ハイスクールDragon×Disciple   作:井坂 環世

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イッセー対ライザーですよ!!

楽しんでいただけたら良いなと思います!



イッセー準主人公タグつけました。


10 戦闘校舎のカラテルーキー

「不死鳥と恐れられた我が一族の業火!! その身に受けて燃え尽きろ!!」

 

赤龍帝対不死鳥。まず動き出したのは不死鳥だった。

 

駒王学園を模して造られた戦闘フィールド。その運動場を茜色に染め上げながら噴出した焔を相手目掛けて発射する。

 

触れれば体を燃やし、更には炭化さえさせかねない熱量を持ったその一撃に対して、一誠は避けることはしなかった。

 

右手に魔力を宿らせる。それにより赤色に覆われた右手の平を体の前方で半円を描くように振るった。

 

「フッ!!」

 

その動きと連動するように、宿らせた魔力が放出され、赤き旋風となって一誠の前方で渦巻いた。

 

その渦巻きと焔が接触――結果、焔はその進行方向を逸らされて明後日の方向へと飛んでいった。

 

ライザーが炎の残滓越しに見た一誠の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「なるほど……。大口を叩くだけのことはある……。炎対策はしっかりしてきたというわけだ」

 

「あぁ。木場に手伝って貰ってな。……あいつは本当に器用な奴だぜ」

 

余裕の笑みを浮かべている一誠だが……その内心はこうである。

 

(うわー! うわー! ね、熱風がぶわって! 危ねえ! 成功して良かったぁぁ~~!! っと、如何にも「炎は俺には効かない」って顔しとかないと! 遠距離から炎連打されたらやばいし! これ発動するのに時間かかっちゃうし……)

 

今一誠が使った技は、「新・廻し受け(未完成)」である。翔と黒歌の組み手にて翔が廻し受けで黒歌の放った炎を防いでいたのを着想の元とし創りだしたものだ。

 

廻し受けを魔力を用いて行うことで前方に魔力の渦を発生。物理的な攻撃だけではなく魔力的な攻撃も受け流せるようにしたものだ。

 

とは言え、この短期間で完成させることは出来なかった。また、元々の廻し受け自体を一誠がまだ習得できていないのでその成功率はかなり低い。

 

今回は、相手がまず炎を放ってくるだろうと予想して戦闘が始まる前から時間を掛けてイメージを組上げていたため成功させることが出来たが、本来は相手の攻撃が放たれてから発動しようと思っても発動できないくらいの完成度しかない。

 

遠距離戦を行われたら現在の一誠にはまず勝ち目がない。そのためライザーに「遠距離攻撃は無駄か」と思わせるために、無理をしてこの技で炎を防いで不敵な笑みを作っているというわけだ。

 

そして、一誠のその作戦は成功したと言えるだろう。実際、ライザーは一誠に遠距離からの炎は通用しないと思っているようだ。

 

「ふん。遠距離から当てられないなら、直接叩き込むまでだ!」

 

その言葉と共にライザーが一誠に突っ込んできた! その手には炎が轟々と燃え盛っている。

 

炎の中で拳を握り締める。ギリギリという音が体内から聞こえそうな程に力を込めながら――相手(一誠)の顔面目掛けて振りぬいた!

 

しかし、それは一誠によって防がれる。

 

ガン! という音を響かせて一誠の左手の赤き龍帝の篭手とライザーの炎拳が衝突した。

 

しかし、流石の不死鳥の炎も二天竜の鱗を溶かすまでには至らない。

 

「チィッ!!」

 

攻撃を防がれたと察したライザーが右拳を引いて残った方の手で攻撃を加えようとした時、一誠の左手がライザーの右手首を掴んでいた。

 

「あんまり俺を舐めるなよっ! ライザー!!」

 

炎の灯っていない手首を引っ張られる。前方に引っ張られたことによって態勢を崩し前へとつんのめった。

 

左手を引くのに合わせて右手を突き出す。いつものように正拳を握るのではなく、指を伸ばしたままその腕に回転を掛けて相手の顔目掛けて突き出した。

 

「人越拳ねじり貫手!!」

 

真っ赤に染まった右腕がライザーの顔面を穿ち、鮮血が辺りを彩った。

 

 

 

 

 

ハイスクールDragon×Desciple

 

第2章 第10話 戦闘校舎のカラテルーキー

 

 

 

 

 

顔に穴を穿たれたライザーが衝撃で吹っ飛んでいく。その光景を離れたところから見ていたリアスたちは、その()を一誠が使えたことに驚いていた。

 

