艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※注意 提督の視点になります

※注1 秋津洲

 前々作にてビスマルクらよりも先に端島鎮守府から移籍してきた艦娘。艤装を使った戦闘経験は全くなく、基本的に二式大艇の偵察任務しか行ったことが無かった。
横須賀鎮守府に来て数か月は近海の長距離偵察を専門に請け負っていたが、現在もそれは行っている。それと並行して、何故かステータスを家事スキルに全振りした秋津洲は度々提督のために食事やおやつを作って差し入れをしている。




第6話  南西諸島北海域制圧作戦 その3

 

 接敵の連絡を受け取ったのは、作戦開始から6日目の0612。台湾北西にて深海棲艦の機動部隊を偵察機が補足。航空戦に入るため、発艦開始を発令したところだという。

俺はここのところ遅くまで起きていたからか、まだ眠くはないが少し瞼が重い。そんな状況下で自分の頬を叩き、無理矢理にでも目を覚まさせて作戦室のいつもの位置に立ち竦んだ。

 作戦室は薄暗く、少し肌寒い。俺から見て正面には大きなモニタがあり、そこには戦域情報や出撃中の艦隊の損傷具合、残弾、残燃料、戦域を飛行中の艦隊の偵察機に取り付けられたカメラから送信されている映像が表示されている。画質は荒いが、天候や波の状態は分かる。

 

「敵機動部隊の編制。空母1、戦艦1、重巡1、軽巡3」

 

「伊勢は飛龍航空隊の零戦隊、彗星隊を出撃させ、自身と日向の瑞雲隊28機を爆装させて出撃。計73機による第一次攻撃隊が上空4000mを敵艦隊に向けて飛行中」

 

「先行する偵察機より入電。敵機動部隊より迎撃機が発艦開始。およそ20。続いて艦爆隊が甲板上に出されています」

 

 少し考えた後、今後の展開を予想する。恐らくこのまま第一次攻撃隊は侵攻。敵艦隊上空で迎撃隊とかち合うか、それよりも先に航空爆撃を行うかどうか。

それと同じくして、艦隊自体が戦闘速度を出していた場合、砲雷撃戦に突入するのか否か。恐らく順番を考えると、第一次攻撃隊から第二次攻撃隊、砲雷撃戦へと入るのが定石ではあるが……。伊勢はどういう風にこの戦闘を持っていくつもりだろうか。

 戦場が刻一刻と変化していく中、戦域担当妖精が支隊の状況を確認したみたいだ。

全体への報告が入る。

 

「支隊、動きなし。支援航空隊の発艦、認められません」

 

 支隊の旗艦は龍驤。割と遅くに進水した艦娘だが、旗艦を任せても問題ないと俺が判断した。それに同艦隊には鳳翔が居る。何か判断ミスをした場合、龍驤へ何かしら伝えるだろうし、独断で艦隊全体に何か言うかもしれない。そう考え、俺は龍驤を旗艦に据えた。

その支隊は支援航空隊を出さないと判断した。そして、慌ただしくならないことを鑑みると、鳳翔も支援航空隊は必要ないと判断したんだろう。俺もこの状況で龍驤の立場ならば、支援航空隊を出す決断を下さない。飛龍航空隊は赤城航空隊と比べると練度は低いが、それでも歴戦の航空隊だ。特に有能な艦攻隊が先天的にいるし、装備も良いものを使っている。零戦隊も赤城航空隊に鍛えられ、加賀航空隊としのぎを削っていた。航空戦で負けることはないだろう。そう俺は踏んでいた。確信していた。

 南西諸島海域に出現する深海棲艦の練度は、俺たちの鎮守府の艦娘と比べるとお世辞でも肩を並べられるとは言えない。それなりの経験を積んでいる、としか評価が下せない程度なのだ。

だが、万が一のこともある。先手を打とう。もし外しても、言い訳はある。

 

「支隊へ緊急」

 

「はッ!!」

 

 戦域担当妖精が支隊への連絡を試みる。すぐに繋がるはずだ。

間髪入れずに、俺は伝達内容を言う。

 

