Crazy scenery 〜私が見た一つの憧れ〜 作:ポン酢
__黒い鳥。大鳥以外でここに収容しているのは・・・
同時収容違反が起きた際に逃げた2体のアノマリー__
”女王蜂”と同じタイミングで逃げたしたのは、奴だった。
「・・・高鳥」
『いや・・・高鳥という名前では済まされないよ、彼は』
「え・・・?」
『あれは、”審判鳥”だ。人に対してその人一人一人の罪を量る天秤を用いて裁きを与える。
・・・といっても、片方に重みをつけすぎているから、確実に悪い方にしか傾かないんだけどね』
と彼は私に対してそう言った。
そして私は疑問に思った。
・・・なぜ。
なぜこの人はあのアノマリーに詳しいんだ・・・?
だが、そんなことを考えてる暇はないということはあの
まだ奴は気づいていないようだ。おそらく奴の目の前に居る職員に集中しているのだろう。
その時、何処からともなく黒いあの絞首台が姿を現し、職員を宙吊りにした。
もがき苦しんでいる職員は、ものの数秒でもがくのをやめた。
おそらく意識を失ったのだろう。
だがそんなことを考えている暇はない。
管理室へのルートはここのを通らねばならない。
・・・そんな中、高鳥。いや・・・審判鳥はこちらには一切見向きもしない。
恐らく目の前の職員の絞首で忙しいのだろう。
だがここで屯されては動くこともままならない。
どうすれば……
どうすればここを突破できる…?
その場にあるものを利用する。という案もあったが周りはほかのアノマリーが荒らしたからなのか、瓦礫だらけで使えそうなものが全くなかった。
クソ…そう思った。
近くになにか陽動できる何かがあれば、チャンスは必ず生まれるはずなのに…!
瓦礫を遮蔽物にしながら審判鳥を見ていると、ローランドさんが動こうとしていた。
……が、審判鳥は何かに気づいたのか動きを止めた。
…何故だ?
そう考えている間に、審判鳥はまるでなにかに導かれるかのように自分たちとは真逆の方向に顔を向けそのまま歩を進めていった
…なぜ、急に行動を変えたのか。分からなかった。
そのまま見続けていると審判鳥は通路から出ていってしまった。
『…行っちゃったね。よし、警戒しながら私達も行くべき場所へ行こうか』
やはりそうであろう。移動したからといってもまだ付近に居ることには変わりないのだから。
ローランドさんが立ち上がったのを見てから自分も続けて立ち上がった瞬間-
ドォォォォォォン...と上の遠くから重たい音が聞こえ、微量だが全体的に施設が揺れた。
「ローランドさん、今のは・・・」
『私の勝手な解釈だけど、いいことではないよね。きっと。
慌てず騒がず、急いでいこうか』
「それ矛盾して・・・いえ、何でもありません。行きましょうか」
気になるのは確かではあるが、音の位置的にも遠い。素直に目的地である管理室へ向かうことを優先した。
管理室がまだ機能しているのであれば幸いだが・・・。
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管理室の中で聞こえる音は私の漏らす吐息と、心臓の鼓動のみ。
動ける体であれば彼等の元へ向かいたかったが・・・時間が経つにつれ傷は広がり続ける。
その傷の痛みはひしひしと私の体を蝕んでゆく。私に出来るのは、
ここでただただ二人をここへと導くことのみ。
・・・先程、上層の一部カメラが粉塵を写したのを最後に接続が途絶えた。
まさかとは思うが…いや。今それを考えている暇はない。
万が一そうであったとしても…あの人なら。
あの人なら、やってくれると私は信じているから。
「…龍崎さん」
彼はそうつぶやくと目の前の機器に手を添え数秒沈黙し、二人の通路確保の作業へと再び戻った。
゛まだ、諦めるわけにはいかない゛
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…遠回りをしてしまったが、あと少しで管理室の通路にたどり着く。
「あと少しですね」
『そうだねぇ。とにかくあそこに着けば情報の整理ができるし、近くには医療室もあるから出来れば早く着きたいものだね!業くんお腹空いたでしょ?』
言われてみると確かに…と思ったが…
「いやいや…こんな状況になる前に一緒にスパゲッティ食べたじゃないですか。その歳でもうボケてきたのですか?」
『いやいや覚えてるさぁ!でも、こんな状況だからこそ
疲れすぎてお腹空くんじゃないかなって思ってね?』
・・・気が利くのかそれとも本当にただただ馬鹿な感じを誘っているのか。
こんな状況でも明るく振舞おうとしているのか、どうなのかはわからない。
だがきっとこの人はこんな状況だからこそ
明るく振舞って無駄な疲労を抑えてくれているのかもしれない。
ざっと距離はもう数百m。遠回りだからこそ仕方がない距離ではある。
今いるのは長距離の一直線通路。
無論、”奴ら”に遭遇でもすれば逃げ場はない。あるとしても来た道を戻るだけ。
しかし万が一来た道からも来ていた場合、袋の鼠である。
多少のリスクはあるがここを通るのが最善である。
この通路を抜ければ大部屋よりも一回り大きい巨大な部屋に着く。
そこからの管理室までのルートは本来遠い。
だが緊急用通路を利用することで大きく近道ができる。
『よぉ〜し少しだるいと思うけど!あと少しだからね!頑張っていこうか!業く…』
私の名前を言い切ろうとしたその時。
バン!
と、大きな音が通路に響き渡った。
…それが銃声だと気づいたのはその音がして数秒後だった。
それに気がつきローランドさんの方を振り向いた。
その時、私の目に映ったのは...
彼が左肩を抑えるようにして屈んでいた姿だった_
「ローランドさん!」
私はそう言って彼の方へと駆け寄ろうとした。
・・・しかし、私の体は彼に近づくどころか反対の方向、
進むべき方向の方へと無理やり連れて行かれるように体が持っていかれる感覚がした。
「え?」と言おうとしたとき、後ろから何かに口を塞がれた。
「んーっ!んんっ!!!」
抵抗するが全く離れなかった。後ろを見る勇気はなかった。
そう考えながら抵抗し続けていると。
<やはりここにいたか>
と、左後ろから足音を立てながら少し野太い声が聞こえてきた。
私はその声がする方。左の方向を向いた。
そして見えた姿は、中武装をした特殊部隊のような者がそこにはいた。
<やっと見つけたぞ。龍崎”元”隊長>
・・・元隊長?
意味がわからなかった。彼はここのエージェントのはず。部隊というものもなかったはず・・・
そう考えていると、彼は左肩を抑えながらその武装した男に応えた。
『あぁ~・・・久しぶりだねぇ・・・君達。また遭うとは思ってなかったけど』
<我々”財団”も、当時は思っていた。だが、こういう形でまた再開するとは思ってもいなかった。
・・・23年ぶりですね。隊長。>
『そうだねぇ・・・今度は敵としてだけど』
・・・財団?
財団とは一体・・・?
『とにかく、業くんを返してもらおうか。私には使命があるからね』
<生憎だが我々にもあるのでね。あなたを生死問わず確保する。それが我々の使命だ>
・・・確保?
__そこには、冷たく痛い空気が流れていたように感じた__