「あれは……。確か、バイサー相手にあなたが使っていた……」

 

「そうだよ。どうやらあれが隠れて特訓していた技の正体というわけだね」

 

地面に倒れたライザーの顔から炎が噴出し、その顔を再構築していく。

 

何とも相対するものからしてみれば面倒臭そうな能力だと内心で感想を漏らしながら、翔は話を続けた。

 

「とは言え、どうやら習得したわけじゃなくて、魔力を使って再現したものみたいだけど」

 

そもそも貫手とは、指を伸ばして相手を突くという性質上、突いても脱臼や骨折等の故障をしないように手に鋭さや硬さを持たせる基礎修行が必須である。

 

10日という短期間でそんな修行をある程度とは言え修めることが出来る筈もなく。その時間を短期間に縮めることの出来る才能を一誠が持っているわけでもなく。

 

そこで一誠は、「硬化」と「先鋭化」という性質を付加した魔力で腕を覆うことでその基礎修行の代わりとしたのだ。

 

だからこそ、翔は一誠が披露した「ねじり貫手」を「習得」ではなく、「再現」したものだと評したのだ。

 

「とは言え、あの技はイッセー君にとっても思い入れが強いようだし。曲りなりにもあの技を使えるようになったっていうのはイッセー君の自信になるんじゃないかな?」

 

その言葉を証明するように、立ち上がって再び突っ込んできたライザーの、炎を纏った突進を左手の篭手を用いて逸らし、背後を取ったところで再びねじり貫手で体を貫いていた。

 

本来なら相手を殺してしまいかねない(というより実際に殺している)攻撃だが、相手が「不死身」であること。そもそもレーティングゲームでは救護室が用意されており、悪魔が死亡するということが無いようにしていること。それらの理由から思い切って使えているようであった。

 

腹を貫かれたことでよろけたライザーは、腹を炎で再生しながら一誠と3メートル程の間合いを取って向かい合っている。

 

「なるほど。そこそこはやるようだ。『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』を持っているというだけではここまでは戦えない。きっちりとトレーニングをしているというわけだ」

 

「ま、師匠が良いもんでね」

 

「だが――それでも俺に勝てる程じゃあない!」

 

ライザーは再び一つ覚えのように突っ込んでいく。

 

右腕を振りかぶり、炎を纏った拳を顔面目掛けて振り下ろす。

 

身長差のため、自然と打ち下ろしになるそのテレフォン・パンチを受け止めるために左手を掲げ――その拳が直前でピタリ、と止まったのを見て取った。

 

(――まずっ!?)

 

その光景に相手の意図を察した一誠が右手で腹をガードしようとして、

 

しかし間に合わず、相手の左手で腹を殴られたことで一誠は後ずさった。

 

「がふッ!?」

 

思わず息が漏れる一誠の目に、火炎の右足が振りかぶられているのが映ってくる。

 

息を整える間も無く迫ってきた、左側頭部目掛けての回し蹴りを上段受けで頭上へと逸らしながら受け止める。それと同時に、右足で相手の軸足目掛けて下段蹴り(ロー・キック)を放つ。

 

相手の体重を支えていた左足を払うことで相手が態勢を崩し宙へと舞った。

 

それだけでは終わらない。

 

相手の足を刈るのに使った右足の勢いをそぎ落とす事無く回すことで天高くへと踵を持ち上げ――その勢いのままに叩き落す!!

 

「シッ!!」

 

相手の命を刈り取るギロチンが、ライザーの頭を捕らえて地面へと叩き付けた!

 

地面と踵に挟み込まれたことで、その衝撃を逃す事無く伝えられた頭はまるで柘榴のように砕けて潰れた。

 

その場から一誠が再び距離を取ると、またもやライザーの頭を炎が包み込み――まさしくフェニックスの再誕のように傷一つ無い頭が出てきた。

 

首をコキコキと音を鳴らしながらその場に悠然と立つライザーの姿に、一誠は今している戦いがまるで意味が無いものだと言われているような気がして、どっと疲労感が押し寄せてくる。

 

「――で?」

 

そのライザーの言葉に一誠は確かに「だからどうした」という副音声を聞き取っていた。

 

思わず溜め息を吐きたくなる衝動を抑え、しかし愚痴は口から漏れ出ていた。

 

「――ったく。本当に反則チックだよな」

 

