Crazy scenery 〜私が見た一つの憧れ〜 作:ポン酢
皆が叫ぶ、皆が狂う。そんな状況でも蜂は「働く」
”女王”のために。
…私は、普通の世間では絶対に起きることのないそんな非現実的な光景を目の当たりにして立ち止まっていた。
1度だけ。以前、1度だけ”女王”が「蜂」に
収容違反を起こさせたことがあった。
その時私はカメラの映像越しから、「蜂」に殺され、
そこから新たに「蜂」が生まれるのを見たことがあった。その時は致し方ない犠牲と考え、無感情で見ていた。
だがカメラ越しではなく目の前で、現実でソレを見てしまった途端、体が動かなくなった。
恐怖だ。
体が恐怖により、逃げることを拒んでいる。
皆が私の後ろの方向へと走って逃げていくが、私は「蜂」に殺され、無残な姿となった職員や「蜂」を注視したまま動かない。
さらには体が震えてきた。
笑えてきた。自分がここまで臆病者だったということを再認識したからだ。
そうやって怯えて動けなくなっていた時。
「!?」
一人のエージェントが私にぶつかって来た。
<おい!逃げろ!死にたいのか!>
まだこのエージェントは狂っていなかったようだ。
・・・だが、ぶつかった影響か体が言う事を聞くようになっていた。
これなら・・・!
だが、急いで体勢を立て直し顔を上げた瞬間・・・
「蜂」がこちらに顔を向けていた
「っ!?」
次の瞬間、蜂は頭を上げ、こちらにソレを振り下ろした。
____________________________
嫌だねぇ。こういうのは楽しいといったけどさ・・・。
『同じ”子達”だと遊び足りないよ?流石にさぁ~』
まぁ、そんなこと気にする前にやるべき事といえば・・・1つしかないよね。
『早く業くんのところに行かないとね!』
そう言いながらウジムシの如く湧いてくる働き蜂を蹂躙しつつセーフルーム方面へ向かった。
・・・と、思ったんだけどねぇ。
自分の後ろにアノマリーの「匂い」を感じ取った。
即座に後ろに向けて腕を振って応戦しようとした
が、相手はすかさず受身を撮り、私の腕を流すかのようにどかした。
ほぉ・・・?
数手ほど組み合っていると、相手が誰かに気づいた。
なるほど、通りで強いわけだ!
『あぁ、君かぁ。アノマリー特有の匂いみたいな気配がしたからさ!
条件反射?みたいな?まぁ悪かったね!』
”ソレ”は若干呆れた顔をしていた。
まぁ無理もないよね!いきなりこっちから襲いかかったんだから。
『悪かったねいやぁ本当に済まない済まない。私は行かなきゃいけないところあるから・・・
さ、私は止めないからさ。行ってきなよ。”狼退治”』
私がそう言うと、”彼女”を覆う殺意が大きくなったのがわかった。
やっぱりこうでなくちゃね!
そして彼女は私に背を向け、奥のドアへ走っていった。
『うんうん。それもまた”運命”だね!』
さぁて。私も動かないとね・・・。
_________________________________
「・・・え?」
…私は死んだ。そう思っていた。
だが運がいいのか、それとも神様のいたずらなのか。偶然なのかわからない。
けれど私は死んでいなかった。
なぜなら_
<おい!さっさと逃げろ!死にたいのか!?>
知らないエージェントが、武器で”蜂”の攻撃を防いでくれていた。
<お前、まだマトモか!?くっ・・・名前を言えるか!?>
マトモかどうか聞きたいのは此方の方だ。
「・・・天宮 業」
<業・・・あぁ!アンタか!・・・ぐっ・・・だったら・・・オラァ!>
その男は”蜂”を殴り倒し、私の方を向きこう言った。
<だったら、さっさと逃げろ!龍崎・・・ローランドの所にさっさといけ!
あいつはここから■■チームの方向にいる!>
「ですが貴方は・・・」
その時、倒れていた”蜂”が起き上がり、エージェントに向かって攻撃をしようとした。
<甘ぇよ!>
だが分かっていたのか、即座に後ろを振り向き防御した。
そもそもなぜ私を助けたのだろう。その疑問がこんな状況でも離れなかった。
だが・・・ローランドさん。彼を知っているようだった。
<オイ!業博士さんよ!>
「!」
<アイツにあったら伝えてくれ!”アンタの占いは当たってたってな!”>
・・・意味が分からない
「何を言って・・・」
<いいから早く逃げろ!俺がくたばる前に!伝言は伝えれば分かるはずだ!行け!>
”蜂”を無理やり前へ押しのけ怯んでいる隙にローランドさんの居る通路へ通じる私の背中を押した。
押された私がドアの先に着くと、ドアは自動で閉まり、ロックがかかった。
私は名前も知らないエージェントに助けられたのだ。
だが、もう助ける手立てはないのだろう。彼は命をかけてまで私のような人間を守ってくれたのだ。
__つれないねぇ・・・まぁ、君のそういうところが私は好きなのだがね!__
ふと、ローランドさんの言葉が頭をよぎった。
収容違反が起こる少し前だったが、なぜ彼が私にこういったのか今分かった気がした。
分かった気がした瞬間私は歩み始めた。その足はだんだんと速くなっていった。
ただただ走り続けた。あの人の元へ。
だが、そこにたどり着くには困難が立ちはだかった。
”蜂”や無残な死体、ましてや”黒い絞首台のような何か”に
吊るされた職員の死体を幾度も見ることになるからだ。
今更躊躇する余裕などなかった。
この大惨事を収束できるのは、彼しかいないのだから。
ーー早く収束させなければ。
私はそう思い急いで現場へと向かうため走った。
現場に近づけば近づくほど、”ソレ”は聞こえてくる
バンバンバン!ババババン!パンパン!
銃声だ。私が行くべきだとわかっていた。
この先に、彼はいる。彼が。きっと…
そう考えていると私は転んでしまった。
そして私が顔を上げた時、見覚えのある人がいた。
私の憧れであり、私が嫌う最初で最後の1人だ。ーー
彼はしゃがみこみ、私に手を差し出してくれた。
『大丈夫かい業くん?足元見ないと転んじゃうよ?』
そう言われた瞬間、なにかとてつもなく懐かしいものを感じた。
そう。それはとても古い、幼い頃の記憶の中。
__お嬢ちゃん、大丈夫かい?__
まるで、幼い頃に戻ったかのように。
あの人の様な暖かさに彼は満ちていた。
__________________