ハイスクールDragon×Disciple   作:井坂 環世

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プロローグの2話目です。1に比べて少し短いです。


2 誕生と決意と修業地獄

その日、とある1つの家は騒然としていた雰囲気に包まれていた。家長は落ち着きをなくし、その妻もその顔に焦りの色を浮かべている。何が彼らをそこまで不安に駆り立たせるのか?

 

それは、今年4歳になる彼らの愛の結晶である愛息子が高熱にうなされているからだった。それも尋常じゃないほどの高熱だ。体温計が42℃を指した時彼らは故障かと疑った。しかし、何回計ってもその数値は変わりなく、また、病院にかかっても同じ数値を出したのだからその現実を認めるしかなかった。

 

原因不明の高熱。病院でも対処のしようが無いと聞いた彼らは、せめて家で付きっ切りで看病しようとしたのだった。

 

その高熱に魘されている少年の名は風林寺 翔(ふうりんじ かける)。その家の騒動の渦中にいる彼は現在、高熱に苦しみながらも1つの夢を見ていた。

 

それは1人の少年の人生の記憶。取り立てて特別な所など無かったが、それでも最後の最後で勇気を出して散っていった。そのはずだったのだが、2度目の生を得る権利を得て、今度こそは強く生きようと決意した少年の想いを翔は追体験していた。

 

それは小さな少年に取っては余りに大きな情報量。故に脳はオバーロードし、少年を高熱が襲っているのだった。

 

それから一週間もの間翔は夢を見続け、高熱に魘され続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

熱が引き、目が覚めた翔は前世の記憶と、そして自らの能力についての知識を手に入れていた。しかし、あくまで意識は風林寺 翔のままだ。「風林寺 翔」という人格の持ち主が「福島 裕也」という前世の記憶を持っている感覚に近い。

 

しかし、両親の教育の賜物か、あるいは魂が同じだからか。翔もまた裕也と同じく弱気で内気だが善良で優しい性格をしていた。

 

そして、翔は大きな衝撃を受けていた。或いは感銘と言ってもいいかもしれない。裕也の最後の「強く生きたい」という想いに感動し、自らもそうなりたいという想いが泉のように滾々と湧き出し、翔の胸のうちを満たしていた。

 

(僕には「強くなる」ということがどういうものかはまだよくわからないけど、でも、それでも彼の最期の想いを叶えてあげたい。)

 

そして、翔にはそのための手段が備わっていた。そう、裕也が神に頼んでいた特典である。神はその特典の名前や使い方、そしてその概要などをきちんと翔に与えてくれていたのだった。

 

(ワン・オフの神器(セイクリッド・ギア)。僕だけのための達人達の住む異空間か。)

 

その名を武術家の楽園(ユートピア・オブ・マスターアーツ)。「史上最強の弟子ケンイチ」に出てくる主要なキャラ達が住む異空間。その空間はまさに武術家たちにとっては楽園で、山、川、海、密林、雪山、火山、砂漠、など修行する場に困ることは無く、また修行道具や、それを作るための機材。さらに快適な居住スペースまであるという至れり尽くせりな不思議空間だ。

 

翔や翔が許可を出した上で翔に害意や敵意、殺意に警戒心などを抱いていない人物のみが入ることが出来る。そこに住む達人達はある意味で魂だけの存在みたいなものなので、あくまで外の人間が中に入ることは出来るが達人達が外に出ることは出来ない。

 

外面に干渉することは出来ないため、攻撃能力などは皆無だが、これほど自らを鍛えるのに相応しい神器も存在しないだろう。何せ中に存在するのは自らの肉体とその操作方法を極めた達人と呼ばれる人種なのだ。

 

(僕にはまだ漠然とした想いしかないし、信念と呼ばれるものじゃないかもしれないけれど・・・。でも、強く生きたいという想いは本物のはずだ!)

