変なのに愛されて悪夢しか見れない   作:蒼穹難民

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前回のあらすじ


焦る人類軍、恐れるアルヴィス。

事態は急激に変化する。



にじゅうよんにちめっ!

「僚ー、これ見て」

「ん?」

 

それは夏の盆祭りの告知のチラシだった。

 

「おお、もうそんな時期か」

「早いね、もう1ヶ月たっちゃった」

 

2人は生徒会室にあった謎のポエムの印象で忘れていたが

前の手伝いの際に行事予定のプリントを貰ってきていた。

 

「じゃあ、皆の灯籠を作らないとな…」

「うん…」

 

「よかったらさ…3人で作らない?」

「そうだな、母さん達にも新しい家族を紹介しないと」

 

2人は真由を起こしに部屋に向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーー『早乙女家』ーー

 

そろ〜「…データだけ置いて姿をくらませば残業はないはず…(ポンッ)ん?」

「お迎えだよ」「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーー『剛瑠島 ・ファフナー格納庫』ーー

 

 

早めの夕方、職員達は何故かまばらで、

まだ定時ではない時間に保が容子に話しかけていた。

 

 

「羽佐間さん、今日はもうあがりだそうですよ」

「あら?どうして?」

 

 

現在ファフナーの作製とティターンモデルのノートゥングモデル改修に忙しいはずだった。

 

 

「今夜はU計画でしょ?上層部と幹部を除いて定時より早く帰れるそうです」

「U計画…?ああっ!お盆祭り!すっかり忘れてたわ」

 

 

アルヴィスでは文化を保存する他に文化を再現する計画が色々ある、

U計画というのも盂蘭盆の頭文字を取ったもので、アルヴィスではそう呼ばれる。

 

「翔子ちゃん、元気になったんでしょ?なら一緒に行ってあげないと」

「そうね、余り外に出れなかったからあの子、ずっと楽しみにしていたの」

 

娘の様子に気づきながら祭りを忘れていた事に容子は恥ずかしく照れた。

 

「学校の子達と遊ぶそうですから、どのみち後で会いますね」

「そうですね、大人達も楽しみにしてますから」

 

仕事を早く切り上げ、格納庫には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『………ヴォン………ヴォン………』』

 

 

 

 

残された暗い格納庫に、2機のティターンモデルの眼が蒼く輝いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「人が悪いですよ真壁代理、定時で帰れるならそう言って下さい」

「すまんな、まさかあそこまで拒絶するとは思わなかった」

 

史彦と柄鎖も祭りに参加する為、今日は定時で帰れる予定であった。

 

「疲れが溜まってましてね…帰って寝ようかと考えてました」

「私が連れ出さないと祭りを忘れてしまうかと思ってね」

「違いません…忘れていました」

 

柄鎖はこれまで寝れなかった分寝溜めするつもりだった。

ちなみに普通に寝てても疲れは取れないので気をつけて欲しい。

 

「本当は皆城も連れて行きたかったんだがな…」

「どうやら、まだ負い目があるそうですね、誰も気にしないのに」

「ああ、町長の役割で忙しいと先に行ってしまったよ」

 

公蔵はL計画の後ろめたさから、余り柄鎖と顔を合わせなかった。

 

「だからと言って仕事を増やすのはたまりませんけどね…」

「仕方あるまい、君には実績から信頼が厚くなったからな」

「欲しくありませんでした…」

 

仕事が多いのはそのせいか…喜べばいいのか喚けばいいのか。

彼は嬉しいのか悲しいのかわからなくなっていた。

 

「では、この辺で」

「ああ、準備が終わったら寄ってくれ」

「えっ、ええ…」

 

史彦は露店をするので別れたが

柄鎖は史彦の器屋の奇妙な形の器は断固として断るつもりだ。

社交辞令として見に行くが。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーー『お盆祭り会場・屋台通り』ーー

 

 

 

「夏も、もう終わりね…」

「ああ、しかし屋台にカレー屋があるなんて…」

 

「私たちの敗因は1つ!」

「そう!あまりにも思慮が浅かった事!」

「インパクトが足りなかった事!」

「変り種が2つもあったこと!」

 

 

「「そして生まれたのがこの鉄板ドライカレーナポリタン!!」」

 

 

鉄板に薄くしいた卵焼きの上に粉末カレーで作ったカレーナポリタンを

挽肉のキーマカレーを載せ、その上に自由にのり、チーズ、目玉焼き等を載せて召し上がれ。

 

