機回収後、速やかに台湾基地に帰投せよ」

 

「了解。HQより戦艦 扶桑。艦載機回収後、速やかに台湾基地へ帰投せよ」

 

 一先ず一息吐いた。タヤバス湾のことと同時進行で比叡らバシー海峡制圧艦隊の指揮も執っていた。殆どは比叡が執っていたが、時々俺がここから指揮をすることもあった。そんな中、ペチッと頬に冷たいものが当てられる。何だろうかと振り返ると、そこにはコーラを両手に持ってニッコリしているアイオワが居た。

 500mlの缶コーラを受け取り、そのままいつも座る椅子に腰を掛けると、近くに置いてあったパイプ椅子にアイオワも腰を掛けた。

少し深い息を吐き、次にはプルタブを引っ張って缶を開封する。開いた缶を口に当て、一気にコーラを口内に流し込む。いつもと変わらないコーラの味だ。

 

「お疲れ様」

 

「あぁ、ありがとう。だけどまだまだ終わりは見えないんだ」

 

「それもそうね」

 

 2口目を飲もうとした時、アイオワは缶を持ったまま俺に聞いてきた。

 

「……次の作戦目標はフィリピン?」

 

「そうなるな」

 

「外海を周回した後、内海に入って制圧……作戦企画紙ではこうなっているけれど、少し嫌な予感がするわね」

 

「同感だ。バシー海峡の完全制圧の後、陸海空軍に報告を入れる」

 

 そう言うが、心の中では別のことを考えていた。フィリピンは通過点に過ぎない。本来の目標は東南アジア。インドネシアやインドシナ付近まで進出するのが目標。次の目標はブルネイへの陸上部隊上陸。簡単な補給と整備が出来る拠点の設営だ。前回の攻勢でも使用したタウイタウイ泊地も同じく拠点設営の予定。フィリピンを確保するのは制海・空権の確保が目的だったのだ。

今回の出来事を加味して、少なくともあの小型船舶には瑞雲の姿を見られた筈だ。偵察のために飛んでいた訳では無く、加勢のために目前に出たのだ。アメリカの時とは訳が違う。姿を見られるべくして見られたのだ。

もし今回の行動の影響が、今後の作戦行動に影響してくるようなことがあれば俺は……。

 





 割りとスパンが短いような気がしますが、それはきっと気の所為でしょう(汗)

 大規模作戦開始早々に問題が発生しますが、どう転んでいくのでしょうね。それと提督の思考が分からない場面があると思いますが、そこは要注意です。

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