艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※ 休息回、続いています


第15話  王様ゲーム その1

 今日も鎮守府は騒がしい。静かな日なんてあるのだろうか、と考えてしまうほどに。

艦娘たちが遊んでいたり、何かをしているのはいつものことだ。遠征や哨戒任務のない艦娘たちは、思い思いに時間を過ごす。身体を動かしたり、勉学に励んだり、自主訓練をしたりetc.

 俺も執務を終わらせてしまっていたので、特にすることがなくなっていた。

時刻にして、午前9時過ぎ。昼まではかなり時間がある。今日は天気も良いため、外からは艦娘たちの声が聞こえてきていた。……門兵も混じっているが。

 

「提督は今日、何をするデスカ?」

 

 秘書艦席で頬杖を突いている金剛が、俺に話しかけてきた。今日の秘書艦は金剛だったので、この時間帯にここに居るのだ。

 

「特に考えていないな」

 

「ならばレクリエーションデース!! 今から人を集めて、何かしまショウ!!」

 

 バッと立ち上がった金剛は、眉を吊り上げてガッツポーズをしている。何かしたいのは分かったが、何をするんだろうか。レクリエーションと言っても、やるものなんてピンからキリまである。人数も集めようと思えば3桁は余裕で行けるだろう。そうなると、門兵の割合がかなり多くなるわけだが……。

 俺はいつも執務室に引きこもってばかりで、あまり公以外では外に出ない。それなら、金剛の提案に乗るのも良いだろうと思った。

無碍にしても可哀そうだし、せっかく誘ってくれたのだ。喜んで参加しようじゃないか。

 

「それは良いが、何をするんだ?」

 

 まず何をするのか、それを決めることが先決だろう。決めた後、それに応じた人数を集めるのが良いのだ。

 金剛のことだから、身体を動かす系になるかと想像をする。そうなると人数は最低でも20人以上は集めることになるのだろうか。

それにグラウンドに出て行くことになるだろうから、おのずと人数は増えていくだろう。そもそも何をする。球技になるのだろうか。

 そんなことを考えていると、金剛は長い袖からあるものを取り出した。

というかそこに入れていた時点で確信犯だろうな。どう考えてもそうだ。鼻っから俺を誘うつもりで、しかも俺が乗ってくるのを分かっていて準備していたのだろう。となると、後は頭数集めになる訳だが……。

 

「おじゃましまーす」

 

「失礼します」

 

 という具合に、執務室に急な来客がある。最初に比叡が入ってきて、その後に榛名やその他にも艦娘数名が入ってくる。

ちなみに金剛が取り出したのは、割りばしだ。割りばしだ。重要だから2回言った。

 それだけで何をするかなんて分からない。ゴム鉄砲を作るとか言い出すかと思ったが、先ず無いだろうなと自己完結。ならば、割りばしを使って複数人で遊ぶ遊びと言えば……。

 

「王様ゲームというのをしてみたいデース!!」

 

「「「「いえーい!!」」」」

 

 そうなるだろうな。そして示し合わせたように、艦娘たちが盛り上がる。どうやら事前に声を掛けておいて、時間になった時に来るように言っていたのだろう。流石は金剛だ。その辺りは抜かりない上に、手回しが速い。

 少し顔を引きつらせながら、俺は状況を確認する。

王様ゲームをやるのは良いのだ。良いんだが……俺以外が艦娘ってどうなんだ? 男を増やしてくれても良いんじゃないか? というような俺の心の声が金剛たちに届くはずもなく、着々と準備が進められていた。

割りばしに番号を振り分け、席を用意。執務室に置かれているソファーとその間にある机を撤去し、端に置いてある大人数用の机を引っ張り出して組み立て、それを囲むように椅子を配置。飲食物も出てくる出てくる。

ものの数十秒で宴会場が完成していた。

 

「こ、金剛?」

 

「なんデスカ?」

 

 俺が声を掛けるとキョトンとした表情で返事をする金剛。苛つきはしないが、何だか嵌められた気分だ。

 榛名の誘導で、俺も椅子に座らされる。机を囲むように座っているため、来ている艦娘の顔が良く見える。俺の右隣には金剛、左隣は榛名。金剛の右隣に比叡、霧島、翔鶴、瑞鶴だ。