「直掩分の艦載機のみを残し、龍驤・鳳翔航空隊は発艦開始。護衛は最低限で良い。発艦後は」

 

 スッとモニタを確認する。鳳翔航空隊で偵察中の零戦が居た。艦隊が近くに居るみたいだ。

それに空の状況もよく分かる。曇り空ならば……。

 

「雲に隠れて接近し、第一次攻撃隊退避後、すぐに急降下爆撃及び水平投射雷撃を敢行。護衛は迎撃隊と対空砲火を引き付け、第一次攻撃隊と支援攻撃隊の退避を援護せよ」

 

 支援攻撃隊が安全に敵艦上空に接近するためとはいえ、こちらもリスクを背負う。もしこの手を読まれて雲内に迎撃隊が突入していた場合、かなり接近された状態で攻撃を受けることになる。支援攻撃隊は流星で編成されているが、俺が本来ならばない筈の使い方をしている流星だ。本来は艦上攻撃機ではあるが、航空魚雷ではなく航空爆弾も積むことが出来る。搭載量はぶっちゃけ彗星よりも多い。800kgが積める。これは大きい。更に爆弾投下後に身軽になった流星は固定武装の20mm機関砲2門を使って空戦をすることが出来る。とはいえ、格闘戦は無理がある。翼面積が広すぎる。被弾面を敵に見せ過ぎるのは良くない。

もし、艦隊上空で迎撃隊と空戦に入っても十分ではないが対応可能だ。

 これでどうなるか……。気になるところではあるが、続報が入る。

 

「第一次攻撃隊、敵艦隊上空に到達。ここまで迎撃隊と接敵なし」

 

 恐らく第一次攻撃隊も雲を利用して接近したんだろう。飛龍ならその手を使うはず。だが待てよ。

この天候、俺たちは雲を隠れ蓑に艦隊に接近した。

 

「っ?! 本隊に緊急ッ!! 直掩隊を緊急発艦だ!! 敵も」

 

 そう言いかけた刹那、映像には黒い斑点がいくつも映り込む。その映像を送信しているカメラは飛龍の偵察機だ。

失策だ。飛龍も身構えていただろうが、直掩を出しておかないのは不味かった。既に甲板上には出ていた直掩隊は次々と飛び立つが、既に本隊の対空砲火が空に閃光を走らせていた。

 

「クソッ!!」

 

 画面を睨む。注意が甘かった。敵がこの手を使わないなんて誰が言ったというのだ。

だがおかしいこともある。確か艦隊発見時には1機たりとも発艦していなかったはずだ。そこから第一次攻撃隊が発艦し、その後偵察機を見つけたのか迎撃隊が発艦を始めていた。そして接近するまで迎撃は一度もなかった。……狙いはこちらの空母かッ!! じゃああの迎撃隊は艦上戦闘機が爆装しているというのか。

そうなると非常に不味い。爆装している艦上戦闘機……最悪だ。恐らく爆装している航空爆弾の総炸薬量は、艦上爆撃機が投下するそれと比べるとかなり少ない。それでも数が違う。普通に考えれば懸垂しているのは2発だ。それが迎撃隊(仮)全機に装備されているとすると、確実に40発はある。今上がっているこちらの迎撃隊が迎撃隊(仮)の迎撃に善戦したとしても、そこを抜けて艦隊上空に抜ける機は1機は絶対に居る。そこから対空砲火を掻い潜り、誰かの艤装に投下。それが至近弾の可能性は……練度的に考えても低い。直撃なら猶更……。だが確率論、机上の空論だ。

もしその何%を引き当てたのなら、初戦で航空爆撃を食らうのは不味い。

 この俺の緊張を汲み取っているのだろう、戦域担当妖精も固唾を飲んで見守っている。

報告はするものの、俺が命令を出す必要のないものばかり。それよりも俺は迎撃隊(仮)がこちらの迎撃を掻い潜って艦隊上空に抜ける方が重要だった。

 心臓が胸の内側で飛び跳ねる。肺にも跳ねる力をぶつけているのを感じながら、俺はすぐに何かが起きた時のために対応できるよう、気づいたら瞬きもあまりしなくなった。

ドクンドクンと耳に伝わる拍動、時の流れが極端に遅く感じ、モニタの映像がゆっくりと進む。

いち早く発艦していた迎撃隊、零戦が速度を犠牲にかなりの角度で上昇を開始。失速するまでに敵の下っ腹をド突くことは……多分出来る。それだけで20機の編隊を全滅させることが出来るのか?