 

そうして翔は決意する。両親は普通の社会人で、自らはその息子の普通の人間だが、自らの体と心を鍛え、強く生きていくことを。

 

この日、風林寺 翔は武術家に成ることを決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もう死ぬ!!!!いや、いっそ殺せ~~~~!!!!」

 

まだ年若い、というよりは幼いと形容されそうな高い声が、意味不明な叫びを上げていた。その叫び声には必死な色が見え隠れしており、ある意味で悲痛ささえ感じさせる。

 

が、その程度のことで彼に手心を加えるような人種は残念ながらここには存在していなかった。

 

「ははは、何を言っているんだい翔君。この程度で人は死にはしないよ。」

 

そう笑うのは胴着に袴を穿いている男性。口ひげが特徴的で、髪が左右に跳ねている。彼の名は岬越寺秋雨。哲学する柔術家の異名を取る柔術の特A級の達人である。

 

そんな彼が何をしているかというと、団扇を仰いで火を調節していた。それだけならばキャンプなどでも見かける光景だろう。あくまでその上で人が括り付けられていなければの話だが。

 

そう、人が炙られているのだ。木製の鉄棒に足を括り付けられ、火が直接あたって燃えないようにしているものの、熱いのは変わらないし、火傷するのも変わらない。まるでも何も拷問そのものだった。

 

しかし、これは拷問では無い。あくまで修行なのだ。その名も「するめ踊り(名前をつければ良いというものじゃない)」。腹筋と背筋を鍛える基礎鍛錬である。腹が熱くなって火傷する前に背中を向け、背中が火傷する前に腹を向け・・・、と本人の意思とは関係無く、限界以上の力を出すことにより効率的に腹筋背筋を鍛えることが出来る上に、精神も鍛えることが出来るというお得鍛錬である。

 

しかし、あくまでお得なのは師匠にとってだろう。やっている本人にとっては堪ったものではなかった。

 

しかし、こんなものはここでは日常茶飯事である。誰かしらの達人が翔を鍛え、そして翔が悲鳴を上げるなんてものはここの住人にとってはもう見慣れた光景なのであった。

 

あの日、翔が強くなる決意をした日。翔は自らの神器である武術家の楽園に入り、まずは梁山泊の面々に自らを鍛えるように頼み込んだ。初めは幼子故にそこまで強い思いじゃないだろうとNOを出されていたが、強く頼み込むと折れて鍛えてくれるようになったのだった。

 

そうして鍛え始めると、翔が中々に筋が良いことが判明。梁山泊の面々が面白がって色々な武術を叩き込もうと画策していると、元の世界では絶対に相容れないであろう闇の面々が合流。この世界では人を殺すことも無いため比較的対立していなかったことにより話し合いが為された。

 

その結果、「活人拳の梁山泊と殺人拳の闇の両方の教えを受けた存在が出来上がったら面白いんじゃね?」という結論に達し、そのどちらを選ぶかは当人に任せ、取り合えず色んなことを叩き込んでいこう。と言うことと相成ったのであった。

 

翔はもちろん普通の善良な人間のため活人拳を選び、しかし武術に関しては様々な達人から教えを受けるという贅沢な環境が出来上がった。

 

そんなわけで鍛え始めてから5年が経ち、色々な達人達と触れ合ったり、外で大切な友人が出来たりすることで「大切な人を守るために強くなる」と強く思うようになり、今現在も修行に励んでいるというわけである。

 

しかし、その修行も壮絶極まるものであるために、初めのような叫び声がよく上がるという訳なのだった。

 

今現在の翔の段階はあくまで体の基礎と各武術の基礎の基礎を叩き込まれている最中。教えを受けている武術の数が多いだけに、基礎を叩き込むだけでも時間が掛かる。高度な技はまだまだ先、という段階だった。

 

しかしこれも師匠達の計画の内。体が出来上がらないうちは高度な技は教えずに、ひたすら基礎工事に従事しようと決められているのであった。

 

「じぇ、じぇろにも~~~~~!!!!」

 

そんなわけで、翔の修行の日々は続いていくのであった。




題名の元ネタ・・・バカとテストと召喚獣

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