メンツがどういう意図なのかは気になるところだが、俺がアウェーなのに変わりはない。俺だけがそう思っているんだろうけどな。

 そんな俺のことは無視されて、ゲームが始まろうとしていた。

机の中心に置かれた不透明なコップに割りばしが7本刺さっている。それぞれには1から6の数字が振られており、1本だけ赤く塗られているそうだ。赤色が王様で、それ以外が臣民というルール。王様が下す命令はそれぞれの良心に反しない程度というあいまいな範疇に指定されている。つまりは、解体云々やらそういうことや、身体的に傷付けるだとか口撃だとかそういうものを禁止しているのだろう。そうだと良いんだが……。

 こうして俺の意思をほとんど無視した王様ゲームが始められようとしていた。

長く厳しい戦いに、俺は独り挑んでいくことになる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 全員が割りばしを手に取り、一斉に引き抜こうと待っている状態。初回はすぐに始まろうとしていた。

 ルールを決めている間に時間も少し経ってしまっていたが、すぐに決めて全員が合意。全員がそれぞれ割りばしを選び終わった後だ。

息を呑み、一抹の緊張が空気を固まらせる。金剛の掛け声と共に、全員が一斉に割りばしを引き抜くッ!!

 

「王様だーれだ!!」

 

 スッと引き抜いてバッと手で番号の書かれているところを手で隠し、自分しか見えないようにする。

 俺は4番だった。出だしから番号が不吉すぎる。一方で、王様を引いた者は名乗りを挙げるのだ。

先の赤い割りばしを持つのは榛名。榛名だった。

 

「榛名です!!」

 

 全員が榛名の方に目を向ける。どのような命令を誰に出すのか、それが気になるところ。

……というか、全員分かっててやっているのだろうか。俺も今更なんだが、これって合コンとかでやる奴だろ? 遊びでは……やるんだがなぁ……。とは言っても、と少し考えてしまう。

 

「えーと……最初ですから、軽いものが良いですよね」

 

 と呟きながら、榛名は全員の顔を見る。今この執務室は榛名のキングダムなのだ。号令があれば俺たちは榛名の命令に従う必要がある訳だが、ルールでもあるようにあまりアレな奴はやれない。

 

「そうだよねー。いきなり飛ばすと、後々大変なことになりそう」

 

「……私はそもそも王様ゲームのこと、さっき聞かされたんですが」

 

 あ、ここに仲間がいる。翔鶴。お前は変な方向に走らないと願っているよ。

 

「さっき説明したじゃん。今榛名が持っている赤い割りばしを引いたら、好きな内容を命令できるの。ただし、番号を言ってね」

 

「そうなの? それでさっきのルールがあるのね」

 

「うん。というか、来る途中で説明したじゃん!! 翔鶴姉!!」

 

 瑞鶴に何度目かの説明を受けた翔鶴は『そうなのね』とか言っている。お気楽なものだ。王様にならなければな。

否。逆に考えて、翔鶴が王様になればあまり無理のない命令が出てくるに違いない。それならば全然、むしろドンドン引け!! そしてノーマルな命令を出せ!!

 とか頭で考えている間に、榛名はどんな命令を出すのかを決めたようだ。

割りばしをスッと前に差し出し、キリッとした表情で下すのだ。

 

「女王の私が命じますっ!!」

 

 そんな女王様が居たら、その国はきっと優しい国になるんだろうな。

 

「4番の方!! オムレツを私だけに作ってきてください!!」

 

 そんなことなかった!! そんなことなかったよ畜生!!