 画面越しには伝わってこない機関砲と機銃の同時射撃音を頭の中で連想しながら、映像からは目を離さない。

時が進めばおのずと結果も出てくるというものだ。結果は発艦できた迎撃隊先発7機が13機仕留めた。艦隊に到達するまでに海に墜落。残る7機も下方からの攻撃の為に散開。敵は経験不足だった。そして侮ったのかもしれない。

7機は急きょ編隊を組み直し、攻撃した先発7機が失速する前に反転下降したのを好機と睨んだのだろう。集合した編隊はそのまま下降中の先発7機に襲い掛かった。これが誤りだったのだ。

迎撃が7機だけな訳が無い。次々と発艦していた後発の迎撃零戦隊は高度を取って、反転下降。先発零戦隊の背後に付こうとした敵編隊に襲い掛かった。降下速度を発動機によって加速することで、効果速度は水平飛行時よりもずっと速度は出る。だが後発迎撃隊はある程度速度を取って反転下降を開始すると同時に、恐らくスロットルを絞った。発動機の発する騒音を少しでも減らし、敵に感知されるのを遅らせるためだ。不意を突かれた編隊は全て撃墜された。

 飛龍航空隊も着実に練度を上げてきている。それが俺の今回の戦闘で感じた飛龍航空隊の評価だった。

だが、それを今伝える訳にはいかない。すぐに集中していた画面から、全体的に均等になるように目配せを始める。耳はずっと開けたままだ。いつでも戦域担当妖精の声が聞こえるように。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 この後、第一次攻撃隊と支援攻撃隊の攻撃により、深海棲艦の艦隊は戦艦と重巡が撃沈され、空母も大破させた。軽巡らは第一次攻撃隊に混じっていた零戦隊に翻弄されながらも、第二次攻撃隊の制空権の取られた状態での余裕のある彗星隊による航空爆撃と流星隊による追加の航空雷撃に為すすべなく被弾させられた。その後は砲雷撃戦に突入。損傷が激しかった残りの軽巡らは為すすべなく轟沈。

初戦は失策があったものの、こちらの完全勝利になった。損害は飛龍航空隊で未帰還の零戦が1、彗星が1となった。それ以外は損傷を受けつつも、無事に母艦に戻ってくることが出来た。

 戦闘を終えた後、ひと時の安らぎが訪れる。

俺も作戦室で、定位置に置いてある椅子に腰を下ろしていた。

 

「お疲れ様でした、提督」

 

「あぁ」

 

「飛龍航空隊、流石ですね。着実に練度を上げていっているのが、航空隊を持たない私でも分かるほどに強くなっているのが分かります」

 

 隣で冷静に飛龍航空隊の評価をしているのが今日の秘書艦である大井だ。昨日の秘書艦との入れ替わりは、鎮守府が作戦行動中のために、起きた状態でその場で入れ替わる形式を取っている。

昨日の秘書艦である那智と一言二言交わした後、すんなりと交代した。日付変更の20分後くらいに。

 それ以来、ずっと隣に腰を下ろして本を読んでいるか、モニタを眺めているか、仮眠を取るくらいしかしていない。

俺はまだ仮眠を取ってないけどな。うとうとし始めたところで、何かを感じ取って起きてみたら5分後くらいに戦闘が開始されたからな。ちなみに現在時刻、午前8時過ぎ。とても眠たい。

 

「伊達に赤城のサンドバッグはやってないだろ。加賀の練習にも付き合っているみたいだしな」

 

