艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※ 前回の休憩回の続きです


第19話  外に買い物、おまけに山城 その2

 自動車を走らせながら、俺は状況説明をする。前略、現在、助手席には山城が座り、後部座席には沖江が座っている。この配置にはかなり意味がある。

先ずはどうして俺が運転しているのか。理由は簡単。この自動車は防弾仕様。ガラス全てが防弾ガラスで、車体も防弾。12.7mmまでなら耐えられる仕様だ。暗殺があったとしても、使う狙撃銃の弾薬は精々7.62mmだ。貫通できるわけがない。タイヤも対弾仕様。滅多にパンクしないらしい。それに攻撃を受けた際、護衛が運転していると適切な反撃が出来ないこと。俺が拳銃に不慣れであることが理由。

沖江がどうして後部座席なのかというと、理由は簡単。

 

「……いつ見てもミスマッチだな」

 

「そうですか?」

 

 後部座席にはサブマシンガン(MP5)が置かれている。短機関銃と言っても良いが……。MP5に弾倉を刺して薬室に弾薬を送り込んでいる沖江を、俺はバックミラーで見ながら苦笑いをするしかなかった。

 

「私としてはせめて自動小銃、出来れば分隊支援火器(M249)くらい置いて欲しいですけどね」

 

「そんな物騒なもの、置かないで欲しい」

 

 つーんと唇の先を尖らせる沖江に対し、山城はこっちを見て訴えてきた。

 

「私を連れていれば、もっと大口径なものを撃てますよ!! 不埒者は消し炭で十分です」

 

「止めような。山城の兵装は対空小口径機関砲でも人に当たれば砕ける」

 

「むぅ……ならば瑞雲の機銃掃射でも……」

 

「弾薬ベルトが対空特化で焼夷榴弾系が大半なんだが。なんなら20mmなんだが……」

 

 ああいえばこういう、と言いたげな表情を山城が俺に向けてくるが知ったこっちゃない。瑞雲が中~高度を飛行していても、見上げはしても流すであろう民間人が何故か低空を飛んでいる姿を見ればどうだろう。怖がるに決まっている。国内情勢に詳しい人なら分かるはずだ。艦娘とは協力関係であるだけだということ。

 俺はハンドルを握り、前を見ながら山城の言葉に冷静に返していた。

こんなやり取りはそうそうするものでもないが、山城は何かまだ言いたげにしている。

 

「今、7.7mmを搭載している状態ですから問題ないです」

 

「艤装のことか?どのみち駄目だ」

 

 瑞雲には7.7mmを搭載されていない。それに改造するようなこともしていないはずだから、20mmしかないはずだ。

 

「わ、私なら陸軍の戦車をパチって」

 

「張り合うな!!」

 

 俺と山城のやり取りに首を突っ込んできた沖江だが、戦車なんて持ち出したらパニックになる。いくら今のご時世でも、町中に戦車が居たら驚く。装甲車なら大丈夫らしいが……。それは、俺が軍病院に居た時のことだから仕方がないと言えば仕方がないのか。碌に動いてなかったみたいだからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 車内は誰かしらが話しており、微妙な空気になることなく目的地に到着する。鎮守府から車で数十分のところにあるショッピングモールだ。最近の買い物はここにしか来ていない。その理由は2つある。

1つ目は、俺が行きたがるような店の全てが入っている点だ。今日は服屋と雑貨屋に用事がある俺だが、どちらも鎮守府では手に入らないものだ。特に服。

そんな時に来ているところではあるが、もしも『本屋も見たい』となった時、少し歩けば店内に大きな本屋があるのだ。そういう点ではかなり便利。

2つ目は、軍事施設がある点だ。このショッピングモールは有事の際に避難場所に指定されており、屋上や植木に隠れているところに軍の火器が置いてあったりする。その管理と運用、民間人の安全を確保するために十分な兵士が駐屯している。というか、隣が基地になっている。軍と提携している商業施設なのだ。

 自動車は駐車場に停め、俺たちはモール内をふらつく。一応、目的があって来ているが、軍人であるが故に歳相応のことが出来ない沖江の為に一直線に目的の店舗まではいかない。入口から入り、歩速を緩めて歩く。山城は仕方ないにしても、だけどな。

 

「ほぇ~」

 

 当たりをグルッと見渡した山城は、俺の横で目を輝かせている。

 鎮守府にはない店、活気があるからだろう。鎮守府に居れば、ここまで人が居るようなところに立っていることなんてそうそうない。俺が戻ってきてからは一切なく、俺が軍病院に入る前には1度か2度あった程度だ。

 俺を挟んで、山城の反対を沖江が歩く。歩速を緩めていることには気付いているだろう。店内をマジマジと見ながら歩いているのだ。

 

「て、んっ……貴方はいつもここで?」

 

 今『提督』って言いかけたよな? 無理矢理『貴方』と言い換えたけど。

 

「服を買うときは、だけどな。用事があると、他の店にも行くけど」

 

「そうなんですか? それにしても、たくさん居ますね」

 

 落ち着きはあるものの、色々と隠せていない山城を後目に、俺は沖江の方に目線を向ける。

 

「……」

 

「買いに行きたいのなら、良いぞ」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ」

 

 幾ら護衛とはいえ、店を見てしまうと入りたくなるものだろう。それに沖江はそもそも護衛要員として鎮守府にいる訳ではない。歩哨・巡回の任務で駐屯しているに過ぎないので、そもそもこの護衛は仕事の範囲外だったりするのだ。

 俺の言葉を聞いた沖江は近くの女性物の服が並んでいる店舗へと入っていってしまった。

迷いが無さ過ぎて、清々しいところまで来ているが……まぁ良いだろう。俺1人で待つ訳でもないからな。

 

