変なのに愛されて悪夢しか見れない   作:蒼穹難民

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前回のあらすじ


君は知るだろう、偽りの中の偽り、
それは真実ではないことを、続き過ぎた嘘は、最早止められない事を。

その時間は決して戻らない事を、君は思い知るだろう。


8月32日!お前はいないはずじゃ…残念だったな、トリックだよ。
にじゅうごにちめっ!


ーー『アルヴィス・ミーティングルーム』ーー

 

 

 

「まさか大人の我々が子供のようにラハムの泥ではしゃいでる間に、

このような事態を許してしまうとは、しかも気づいたのが子供とは皮肉だな…」

 

「メモリージングの装置を調べたが、やはり使用された痕跡があった。

おそらく、いや間違いなくアルヴィスにいる人類軍の工作員の仕業だろう」

 

 

アルヴィス幹部達は僚によって知らされたメモリージングについて、

僚と祐未を交えたメモリージング不正使用の緊急会議を開いていた。

 

 

今回メモリージング装置が不正使用されたのは、セキュリティが強化されている

データ管理区とラハムの実験している大部分の区画のみであった為、

それ以外の重要度が低い施設のセキュリティは低下してしまい、メモリージングは

本来学校内に設置してある睡眠システムで長期にわたる処置が必要な装置である。

それ故に装置のセキュリティが甘く、幹部以下のある程度権限があるものが、

メモリージング装置の監視の抜け目をかいくぐり、現在に至ってしまったのである。

 

 

「人類軍の工作員って、スパイがいるのはご存知だったのですか!?」

「なんで早期に対策を取らなかったんですか!?こんな事態になる前に!」

 

「無論、注意人物には監視をしていた…が、こんな事態では言い訳にしかならんな…」

「重要だと思っていた場所のみに目がいってしまい迂闊だった…

子供達にしか使わないとはいえ、アルヴィスの重要機材を軽視してしまった」

 

 

幹部以下のアルヴィス職員には工作員に気取られない様に教えられておらず、

知っているのは幹部とアルヴィス工作員のみである。僚と祐未が糾弾するのも無理はない。

 

 

「メモリージング装置周辺にラハムの泥があった、工作員はおそらく、

それなりに権限を持ち、アルヴィスの職員でも上位の者であるのは間違いない」

 

「記憶操作により誰もがわからぬ内にアルヴィスの重要データも根こそぎ奪われた…

これでは何の為にセキュリティを強化したのかわからんな、御膳だてにしかならなかった」

 

「しかしどうやってメモリージングを島全域に施せたのでしょう?」

「ラハムの泥だ、それによってメモリージング装置を強化したのだ。

薬はやはり強すぎると毒になる事が思い知らされた、今更すぎるがな…」

 

「ラハムの泥によってメモリージングの長期睡眠を省略…そんな事も出来るだなんて…」

「万能過ぎるのも考えものですね、より慎重かつ精密に検査しないと」

 

「彼らの目的はデータだけだったんでしょうか…それにしては大掛かりな気が…」

 

「確かにそれだけではないだろう」

 

僚の疑問の声に公蔵が考察を語った。

 

「工作員の目的はデータ収集、痕跡以外の証拠隠滅、そして竜宮島全体の不安を煽る為だ」

「何故竜宮島全体に?アルヴィス内部だけではないのですか?」

 

「メモリージングは私の権限により解除される、非常事と成人にのみ、

メモリージングは解放され記憶は元に戻るがこの3ヶ月間の偽りの時間、

アルヴィスに対して住民が懐疑を抱き今後の住民との協力は難しくなる、

つまりアルヴィスの信用を落とすと共に非常事には混乱を生み出す事になる」

 

「それじゃあアルヴィスの信頼はないも同然になる!

人類軍に賛同する住民が出てきてもおかしくはなくなる!?」

「そういう事だ…想像以上に厄介になるだろう…」

 

人類軍工作員の手腕と策略にアルヴィス幹部と僚達は冷や汗を流した。

 

(この犯行は間違いなく数名、それだけでアルヴィス壊滅に近ずくなんて…!)

 

祐未は人類軍の存在に改めて警戒心を高めた。

 

(人類軍…祐未の父さんと真由の家族の仇…!もうこれ以上、許す訳にはいかない!!)

 

祐未の父親は人類軍の攻撃によって病に冒され亡くなり、

真由の家族は人類軍の核によって全員が殺された。

 

湧き上がる憎悪を胸に、僚は人類軍を新たな敵と認識した。

 

(みんなを守る!その為なら俺は、()()()()()()()()()()()()…!!)

