艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※注1 撃たれて運ばれる

 前々作『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』の最終話。この世界に居る提督に拉致。その後足の甲、腿、胸を撃たれて重傷を負う。前作『艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話』の作中では、軍病院にて治療中ということになっていた。



第9話  提督と司令官 その1

 伊勢らが台湾攻略に出撃していた艦隊が帰還した翌日、俺は大本営を経由してアポイントメントを取っているところだった。

相手は端島鎮守府の司令官。名前を聞いた記憶はあるが、あまり覚えていない人間。歳は俺よりも勿論上で、軍人としてもあちらの方が上だ。俺は士官学校を卒業していないし、何なら兵士としての訓練も受けていない。あちらは職業軍人、それで飯食っていこうとしている人間だ。そういう差があるのは当たり前のこと。

 電話口の向こう側で、新瑞が俺の要件を伝えて欲しい趣旨を聞いて黙っている間に、俺は人物像を想像していた。

俺が聞き及んでいる辺りだと、人柄は悪くない模範的な海軍軍人であること。士官学校を良い成績で卒業し、評判も良かった学生であったこと。現在の階級はFF作戦時よりも昇進して大佐であること。それくらいだった。

逆にあちらは俺のことを良く知っているだろう。端島鎮守府の運営だけに集中していても必ず耳に入ってしまうはずだ。自分で言うのも恥ずかしい話だが、日本皇国海軍は実質新瑞と、新瑞に飼い馴らされている狼の群れ(横須賀鎮守府艦隊司令部)を中心に動いているのだ。何をするにしても、どうしても知ることになる。

良い話も悪い話も、噂でさえ知ることは必然の状況だ。

 

『端島は現在、作戦行動の何もかもを停止している状態だ。近海哨戒任務のみを行い、必要以上の戦闘を避けている節がある』

 

「そうですか」

 

『先日も端島に物資をあらかじめ輸送してから作戦行動を起こしているのだろう? 知らないのか?』

 

「はい。あちらの事情は深くは聞きませんでしたし、手続きも半分は大本営の方に丸投げしたのを覚えてませんか?」

 

『そういえばそうだったな!! まぁ、話は付ける。直接話すのか?』

 

「できれば」

 

『分かった。すぐに連絡を入れよう』

 

 電話口で新瑞に頼み、俺は受話器を元に戻した。

 現在、執務室に秘書艦は居ない。執務で使った書類の提出に行っているのだ。だから今の会話は誰にも聞かれることはなかったはずだ。もしかしたら金剛辺りが察知している可能性が無い訳ではないが、行くときになれば話をする必要も出てくる。聞かれた場合は素直に答えることにしよう。

 そうこうしていると、書類の提出に行っていた今日の秘書艦である叢雲が戻ってきた。

何も持っていないので、そのまま直帰してきたのだろう。

 

「提出してきたわ」

 

「ありがとう」

 

 叢雲は秘書艦の席に腰を下ろし、足元においていたカバンに手を伸ばした。ゴソゴソと中をまさぐり、取り出したのは数学の参考書。多分中学生用だろう。ノートを開き、そのままペンを持って勉強を始めた。

 この頃の秘書艦というものは、本当に二極化してきている。これまでの秘書艦というのは『俺に何をすればいいのかを求め、好きなことをすればいいと言われて困る姿』か『始めてではないので、前回言われたことを考慮して、あらかじめしたいことを考えて来て実行に移す』のどちらかだった。だが今では『何らかの勉強・読書をする』か『何かしたいことを考えてきて、俺とやろうとする(例:金剛→ティーパーティー)』のどちらか1つしかない。

叢雲の場合は前者に当たるのだ。

 俺は肘を突き、ジーっと叢雲の観察を始めた。俺としても勉強か読書をしても良いんだが、新瑞からの折り返し電話がいつかかってくるか分からない。勉強や読書をしている途中に電話がかかると、中途半端なところで切り上げる必要が出てくる。それがたまらなく嫌だった。

ならばすることは観察くらいだろう。それかお茶を出そうか。

 

「叢雲」

 

「何?」

 

「何か飲むか?」

 

「紅茶で」

 

「はいよ」

 

 叢雲はこの世界に来るまでのイメージとは全然違っていた。最初からつっけんどんではない。何か失敗したり、間違ったことをすると本気で叱ってくるだけなのだ。ツンツンしていると思われがちではあるが、それはそういう指向のボイスになってしまったのだろう。実際に会ってみるまで、俺もツンツンしているだけの艦娘だと思っていたが、こうも違っていると実感することが出来たのだ。

それに、あまり贔屓もしない。フラットな対応をしてくれるから、俺としても居心地は良いのだ。今回の『何か飲むか?』というのも、俺がそういうと『私が淹れてきます』と言って、自分がしていた作業を中断して淹れに行く艦娘が多い中、叢雲は状況を見て判断してくれる。叢雲自身は勉強を始めた。俺は何もしていない。その俺が飲み物を用意すると言ったのだ。そのまま頼んでくるのが叢雲であり、横須賀鎮守府に数少ない艦娘の1人でもある。ちなみに叢雲のように対応するのは鈴谷と北上がそれだ。他は淹れに行ってしまう。

 給湯室に入り、俺はカップを2つ出す。俺はコーヒー用のもの、叢雲はティーカップ。金剛が茶葉を置いていくので、それを拝借して紅茶の準備をして、待っている間にインスタントのコーヒーを淹れる。グラーフ・ツェッペリンが居る時はコーヒー豆をミルで挽いて淹れるタイプのコーヒーが出てくるが、セットを持って帰ってしまうので給湯室にはそれが無い。