「貴方……」

 

「なんだ?」

 

「わ、私も……」

 

 一応、外出の同行者は前例があるが、どちらも買い食いはすれど物は買わなかったな。

でもまぁ……同行している沖江に頼んで買ってきてもらったとか言えば、どうにでもなるだろうな……。その後、色々と沖江が苦労しそうではあるけど。

 俺は山城に返答を返す。

一応、武下からは単独行動をしないように言われている。普段なら、沖江かその他の護衛と共にその店舗に入っていってしまうが、今回は山城がいるということで、沖江はそのまま1人で入っていってしまった。というか、俺が一緒に入っていると思っている可能性が捨てきれない。

 

「分かった。俺も入るよ」

 

「はいっ!!」

 

 少し頭を掻き、沖江が入っていった店に俺と山城も入っていった。

 山城曰く『このお店は酒保にありません』とのこと。流石は年頃の女の子なだけはある。ファッションにも興味があるのは良いことだ。

 店内に並ぶ商品の数々を、山城は手に取っては身体に当てて姿鏡を見ている。気に入らなかったら、そのまま綺麗に戻して他のを手に取ってみる。これの繰り返しだ。

少し離れたところに沖江も見えるので問題ないだろう。

 

「う~……。こっちだと……」

 

 という具合に悩んでいる山城を見つつ、手に取っているものの傾向を見る。

どうやら山城は上はダボッとしたものが好きらしい。流行りに乗っていくタイプかは知らないが、そういう系統のものを手に取っているのは、観察20分で分からない方がおかしい。

パーカー、ニット、セーター、カーディガンetc. 見事にダボダボスタイル。まぁ、似合っているから良いとは思うけどな。今も、そういう感じではあるし。

 近くにまだ山城が見ていないダボダボした服があるのだが、まぁ……放置してみる。今回は俺はアクションを起こさない。こういうものに関して、話しかけられたら答える方に徹する方が良さそうだ。

 そうこうしていると、山城が俺の近くにある方にも目を付けて移動をする。

手に取って確認。身体に当てて姿鏡を見て少し思考。

 

「あ、貴方」

 

「ん?」

 

 山城の観察をしていた俺に、山城は声を掛けてきた。

 

「こっちと、こっち。どう思います?」

 

 そう言って、山城は俺に見せてきた。

片方は今着ている丈の長いセーターと似たような商品。ただし色は薄いオレンジ系。もう片方はこれまた長いセーター。サイズ合わせて着ても、手が袖から出てこないんじゃないかって思うくらいだ。ちなみに色は白。

少し商品を見て、山城を見る。俺が山城を見た時にビクンと身体を跳ねさせていたが、それを気にすることなく俺は答える。

 

「山城の私服で下は何があるのか知らないが、今の状態ならどっちも良い。似合う」

 

 ……あれ? 回答間違えた? 両手に持つ服を見て、俺の顔に視線を戻した山城。

うぐ……。どうやらやはり違っていたようだ。

 

「し、白い方は袖が長すぎると思う。そういうデザインではあるから、それを着る人は居るんだろうが」

 

「ならこっちですね」

 

「オイ」

 

 白いセーターを戻してオレンジのセーターを持つ。それにしても、本当にこういう系統が好きなんだろう。

少しは他のタイプにチャレンジしてみるのも良いかと思うんだがなぁ……。と思いつつ、違う種類の服が置いてある売り場の方に目を向ける。丁度そっちには人がいなかったが、山城は俺の視線を追いかけてその先を見ていた。

 

「……ブラウスとか身体のラインが見えてしまうような服は好きじゃないんですよね」

 

「そ、そうですかい」

 

 聞いてもないが、自白。それも想像通りだった。だが、咄嗟に敬語でリアクションが出てしまったのは恥ずかしい。

 山城は身体のラインが出てしまう服装が嫌だと言ったが、今の服装も下はラインがくっきりだということは分かっているのだろうか。それとも、上半身のラインが出るのが嫌なのだろうか。恐らく後者であろう。

俺は似合うと思うんだが、本人が嫌だというのなら無理に勧めるのも悪い。俺は口を噤み、セーターを籠に入れる山城を見る。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 沖江も山城もそこそこ買ったようで、大きい袋が1つずつ手から下げられていた。会計を終わらせて店外に出る時、俺は無言で手を差し出した。

分かっていないような山城は、首を傾げながら俺の手を握る。

 

「違う。袋持つぞ」

 

「あ、あぁ……ありがとう、ございます」

 

「沖江も」

 

 山城はパッと俺の手を離すと、そのまま袋を渡してきた。何だか分かってないような表情をしているが、別に言うことの程でもないだろう。聞かれたら答えるくらいだ。

一方で、沖江は戸惑っていた。そりゃそうだろう。プライベートではあるが、護衛対象でしかも上司である俺に自分の荷物を持たせようとしているのだ。

 

「護衛要員が荷物を持っていたら、咄嗟の時に行動できないからな」

 

 そうつぶやくと、沖江は俺に『お願いします』と言って荷物を渡していた。

 俺の両手は荷物で埋められた。自分のものも細かくあるので、そこそこの量になっていると思うが、これしきの事で音を上げる訳にはいかない。

荷物を持ち直して、俺たちは歩みを進める。

 




 前回の続きになります。こんな風に話を進めていますが、今回は起伏があまりなかったように思いますね。
 本編とは別だとも思っている方がいらっしゃると思いますが、結構関連があるのであしからず。休憩回を出たら初回から休憩回と絡みのある内容になりますので……。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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