「訓練で培ったものだったんですね。……というかサンドバッグって」

 

「事実だろう?」

 

 赤城航空隊の訓練は基本的に、同じ航空隊内で赤白に分かれて航空戦をしたりするものがほとんどらしい。だが、それだけではつまらないということで、加賀や飛龍に相手を頼んでいるみたいだな。

そりゃ、あんな化け物航空隊の練習に付き合って練度が高まらない方がおかしい。俺からみても赤城航空隊は"異常"だ。

機体が空中分解する制限速度を優に超える降下速度で急降下して爆弾を投下したり、フラップが吹っ飛ぶだろってレベルで空戦中にフラップを開いて旋回するし、この前流星搭乗妖精が『総撃墜数200おめでとう』っていうパーティーを開いているのを見かけたぞ。

まぁ、そういう航空隊に仕立て上げたのは俺なんだけどな……。

 

「本当、ウチの航空隊は化け物ぞろいですよね……」

 

「化け物なのは赤城くらいだろう?」

 

「……せめて"赤城航空隊"って言ってあげましょうよ。赤城さん、みっともなく泣きますよ? もしくは、その場で声を殺して泣きますよ?」

 

「泣くのか?」

 

 知ってる。多分赤城は後者だ。"声を殺して泣く"方。

だが、俺は大井には言わない。少しジト目で見てくるが、俺は言わないからな。

 

「はぁ……それで、どうします? 今から仮眠取りますか?」

 

「いいや。大丈夫だ」

 

「なら朝食ですね。夜明けと共に戦闘開始でしたから」

 

 椅子に腰を下ろして時計に目を向けると、時刻は午前8時を過ぎていた。6時から2時間もの間、ずっと戦闘指揮を行っていたことになる。

ある程度は伊勢に任せていたところもあったが、それでも俺が補わなければならないところもあった。

伊勢も進水したてではない。それなりの戦闘経験はあるから、全体の指揮に問題はなかった。だがやはり航空攻撃の指示は、自身が戦艦から航空戦艦へと変わったこともあり、そして、航空機運用に関してはそこまで勉強をしていないことは知っていたから、そこまで重視しているようには思えなかった。

長門や金剛、扶桑、山城みたいに自身が空母を含んだ艦隊の旗艦になった際、空母に上空の攻撃・偵察・迎撃の指揮権を委譲することで、それなりに連携力は落ちるかもしれないが、空母の練度によってはそれで十二分に戦うことが出来る。

何にせよ、どうするのかを決めるべきだったんだな。

 そんな風に考え事をしていると、大井があることを聞いてきた。

 

「さっき朝食って言いましたけど、今日までどうやってご飯を?」

 

 あー、忘れていた。大井は那智からそれを聞かずに交代していたなぁ……。

 

「朝食は秋津洲が地下司令部にあるドックに艤装を出して作ってくれる。昼食は俺が作る。夕食はその場で決める」

 

「えぇ……」

 

「なんだよ」

 

 大井がフリーズしたが、何かあっただろうか。

 

「あ、秋津洲さん……」

 

 そこかよ。

 

「いいじゃないか。秋津洲の飯、美味いんだから」

 

「私も料理の勉強、始めようかしら」

 

「え?」

 

「何でもないですよーだ!! で? 秋津洲さんは地下ドックに来ているんですか?」

 

 嘘。聞こえていた。

 

「あぁ。もういるぞ」

 

「じゃあ速く行きましょう」

 

 スッと立ち上がった大井がいつもより若干早歩きで出口へと向かう。俺もその後を追い、2人で秋津洲で朝食を食べた。(※注)

大井はどうやら秋津洲に作ってもらうのは初めてだったらしく、結構驚いていたな。そういえば、3日前の高雄とか食べ終わった後に秋津洲のところで色々話していたな。秘書艦の仕事も忘れて。

 





 前回は伊勢の視点でしたが、かなり端島鎮守府の提督のことに対する反応が多かったと思います。それ以外にも気付いて欲しかったところは多々ありますが……。

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