とにかく今回は短いです。というよりちょっと露骨なフラグ回
今回のお話は、合宿3日目の昼食。その席で一誠が唐突にそのことを話題に出したことにより始まった。
「え? 僕の必殺技を見たいだって?」
「ああ。駄目か?」
そう、一誠が翔の必殺技を見たいとお願いをしてきたのだ。おずおずとした話口ながらも、その顔からは「見たい」という感情が溢れ出している。
他の人たちも表情に違いはあれど、興味があるということに変わりはなさそうだった。
そのことを見て取った翔は一誠に何故急にそんなことを問うてきたのかを聞くことにした。
「別に駄目じゃあないけど……。何で急に?」
「いや、今は基礎とか防御を高めるのが大事だっていうのは分かるんだけどよ。何かしら決め手を持っていた方が良いと思ってな。その方がライザーにプレッシャーを掛けられるだろ?」
「それで、僕の決め手を参考にしようって?」
「ああ。今からじゃあ習得は難しいだろうけどさ。それでもお前の必殺技を見ているのとそうじゃないのじゃ違うだろうし」
「なるほどね」
翔は一誠の言葉に納得がいったという風にウンウンと頷いた。
確かに、どんなに不利な状況でも一発で覆しうる手札があるというのは相手にとってはプレッシャーになるだろう。逆に言うと、そんな技を持っていない者はどれほど技量などが高く纏まっていてもそれほど脅威にはなりえないとも言える。(実力差にもよるが)
ライザーとの戦闘は、相手がこちらの体力を削りきる前に此方が相手の精神を削りきれるか、という削り合いの勝負だ。ならば、少しでも相手にプレッシャーを多く掛けられるほうが良いというのは正しい。
故に、一誠が先の言葉を言うのは何もおかしくはない。ないのだが、
「で、本音は?」
「1回翔の必殺技を見てみたいです」
「よろしい」
結局の所、一誠もロマン持つ日本の男の子だったというわけだ。ドラグ・ソボールを全巻集めるくらいには漫画好きなんだから、「必殺技」という言葉に何か胸に帰するものがあったのだろう。
それと昨夜、一誠と黒歌の組み手を見ていたことも関係しているのかもしれない。自分の師匠ってどんなことが出来るんだろうと気になったのだろう。
「わかったよ。じゃあ、今日は僕の必殺技のうちの幾つかを一誠君に見せてあげるね」
「うっし! サンキュー、翔」
「ま、どれも今からじゃ時間が足りなくてライザーさんとのゲームまでには習得できないだろうけどね」
「いいよ、それでも。……やべえ、俺ワックワクしてきたぞ!」
「空孫悟の物真似かい? 結構似てるね」
「おう。ドラグ・ソボールファンの嗜みだ」
「……で、今までスルーしてきたんだけど……」
翔が視線を隣の一誠から元の位置まで戻すと、程度の違いはあれ期待にそれぞれ眼を輝かせているオカルト研究部の面々が居た。
ワクワクという擬音を隠すこともしていないアーシアと、無表情ながらどこかソワソワしている小猫。純粋に参考にしようとしているらしい木場。そして多少打算が入り混じった好奇の視線を寄せてくる朱乃とリアス。
それぞれの顔を見渡して翔が提案した。
「皆も、イッセー君と一緒に見るかい?」
その言葉に全員が一斉に頷いたそうな。
◇◇◇◇◇◇
「第1回! 翔の必殺技お披露目会~~。ワ~パチパチ」
ドンドンパフパフ~。とでも効果音が付きそうな様子でそう黒歌が宣言をした。その言葉に周りの皆のそれぞれパチパチと手を叩いている。
完全に悪ノリをしているのだが、翔は別に咎めはしなかった。これくらいの悪ノリでは別にどうってことはない。何せ達人たちはもっと酷い悪ノリをやってくることもあるからして。
道着を帯をキュッとしめた翔は目の前のサンドバッグに向かって構えた。
「スゥゥゥ。フゥゥゥゥゥ」
眼を閉じて呼吸で気組みを練っていく。丹田から全身へと巡らし、それを繰り返し循環させることでどんどん気を高めていく。
その緊張感に先ほどまでふざけた調子を出していた一部の者たちも静かになった。それが更に場の緊張感を高めていく。
そして、唐突に眼を開けて翔がその拳をサンドバッグに向けて突き出した。
「ちぇす!!」
果たして、そこにどのような技術が込められていたのだろうか。
サンドバッグは多少揺れるだけに留まったかに見えたが、刹那、拳を当てた反対側から砂が物凄い勢いで飛び出した!
