ハイスクールDragon×Disciple   作:井坂 環世

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今回も短めです。修行回という名の説明回?


4 教えて! 朱乃先生!

翔による崖登りの修行が終わった後、修行を受けた3者はそれぞれの修行を行うために移動していた。

 

一誠は魔力操作の基本を覚えるために、朱乃と朱乃に教わっているアーシアのところへ、小猫は仙術と妖術の基本を教わるために黒歌のところへ。そして木場は神器の精度を高める修行をするのだが……場所はどこでもいいということで一誠の修行についてきていた。

 

勿論、翔は一誠の修行を観るために一誠へとついている。例え専門外だろうが弟子の面倒を放り出すわけにはいかないのだ。

 

現在、一誠は朱乃より聞いた魔力操作の基本に従って、魔力球を作り出そうと、胡坐を掻いて集中していた。手の平を上に向けてそこに全身より魔力を集めて球を成そうとしている。

 

「そうそう、魔力は全身を覆うオーラから流れるように集めるんです。それが第一歩ですよ。……そうね。アーシアちゃんはそれは出来ていますから、その先へと進みましょうか」

 

「ハイ! 確か、魔力から炎や水を生み出すんでしたか?」

 

「正確に言うと変化させるのだけれど、その一歩前の段階ですね。実際の炎や水を操る訓練です」

 

朱乃は、懐から取り出したペットボトルに含まれている水を操ることで、それを自らの口へと運んだ。まるで水が自分の意思で朱乃の口の中へと入っていったかのような光景に、一誠と翔はおお、と感嘆の声を上げる。

 

その様子を微笑ましそうな笑みを浮かべてみていた木場が、自らの神器を発動させた。数秒としないうちに木場の手の中に炎のように波打つ刀身を持つ剣が出現する。

 

「じゃあ、僕はアーシアさんの手伝いをしようかな」

 

辺りに散らばっていた木の枝を適当に集めると、そこに剣を翳した。すると、剣から火の粉が飛び移り、木の枝がチロチロとした炎を出して燃えだした。

 

その光景に今度はアーシアも含めておお、という声を上げる。その光景をニコニコと朱乃は眺めていた。

 

紅蓮剣(フレイムロンド)、炎を生み出す魔剣さ。僕はこれで魔剣の能力を上手く操る訓練をするから、アーシアちゃんは気にせずに僕が木の枝に燃え移らした炎を操る訓練をするといいよ」

 

「ハイ! 頑張ります!」

 

その言葉とともに、2人は自らの訓練に集中しだした。

 

木場の神器(セイクリッド・ギア)は『魔剣創造(ソード・バース)』という、あらゆる属性の魔剣を創造することの出来る神器だ。神器保有者の実力によって、生み出せる属性に限りがあったり(例えば、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の能力を持つ魔剣は創るのが最も難しいとされ、実際今の木場は創れない)、実際の魔剣よりも強度や能力の出力が落ちたりといった短所を持つものの、その汎用性の高さは計り知れない。上手く活用できれば、実質無限に感じられるほどの数の戦術や手札を持つことが出来るだろう。

 

しかし、それには自分が生み出せる魔剣の種類、その能力を把握し、そしてその魔剣を上手く扱うことが出来るようにならなければならず。また戦闘時にその状況に適切な魔剣を瞬時に見極め作り出せる判断力が必要となる。所有者に相応の実力を求める神器でもあるのだ。「扱う者によっては無類の強さを発揮する神器」と呼ばれる所以である。

 

そのため、木場はこのように作り出せるようになった魔剣の能力を十全に扱えるように訓練をしているというわけである。炎の魔剣は今度のゲームでは使わないかもしれないが、炎の扱いに慣れておくこと、特性を把握しておくことは炎を得意とするフェニックス眷族を相手にする上で役立つだろう、ということでアーシアの訓練の手伝いとともにこの魔剣を選んだのだ。

 

アーシアはというと、リアス眷属で主にその神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を利用した回復役として活躍するだろう。それは当人も自覚しているし、周りもそう思っている。

 

けれど、回復役(後方支援)を真っ先に狙い、その行動を封じるか行動不能にしておくことは戦場での常道。アーシアも自分の身を護ることが出来るようにならなければならないので、このように魔力の扱いを教えてもらっているというわけだ。

