Crazy scenery 〜私が見た一つの憧れ〜 作:ポン酢
展開はありません。そのことをご理解の上読んでください※__
「どこかしらの日常」~前編~
<ほら!行くぞー!俺のスマッシュをくらえ!>
<<うぉっ!やらせるかよ!>>
…今私は海にいる。
海と言えど、私がいるのは砂浜だ。
私は開かれたパラソルの下に置いてあったビーチチェアに座り、黙々とジュースを飲んでいる。
静かに海を眺めている私の周りでは砂浜で遊ぶものや、
海で騒ぐもの、そしてはたまたビーチバレーをして
遊ぶスタッフの皆。
…テンションの差が確実に違う。
何故私は皆と遊ばず、ただただビーチチェアに座り眺めているのか。
答えは明白。紫外線が嫌だからだ。
紫外線は人体に害をもたらすと同時にビタミンDの摂取にも役立つ。
だが、女性たるもの紫外線は出来るだけ避ける必要があるだろう。
なので私は影に籠ることを選択する。
それにもう一つ理由がある。水着だ。
私が海に来たのは数年ぶりだ。
それが関係しているため、私は手持ちの水着がないのだ。
と言うよりも、水着を着たのは5歳の時、父と海へ遊びに行った時以来だ。
その上、私はファッションなどの知識に関しては全くの無知。
その為水着は女性スタッフに選んでもらった…のは良いのだが…
私が着ている水着は、いわゆるビキニという奴だ。
下のビキニには半透明のヒラヒラしたものがついている。
…私からすると正直ビキニは大胆すぎやしないのか??
そうは思うが、どうやら女性スタッフの皆が私にどの水着が似合うか、考え抜いた結果らしい。
と言うよりも無理やり連れていかれた結果皆が決めたものだ。
私はただただ混乱するしかなかったが…。
…私の為にそこまでしなくても…と、思った。
だが、そう易々と断るわけにも…。
そういう事もありビキニを着ることにした…
…のだが…だが…やはり…
…恥ずかしいものは恥ずかしいじゃないか…!
その為、私は薄い上着を羽織ったり、水色の麦わら帽子を被ったり、黒が強いサングラスなどを掛けて外見を誤魔化している。
…そもそも!何故!私達ロボトミー社の!社員が!
夏のバカンスを楽しんでいるのか!!!!!
その理由は…
『いやぁ、皆いっぱいワイワイガヤガヤしてるねぇ!
業くんは遊ばないのかい?ハハ!』
そう。この厄介者のせいである。
事の発端というのは今から2週間前…
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~2週間前~
…炎天下の夏の日。
私は、いつもの研究所にいた。
「…」
ただただ研究を進めていた。
…進めていた…のだが…
『おはよぉ業くん!いやー夏だねぇ!外は
もうホットだよ!そうまるでHotto Mo…』
「それ以上言うとあなたの口におでんを入れますよ?」
『おぉ怖い怖い!それで死ねるか試してみたいね!』
「……ハァ…」
やはり、この人の行動や言動には呆れさせられる。
私も彼のように呑気でいられるのなら呑気でいたいものだ。
まぁ、それは無理な話なのだが。
<天宮さん天宮さん!>
と、あるスタッフがドアの向こうからやってきて私の名前を呼んだ。
「どうかしましたか?」
<あの!今週末って空いてますか?>
「え?…あぁ、はい。一応空いていますが…それが?」
<いやぁ、今って夏じゃないですか!暑いじゃないですか!
ここは冷房ガンガン効いてますけど暑いのには変わりないじゃないですか!>
「えぇ、そうですね」
<だから再来週末あたり、スタッフのみんなで数日の間バカンスに行こうっていう案が出まして!
要は社内旅行みたいな?そういう感じのをやるんですが、天宮さんも行きませんか?>
・・・社内旅行。
私に海なんて・・・とんでもない。
「・・・いえ、気持ちだけで結構で・・・」
『社内旅行!いいねぇ!ぜひぜひ私”達”も参加させてもらうよ!』
「はぁ!?」
<あぁ良かった!それじゃあ天宮さんの席を予約してきますね!>
・・・まずい。彼が余計なことを言ってしまったせいで・・・!
このままでは・・・!
「ちょ、ちょっと待ってください!私に海は似合いません!
・・・それに水着だって持っていません!!」
『じゃあ買えばいいんじゃないの?そうすれば行けるじゃあないか!ハハ!』
<そうですよ天宮さん!水着だったら私たちが選んであげますから!>
『おぉいいじゃあないか業くん!決まり決まり!』
・・・もうお手上げだ。
「ハァ・・・分かりました!行けばいいんですね行けば!!」
自分らしくないけれど、もうこうなってしまってはヤケクソになってしまうのも無理はない。
・・・諦めて同行しよう。
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~その後~
___食堂___
『いやぁ、無茶を承知で言ってみるもんだねぇ・・・。案外うまくいっちゃったんだから!』
自分で自分を褒めようじゃないか。あの頑固な業くんを
夏のバカンスに連れて行くよう促したのだから。
『ふっふ~ん・・・♪』
そう呑気に食堂の料理コーナーへと向かっていると、左手の方向にいる男性職員数人が
顔を近づけながらヒソヒソと何かを話していた。
・・・な~に話してるんだろうねぇ?・・・
気になるもんね。うんうん。
聞いちゃおっか!!!
そして私は気づかれないように後ろへ近づき、話を聞いた。
さてさて、どんなお話をしているのかな?