「反則チックとは、まあ否定はしない。赤龍帝には言われたくない言葉だがな。それに――」

 

ジロリ、とライザーの眼が一誠をねめつける。

 

その瞳は、獲物の弱いところを捉えて離さない、猛禽のような瞳だと一誠は感じた。

 

「思った通り、俺の炎を防げるのは先の技とその篭手だけのようだな」

 

ぎく、と一誠は内心で動揺した。

 

すぐにばれることとは言え――これがばれてしまうとかなりまずくなる。

 

その証拠に、ライザーの顔にはそう遠くない未来の勝利を捉えているような不敵な笑みが浮かび上がっていた。

 

「それさえわかればどうということもない。例え炎が効かなくても、お前を倒す方法は無数に用意できる」

 

そう、炎を使われたなら、一誠には避けるか、篭手で受けるかしか選択肢が用意できない。

 

なら、先のようにそれをフェイントに組み込んでしまえば、一誠を容易く嵌めることが出来る。

 

炎を喰らえば、生身の一誠は只ではすまないのだから。

 

「さあ、行くぞ? 決まりきっている結末へと向かってな!」

 

その言葉と共にライザーが突っ込んできた。

 

魔力を節約するためなのか。今はその背に炎を纏っていなかったので、先ほどまでよりかは速度の劣る前進だったが、それでも一誠からしてみれば充分に速い。

 

今度は左手。そこに炎を纏ってボディブローを放ってくる。避ける時間を与えられていないその攻撃を一誠は受け止めるしかない。

 

しかし、左腕でしか受け止められないために多少は無理が出る。斜め右下へと無理矢理持っていった左手で相手の攻撃を受け止めた。

 

無理な体勢で受け止めたため、一誠が衝撃で態勢を崩される。

 

その隙を狙って、右腕で側頭部(テンプル)目掛けてフックを放って来た。

 

その攻撃を、一誠は体を捻った態勢を利用して体を右回転させることでいなして流す。

 

更に、回転したことで生じた遠心力を利用した右の裏拳を相手の頬に叩き込んだ!

 

ライザーの上半身がその衝撃に流されて――しかし、そのダメージを無視するかのように前蹴りを繰り出してきた!!

 

攻撃直後だった一誠はその蹴りを避けることも防ぐことも出来ず、腹にまともに貰ってしまう!

 

「がはっ!?」

 

その一撃は一誠の内臓深くにダメージを残し、呼吸を困難にさせていく。

 

その痛み、呼吸困難が起こすその苦しさ。両方に思わず一誠は前屈みになってしまう。

 

ライザーの目の前に差し出される一誠の首。そこ目掛けて意識を断ち切るために放たれるは打ち下ろしの右(チョッピング・ライト)!!

 

「オラ!!」

 

その攻撃を感知した一誠は上体を思いっきり仰け反らせることで回避した。

 

それだけで終わらない。バネを限界まで仰け反らせた反動を利用することにより威力の上がった右の正拳を相手の水月に叩き込む!

 

「ぐっ!?」

 

意思に逆らうように固まるライザーの体。その隙を逃さないように左正拳を相手の左頬に突き出した!

 

「セイっ!!」

 

ドゴ! という音と共にライザーが吹き飛んだ。

 

そこで一誠は追撃を仕掛けるために走り出す。この戦いが始まって初めて一誠が受身にならずに仕掛けて行った。

 

ライザーが立ち上がる頃にはその体をもう少しで間合いに捉えるという所まで肉迫していた。

 

左腕を後ろに引く。ギリギリと引き絞って、その赤き矢()を突き出した。

 

「ハァッ!!」

 

(食らいやがれ!!)

 

ライザーの顔面目掛けて放たれた基本通りの正拳突き。赤龍帝の力を纏ったその拳は充分に必倒の威力を有していて。

 

 

 

 

 

『Reset』

 

 

 

 

 

その言葉が耳に届くと同時に、がくん、とその速度を落とした。

 

眼を見開いて驚愕と困惑に包まれる。何故――と一誠の頭を疑問が埋め尽くした。

 

その隙を逃すことなく、一誠の後から放たれた――しかし、一誠の()の拳より格段に迅い拳が一誠の頬を捉えた。

 

「がぁっ!?」

 

もんどりうって一誠が吹き飛ばされる。ゴロゴロと数度地面を転がってやっと停止した。

 

一撃。たったの一撃なのに、がくがくと震える手を地面へと着いて、何とか起き上がることに成功する。それほどのダメージを受けていた。

 

