艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第8話  南西諸島北海域制圧作戦 その5

 

 南西諸島北海域制圧作戦は順調に事を運ぶことが出来ている。既に作戦開始9日目になっているが、大規模戦闘は6日に空母機動部隊との戦闘以来は水雷戦隊との戦闘しか行っていない。この件に関しては、まだ確証はないが南西諸島北海域に展開していた深海棲艦は空母機動部隊が本隊だったのかもしれない。だが、そう考えては痛い目を見ることになるだろう。

念には念を入れて、作戦通りにそのまま台湾攻略艦隊と偽装台湾支援艦隊は台湾北から反時計回りをして、台湾南西部の沿岸都市 高雄の沖合まで来ていた。

 本隊と支隊は既に無人になっていた琉球郷近くに投錨していた。

既に準備が始められており、伊勢が俺に報告をするために連絡を入れている。

 

『伊勢だよー』

 

「聞こえているぞ」

 

 間の抜けた話し方をするが、北上ほどではないと思う。そんな伊勢相手に、俺は受話器を耳に当てながら話を始めた。

 

『現在投錨して艦載機隊の準備を行っているところ。これから市内を偵察し、無線かビラかを判断するね』

 

「頼んだ」

 

 金剛は既に呼んであるので、ここから本隊の無線を通して高雄で連絡を受け取ってくれるところと話をする。

視線を横にずらすと既に金剛が待機しており、いつでも良いと言いたげな表情をしていた。

 

『伊勢より作戦室。無線、繋がったよ』

 

「よし、金剛」

 

 俺は金剛に受話器を渡す。渡しはするが、作戦室ではスピーカー出力されるので会話内容は分かる。それは本隊や支隊でも同じだ。

ただ、何を話しているのか分かる人間がどれだけいるか、ってのが問題になる。だから金剛を呼んだ訳だし、斯く云う俺もニュアンスや状況、話の筋道的に内容を推理するくらいしかできない。これでも英語の勉強は今でもしているんだがな……。

 そんなことを考えては居たが、金剛と先方とが話し始めたみたいだ。

金剛は椅子に座り、目の前にメモを置いている。受話器を持っていない方の右手にはペンを握っている。完全に話しながら内容を書いていくつもりだろう。そうすれば、俺が判断しなければならない内容が出てきた場合にすぐに返事が出来る。

 

「日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部所属 戦闘艦隊より先方へ告ぐ。どうぞ」(※以下の台詞は全て英語でやり取りされています)

 

『こちら台湾海軍左営(さえいえ)基地。どうぞ』

 

「当方に貴国を攻撃する意思はない。現在当国海軍所属 戦闘艦隊が高雄南方の島に停泊している。どうぞ」

 

『左営基地より日本皇国海軍所属艦隊。現在、上官からの指示を待っている。どうぞ』

 

 金剛がメモを見せてきた。

左営基地の横に吹き出しで『台湾海軍の基地』と書かれている。言われなくても、さっきから覗き込んでいた時に書いていたやり取りを見れば分かる。

 

『左営基地より日本皇国海軍所属艦隊。基地司令より先方の上官へ伝えてくれ。2年振りの来航、心より歓迎する。どうぞ』

 

 金剛が俺の顔を見てきた。恐らく、返答を悩んでいるのだろう。

俺は小声で『日本皇国海軍は再び台湾周辺海域に出現していた深海棲艦への攻撃を行った。今回はその報告と、近日、日本皇国より外交使節を送る。その知らせを届けるために来た』と金剛に伝えた。

 

「戦闘艦隊より左営基地。日本皇国海軍は再び台湾周辺海域に出現していた深海棲艦への攻撃を行った。その報告と、近日、日本皇国より外交使節を送る予定だ。その知らせをどうか伝えて欲しい。どうぞ」

 

『左営基地より日本皇国海軍所属艦隊。貴艦隊の働き、心より感謝する。外交使節の来航、楽しみにしている。どうぞ』

 

