四葉の姫君   作:らふらふ

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6話

その後の3日間は平和な日々だった。いつ敵襲が来るかと緊張していたからあまり楽しめなかったけど。お姉ちゃんとお兄ちゃんの仲も順調のようだった。

 

**********

 

その日の朝、朝食を食べ終えた後に全ての情報機器から警報が流れた。ついにその時がきたのだ。

 

「真夜様に便宜を図っていただけるように連絡します!」

 

「ええ、お願い」

 

穂波さんもお母様も流石に緊張気味だった。お姉ちゃんは完全に怯えた顔をしている。

 

そのとき、お兄ちゃんの端末に連絡がきた。

 

「基地へ、ですか?ありがたいお申し出ですが……いえ……はい、それでは母と相談してみます……はい、後ほど」

 

お兄ちゃんはソファに座って顔だけ向けているお母様に一礼した。

 

「奥様、恩納空軍基地の風間大尉より、基地内のシェルターに避難してはいかがか、とのお申し出をいただきました」

 

「奥様、真夜様からお電話です」

 

と穂波さんが電話を差し出す。

 

「もしもし真夜?……ええ、そう……貴女が手を回してくれたのね……でもかえって危険じゃなくて?……そうね、分かりました。ありがとう」

 

「奥様、真夜様は何と?」

 

「軍に話を通してくれたそうよ。まぁ、大した労力じゃないとはいえ骨を折ってもらったんだし、真夜の言う通りにしましょう。達也、大尉さんにお申し出をお受けします、と連絡して。それからお迎えをお願いしてちょうだい」

 

 

 

基地から迎えに来てくれたのは、例の桧垣ジョゼフ上等兵だった。

 

「達也、待たせたな」

 

「ジョー、わざわざありがとうございます」

 

「他人行儀な挨拶は止せよ」

 

桧垣上等兵は友人のようにお兄ちゃんに話しかけている。お母様は少し不快そうにしている。お母様の表情に気づいたのか、馴れ馴れしい態度を一先ずしまいこんで、軍人らしいしゃちほこばった動作で私達に敬礼した。

 

「風間大尉の命令により、皆さんをお迎えにあがりました!」

 

「ご苦労様。案内をお願いします」

 

「はっ」

 

必要以上に張り切った声で口上を述べた上等兵に、少し辟易した顔で穂波さんが応えた。桧垣上等兵にそれを気にした様子は全くなかったが。

 

 

 

基地に着くと案内された部屋には、私達の他に5人の民間人がいた。

確か魔法師を見下している人だったような……と考えていると、ガーディアンの3人が突然立ち上がりある方向に目を向ける。

 

「二人とも、今のは……」

 

「桜井さんにも聞こえましたか」

 

「おそらくアサルトライフルでしょうね」

 

「達也くん、状況は分かる?」

 

「いえ、ここからでは……この部屋の壁には、魔法を阻害する効果があるようです」

 

「どうやら古式の結界が施されているようです。この部屋だけじゃなく、この建物全体に及んでいます」

 

そこで、3人の話を聞いていた民間人の男が偉そうに話しかけてきた。

 

「おい、君達。魔法師なのかね」

 

「……ええ、そうですが」

 

穂波さんが答える。

 

「だったら君達、外の様子を見てきたまえ」

 

「私達は基地関係者ではありませんが」

 

「それがどうしたというのだ。君達は魔法師なのだろう?ならば人間に奉仕するのは当然の義務ではないか!」

 

人間主義者ってやつかな。平然とこんなこと言うなんてね。

 

「本気で仰っているんですか?」

 

「そもそも魔法師は人間に奉仕するために作られた『もの』だろう。だったら基地関係者かどうかなんて関係ないはずだ」

 

「なるほど、我々は作られた存在かもしれませんが」

 

嘲りを隠さぬ口調でお兄ちゃんが割って入る。

 

「貴方に奉仕する義務などありませんね。魔法師は人間社会の公益と秩序に奉仕する存在なのであって、見も知らぬ一個人から奉仕を求められる謂れはありません」

 