「ハァっ! ハァッ!」

 

先ほどまでとは比べ物にならない程に疲労している。それは大きく肩を上下させていることからも明らかだった。

 

急激に力が落ち、そして疲労が表に出てきたわけ――それは

 

「どうやら、赤龍帝の倍加が解けたようだな」

 

ライザーが確信を持ってその言葉を口にした。

 

それ自体は一誠も理解している。それでもその理由が一誠にはわからなかった。

 

(何でだよ? 修行中は、後数分は倍加が続いていた筈なのに――)

 

その理由を一誠の中に居るドライグは悟っていた。

 

(例え、どれほど実戦に近づけようが組み手は所詮組み手。初めてのレーティングゲームというプレッシャー。主のために頑張るという気負い。そして格上相手との闘い。成功率の遥か低い技を成功させるという賭け。それら全てが精神的負荷となって相棒の体力を急激に奪っていったのか――!!)

 

赤龍帝の倍加は確かに反則的な能力だが、その分体力の消耗が酷く激しい。そのためにも一誠は普段から体力を搾り出すような状況まで追い込まれてその体力を培ってきたのである。

 

だが、実戦の空気というのは思いのほか体力を消耗する。例え只その場に立っているだけだとしても。

 

それが、ここで顕著に現れた。

 

赤龍帝の倍加能力が無ければ、一誠は只の最近になって転生した下級悪魔にすぎない。

 

その中でも最下級の能力しか持っていない、と注釈のつく。

 

『Boost!!』

 

一回目の倍加を知らせる音声が校庭に鳴り響く。

 

しかし、増加停止をしない限りはあくまでも揺らぎやすい不安定な力に過ぎない。

 

そして、たった1回の倍加でライザーに追いつける程一誠の能力は高くなく。

 

これからは、相手の攻撃に晒されながら倍加を溜めていくという気の遠くなるような作業が待っていた。

 

しかし、それを見ている仲間からしてみれば、仲間と交代して回復しながら倍加を溜めればいい話で。

 

そう告げるためにリアスが声を張り上げようとしたところで、それに先んじるようにライザーの右手から炎が放たれていた。

 

一誠とライザーを囲むようにして炎のリングが出来上がる。それは闘いの介入を防ぐための防柵だった。

 

「ふん。こいつを回復されても面倒だ。そこでこいつがリタイアする様を眺めておけ」

 

その言葉に従う必要はない。

 

リアスは朱乃に眼で合図した。そこに含まれた意図を読み取って朱乃が翼を広げて飛び上がろうとする。

 

その機先を制するように、轟っ!!と音を立てて炎のリングがより一層燃え上がって朱乃たちの方向へと火炎を噴出した!

 

「くっ!」

 

それを避けるために横に飛び退こうとしたリアス、朱乃、小猫の眼に翔の逞しい背中が入って来た。

 

その両手で円を描かせると、その直前で炎が霧散する。

 

廻し受け。受け技の最高峰によって相手の攻撃を防いだ翔の顔は苦い感情で顰められていた。

 

「……どうやら、介入しようとすると迎撃してくるみたいだ。……見ているしかなさそうだね」

 

その事実に、リアス眷属と翔、その誰もがギリギリと歯を噛み締めていた。

 

 

 

リアス達がこの1対1に介入を試みていた頃、2回目の倍加を知らせる音声が鳴っていた。

 

しかし、倍加が溜まるのを黙って見ているなどライザーがする筈も無く。

 

一誠を撃破するのに充分な威力が秘められた紅蓮が一誠の目の前で花咲いた。

 

「くっ!」

 

それを避けるために一誠が横っ飛びにジャンプする。

 

一誠が居た場所の地面に炎が着弾した。

 

ドゴン! という爆音が一誠の背中を叩いてその体を宙へと弾き出す!

 

「ぐう!!」

 

ゴロゴロと地面を転がっていく一誠。何とか受身を取ってダメージを軽減したものの、その勢いが止まることは中々なく。

 

そして、一誠の転がっている先には既にライザーが回りこんでいた。

 

ライザーが足を振りかぶる。

 

その光景にぞっとした悪寒を感じ取った一誠だったが、何か行動を起こす時間は与えられることなく。

 

無常にも、ライザーの足は振り切られた。

 

「ガハァッ!?」

 

バガン! という鈍い音とともに衝撃が一誠の意識をシェイクする。

 

俗に言うサッカーボールキックが一誠の頭を捉えてその体を吹き飛ばした。

 