「戦闘艦隊より左営基地。これより我らは撤退する。我々が撤退した後、防衛線を台湾南方まで押し上げる。どうぞ」

 

『左営基地より日本皇国海軍所属艦隊。帰路に気を付けて。どうぞ』(※以上の台詞まで全て英語でやり取りされています)

 

 金剛が受話器を置いた。そして再びメモを俺に見せてくれた。

交わしていた言葉から、なんとなく内容は読み取っていたが、やはりこうやって日本語訳があると良い。すぐに指示が出せるからな。

 戦域担当妖精は既に身構えており、本隊や支隊からも何も入ってこない。俺の指示待ちだ。

 

「作戦行動中の艦隊に通達。これより撤退を開始。横須賀鎮守府へ帰投せよ」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 高雄沖琉球郷付近で停泊していた台湾攻略艦隊と偽装台湾支援艦隊は、出撃から10日目未明から抜錨し出航。12日目早朝に端島で補給を受けた後、すぐに出航。14日目の夜には鎮守府に到着していた。

 伊勢からの報告を受けて艦隊の状況を確認するが、目の前で立っている伊勢の様子がどうもおかしい。到着してすぐに入渠場に艤装を入れてから、ここまですぐに来たと言っていたが、報告はスムーズに進むものの、それが終わった後がおかしい。

俺はいつもの机に向かって手元で報告内容を纏めているが、伊勢は終始うつむいたままだった。表情もデリカシーがないが、ここから見る限り沈んでいるようにも見える。また、何か悩んでいるようにも見えた。

 ある程度キリの良いところまで進行して切り上げ、俺は伊勢に声を掛けることにした。

何か今回の作戦で引っかかることでもあったのだろうか。俺はそんなことを考え、そしてどんな言葉が出てくるのかを想像しながら問いかける。

 

「どうした、伊勢?」

 

「うん。実は、さ」

 

 伊勢はそう言って切り出した。

 

「行きに端島鎮守府で補給を受けたじゃん? その時に担当艦娘だった娘と話す機会があったんだ。だがらさ、少し話したの」

 

「そりゃ良いことだ。演習でもほとんど話せないらしいし、他の鎮守府の艦娘との交流は良いものだろう?」

 

「……良いもの、なのかな? 私はそうは思えなかった」

 

 踏み抜いた、そう確信した。これは俺も、伊勢も踏んではいけない特大地雷を踏み抜いたに違いない。

 

「こっちには端島鎮守府のこと、どれくらい流れてきてるの?」

 

 恐る恐る、といった感じに伊勢がおずおずと訊いてきた。俺は素直に答える。

 

「あまり、そういうのはないな。知っていることは精々、最近まで燃料・弾薬不足だったってことくらいだが……」

 

「やっぱりそうなんだ。そりゃそうだよね。もし聞いていたら、提督は何かアクションを起こすはずだし」

 

 そんな返答でもない言葉が伊勢の口から漏れ出し、何を見聞きしたのかの検討が付き始めた。

伊勢が見聞きしたものはきっと、心理的に相当な負荷がかかる内容だろう。

 

「端島鎮守府は提督がこっちに戻ってくるまでの間、戦線交代の影響で補給路が絶たれる危機にあったんだって」

 

「……それは、状況的に考えればそうなるが」

 

「端島鎮守府は補給物資が備蓄されている港と鎮守府を繋ぐ航路の維持のために戦力を総動員していた、って」

 

「……」

 

「覚えがあると思うけど、端島鎮守府は戦闘経験値が極端に低い。それに遠征任務が主任務になっていたからさ……」

 

 もう伊勢が何を知ったのかが分かった。

 

「それまでの遠征でも帰ってこない艦娘が居て、戦線後退に伴った補給路確保の任務でもどんどん艦娘が」

 

「……練度に見合わない遠征任務と、酷使した結果がそれか?」

 

「うん。私も聞いていてそう感じた。だから……ッ!! だから提督!!」

 

