艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

32 / 47
第28話  会場、到着

 

 軍律はしっかりとしているが、やはりある程度緊張感がなくなっているのは見て取れた。と言うか実感している。

 俺が上陸したことと、奇妙な娘たち(艦娘)が護衛している件や、その装備に関しての噂はすぐに高雄市内に広がった。その情報といえば、まさに俺とヤン少佐が話しているところに居合わせたような情報精度だったのだ。

 

《日本皇国海軍のトップがわざわざ台湾に来た》

 

という噂は一瞬で広まり、俺が乗る台湾軍の装甲車や前後を走るトラックの周囲には人だかりが出来ていた。それに伴い、歩兵の護衛が大量に歩いている。それはもうパレードのようなものにしか見えないほどだ。ただ、海軍トップではない。

 両脇に座っている南風と沖江は窓の外を睨みながら、俺に話しかけてくるのだ。外を警戒するならもっと集中して欲しいものだが……。

 

「情報漏洩ですね。これは」

 

「そうだな」

 

 知ってる。

 

「まぁ、大丈夫だろう。外の様子を見る限りは」

 

「それは……そうですね」

 

 何故なら、外には何故か日の丸を振っている人たちで溢れているからだ。人に囲まれているとは言え、彼らの全員が全員そういう訳ではないのだが、大なり小なり旗を振っている。そして笑顔だ。これは疑う余地もない。

現在の台湾がどういう政治体制なのかは分からないが、この状況を見る限りは両極端だろう。俺の知っている台湾が過剰に日本を歓迎しているか、某社会主義国家のような仕組まれた人たちなのか……どちらか2つに1つだろう。

 ともかく、外に警戒しない訳にはいかない。もし攻撃でもされようものなら、ここで台湾と友好な関係にならなければ今後に支障が出るのだ。

中継基地としても、国際的にも……。戦中、戦後のことを考えると、ここでは問題を起こさないのが吉だ。否、国外ならどこでも問題を起こしては行けないんだけどな。

 歩兵による護衛で、ゆっくりと目的地へと近づいていく。確か台湾第一次派遣使節団の高雄到着は四半日前。俺たちが台湾に到着したのは昼過ぎ頃だった。既にお互いの最低限の情報交換は済んでいる頃だろう。状況を見る限り、活発に会談は進んでいるはずだから、もしかすると他の話まで進んでいるかもしれないな。

そんなことを考えながら、俺は装甲車に揺られるのであった。

……両脇がひっついて来るのはどうしてだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 会談を行っているという場所に到着する。そこには戦車が等間隔で並べられており、コンクリートと土嚢で作られた簡易的なトーチカがポツポツと見える。相当な厳戒態勢だと思う。というか過剰じゃないか? 戦車の数も数両という話ではない。数十両はいる。歩兵も恐らく連隊・師団規模だろう。

 防衛陣地をそんな風に眺めていると、簡易検問を通り抜けた俺たちの車列は中へと入っていく。

装甲車を乗る時点で既に、武装されているのかという質問と共に身体検査等々も受けている。軍人として最低限必要な火器や装備しか持ってきていない俺はそのまま素通りだったが、南風と沖江は自動小銃とその予備弾倉を預けることになった。帰りに返してもらえるだろうが、どうも厳重に武器庫に鍵を付けて保管するようだ。他国の小火器だからだろうな。

 装甲車から降り、俺と護衛2人、艦娘6人の計9人は、日台会談が行われている建物へと足を進めるのであった。

以外にも艦娘たちは不思議そうにキョロキョロするようなことはなく、鎮守府を歩くように歩いている。ただ、艤装を身に纏っている状況ではあるが……。むしろ南風と沖江がキョロキョロしているように思えた。

五十鈴に無理矢理乗艦させて貰って台湾まで来ている。そもそも日本人はここ数年海外に行くようなことが出来なかった。そこから来る好奇心なのだろうか。見慣れない聞き慣れない言語や匂い、風景や造形に興味があるようだ。斯く云う俺も興味がある。

 

「ここみたいですよ。この時間は2度目の休憩中らしいですから、恐らく日本側の人間しかいません」

 

 建物に入る時にそう案内されたらしく、南風がそう教えてくれた。

 ノブに手を掛ける前にドアをノックし、中に入る。そして俺や護衛の南風ら、五十鈴たちに視線が集まっていく。

確かに中には日本の使節団員しか居ない。人数が少ないが、どうも別室にいるらしい。ここには一平その他数名と護衛数名しかおらず、台湾側の人間は休憩で席を外しているのだろうか。そんな勘ぐりはさておき、俺が前に進み出ると艦娘たちが俺を囲むように輪形陣を構築する。南風と沖江はその中で俺の近くに立っているだけだ。

 一平の目の間に立ち、要件を云う。

持ってきていたカバンから書類を挟んだファイルを取り出す。

 

「事前に連絡があったと思いますが、日本皇国政府より命令です。命令伝達に関しては諸事情で私が届けに来ました」

 

「ありがとうございます」

 