ゴロゴロと地面を転がって停止する。

 

『Reset』

 

倍加の力が霧散したことを知らせる音声が耳に届く。

 

しかし、一誠はすぐに起き上がることが出来なかった。

 

グラグラと歪む景色。鈍痛を訴える頭。動かすのに酷く労力のいる体。

 

そして、弱気な声を投げかけてくる心。

 

――いいじゃないか

 

――仲間が後に控えているんだし

 

――ここで無理をする必要は無い

 

――こんな俺が数回相手の「不死身」を削ったんだ。良くやったよ

 

――だから、ここで倒れても――

 

そう次々と甘い言葉が浮かんでは消えていく。

 

それら全てを、歯を食い縛ることで噛み殺して一誠は立ち上がった。

 

フラフラと揺れる足取りを見れば、そのダメージが深刻なのは明らかで。

 

どう見ても、誰が見ても、今の一誠に勝ち目なんて無くて。

 

でも――

 

『Boost!!』

 

その音声と同時に、一誠は躊躇いなく絶望的なその闘いへと一歩足を踏み出した。

 

 

 

凄惨な闘いが続いていた。

 

否、それは最早闘いとは呼べなかった。

 

一方的な蹂躙、暴力と呼ぶべきものだった。

 

ライザーの拳が一誠の頭を捉える。

 

バガン! という音を立てて地面を転がっていく。

 

そこ目掛けて放たれる不死の炎。

 

しかし、それは更に地面を転がることで辛うじて避けられた。

 

ライザーの視線を遮っている煙が晴れると、その先に満身創痍な一誠が立っていた。

 

その顔は最早元の面影は見るべくもなく。

 

何度も殴られたことで腫れ上がり、左目を塞ぎ。今は開いているかどうかも怪しい――しかし、まだ闘志の光を確かに宿している――右目でライザーを捉えている。

 

『Boost!!』

 

その音声を合図にしたかのようにライザーの右手から炎が放たれた。

 

その炎をフラリとした足取りながらも確かに一誠は避けていて。

 

しかし、爆風に体を煽られ、態勢が崩れたところをまたしてもライザーに殴り飛ばされた。

 

『Reset』

 

そして鳴り響くのは、倍加の力が霧散されたことを知らせる無情の音声。

 

しかし、それでも一誠は地面に震える手を着いて、体を持ち上げ、確かにその足で体を支えるのだった。

 

 

――先ほどから、もう数分もこんな光景の焼き増しが続いていた。

 

一誠は、その足と篭手を用いて何とか炎を使った攻撃だけは防ぐことが出来ていた。

 

ここに来て、ぎりぎりまで修行で追い込まれていることが生きていた。

 

しかし、或いはそれは不幸だったのかもしれない。

 

その攻撃を喰らっていれば、一誠は一息に救護室に運び込まれることが出来ていただろうから。

 

苦しまずにすんでいただろうから。

 

それでも一誠は立ち上がり、ライザーと向かい合う。

 

立ち上がる以上はライザーも叩きのめすしか選択肢には存在せず。

 

またしてもライザーが一誠に肉迫して、パンチを繰り出す。

 

工夫も捻りもない、余りにも単純な一撃。

 

しかし、それを避ける余力はもう無くて――

 

 

 

その光景を炎のリング越しに見ていたリアスは思わず眼を瞑って顔を背けていた。

 

先ほどから続いている、余りにも痛々しい光景。

 

何度声を張り上げただろう。何度勝負を投げ出したくなっただろう。

 

しかし、この状況を作り出すことが出来た眷族たちの献身を無かったことにすることはリアスにはどうしても出来ず。

 

この一方的な暴虐から目を逸らすことしか出来なかった。

 

「リアスさん――リアスさんがこの闘いから目を逸らしたら駄目だ」

 

そう投げかけられた言葉に、思わず罵倒で以って返しそうになって。

 

振り返った視界に、握り締められすぎて血が滴り落ちている拳があったことで、その言葉は喉から飛び出すことなく飲み込まれた。

 

「イッセー君は、リアスさんのために闘っているんだから――」

 

無表情を装っている翔のその言葉。

 

しかし、その内に湧き上がっている激情をリアスは確かに見て取っていて。

 

だからこそ、リアスはもう一度覚悟を固めて前を向くことが出来た。

 

「――ええ。そうだったわね」

 

リアスは、翔のその内心を慮っていた。

 

今現在の光景は、ある意味で翔のおかげとも、翔のせいだとも言える。

 

翔が一誠の実力をもっと上げることが出来ていれば、或いはライザーを倒せたのかもしれない。

 

翔が一誠の実力をここまで上げられていなかったなら、一誠はここまでぎりぎりの状況で相手の攻撃()を防ぐことが出来なくて、既にリタイアして救護室送りになれていたのかもしれない。

 

そのどちらでもない中途半端な実力を一誠が身に付けていたからこそ、翔が叩き込んでいたからこそ、現在、相手を倒すことも出来ず、自身が倒れることも出来ず、傷を増やしていっている。

 

その現実。

 

どれ程、悔しいのだろう?

