Crazy scenery 〜私が見た一つの憧れ〜   作:ポン酢 

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2話<黄泉の地下世界>

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…彼が不死身。

 

私は、それが本当に答えだとしても…

 

「…本当に不死身なのですか。あなたは」

『あぁ。不死身だよ?私が不死身というのを知っているのは…

 私に君の保護を依頼した人、そして信頼できる古い戦友。そして君だけだね』

「…それが小指が無いことと何の関係が?」

『さっきも言っただろう?保険だよ』

 

「だからその保険とは…」

『私の体はどうやら、死亡した際一番大きな肉片から再生されるみたいでね。

 やろうと思えば死んだ際に残った肉片をそこら辺の動物の餌にだってできるよ?

 ともあれ、小指がない理由は簡単だよ?万が一自分の体が吹き飛んだり再生が

 出来ないほどの損傷を受けて死んだ時に小指から再生するために切り落としているんだ』

 

…小指から再生?一体どうやって…

そもそも、生命の理に反しているその行為が本当に起こるのか?

 

 

「…小指から再生するとなると、貴方という人間は消えるのですか?」

『いや、残念だけど私は「私」だよ。自我が残るんだよねぇ。だから死ぬ時の痛みや寒さも分かるよ?でも、どうやら私の体は「死」と言う概念を「生」に塗り替えられてるみたいでね。だから「死んだとしても還ってくる」んだ。厄介だよねぇ?ハハハ!』

「…それで」

『ん?』

「それで、貴方はその体を受け入れているのですか?」

『…んー。受け入れてる。と言えば嘘になるかなぁ』

「だったら…!」

『いや、残念だけど私はもう諦めてるんだよ業くん。いやぁね?

 もちろん最初は驚いたさ!自分が不死身になったなんて本人が最初から信じられるとでも〜?』

「・・・あなたなら驚かないと思っていましたが」

『いやぁ流石に驚くよぉ!私だって』

 

・・・不死身。か・・・

ただの面倒くさい人かと思ったら、心底つまらない事を言う本当に面倒くさい人だ。

だがもし・・・仮に事実なら・・・?

 

『・・・その顔からするとまだ疑っているんだね?まぁ、無理もないよね』

「簡単に信じるほど馬鹿じゃありません。だからこそ芝居を売ったのですが」

『それでも興味津々に聞いていたじゃないかぁ!ハハハ』

 

・・・やっぱりどういう人なのか本当に掴みにくい・・・

 

『まぁともあれ私は不死身だ。小指は万が一のための保険でもあるが、もう1つ意味があるんだよ』

「もう1つ、意味が?」

『あぁそうだ。その意味っていうのはね・・・』

 

                __その時だった__

                           

 

 

 

 

施設全体に大きなサイレンが鳴った。

そして直後に放送がかかる。

 

<収容違反が発生しました!エージェントのみなさんはすぐに鎮圧に向かってください!

  収容違反を起こしたアノマリーは”O-02-62-H”と”T-04-50-W”です!注意してください!>

 

・・・収容違反?・・・なんてこった。

しかもよりにもよって・・・HEとWAWの同時収容違反。

 

『おや、お仕事のようだねぇ!』

そう彼は言って食べていたスパゲッティを残して席を立った。

 

「待ってください、私も同行・・・」

『いやダメだよぉ。これはエージェントの仕事。

 君みたいな研究員や重要人はさっさとセーフルームに逃げなさい。』

「ですが!」

『君は、死にたいのかい?』

 

彼がそう言った瞬間、全身にありえないほどの鳥肌と背中に冷や汗をかいた。

そして彼と自分の周りだけが、凍りついてしまうのではと

思うほど空気が異常に冷たく感じれた。

 

・・・彼の背後に、見えもしないのに”何か”を感じ取れる。

私の心が震えている。

なんだ・・・?この心身に染み渡るこの”恐怖”は・・・?