その余りに不可解な現象に、場の面々(黒歌は除く)は騒然となる。
「不動砂塵爆。対象を一切動かすことなく衝撃だけ後方へと打ち抜く荒業だよ。もっとも、僕の技量じゃあ多少動いてしまうんだけどね。まだまだ極めたとは言い難いよ」
空手最強を謳われる2人の内の1人。ケンカ100段こと逆鬼志緒の必殺技だ。彼ならサンドバッグを一切揺らす事無く、また砂自体も翔よりも遠くへと吹き飛ばすことが出来ただろう。
昔と比べて成長しているが、未だ遥か遠きその師匠の背中に、翔は苦笑が漏れ出るのだった。
この必殺技に最も驚いたのは、総合格闘技を習得している小猫だった。
彼女の膂力であれば、サンドバッグを壊すこと自体はそう難しいことじゃない。だが、一切サンドバッグを揺らすことなくというと……はっきり言って不可能と言わざるをえなかった。
どのような力の錬りこみ具合で、どのように体を動かし、どのように拳を対象に当てたらあのような技が可能となるのか……。小猫には想像もつかなかった。
(……相変わらず人の想像をぶっちぎって斜め上を飛んでいく人ですね。……どれほどの差があるのか……)
しかも、その彼自身が自己申告とはいえ、自分を技を極めたとは言いがたい未熟者と言っているのだ。ならば、果たして彼の師匠となると一体、どれほどの……。
そのように小猫が戦慄している間にも、翔は次の技の準備へと入っていた。
次に技の対象としたのは翔の身長程の大きさである岩のようだ。黒歌が運んできていたらしい。
と、そこで翔の構えのある一部分に一誠が気付いた。同じ空手を習っていたからだろう。
「あれ? 今回は貫手なのか?」
「お、よく気付いたね。その通りだよ。次の技は、貫手が防御された時に強引に相手の防御を突き破って相手を攻撃するための技さ」
じゃ、征くよ。
そう翔が宣言して動き出す。他の人にも動きを見えるように速度を制限してその技は放たれた。
貫通力を増すために腕に回転を掛けて放たれる貫手。そう、翔がバイサー相手にトドメを刺したあの技である。
そのある意味で憧れの技を見られたことに一誠が興奮していると……。岩に貫手が触れた瞬間! 翔が自身の膝で以って貫手を蹴り込んだ!
それによって勢いを増された貫手が、目の前の岩を強引に抉り削る!!
「人越拳、脚破ねじり貫手!!」
その貫手は、岩を貫通して穴を開通させた。
翔が腕を引き抜く。そこには翔の腕の太さよりも数センチほど直径が大きい穴が開いていた。
(ん~。人越拳神さんなら自分の腕より数ミリ太いだけの穴を開けるだろうし……。まだまだ力の配分が甘いな~)
そんなことを翔が思っていることなど露とも思わずに、一誠が大声を出しながら翔に詰め寄った。
「か、かかかか、翔ううぅ~~~!! い、今の技は!?」
「だから、さっきも言ったでしょ? 貫手を防御された時に、膝で貫手を蹴ることで強引に加速させて相手の防御を突き破るための技だよ」
「な、なるほど~」
一誠が何度も首を縦に振っている。どうやら何かしらのインスピレーションを得ることが出来たようだ。翔も修行を一時中断して技のお披露目会をやった甲斐があるというものである。
もっとも、驚いているという意味では他の人たちもそうだったが。
「ねえ、小猫。あなたはあんなことできるかしら?」
「……いえ、出来ないです。岩を砕くというならまだしも……」
「リアス、あなたなら出来るんじゃないかしら?」
「それは私の魔力特性が「滅び」だからよ。言わば能力だから出来るのであって、純粋な技術でああは出来ないわ」
「はは。本当に規格外だね」
「す、凄いです!」
翔の技術に驚いている彼女らであるが……。果たして翔が師匠たちと比べると未だに達人と呼ばれるような技量を有していないと知ったらどうなるであろうか……。恐らく諦観の念で一杯になることだろう。
「それじゃあ、次逝くよ~」
そうして、一誠やリアス眷族の参考とするための翔の必殺技お披露目会は続いたのだった。
杖をつかって鉄板を2枚に剥ぐ「香坂流相剥ぎ斬り」を見た木場が自身の自信を打ち砕かれて意気消沈したり。(翔は薄い葉っぱを剥ぐような技量はまだ持っていないのである程度の厚さのある鉄板を杖で剥いだ)
相手を殺さないための技と言って「岬越寺流悶虐陣破壊地獄」を見た時は技を掛けられた投げられ木偶君ぐれ~とのグニャグニャ具合に全員が全員ドン引きしたり。
とにかく、リアス眷属は翔のその技の多彩さに眼を白黒させたのでしたとさ。
副題元ネタ……必殺仕事人
今回は副題すんなり思いついたぜ! やったね!
久しぶりに5000字以下という短さ。もうちょっと何とかならなかったかとは思うんですけど……。
翔の実力は、本編でも書いていますが、「師匠の奥義(絶招)を幾つか習得していて放てるものの、その技量は師匠たちには遠く及ばない」みたいな感じです。しぐれが葉を2枚に剥げるところを、厚さ数ミリの板くらいまでしか剥げない的な。
ちょっと分かりづらいかもしれませんね。