Crazy scenery 〜私が見た一つの憧れ〜   作:ポン酢 

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4話<ドクゼリ>

__懐かしい感触だった。懐かしい暖かさだった__

私はその暖かさを確かに彼から感じていた。

そのせいか、唖然としていたのだろう。

私を見て首をかしげ、きょとんとした顔でこう言った

 

『?・・・どうしたんだい業くん。ポカーンとしてるけど』

「えっ?あ、いえ・・・何でもありません」

 

私は彼にそう言い答え、差し出されていた手を掴み、彼に立たせてもらった。

 

懐かしいかった。もしかすると彼は、あの人なのだろうか?

でもそんなはずはない。なぜならあの人は・・・

 

『それで〜業くん…そっちで何があったんだい?

 私は嫌な予感がしたからセーフルームへ向かう途中だったんだけど…ラッキーかな?私は』

 

彼がそう言うのを聞いていたら、先程まで考えていたことが霧散した。

 

「・・・ラッキーなのかもしれませんね。恐らくは・・・」

『まぁ、ラッキーなんてこんな状況じゃあどうでもいいんだけどさ!

 とにかく、お互い情報を共有しようじゃないか』

「はい。実は・・・」

 

 

私はセーフルームでの経緯を説明した。

・・・身を挺してかばってくれたエージェントについても話した。

すると彼はわかっていたかのような顔をして

 

『そうか・・・で、そのエージェントはなんと言っていたんだい?』

「”アンタの占いは当たってた”と」

 

『・・・やっぱり彼かぁ。まぁ、そろそろ死んでしまうんじゃないかとは思ったんだけどね・・・

 本当に当たると気分良いかと言われたら・・・良いわけないよね。流石の私でも』

「どういう意味ですか?”占い”って」

 

『あぁ、占いといっても・・・本当にただの占いさ。私の勘で今後何が起こるか。という占いさ。

 昔から勘は良い方だからね。何度も死んだり何度も死地へ行ったり何度もSC・・・。

 とにかく、悪いものに関してはよく当たるようでね。勿論好き好んでやるわけないよ?』

「・・・つまりあの人が言っていた占いは・・・」

 

『あぁ。死期に関しての占いさ。彼も物好きだよねぇ・・・

 こういうことはよく当たるからこそ周りから

 ”死神”呼ばわりされてる私に聞いてくるなんてね。感心するよ本当』

「・・・」

 

 あのエージェント・・・彼は最初から死ぬ気で・・・?

私は彼の名前すら知らなかった。それでも彼は、

私をローランドさんと合わせるためだけにその身を捧げたも同じだ。

・・・私にそこまでの価値があるのか?

ローランドさんも同じだ。上の命令とはいえ、こんな状況でもヘラヘラしていられるその姿は・・・

まるで凍土のように彼の感情は冷たく、同時に金属よりも重く、黒い”何か”に覆われているかのような。

そう。すべてを既に”諦めている”ように感じ取れた。

でも…

 

『まぁ、死ぬことには変わりなかったんだ。

 彼も本望だと思うよ?私は嬉しくないけどね』

 

それでも、彼は暖かかった。

「…行きましょう」

『あぁ。行こうか!…って…こういう時どうするんだったっけ?』

「そこからですか!?」

 

…ダメだ。やっぱりこの人はアホなのかもしれない…。

いや…アホだ…。

 

「…こういう緊急事態には何処へ向かうか。それは分かっているはずでしょう?」

少しキレ気味に彼にそう言うと

 

『あぁ怒らせて済まない!からかいたかっただけだよ…。

 流石にどこに行くべきなのかは分かっているさ!』

「では行きましょう。管理人のいる管理室に」

『あぁ。行こうか業くん。何があっても私は君のボディーガードだからね!』

 

それを合図にしたのか、ローランドさんは装備していた

ライフルのマガジンを再装填しこちらに笑顔で応えた。

 

 

______________________________

 

”そんな2人を監視カメラから見守る男が、管理室に1人いた”

「頼みました・・・龍崎さん・・・」

”ほかの研究員たちの様な白衣とは正反対の黒色の衣を羽織り、

  黒シャツを着こなしたその姿。その男は”

「業を・・・娘をここまでお願いします・・・」

 

”そう。彼は業の父親であり、管理人代理の「天宮 刹那」

 管理人”代理”という役職柄、基本管理人が欠けない限りは権利等を省けば普通の職員と変わり無い。

 だが、その管理人代理が管理室にいる。そう。管理人は既に息絶えたのだ”

”しかし彼も既に怪我をしている。腹部から溢れ出る血を、

 止められるはずがなくとも手でふさぎ抑えながら2人を見守り続けた”

 

__ここで祈ることしかできない私は・・・

  やはり力などないのかもしれない。だが・・・__

 

「何か出来ることがあるはず・・・!」

後ろの隔壁が時折ドンッドンッと重い嫌な音が何度もしたが振り向かず、2人の位置を確認して最短ルートで管理室につくように各防壁の隔壁と、ドアの施錠・解錠を繰り返した。

 

「言葉は通じなくとも、貴方なら分かってくれるはずです。龍崎さん・・・」

 

_________________________________

 

 

・・・防壁が誤作動しているのか?ドアもおかしい。

時折ロックが掛かったり、ロックが解除されたり・・・。

「・・・やはり、収容違反のせいでセキュリティシステムが故障して・・・」

危険ではないか。そう彼に聞こうとしたとき、彼が口を開いた。

 

『いや、これは導いてくれてるんだ。管理室に』

「え?一体誰が・・・」

『う~ん・・・このやり方、管理人じゃないねぇ。ということは・・・』

「・・・父さん・・・?」

 

管理人じゃないとなると、管理人代理である私の父あたりしか

施設全体の防衛システムを操作することはできない。

 

『あぁ、君のお父さんだろうね。私はよ~く知ってるよ。彼のことはね』

「え・・・?」

よく知っている?どういうことだ?

私は2人が話すところや会う所を見たことがない。そもそも友好関係があるのだろうか?

彼に会った時も、そして今も。

疑問はどんどん膨れ上がるばかりだ。

 

『とにかく、彼が私たちを見ているという解釈でいいかもねぇ』

「・・・行きましょう」

『ん?あぁ、行こうか』

 

・・・やはり父は、自分の身が大事なのだろうか。

私の勝手な憶測ではあるが、ローランドさんを利用して自分の身を守ろうとしているのかもしれない。

父は昔から冷たかった。そう。

幼少期の頃、私は幸せだった。

父も母も居て、みんなで暖かく過ごしていた。

だが・・・母は・・・。

 

思い出したくもない過去が次々とゆっくり蘇ろうとしていた。

その時、ローランドさんの足が止まった。

 

「ローランドさん?どうかしたんで・・・」

『業くん、ゆっくり後ろに下がりなさい。今すぐ』

 

そう言いながら、私の前にまるで通せんぼをするかのように腕を出した。

さっきまでヘラヘラしていた高い声がとても重く冷たい声に。

彼が真剣になっているのが理解できた。

 

・・・一体何故だ?

そう思ったとき、彼の目線の先の方へ顔を向けると、

”蜂”の時と同じであって違う悲惨な光景が目に映った。

 

「・・・嘘・・・」

 

”細い枝のように細く、爪のようなストッパーが地面に刺さった黒い絞首台のような何か”

”ソレ”に首を括りつけられもがき苦しむ職員と・・・

 

 首に天秤をぶら下げ、顔に包帯を巻いた

鳥じゃない姿をした黒い毛むくじゃらの”鳥”がそこにいた。


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