 

「フフフ。アーシアちゃんは才能豊かですから、すぐに出来るようになりますわ」

 

魔剣から炎を生み出し、それを操り炎の渦を作り出している――ただし、周囲へと熱を伝えないようにしている――木場と、その木場が木の枝へと燃え移らせた炎へと魔力を注ぎ、なんとか操ろうとしているアーシアを見つめて、朱乃はいつも通りの微笑を浮かべながらそう零した。

 

そして、チラと一誠を見てみれば、思った通り、木場やアーシアに負けまいと集中して魔力を操ろうと苦慮している。その光景にクスッと笑った。

 

暫く眺めていると、一誠がとうとう魔力球を生み出すのに成功した。……出来た魔力球が米粒より少し大きいくらいというのが若干様にならず、一誠ががっくりと肩を落としていたが。

 

翔が聖人のような微笑を浮かべてポン、と手を置いた。

 

「まあまあ、イッセー君。元気だしなよ。くよくよするなんてキミらしくないよ」

 

「翔……ああ! そうだな!」

 

翔の励ましに再びやる気を出した一誠。もう1回集中しようとして座禅を組もうとし、

 

「それにイッセー君に魔力的な才能が無いことなんてわかりきっていたことじゃないか」

 

翔のその言葉に思わずずっこけていた。

 

ガバっと身を起こした一誠の心の叫びが山に木霊する。

 

「お・ま・え・はああああっっ!! 俺を励ましたいのか地獄に落としたいのかどっちなんだよ!!」

 

「ん~。どっちかというと、励ましたいかな?」

 

「どっちかというとかよ! そこははっきり励ましたいって言ってくれよ!」

 

「いや、だって修行の地獄度をそろそろ深めようかなって思っていたところだし……」

 

「あれで翔的にはキツくないの!? まだキツくなるの!?」

 

「そうだね~。まだまだ地獄の一歩手前くらいってところかな~。そろそろ地獄に突入しようかと」

 

「ウガアアァァァァッッ!!」

 

その突如始まったコントにクスクスと笑うものが1名。一誠の心配をするものが1名。そしてまだ地獄に突入していなかったのかと戦慄するものが1名。誰が誰かは想像にお任せしたい。多分あってるから。

 

その3名の反応を見た一誠は気を落ち着かせ、溜め息を吐くことでその身のうちに溜まったやるせなさを吐き出した。

 

が、その一誠の頑張りを無に帰すものが1人。言うまでもなく翔である

 

「うんうん。例え激昂しようと冷静さを失ってはいけない。戦闘における基本的な心構えだよ」

 

「お前にだけは言われたくない!! ていうか何! 今のおちょくっているようなやりとりって精神修行なの!?」

 

「いや。素」

 

「そっちの方がむしろ嫌だわ!」

 

「僕もこんな感じになるつもりは無かったんだけどね。……師匠の影響は計り知れないってことだよ」

 

「……え? じゃあなんだ? 俺も将来的にそんなんになっちゃうの?」

 

「そうなんじゃないかな?」

 

達人からは逃げられない。翔がこの人生の中で学んだ1つの真理である。

 

そのあんまりな未来予想図に一誠は心の底から絶望した!

 

『まあ、なんだ? 相棒、ドンマイ』

 

「ドライグ……。俺、大丈夫なのかな? いや、マジで」

 

『大丈夫さ、お前には俺や仲間がついているだろう?』

 

「……ああ! そうだったな! サンキュー、ドライグ!」

 

「僕もついているしね!」

 

「いや! お前の場合むしろ安心できねえよ!」

 

本気で怒鳴っているような感じの一誠と、それを受けている翔なのに全然険悪な雰囲気にはならない。それが可笑しかったのか朱乃はとうとう我慢できずに腹を押さえて笑い出した。

 

「フフフッ! おしゃべりをするのはよろしいですけど、訓練がおろそかになっていますわよ?」

 

「あっ!? すみませんでした……」

 

「別に構いませんわ。2人の仲の良さが伝わってきましたもの。……それじゃあ訓練を再開しましょうか?」

 

「はい」

 