 

「混乱を招かない為にアルヴィスでは公開するが住民には機を見て公開する」

「それまでは口外無用とする、これは最高機密だ、島が割れるのは避けねばならん」

 

全員が懸念の中、僚は憎悪を止めることは出来なかった。

 

「僚…」

「大丈夫だ祐未、みんなは俺が守ってみせる」

 

祐未は僚の横顔を見て、心配をしたが僚は人類軍の不安だと思った。

 

 

(僚…まるで僚の優しさがどこかに行ってしまう、そんな顔だったよ…?)

 

 

(僚…貴方の心は、ここにいるの…?)

 

 

 

自分のせいで憤る僚を、祐未は悲しく見つめ続けた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「これで軍の上層部は私を認めざるをえないでしょうね…」

 

「ミツヒロさんもきっと褒めてくれる…でもまだ一手足りないわ」

 

「私達の頃には居なかったくせに、あのフェストゥム…!!」

 

「みんないなくなって私達だけが残って不幸になった…忘れるものですか!」

 

「島の奴等が幸せになるだなんて絶対に許さない…!!」

 

「待っててミツヒロさん…必ず貴方の役にたってみせます…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーー『アルヴィス・司令官室』ーー

 

 

 

「私を愚かだと嗤うかね?真壁」

「工作員の監視は私の担当だ、嗤われるべきは私だろう」

 

 

公蔵と史彦は2人きりで会話をしていた。

 

 

「工作員を泳がせたのは私だ、真壁、今回の犯人。

心当たりがあるはずが記憶が封印され、思いだす事ができん…」

「時間が経てば我等はより不利になる、だがラハムなら巻き返す事も可能だ」

 

「ノートゥングモデルの建造と改修はどうなっている?」

「スパイはあちらには手をつけていない、完成はまもなくだ」

 

公蔵はラハム研究に尽力を注ぎ、史彦はラハム研究以外のその他をサポートしていた。

 

「いざという時はすまんが使わせてもらう…このような結果を招き申し訳ない」

「…仕方あるまい、私も覚悟は出来ている…」

 

アルヴィスはまだ切り札を持っていた、()()()()という切り札を。

カードには島のミールも、ファフナーのコアの秘密もある。

 

 

「我々は人間だ、戦う相手を見誤る事だけはしてはならん」

 

「人間と人間が戦うのであれば、今までの徒労が水の泡になる」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーー『将陸家』ーー

 

 

ガララッ…

「電気がついてる…?真由?起きてるのか?」

「ただいま、真由?そこにいるの?」

 

家の電気はついていて、アルヴィスに行く前に寝かしつけたはずの真由が、

椅子の上で胸に何かを抱いて眠っていた。

 

「…起きたら誰もいなくて、不安で待ってて眠ったんだね…」

「ごめんな…怖い想いをさせて、寒かっただろうに…」

 

僚は真由を抱き上げ、真由が抱いていた物の正体を知った。

 

「これは……!」

「っ!真由…ごめんね…真由…!」

 

抱いていたのは真由の家族の写真、そして()()()()()()()であった。

 

真由は気づいたのだ、自分が本当の弟ではないこと、僚達が自分の為に嘘をついていること。

 

真由の顔をよく見ると泣き腫らした瞼が目立ち、涙の跡があった。

 

誰もいない孤独に耐えきれず、また独りぼっちになってしまったという恐怖から

寂しくて眠らずに僚達を待ち続けていたのだ。

 

「…おにいちゃん……おねえちゃん……」

「いるよ…ここにいる…」

「もう…いなくなったりしない、ずっとそばにいるから…」

 

真由は寝言と共に泣き始め、僚と祐未は真由を挟んで抱き締めあった。

 

 

「ずっと…悪夢を見ているんだな…真由」

「せめて…起きてる間だけは、幸せな夢を見せてあげよう?僚…」

 

 

この日は布団を寄せ合い、1つにするように抱き締めあって眠った。

 

 

(いつか…優しくてあったかい世界になるまで、俺が守るからな祐未、真由)

 

 

僚の目は紅く輝き、目を閉じた。

 

 

翌日、3人用の大型布団と枕を発注した。

 

 

親バカ、ここに極まれりである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーそのひ、わたしはだいすきなひとがめのまえでいなくなるあくむをみました。ーー

 

 

とても、かなしくて、くるしくて、いやでした。

 

 

 




人類軍のスパイ…一体何っぺなんだ…
僚くん、お兄様に少し汚染されますた。

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