 立っていたところから足を踏み出し、俺の向かっている机の真ん前まで進んで来た。そして、ダンッ!! と机上に手を付いて俺に顔を寄せてくる。

目は真剣そのもので、そして今にも涙を流しそうだった。

 

「助けてあげて!! 皆を!!」

 

 伊勢が言いたいことは分かっていた。そしてしてあげたい、と思っていたことも。俺がここで何かしらのアクションを起こせば、きっと端島鎮守府の艦娘たちの扱いは良くなるかもしれない。だが、俺は引っかかるところがあったのだ。

端島鎮守府の司令官だ。何度か見たことがあるが、海軍の佐官の1人であることは知っている。それに端島鎮守府を任される程の人材だ。新瑞も問題ない、と判断して派遣したに違いない。

だが、艦隊運営に適性があったか、と聞かれたら首を傾げざるを得なかった。

先のFF作戦にて、端島鎮守府派遣艦隊は判断ミスを重ねに重ねていた。航空戦と艦隊戦の指揮は確かに同時進行の難しいことかもしれない。だが、当時俺が随伴して派遣した艦隊よりも艦隊のネームバリューは格段に上だったのだ。大和型戦艦2に第五航空戦隊、運用次第では俺たちが必要ないんじゃないかとも思える戦力だった。艦隊は最新でも装備が旧式だった。そして、大局を見ない身勝手な戦術。とてもじゃないが"優秀な指揮官"とは言えなかった。

 その指揮官の指揮の下、補給路防衛戦にて次々と艦娘を投入。結果はFF作戦からして分かるように、辛うじて維持出来ていたのだろう。もし補給路が絶たれていたならば、今もこうして接触することなんてなかったのだ。

そんなところで、艦娘たちは『意味のない死』を強制されていたのかもしれない、というのが伊勢の訴えだったのだ。

 

「確かに今の話を聞いた限り、伊勢の思った通りの指揮官なんだろうな」

 

「……うん」

 

 具体的にどう思ったかなんて口にしないが、良いように思っていないことは確かだった。

 だが俺も、疑っているところがあった。それは"人となり"だ。

端島鎮守府の司令官が何をしたのかは知っている。だが、直接私的な話をしたこともない相手だ。大本営で顔を合わせたのが数回の相手、そんな相手を少ない情報で判断するのは間違っているとも思う。もし、今回の件が大本営で取り上げられたならば、端島鎮守府の司令官は何かしらの軍法会議に掛けられるか、直接軍法会議無しの罰則が与えられるかのどちらかに1つ。

ならば、と思い立つ。俺は確かめたいことが出来たのだ。

 

「分かった、伊勢」

 

「え?」

 

「端島鎮守府の司令官と話してくる」

 

 俺はそう宣言し、伊勢にこれ以上の報告が無いか確認を取らせた。そもそもこの話をし始めたのは、報告が終わった後だったので、もちろん報告漏れがある訳もなく、少し確認した後に伊勢を戻らせた。疲れているだろうから、と本隊・支隊の艦娘たちに十分な休息を取るように伝えて、少し暗いままの伊勢の背中を見送る。

 俺は椅子からお尻をずらし、天井を見上げた。もう執務室には俺以外誰も居ない。伊勢が報告に来たのも、今日の秘書艦が帰った後だった。それに大井のように勝手に私室に入ってテレビ見たりするような艦娘でもなかったから、私室にも誰も居ない。

そんな居慣れた空間で、俺は虚空に呟いた。

 

「無能か無能じゃないか……か。俺はどっちなんだろうな」

 

 誰も答えない質問を空に投げつけ、俺は立ち上がった。

端島鎮守府の司令官との会談は明日から準備に取り掛かればいい。そう決め、俺は私室へと戻っていったのだった。

 





 今日は珍しく注がありません(メメタァ)

 今回で台湾周辺を確保したことにしておいてください。
それと台湾との外交の話がそろそろ出てくるのであしからず。

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