 

どれ程、自分を許しがたいのだろう?

 

自分の教えが確かに弟子の中に息づいていて――だからこそ、弟子が苦しんでいる状況というのは。

 

リアスは、その翔の内心を慮って――しかし、その全てを量ることは出来なかった。

 

 

 

リアス達の目の前で、もう一度一誠が殴り飛ばされていた。

 

何度も繰り返されていたその光景。

 

また、もう一度焼き直すように一誠が震えながら立ち上がった。

 

一誠の防ぎかかっている右目とライザーの無傷の目が交錯する。

 

「――何故だ?」

 

ライザーは問わずにはいられなかった。

 

「何故、立ち上がる?」

 

それが、相手の倍加を溜め、そして少しでも体力を回復するための時間となる、悪手だと理解していても。

 

「もう、倒れ伏して、仲間に後を譲ってもいい筈だ。それぐらいには俺を削った。お前は充分に頑張った」

 

それと比較して尚、ライザーにはこの問いを発することが重要だと思えてならなかった。

 

「なのに何故、お前は立ち上がる? 何故、お前は倒れない?」

 

その言葉を一誠が聞き取れたかどうかはわからない。

 

それぐらいには、ボロボロだったからだ。

 

もう、意識は朦朧としているだろう。

 

頭の中で雑音がガンガンと響いているだろう。

 

自分の呼吸の音くらいしか、聞き取れないに違いない。

 

それでも、確かに一誠はその言葉の意味を受け取った。

 

「――はっ。なんて、ことは、ねぇよ。只の、俺の意地、だ」

 

途切れ途切れで、その場で囁くかのように小さくて、呼吸音にすらも隠れてしまいそうな、そんな儚い声。

 

しかし、不思議とその場に響き渡った。

 

「意地、だと?」

 

思わずライザーは聞き返していた。

 

それぐらい、ライザーにとっては意外な言葉だった。

 

「ああ。……ライザー。俺はな、転生悪魔なんだよ――1度、死んでいるんだ」

 

その言葉を言った時の一誠の顔は、どこか遠くを見ているようだった。

 

まるで、もう帰れない故郷を思い浮かべている旅人のような。

 

「死んだ時、もう、駄目だって、思った。痛くて、悲しくて、辛くて、冷たくて、寒くて、孤独で――――」

 

それは、普段の一誠の顔からは程遠い表情で。

 

その言葉を聞いていた翔たちは、これこそが一誠が心に秘めていた本音だとそう直感した。

 

「何より、死にたくねえって。そう思った」

 

それは、生ある物ならば誰もが思う――しかし、平和な日常では忘れることの多い原初の想い。

 

それを、一誠は死に瀕した時に強く想った。

 

「下らなくて、馬鹿馬鹿しくて、つまらなくて。――でも、何よりも楽しかった。友達と過ごした日常をもっと過ごしたいって想った」

 

『Boost!!』

 

この話が始まって何度目だろう。その音声が響いてきた。

 

倍加の合図、それを知らせる機械音声。しかし、一誠の体から揺ら揺らと赤いオーラが立ち昇っているのは、けしてそれだけが原因じゃあなかった。

 

「部長が、叶えてくれたんだ」

 

一誠の声に、確かな力が戻ってきていた。

 

ボロボロに成りながらも、今は確かな力強さを感じられる。

 

「部長のおかげで、今も俺は楽しく生きることが出来てるんだ」

 

一誠が、俯かせていた顔を上げる。

 

その眼には、先ほどと同じ――いや、それよりも強い光が確かに輝いていて。

 

「俺に生きる権利をくれたその人が、今、望まぬ生に囚われようとしてる」

 

轟っ!! と、一誠の体から赤いオーラが噴出した!