その言葉とともに一誠はまた胡坐を組んで眼を瞑る。手の平を上に向けてそこに魔力を集めるようにする。

 

そうすると、今度は先ほどよりも僅かばかりだが短い時間で魔力球――やはり米粒程度の大きさだが――を作ることができた。

 

その小さな、小さすぎる自身の魔力の規模に、やはり一誠は苦虫を噛み潰したような顔にならざるをえなかった。

 

「なあ、翔。やっぱりこんなことしてるよりも体力の基礎訓練やってた方がいいんじゃないか?」

 

「ん~。でもあんまりやりすぎるとオーバーワークになるかもしれないしね。この訓練は肉体的な休憩も兼ねているんだよ。……って、なんで吃驚しているの?」

 

「いや、……翔にオーバーワークって概念があったんだなあ、って」

 

「失礼な……。まあそう思われるのも仕方ないけどさ……」

 

達人に至るためには無限の努力が必要であり、そしてそのためには世間一般でいうところの限界というものをぶっちぎって修行しなければいけないので、その言い分も仕方ないと思う翔である。そのくらいの常識はまだ辛うじて存在していた。

 

はあ、と嘆息をすると、翔は顔を真剣なものへと切り替えた。その顔を見て一誠も気持ちを引き締める。

 

「それに、この魔力操作を覚えておけばイッセー君の大きな武器になると思う」

 

「武器?」

 

「そう……。イッセー君。キミを指導している身としてはこんなことを言っちゃあいけないのかもしれないけど……僕がキミに教えているのは「空手」なんだよ」

 

それを聞いて一誠は怪訝な顔をした。そんなわかりきっていることを言って何を伝えたいのだろうか?

 

「そう、あくまで空手だ……。人が人を倒すために編み出した武術なんだよ。悪魔が使うために編み出されたわけじゃあない」

 

「……どういうことなんですか?」

 

その話に興味を刺激された朱乃も、身を乗り出して翔へと聞き出した。周りを見てみると、木場とアーシアもいつの間にか訓練を中断して此方の話に聞き入っている。

 

「大多数の悪魔が人と同じ姿をしている以上、悪魔に対してもある程度は適応できると思う。実際、僕も多くのはぐれ悪魔を捕縛してきたしね。……でも、悪魔が使うために、最適の武術というわけじゃあないと僕は思う」

 

「……つまり、なんだ? 俺に「悪魔に最適な武術を編み出せ」とでも? 無理無理! そんなん無理だって!」

 

「勿論、今すぐにそれが出来るとは僕も思ってないよ。それに、実際には編み出すというよりアレンジに近くなることだと思うしね。空手の基礎の部分をきっちりと学んだら、それを悪魔である自分に合うように錬りこんでいったらいいのさ。数年どころか生涯をかけた取り組みになるんじゃないかな? でも、意識しておくのとしていないのじゃ効果が違うしね。学んだことを自分に合うようにするってのは誰でもやっていることだと思うし。技術の伝承は模倣から始まるとは言え、ただ模倣するだけじゃあ猿真似で終わっちゃうからね。ある程度の創意工夫は武術家であれば誰でもやっているものさ」

 

あくまで、ある程度以上のレベルに到達したら、という注釈はつくけどね。と翔は続けた。

 

ここまで話されたら、一誠も何故あれだけ基礎能力を鍛えるのが大事と言っていたのに魔力操作を覚えさせられているのか理解出来た。

 

「そのために必要なものが、魔力操作だっていうのか?」

 

「他にも悪魔と人との違いは挙げていけば切りが無いけどね。それが一番手っ取り早いんじゃないかな?」

 

「そっか……」

 

その言葉にやる気を刺激されたのだろう。見るからにやる気満々と言った風情で一誠が朱乃に詰め寄った。その様子を見て苦笑した――しかし、内心では先の言葉を深く心に刻み込んでいる――木場と、ちょっとムッとした顔をしたアーシアが自身の訓練へと戻っていく。

 

「と、いうわけで朱乃さん! 俺に魔力操作を教えてください!」

 

「フフフ、やる気になったのはいいことですわ。私にとっても興味深いお話でしたし……」

 