残念ながらこういう時にはインスタントになってしまうのだ。

 

「ここに置いておくぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 俺は叢雲の邪魔にならないであろうところにティーカップを置き、自分の席に戻った。

 順調に勉強が進んでいるようで、長時間叢雲のペンが止まることはなかった。ペラペラとページをめくっては、例題を確認しながら解き進めている。順調なのは良いことだ。

そう思うが、俺は別のことを考えていた。

 今ではうやむやになって、覚えている艦娘がどれだけ居るのか分からない話だ。叢雲は仲良くしている艦娘が少ないように思える。

それは俺が撃たれて運ばれる前の話ではあるが(※注1)、基本的に叢雲は1人で居るイメージしかない。姉妹艦である吹雪型とは仲良くしているところはたまに見かけたんだが……。"あの時"はそうなっていても今となっては違和感を持つことはないが、今はどうなんだろうか。他に仲良くしている艦娘はいないのだろうか。そんな風に、娘のことが心配な父親張りに心配をしているところもあったりするのだ。

今となっては、良い意味か悪い意味かはさておき、全員が"共通意識"を持っていると聞いた。姉貴がこの世界に来て、それが個々の特性としてではなく全員平等にあるものとなった。それは見ていれば分かる。そんな中でも特別おかしい奴はいるけど……。

何にせよ、"浮く"ことも無くなったと言える状況だ。こうして秘書艦や戦闘じゃない時、色々な艦娘に囲まれて笑っていてくれればいい。そう考え至り、俺は叢雲の観察を止めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 コーヒーを飲み切ってしまい、叢雲の紅茶と一緒におかわりを淹れた後、執務室の電話が鳴りだした。

既に淹れ終わった後だったが、すぐに動けずにいると、叢雲が代わりに受話器を取ってくれたみたいだ。

 

「はい。横須賀鎮守府艦隊司令部、本部棟、執務室。秘書艦 叢雲が電話を取ったわ」

 

 秘書艦にある業務の1つでもある、俺が不在の際に電話を取る仕事だ。これまでやってきて初めて見た。なんだか変だな。

俺が電話を取ると『はい。横須賀鎮守府』くらいで終わってしまうからな。それに、相手が分かっている時はこちらが名乗らないこともある。そういう時は新瑞で、正直かなり失礼だけど。

 

「すぐに戻って来るから待ってなさい」

 

 そういって、俺が給湯室から出てくるのを見て受話器を差し出してきた。

俺はそれを受け取り、耳に当てる。

 

「替わりました」

 

『今のも秘書艦の業務の1つなのか?』

 

「そうですけど、要件は分かっていますよ」

 

『あぁ、すまない。端島は承認したぞ。出向こうか、と言って来ているが?』

 

「俺の方から行きますので」

 

『ならばそう伝えておこう。いつでも来て良いとのことだ』

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

『良い。まぁ、私も暇だったから良い暇つぶしになったさ』

 

「では、失礼します」

 

 受話器を元の位置に戻して、俺は少し考える。

 いつでも来て良いと言ったのだ。今から向かっても問題ないだろうか。そう考えるが、外出するにしても色々と面倒だ。

作戦中に姉貴が提示してきた書類の件もある。ならば、準備から始めた方が良いだろうな。そう俺は決め、机に肘を立てる。これからどうしようか、とそんなことを考えながら。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 翌日の執務後から、俺が端島鎮守府へ行く準備が着実に進められていた。珍しく昼食をまたいでも執務をしなければならないという異常な環境が、今日の秘書艦である暁が上機嫌の天井をぶち破って空に羽ばたいて行ってしまう辺り、暁は事務仕事に適性があるんじゃないかと思ってしまう。しかも本人は楽しんで処理しているのだ。

最初に取り掛かったのは、俺が端島鎮守府に行く旨を暁に説明するところからだった。どうやら秘書艦日誌に明日に備えて備考として記入する必要があるからだとか。別にそれで時間を大幅に食うことはなく、一言二言深いところまでではなく表面上の内容を説明した。その後、どのような日程で行くか。海路を使うと往復80時間くらい掛かる見積もりがあったため、陸路移動と港から端島に端島の艦隊を使って移動する予定に変更。一応、近い時期に偽装哨戒艦隊を出撃させ、端島の防衛網の強化をする。

1日滞在し、同じようにこちらに戻ってくることとなり、その趣旨を新瑞を経由して先方に連絡。了承を得たのと『港に艦隊を停留させておく』という気遣いも貰い、俺はその好意に甘えることにした。

護衛に関しては、姉貴が狙ったかのように時期を見計らって提出してきた護衛に関する物。今回は移動手段が陸であることを鑑み、門兵諜報班から志願した(全員が志願し、採用されている)南風以下3人を同行。それと共に、金剛の同行も決定。

移動も丁度端島鎮守府への物資の輸送のために臨時編成される電車に乗り、止まることなく長崎駅へ。長崎港から長崎湾内で停泊待機中の端島鎮守府派遣艦隊まで、駆逐艦で移動し、そのまま端島鎮守府へ向かう。

 




 最近整理とかでマイページやら自分が書いた活動報告を読んだりするんですが、活動方向で本作がこういう系にならないみたいなことを書いていたのを発見しました。
勿論、攻略中はシリアスになりますが、それ以外の場面では違う系統に走りますのでよろしくお願いします。というのを遅くなってしまい、申し訳ありませんでした(土下座)

 今回から端島鎮守府の提督のところに行きますが、こういう攻略以外の回でシリアス回になる回数は少なくなる予定ですのでよろしくお願いします。

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