 

それは、この闘いが始まったころと比較して、寧ろ強烈な――

 

「――だったら!! 命を懸けなきゃ、男じゃねえだろ!!」

 

その言葉を聞いて、ライザーの心境に浮かんできたのはどんな感情だったか。

 

それは、自分だけが把握していればいいとライザーはそう思った。

 

カッ! と強くライザーが眼を開く。

 

その体全体から、炎が勢いよく噴出して右手の平という一点に集中していった。

 

「――お前を下級悪魔風情と言ったことは撤回しよう。そして――」

 

全力を持って収斂されていったその炎は色彩を変えていく。

 

眩く輝く紅蓮から、静かに輝く蒼穹へと――!!

 

「上級悪魔として、フェニックス家のライザーとしてではなく! ただ1人の男のライザーとして! 全力を持ってお前を打ち倒してやる!!」

 

そう、これこそが正真正銘ライザーの全力。家族はおろか、眷属にさえ教えていなかった奥の手にして切り札――!

 

それは静かなる様相の内に、紅蓮の炎を遥かに越える暴虐を潜ませた『輝ける蒼炎(エンプレイズ・ブルー)』。

 

触れれば炭化するどころではない。即座に溶け出し蒸発させるほどの熱量を秘めた高貴なる蒼。

 

離れて見ていた一誠の肌に、ピリピリとした痛みが突き刺さってくる。

 

その痛みから、一誠もまたその技の威力、そしてその技に掛けるライザーの本気を感じ取った。

 

『Boost!!』

 

倍加を知らせる音声が鳴り響く。これで計11回目の倍加。

 

本来の一誠の限界は15回。しかし、この傷ついた体では――

 

『相棒。ここが限界だぞ。そして――』

 

「ああ。一回技を出せば、それで終わり、だろ?」

 

そう、どうあがいても、どれほど根性を出しても肉体的限界というのは存在する。

 

それは、一誠も感じ取っていた。

 

常にその限界ぎりぎりまで追い詰められる修行をしていたからこそ感じ取れたのかもしれない。

 

だからこそ、一誠も奥の手を使うことを決心した。

 

いや、そもそも限界じゃなくてもその技を使うことに変わりは無かったのかもしれない。

 

何せ、相手が男としてぶつかってきているのだ。

 

ならば、それに応えずして何が男か。

 

『Explosion!!』

 

そう音声が流れ出る。それと共に更に爆発的に高まる一誠のオーラ。

 

自然と静かになっていく。必殺を出し合う、まさしく侍の決闘場のような空気が流れて。

 

どちらともなく、相手に突っ込んでいた!

 

「「うおおぉぉぉぉ!!」」

 

雄叫びを上げる両者。その気迫でビリビリと空気が震えるかのよう。

 

しかし、それほど心を熱く燃やしながらもライザーは冷静に相手の出す必殺を推測していた。

 

チラリ、と相手の右腕を見る。

 

そのこちらに向かって突き出し始めている右腕が真っ赤に燃え上がっているのを見て、自身の推測が正しいことを知る。

 

(やはり! お前が出すのは初めに俺を殺したあの技! 「人越拳ねじり貫手」!!)

 

その攻撃を防ぎ、且つ相手に大ダメージを与えるために、ライザーはその蒼炎を動かした。

 

蒼炎を改めて左手へと宿らせなおす。そうして、相手の右腕狙って突き出した!

 

(魔力で覆っていようが、この蒼炎は関係なくその魔力ごと右手を溶かしつくす!! この攻撃が死力を振り絞ったものである以上、これで終わりだ!!)

 

相手も貫手を突き出し始めている以上、この蒼炎を逃れる術はない。

 

蒼炎と貫手が正面衝突して、貫手が溶けて決着が付く。

 

 

 

 

 

――――その筈だった。

 

(何ぃっ!!??)

 

ライザーの目の前、相手の右手と此方の左手が衝突しようとした時、その右手が不自然に加速することで、蒼炎は空振りに終わる。

 

(魔力を噴射することで、腕を、加速させ――)

 

「龍破ァッッ!!」

 

肘から魔力を逆噴射することにより成しえた、100%(マックス)以上の超加速。

 

更に、腕の回転と併せるように纏わせた魔力を回転させる。

 

その融合によって生み出される圧倒的貫通力で、相手の体を突き――――穿つ!!!

 

「――ねじり貫手!!!」

 

龍の鱗さえも破る貫手が、不死鳥の体を貫いた!!

 

回転させることによって腕に纏わせていた魔力が腕を離れ、余波としてライザーの背面から渦巻いて突き出ていった!