<・・・なぁ、聞いたか?>
〈あぁ、聞いた聞いた!あれだろ?〉
<<何をだよ>>
<ほら、あの冷静であんまり笑ってくれないあの人・・・
水着を見たい女性職員ランキング1位の・・・>
<<あぁ、天宮さんか。で?なんだ?>>
〈それがさ、あの天宮さんも来るんだってさ!〉
<<ま、マジで!?>>
<あぁマジだよ大マジ!どうやら女性スタッフ達が説得して行くよう促したんだってよ!>
<<だ、だったらさ・・・!>>
〈あぁ・・・見たくないか?天宮さんの水着・・・〉
「「見たい・・・見たい・・・!」」
<あの小柄な天宮さんの水着姿、少し興味あるわ・・・>
<<どんなの着るんだろうな・・・>>
・・・なぁんだ。男性諸君から人気じゃあないか!業くんは。
ちょっと他の所にいる男性諸君も見てこようかな~。
そう思った私は色んな所に固まっている男性スタッフ集団の話を盗み聞きした。
そして最初に盗み聞きした所の近くに戻ってきた。
うん。7割が業くんの話だね。うん。
特に水着。
うん。人気者は辛いだろうねぇ!
・・・さて!ちょっと邪魔しようか!
『やぁやぁ!何のお話をしてるんだい?』
<あぁっ!?ロ、ローランドさん・・ど、どうも・・・>
<<な、何の話って言っても特に面白い話じゃないですよ!ハハ・・・>>
『まぁまぁ!聞かせておくれよ!』
…まぁ、知ってるんだけどねぇ…ふふ…
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いやぁ、知ってる上で話を知らないふうに聞くのは大変だけどね、実に愉快愉快!楽しいものだねぇ!
あらかた聞き耳してわからなかった情報とかを整理してみた結果。
1,業くんがどういう水着で来るか期待している
2,水着に関してはほかの女性スタッフたちが現在本格的な議論を繰り広げている真っ最中
3,肝心の業くんがどこにいるか分からない
…いやぁ。私だからどこにいるか大抵検討はつくんだけれど…裏をかいている可能性があるから動きにくいねぇ本当。
そんなことを考えながら私は業くんがどこにいるかを考えるために自室に戻った。
自動ドアが開いた瞬間
「ぁぅっ…」
と、小さく誰かが驚いた声がした。
…まさかね。まさかまさか。
さすがのあの子でも私を嫌っているのに私の自室にいるわけが〜
「ックシュン!」
…いや、居るよねこれ。うん。絶対にいるやつだねぇ…。
『業くん。私が3つ数える前に出てきなさ~い?
はいい~ち・・・にぃ~・・・』
そうしていると、ベッドの下からモゾモゾ・・・モゾモゾと白衣を着たまま・・・
いや・・・それいいの・・・?埃まみれになるんじゃァ・・・。
そんなこと考えている間に業くんがベッドの隙間の中から出てきて立ち上がるところだった。
申し訳なさそうな顔で私を見た後
「・・・すみませんでした。勝手に隠れたりしてしまって・・・」
『え?あぁ・・うん。ちゃんと申し訳ない気持ちがあるなら私は別にいいよ?
で~業くん。一つ言うことがあるんだけどさ・・・』
「・・・!」
何ついて言おうとしたかを察したのか、業くんの顔がどんどん青ざめていく。
「ま・・・まさか・・・?」
『あぁ~・・・ごめんね。そのまさかだよ』
そう言うと業くんは急に・・・なんだろう。
まるで3,4歳児の駄々子のように暴れ始めた。
・・・
「いやです!嫌と言ったら嫌なんです!」
『なんでさぁ・・・行くって言ったのは君だよ?』
「やっぱり嫌なものは嫌です!!」
行くとは言ったが・・・やはり行きたくないものは行きたくないのだ!!!
だったら隠れるなんてことはしない!私は!やっぱり!!行きたくないのだ!!!!
なんでこういう時だけ彼は強いんだ・・・!?
後ろ襟を掴まれ浮いている私は、ローランドさん目掛けて
何度も殴ったり蹴ったりを繰り返しダメージを・・・と思ったが・・・
私の攻撃は全てむなしく空を切った。
『う~ん・・・こういう時だけは子供だよねぇ・・・業くん・・・』
ローランドさんは若干呆れた顔・・・いや、困った顔をしつつ私を見る
・・・そんな顔で見ないでくれ・・・と私は思った。
嫌々彼を見ていると、宙に浮いていたはずの私の足は既に地に着いていた。
「ローランドさん?何をして・・・」
『じゃ、あとはよろしくね。君たち!』
<<<はい!分かりました!>>>
・・・・・聞き覚えのある声だ・・・。
あぁ・・・間違いない・・・そう思いながら顔を正面へ向けると・・・
案の定、女性スタッフ達が群れをなして笑顔で待っていた。
”群れをなして”とは失礼な言い方かもしれないが、今の私からすればそれは”群れ”だ。
<天宮さん!今からみんなで街に出かけて天宮さんに
似合う水着を選びに行こうと思ってたんですよ!逃がしませんからね!>
「・・・あぁ・・・」
ふと声が漏れる。
それはそうだろう。今私に話しかけてきているのは
私やローランドさんにあの話を持ちかけたスタッフなのだから。
・・・この人が話を振らなければ私は・・・
そう思ってしまう。
<天宮さん!もぉ逃がしませんからね!うりゃー!>
「うわっ!?」
彼女にガバッと捕まえられ身動きがとれない。
クソッ・・・こういう時だけ、身長が低いことを恨みたくなる・・・!
<それじゃあ行きましょう!天宮さん!皆さん!>
<<<はい!天宮さんと一緒に!>>>
あぁ・・・もう・・・もう・・・!
「嫌だあぁぁぁぁ!!!」
施設の廊下全体に響き渡るほどの大声で私は叫んだが・・・
即座に女性スタッフ達が私の周りを囲むようにして逃げ場を無くした。
あぁ・・・最悪だ・・・。
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