俺はスッと立ち上がって、私室へと向かうのであった。他の陛下の臣下(金剛ら)の視線を背中に浴びながら……。

 歩きながら考える。榛名には多分見えていたんだろうな。命令がピンポイント過ぎる。

理由としては、艦娘の大半が料理が出来ない。一部は出来る(間宮、伊良湖、秋津洲等々)者もいるが、基本的には出来ないらしい。出来ないというか、やったことがない。練習はするものの、現在一番出来るのは、艦娘寮の調理室を頻繁に利用して練習している高雄くらいらしい(赤城談)。

榛名も姉妹がどれだけの腕なのかくらいは把握しているだろうし、翔鶴瑞鶴も調べれば分かる。そして番号を言って間髪入れずに命令を出した。博打の可能性は棄て切れないが、俺であることを予想して言ったのだと思われる。自意識過剰だと良いな。

 数分後。俺はオムレツを作って陛下に献上しました。たいそう喜んでおられました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 榛名がオムレツを食べ終わるまで待ち、皿の片づけまで終わらせてから次のゲームに突入する。

さっきまでとは打って変わり、卓では真剣な空気が流れていた。俺は苦笑いをするしかなく、やはりまだ理解の出来ていないところがあるのか、頭上に疑問符を浮かべる翔鶴を除いた全員が眉を吊り上げていた。榛名は初回で引いたために優越感に浸っている訳だが、こうドヤ顔をしている姿を見るのも初めてなもので新鮮さを感じる。榛名と何かをするなんて、執務かお茶会か買い物くらいなので、新鮮さを全面に感じることが出来ていた。

 俺が席に戻って少し経ってから、遂に全員が割りばしを戻してシャッフル。

それぞれが次に選んだ割りばしを手に取り、掛け声を出す。

 

「「「「「王様だーれだ!!」」」」」

 

「「だーれだ」」

 

 5人のノリについていけていない俺と翔鶴が遅れて声を出す。

 スッと抜き取った割りばしをすぐに手で隠し、確認する。

俺は今回も王様を引くことは出来なかった。手に取ったのは4番。また4番だった。デジャヴだし、嫌な予感しかしないんだが……。

 今度の王様はかなり元気なようで、まるでそこいら一体に花が咲いたように笑顔を振りまく。建国されたのは金剛王国。

元気な女王を据えた国だ。きっと国民も元気な国になるんだろうな。

 

「既に命令は決めていマース!!」

 

 フフンと言いたげな金剛は、ビシッと効果音が付きそうな仕草をして命令を下した。

 

「女王の私が命じマース!!」

 

 既にドヤ顔の金剛は元気よく言い放った。

 

「3番の提督は私のあすなろ抱きをする椅子になりなサーイ!!」

 

「名指しっ?!」

 

 条件反射でツッコミを入れてしまったが、残念だ金剛。俺は4番を引いている。

というかそんな命令を聞いていたら、色々と不味い気がするんだが……。風紀的な意味で。あと、俺の心臓が死ぬ。

 

「名指ししているところ悪いのですが、3番は私です」

 

「なっ?!」

 

「下心のある命令は、きっとアレやソレが作用して、お姉さまの思うように話が進まないのですよ。残念です。お姉さま」

 

 くいッと眼鏡を持ち上げて、霧島は割りばしを見せる。霧島の手には4番の割りばしが。

 

「ノォォォン!! ……いや、全然オッケーネ!! 霧島はあったかいから好きデス!」

 

「それならば、早速いたしましょう」

 

 霧島と金剛は立ち上がり、霧島は金剛の座っていた椅子に座る。その上に金剛が座り、霧島は金剛のお腹に腕を回した。

金剛の肩から霧島の顔が覗いているが、……うむ、特に違和感はない。仲の良い姉妹にしか見えない。

 その状態のまま、次のゲームに進む訳にもいかず、数分間その状態を維持することになる。

王様ゲームをしていなければ、ただのお茶会と大差ないこの催し。皆がお菓子をつまみながら話をする。時々霧島が金剛にいたずらをして、金剛に恥ずかしい思いをさせるのは意趣返しのつもりなのだろうか。それとも、この場を楽しませるためにやっているだけなのだろうか。

 

 




 前回に引き続き休息回になります。
お分かりになる方もいらっしゃると思いますが、若干特別編短編集のようなノリになっています。あちらは本編では入れれない内容ですが、こちらはノリはそのままで本編に入れても問題ないようにしています。

 こういったノリだと筆の進む速度は速いんですが、やはり本編は資料やら過去の内容を振り返りながら書いてますので時間がどうしても掛かってしまいます(言い訳)

 ご意見ご感想お待ちしています。

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