「こっ、子供の癖に生意気な!」

 

「はぁ……まったく、いい大人が子供の前で恥ずかしくないんですか?」

 

男が慌てて振り返ると、彼の子供たちは軽蔑の眼差しをしていた。いい気味だ。

 

「それから誤解されているようですが……この国では魔法師の出自の8割以上が血統交配と潜在能力開発です。部分的な処置を含めたとしても、生物学的に『作られた』魔法師は全体の2割にもなりません」

 

「達也」

 

「何でしょうか」

 

椅子に背中を預けたお母様が、気怠げな声でお兄ちゃんを呼んだ。

 

「外の様子を見てきて」

 

「しかし、状況が分からない以上、この場に危害が及ぶ可能性があります。離れた場所から深雪と深咲を守ることは」

 

「達也。あなた、立場を弁えなさい?」

 

お母様がお兄ちゃんに背筋が凍るような視線を向けている。

 

「ーー失礼しました」

 

お兄ちゃんは謝罪の言葉を口にして頭を下げた。

 

「達也くん、この場は私と七波で引き受けます」

 

「よろしくお願いします」

 

お兄ちゃんが一礼して出て行くと、私はCADを構えた。この後は裏切り者の軍人が来るはずだ。

 

 

 

外から聞こえる銃撃音がだんだん近づいてくる。それと同時に足音が近づき、扉の前で止まった。ガーディアンの二人は私達の前に立ち、警戒している。私は密かに魔法の準備をする。

 

「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります!」

 

警戒を保ちつつも、二人の緊張が少し緩んだのが分かる。お姉ちゃんもホッとしているようだ。

 

「皆さんを地下シェルターにご案内します。ついてきてください」

 

「すみません、連れが一人外の様子を見に行っておりまして」

 

穂波さんが告げる。金城一等兵は顔を顰めている。

 

「しかし既に敵の一部が基地の奥深くに侵入しております。ここにいるのは危険です」

 

「では、あちらの方々だけ先にお連れくださいな。息子を見捨てて行くわけには参りませんので」

 

お母様が建前のセリフを言う。なんとも思っていないくせに、よくもさらりと言えるものだ。

 

「しかし……」

 

金城一等兵が難色を示したが、先程の男は早く避難したいようで一等兵に詰め寄っている。その隙に穂波さんがお母様に話しかける。

 

「達也くんでしたら、風間大尉に頼めば合流するのも難しくないと思いますが?」

 

「別に達也のことを心配しているのではないわ。あれは建前よ」

 

やっぱり。私にしてみれば予想できていた言葉だったが、お姉ちゃんは衝撃を受けている。そっと手を撫でて落ち着いてもらう。

 

「では?」

 

「勘よ。この人たちを信用すべきではないという直感ね」

 

「私も同意見だわ」

 

お母様と私の言葉に穂波さんと七波ちゃんが最高度の緊張を取り戻した。精神干渉系魔法に長けた魔法師の直感は馬鹿にできないのである。

 

「申し訳ありませんが、やはりこの部屋に皆さんを残しておくわけには参りません。お連れの方は責任を持ってご案内しますので、ご一緒について来てください」

 

言葉は先ほどと変わりないが、脅すような態度である。

 

「ディック!」

 

桧垣上等兵が入ってきた。その隙に私は魔法を発動する。

 

凍火(フリーズ・フレイム)

 

火器を無力化する振動・減速系の魔法である。

 

金城一等兵が桧垣上等兵に銃口を向けている。しかし当然ながら発砲はできない。

 

「なんだこれは!?」

 

銃は使えなくてもナイフなどで攻撃されると困る。私は反射障壁(リフレクター)を発動した。

 

「っち!……アンティナイトを使え!!」

 

「ぐ……ぅ……」

 

なに……これ……固有能力が使えな……

 

「み……さき……助けてお兄様……」

 

まずい……いしきが…………

 

「深雪!!深咲!!」

 

倒れる寸前、お兄ちゃんの必死な声が聞こえてきた。

 


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