 命令書を読んだ一平は少し落ち着くためか、窓の外の方に視線を向けた。

 

「拝命しました。ですがこれは……」

 

 俺の方をチラッと見た一平が何か言いたげな表情をする。

 

「正式な交渉、台湾政府への公式文書を取れるのは貴方方だけですよ? 私ではどうも、軍基地司令の口約束や厚意だけしか成り立ちませんからね」

 

 牽制。そもそも命令であるから、一平たちが交渉しなければならない。だが、内容は俺が交渉しても良いモノだとも捉えることが出来る。

とはいえ、外交官ですらない俺が交渉しても国益に反映されるような事が出来るのだろうか。それならば、命令通り一平たちが交渉した方が良いにきまっている。

 

「一介の軍人には国家的な行動・交渉は力不足過ぎます故、政府もそれがお分かりみたいですし」

 

「……分かりました」

 

 一平が机の上に命令書を置くと、近くに居た他の使節団員がそれに目を落とす。おおよその内容は俺と一平が口にしていたから分かっているだろうが、詳細を知るならそのものを読まないと分からないだろう。後で一平から連絡はあるだろうが、先に読んでおいて損はないだろうと考えるのは俺も同じだが、目の前で読むのはやめて欲しい。

そんな俺の考えが伝わるはずもなく、使節団員は命令書を読んでボソリと呟いた。

 

「発言力は場所に左右されるものの、殆ど政府や勅命と変わらないじゃないか……何が力不足だよ」

 

 言った本人の方を見ることは無いものの、変な間が出来てしまう。俺は一平の目を見て、あることを伝えることにした。

 

「今回の命令に際して、私も政府から大本営経由で命令を受けています」

 

「命令の伝達、でしょうか? 私共に教える必要のないものでしたら、どうぞそのまま遂行なさってください。こちらも不具合がありましたら連絡します」

 

「いいえ、お教えしますよ」

 

 一呼吸置き、俺は部屋全体に聞こえるように言う。既に政府からの追加命令は回っているので、この場にいる使節団員全員は一平と同じレベルの情報を持っているだろう。だから、俺が受けた命令も聞いておく必要があるのだ。

 

「私は一平さん率いる台湾第一次派遣使節団への同行を命じられています」

 

 恐らく、先程の命令の件で俺が必要になるであろう場面があるからだと思われる。それによって、俺はこれから使節団に同行するよう命令を受けているのだ。

 

「……分かりました。では、本件の交渉は私が行いますので提督は」

 

「末席にて参加します。ですが、本件に関係無い場合は別室待機をお願いしたく」

 

「はい。先方にも伝えて置きます。すぐに部屋を用意して頂きますので」

 

 そんなこんな話をしていると、どうやら休憩の時間は終わったようで、俺が入ってきた扉からぞろぞろと荷物を持った集団が入ってくる。これが恐らく台湾側の外交官たちだろう。こちら側には見ない顔しか居なかったからだ。

それにどうもここで会談していたみたいだが、休憩の際に荷物は一度全て持ち出していたようだ。

 俺はそのまま部屋の隅に移動すると、二方の会談が再開されたようだ。

双方が英語で話しているのを、隣に立っている南風が同時進行で翻訳をしていく。それを聞いている限りだと、どうも最初に部屋に新たにいる俺たちのことを台湾側に話しているようで、すぐに一平が俺の方を見た。

南風曰く、こっちに来て欲しいとのこと。俺はそれに従い、一平の隣に立った。

 英語で俺のことを紹介しているのだろうか、手をこちらに向けて、それに付いて来た台湾側の外交官と目があった時に敬礼をする。

隣で南風が翻訳にしているので、おおよその会話内容は判っていた。

 

「急で申し訳ありません。先程我が国が派遣した武官です。今回の派遣で私どもに付いて行くよう命令を受け、日本から遅れて到着しました、日本皇国海軍横須賀基地司令部の天色中将です」(※以降の台詞は本来は英語です)

 

 俺が日本語で話したものを、隣の南風が英訳していく。

 

「日本皇国海軍中将 天色です。英語が不得意なので、こうして通訳を介していることをお許しください」

 

 腕を下ろし、一平が紹介を続ける。

 

「諸事情に付き、彼の護衛は厳重にございます。誠に勝手ながら、後ろに控えているのは彼の護衛です。彼の発言を英訳している者以外は英語が堪能ではありません。故に通訳が居りますが気にしないで頂きたく」

 

「いいえ。別に構いません。……詮索するようですが、将がなぜここまで? 佐官なら分かりますが」

 

「訳あって佐官はおりません。尉官でもここまで国外に出てこれる人間は1名しかおりませんが、手が離せなかったようです」

 

「そうですが。私は台湾政府より今回の件でリーダーを任されているイェンです。どうぞよろしくお願いします」

 

 南風が変わりに応答をしたので、俺は黙っている。

 

「もし可能でしたら、私共が待機できる別室を用意してはいただけませんでしょうか?」

 

「ええ良いですよ。すぐに用意させます」

 

 現地語で誰かを呼び寄せたイェンは何かを伝えると、人が小走りで部屋を出ていった。

 