 

その魔力の竜巻は、空間を削るようにして突き進んでいく!

 

その余波が収まったころには――一誠の眼前の運動場が15メートル、幅5メートル程に渡って抉り、削られていた。

 

胸を貫かれたライザーが、その抉られた地面の上に吹き飛ばされる。

 

『Burst』

 

一誠の予想通り倍加が霧散する。

 

その瞬間、今までの疲労が堰を切ったかのように溢れ出し、一誠の両肩に圧し掛かってきた。

 

一誠が肩を大きく上下させて呼吸するが、呼吸が整う気配は無い。

 

それでも感じた確かな手応えに一誠が雄叫びを上げようとして。

 

 

 

ボウ、とライザーの胸から炎が吹き上がった。

 

それは、確かに今までの炎よりは小さかった。

 

しかし、確実にライザーに開いた穴を埋めていって。

 

「ちくしょう――」

 

ライザーを削りきれなかった。

 

その事実に無力感を感じながら、一誠はその意識を閉じていった。

 

 

 

 

 

崩れ落ちていく一誠の体。

 

それを受け止めたのは、意外にも起き上がったライザーだった。

 

ポス、と音を立てて寄りかかった体が、光に包まれていく。そして――

 

『リアス・グレモリーさまの『兵士』1名、リタイア』

 

完全にその場から消えて、その重みは無くなった。

 

視界の外から駆け足の音が聞こえてくる。そちらに眼を向けるまでも無くライザーはそれが誰なのかわかった。

 

「リアスか」

 

「ええ。――次の相手は私よ」

 

その言葉に溜め息を吐く。それに明らかに苛立っているのが感じ取れる魔力の波動から理解できた。

 

それに更に溜め息を吐きそうになるが、それを何とかライザーは抑えた。

 

――わかっていたことだが、男じゃないと理解できないのかもしれないな。

 

そう頭の片隅で思いながらも、ライザーはその言葉を口にした。

 

 

 

投了(リザイン)だ、リアス。俺の負けだ」

 

 

 

リアスは、初め相手が何を言っているのか理解出来なかった。

 

自分の耳が、狂ってしまったのかもしれないとさえ思った。

 

『ライザー・フェニックスさまの投了(リザイン)を確認しました。リアス・グレモリーさまの勝利です』

 

「早くアーシア・アルジェントを連れて救護室に向かった方がいいんじゃないか? 例え直撃していなくても、俺の蒼炎はあの至近距離なら大火傷を負うぞ」

 

グレイフィアの放送と、ライザーの声を聞いて漸くリアスは正気を取り戻すことが出来た。

 

「待って。待ちなさい! 何で投了(リザイン)したの? あの状況からならまだ逆転も出来た筈なのに?!」

 

その言葉を聞いて、やはり解っていなかったか、とライザーは溜め息を吐いてから説明し始めた。

 

「リアス。最後の衝突の前に俺があいつに言っていただろう? 「俺は、1人の男として全力を持ってお前を打ち倒す」と」

 

「ええ、聞こえていたわ」

 

「だが、実際勝負してみてどうだ? ――打ち倒されたのは俺だった」

 

例え、フェニックス家の「不死身」で立ち上がることが出来ていようとな、とライザーは続けた。

 

「解るか? リアス。……俺の全力はあいつの全力に敗れたんだ。――俺はな、負けたんだよ、リアス。」

 

リアスの後ろに集まってきている眷族たちを見て、ライザーは小さな笑みを浮かべた。

 

――確かに負けたのは自分だった。

 

しかし、全力と全力を持ってぶつかりあった男同士の勝負だったのだ。

 

それが、どこか清清しさのような物をライザーの心に運び込んでいた。

 

ライザーの心には爽やかな風が吹いていたのだ。

 

炎と風を司るのがフェニックス家。

 

なら、その心の風にも素直に従わないとな、とライザーはそう思った。

 

「救護室で目覚めたあいつに言っておくといい。――勝ったのは、お前だと」

 

その言葉を残して、ライザーは造られた空間から転移していった。

 

 

 

 

 

 

リアス・グレモリー対ライザー・フェニックスの非公式レーティングゲーム

 

勝者……リアス・グレモリー

 




副題元ネタ……言わずとしれた原作のあれ。

というわけで一誠は試合に勝って勝負に負けた的な?

そんな感じの結末でした。

まあ、幾ら頑張ったところで現時点で「不死身」を削りきることは出来ませんということです

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