では、次の訓練へと進みましょうか、そう言って先ほど取り出したペットボトルをもう一度取り出すと、その中に入っていた水を魔力で以って操作し、まるで水で出来た短剣のようにしてみせた。

 

「先ほども言いましたけど、魔力を直接操るその次の段階は、魔力を用いて炎や水を操ることですわ。その更に次の段階が、魔力を直接炎や水に変化させることですわね。この際、イメージがとても大事です。自身が操るものや、変化させるものへの確固としたイメージが必要なのです。具現化させる現象を強くイメージしてください」

 

一誠がふんふんと頷いている横で、翔が思い出すように額に指を当てながら疑問を発した。

 

「確か、朱乃さんは「雷の巫女」と呼ばれるくらい、雷の魔法が得意なんですよね?」

 

「あら、よく知っていますね。その通りです。雷の扱いは中々のものと自負していますわ」

 

そう言って朱乃が両手を前に差し出すと、その手の平の間をバチバチと稲妻が迸る。それには結構間近で観ていた一誠も興奮せざるをえなかった。

 

「おお! 凄いですね!」

 

「確かに、これは凄い。……あの、朱乃さん、ちょっと質問があるんですけど」

 

「なんですか? 何でも聞いて構いませんわよ?」

 

翔からの賞賛にちょっとむず痒いものを覚えつつも、朱乃はそんな内心を露ほども出す事無く翔からの疑問を聞き出した。

 

「その雷って、今は朱乃さんが操っている状態なんですよね?」

 

「そうです。……ほら」

 

朱乃が手の平を上に向けた。その両手の平の上で、紫電がアーチを描くように形を変えて踊っている。

 

「じゃあ、その操作を朱乃さんが放棄したら、その雷はどうなるんですか? 科学法則に則って動きだすんですか? それとも霧散するだけ?」

 

その質問に、今までの経験を思い出して朱乃は答えた。その視線を上に向けて、顎へと指を当て過去の訓練を想起する。

 

「う~ん……。それは科学法則に従って動き出すと思いますわ。一度変換した魔力は、元に戻せませんもの。分かりやすい例が水に変換した場合でしょうか? その場合、水の操作を放棄したなら重力に従って動き出しますわ」

 

「なるほど~」

 

うんうん、と翔がその答えに頷いていた。知的好奇心を満たした満足感がその顔に浮かび出ている。

 

その横では一誠も知的探究心を刺激されたのか、ハイハイ! と手を挙げていた。その子供っぽい仕草に苦笑しながら朱乃は一誠から話を聞く。

 

「あの、ゲームとかじゃあ合体魔法とかありますけど、実際はどうなんですか? 出来るんですか?」

 

その質問も子供っぽいものだったから、朱乃は手の掛かる弟を相手にしている姉ってこんな気分なのかな~、と微笑ましく思いながらもきちんと答えた。

 

「規模の大きな儀式魔法や、結界魔法、転移魔法等々、複数で発動する魔法はありますよ。1人では発動できない規模の魔法を行使しようとする時に、複数で力を合わせることでその魔法を行使するんですね。ただ、入念な準備が必要なので、戦闘時、咄嗟に複数で魔法を発動するというのは余程息が合っていないと出来ませんけどね」

 

その言葉におお~、と一誠と翔が感動の声を上げる。サブカルチャーの豊富な日本の学生だから、ある種の感動があるのかしらね、と朱乃は推測した。

 

と、そこで朱乃は横から控えめに手を挙げる存在に気付いた。アーシアである。照れくさそうに手を挙げているアーシアに多少萌えを感じながら朱乃は笑みを浮かべて声を掛けた。

 

「どうしたんですか? アーシアちゃん?」

 

「あの~。私も質問していいですか?」

 

「勿論、分からないところがあったらどんどん質問してくださいね?」

 

その後、夕飯の時間になるまでこの即席質問コーナーは続くことになる。

 

修行プランが崩れたと嘆く翔と、そのことに喜ぶ一誠が居たことは余談である。

 




副題元ネタ……忘れたけど、何かの番組のおまけのコーナーで「教えて! ○○先生!」っていうのがあったと思います……。

というわけで一誠強化フラグですね。

それ以外は特に特筆することはなかったかなあ

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