そう思っていたが、不思議と大体の見当は付いていた。

”殺意”だ。彼が本気なのかわからない。だがここまでの殺意は「奴ら」にはなかった。

恐ろしい。ここまで彼を恐ろしいと思ったのは初めてだ。

 

本当なら一瞬の間の時間なのだろう。だが私には数分、数十分にも感じ取れるほど遅く感じた。

『・・・もし来るのなら』

「っ!」

『もし来るのなら、今決めなさい。そう長くは待てないよ?』

彼がそう言うと、彼から感じ取れた殺意は消え去っていた。

 

私はどうすれば・・・?ほかの職員と共に逃げるべきなのか?

・・・何を迷っているのだろう。私は。

答えは既に出ているはずだったが、私の口から出た言葉は、私の答えとは逆だった。

「・・・セーフルームに避難します」

違う。そうじゃない。私が言いたいのはそんなことではない。

 

『そう。君みたいな重要人はちゃんとしたところに

 避難しなさい。勝手に死なれちゃあ困るからねぇ?』

「…はい」

『よし。いい子だ!じゃあ、また後でね?』

彼はそう言うと、収容違反があった部署に繋がる通路のドアの向こう側へと消えていった。

 

…なぜ言えなかったのだろう。何故?

そう考えていると、私はいつの間にかセーフルームへ繋がる通路を歩いていた。

すると、セーフルームへ向かう職員達の悲鳴や避難誘導をする声などが聞こえてきた。

『セーフルームへ急げ!急がないと殺されるぞ!』

その声を聞いて顔を上げた時、私は歩くのを止めてしまった。

何故なら、周辺の職員やオフィサー、使い捨ての職員。

地位なんて関係ないほどに、みんな壊れていたからだ。

 

『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない』

ある者は、死にたくないからか狂い

『そうだ!アイツらを解放してやれば俺達は助かるんだ!そうだそうに決まってるそうでなきゃ』

ある者は「奴ら」を解放すれば助かると狂言し

 

パァン!

 

…そして、またある者は自決をし。

なぜ?なぜだ?

収容違反は反対側なのに。

 

そう思った時だった。私は気づいた。

いや、気づいてしまった。

 

…収容違反は、既に全体に広がっていることに。

そう思った瞬間だった

『ああああああああ!!!!』

「!?」

どこかの誰かが、周りの職員たちよりも大きな声で叫んだ。

しかしその叫び声はすぐに途切れ、まるで四肢をもぎ取るかのような生々しい音が叫び声がした方向から聞こえてきた。

 

声がした通路の角から現れたモノ、それは…

「…嘘」

 

 

 

 

 

 

__T-04-50-Wの働き蜂だった__

 

 

 

 

 

その瞬間、私以外のみんなが『狂い始めた』

 

『ああああああああああああ!!!!』

『アノマリーだ!!!もうダメなんだ!!!』

 

…その瞬間分かった。

 

ここはもう、落ち着ける世界ではない。

 

もうここは、生気のしない

黄泉の地下世界と化していたのだと。

 

____________________

 

 

ふと、背中に寒気がした。

『…業くん?』

あぁ。こういう時にだけ私の予感は的中する。

嫌な予感だ。

 

『…助けに行かないとね!』

来た道を戻ろうとしたが、既に働き蜂達はまるで行かせないぞというかのように

数匹こちらへと接近してくる。

 

『そう簡単には行かせてくれない。か…』

当たり前だろう。それが”ここ”なのだから。

だからこそ、だからこそ楽しくなってくる。

生と死の瀬戸際と言う物は、こうでなくては…!!

『さぁ…ゲームスタートだ!』

私はそう言ってライフルをフルオートに設定した。

その瞬間、蜂たちは私の声を合図にしたかのように

こちらへと急接近してきた。

 

戦況は不利なほど面白いものだ。

そう。そうでなくては。

イージーやノーマルモードじゃあ生ぬるい

ハードモードもひとつ物足りない。

今必要な難易度は「インフェルノ」だ。

 

『さぁこっちだ蜂共ぉ!ハハハハハハ!!!!!』

 

 

__…あぁ。たまらないねぇ。

   まさに「地獄」だよ。こういうの__


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