「近くの会議室を取らせに行きました。どうぞ、そちらでお待ちください」

 

「ありがとうございます。図々しいことを聞いて頂いて」(※以上の台詞は本来は英語です)

 

 俺は再び敬礼をし、回れ右をする。一平の表情を見たが、どうも台湾に出発する前の表情は無い。相手との会談・交渉のことで頭が一杯な様子。それを考えると、俺が動くのは落ち着いてからということになるだろう。交渉の件も、何度か俺を軍の代理人として立たせて、要望等を聞き出そうとするだろうが、そちらは特に問題ないと考えている。

 数名艦娘を置いていくことも考えたが、何のために置いていくのか、理由と目的を考えるのも面倒だったので全員を連れて待機室に向かうことにした。

 

「全員、待機室に向かう」

 

 指示を飛ばし、俺たちは案内の人間の後ろを付いていくことにした。

 案内を少し観察したが、どうやら政府の人間お付きの秘書官のようだ。会談中は手持ち無沙汰になってしまうが、こういう時には仕事があるらしく、俺たちの先頭を歩いている。

秘書官というからには女性ではあるのだが、歳は20代後半といったところだろうか。纏う雰囲気からそのように思えた。

歩速を調整しながら歩いているようで、どうもこちらの様子を伺っているらしい。何かアクションがあることは、南風も了解しているようだ。そんなことを考えながら観察していると、思った通りに秘書官が話しかけてくる。

 

「日本皇国の使節団は武官を連れてこなかったと伺いましたが、急遽派遣なされたのでしょうか?」(※以降の台詞は本来は英語で話されています)

 

 とんちんかんなことを聞いてくる秘書官に、俺は少し間を置いて答える。

 

「武官は使節団と共に来ていますが、もっぱら護衛任務しか任されていません。私の方は郵便ですよ」

 

「郵便……。ミスターカズヒラの傍らに置いてあったものですね」

 

 この秘書官、会談を行っている部屋には出入り口までしか入って来なかったのに、よく室内を観察している。それなりの広さがある室内で、しかも一平が座っていた場所は、出入り口からそこそこ離れたところにあった。しかも居た時間は1分もない。その間に遠くにある書類を遠目で見て、それがいつ持ち込まれたものかを判断している。

注意する必要がありそうだ。直感でそう考えた俺のことを知ってか知らずか、秘書官は続けて質問をしてきた。

 

「……先程から連れている彼女たちは一体? 2人は軍服を着ていらっしゃるので兵士であることは分かりますが、その後ろにいらっしゃる彼女たちはどう考えても兵士にするには若すぎます」

 

 踏み込んだことを聞いてくる。時間の問題だとも思うが、ここでは隠しておくことが吉だろう。

 

「今回の私の任務は郵便配達。彼女たちは今後そのような任務を請け負うことになる候補生です。実習ということで連れてきました」

 

 歳的にもそれなら妥当だと考えてのこと。これで秘書官が騙されてくれれば良いんだが……。

 

「それにしては物騒ですね。可愛らしい少女たちですが、格好は置いておいたとしても、手に持つモノは見たこともない武器のように思えます。それに目付きは精強な軍人そのもの。むしろ、敵と言わんばかりの眼力です」

 

 ふふふっ、と笑いながら言うが、俺はひとつも笑えなかった。的を射ていないが、それでも近しいことを言っている。この秘書官、何者なんだろうか。

 両脇に立つ南風と沖江の警戒レベルが上がったことを確認しながら、俺は答えていく。

 

「彼女たちは戦場を渡り歩く郵便配達人。身を守る術を持ち合わせていない訳が無いです。それに此処(台湾)は日本皇国と正式な国交を結んでいない得体の知れない国。警戒するのは当然です」

 

「確かにこちらからしてみても、日本国は知っていても日本皇国は知らない国ですね。それとは別で、候補生というのに頼もしい限りです。日本皇国軍ではこのような人材が多くいらっしゃるのですか?」

 

 良し。彼女たち(艦娘)から話しを反らしていけそうだ。

 

「私が見ている候補生たちは皆、こういう者ばかりです」

 

 そう答えた時、秘書官は何かを見計らったように言い放った。

 

「中将の下に付く候補生……軍大学に在学する生徒をも超えるエリート中のエリートですか?」(※以上の台詞は本来は英語で話されています)

 

 ぬかった……。自分が深く考えることなく口走ったことで、余計な情報を漏らしてしまう緊急事態に陥ってしまった。

俺の目を捉えた秘書官は足を止めることなく、それでいて歩速を緩めてこちらを向いている。なんとか辻褄のあう回答をしなければ……。

 





 前回の投稿からまた期間が空いてしまいました。お久しぶりです。片手間ですら書けませんでした(汗)
 後書きで台湾での話はあと数話みたいなことを言っていたと思いますが、少し伸びそうです。とはいえ、初めての外交ですから、それなりに長くなってしまうのも仕方なしと……。
まぁ、のびのびと書いていきますよ。

 ご意見ご感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。