カレーナポリタンを作る時は薄くしたり細くしたり細かく切ったカレーの材料を

好みに味付けして炒めて混ぜるといい。色んな野菜やソーセージ等の肉製品や魚介類、

バナナやインスタントコーヒー、ポテチやマッシュルームなんかもうまいぞ!(しゃくれ顔)

 

 

「敗因1つじゃないじゃん…」

「あれ?幸弘はどうした?」

「本部の手伝いに行くんだって、後で来るよ」

 

 

「いくぞみんな!ゴウー!バイン!」

「「「ゴウー!バイン!」」」

「衛、子供たちにあまり変に布教しないでよ」

「姉御、俺ナンパに行きたいんだけど…」

 

 

「一騎くん!この焼き鳥美味しいよ?一緒に食べよう」

「以外だな、羽佐間が焼き鳥好きだなんて」

「翔子はお肉好きだもんね」

「うんっ!」

 

「なら焼き鳥を食べてから口直しにかき氷だな、その後で他の甘い物も違和感はないはずだ」

「総士…全力で楽しんでるな…」

「テクニカルな助言をしたまでだ」ピョロロ〜

「あたし、その面と水笛のセンスはどうかと思う…」

「私もちょっと…というよりよくあったねそれ」

「!?」

 

 

今の総士はホワイトマスクを頭につけ、ペリカンの水笛を持っていた。

 

 

「蔵前、これどうかな?」

「かわいいね、春日井くん犬好きなんだ」

「うん…羽佐間も好きらしいんだ」

「ふーん…なるほどねぇ…」

 

 

甲洋と果林もお面選びをしていた。

果林は甲洋の犬好きを色恋沙汰と見抜き、楽しみのベクトルが違ったが。

 

 

 

各々が楽しみ、夜は更けていった…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夜になり、灯籠を流し終えた僚達は花火を観に浜辺にきていた。

 

 

「お父さん…見守ってくれてるかな…」

「きっと見てくれてるさ…俺たちの事をずっと」

 

「……」

「…?真由、どうかしたのか?」

「具合でも悪いの?」

 

 

祭りがたけなわになり、暗くなってから真由は静かだった。

 

 

「よんでる…」

「えっ…?」「真由?」

 

 

真由は急に走り出し、どこかへ向かった。

 

 

「真由!どうしたんだ!?」

「真由!どこへいくの!?」

 

 

真由は着物であるにもかかわらず、2人が見失う程速かった。

 

 

「僚!あそこは!」

「ああ!ひとり山だ!!」

 

そこは島の南方にある岩山。

「危ないから一人で行かない方が良い」「一人になりたい奴が行く山」

という「()()()」には正反対な二つの意味を持つ場所。

 

 

(同じだ…!あの時と!)

 

 

真由の顔は、いつかの()()の顔になっていた。

 

 

僚達は、不安で胸が押しつぶされそうだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーー『ひとり山・沿岸部』ーー

 

 

 

「真由!いるのか!?」

「真由!そこで何してる…の…?」

 

 

真由の目の前には金髪の少年が真由に手を差し出し、連れて行こうとしている。

 

 

「真由ダメ!そっちにいっちゃ!!」

「そこに行ってはダメだ!真由!!」

 

 

「………」「あなたは、そこに、いますか?」

 

 

その少年は()()()で少し浮いていて、今にも真由の腕を掴もうとしていた。

 

僚達の距離は離れており、止める事は出来なかった。

 

 

(……っ!間に合わないっ!)「真由!!」「真由ー!!」

 

 

 

ガシッ!「!?」「……」

 

 

 

「なっ……!」「…うそ…」

 

 

 

真由の手を掴もうとする手が阻まれ、第三者の手が少年を掴んだ。

 

 

 

 

それは僚に似ている半透明の少年(真由の兄)の姿だった。

 

 

 

 

「……」フルフル…「…っ!」

 

 

腕を掴んだ少年は首をふり、

金髪の少年は顔を顰めながらその場から溶けるように消えた。

 

 

ドサッ!

 

「真由ーーーッ!!」「真由ーー!!」

 

「すぅ…すぅ…」

 

「真由…よかった…」

「僚?真由は大丈夫?」「心配ない、気絶してるだけだ」

 

2人は真由の元に向かい、倒れた真由の安否を確認して無事な事に安堵した。

 

スッ「……」

「お前は…」「僚…」

 

少年は僚に手を差し出し、握手するのを待っている。

 

「祐未、多分大丈夫だ」

「気をつけてね…僚…」

 

 

少年の手を握った瞬間、手の部分に同化結晶が現れた。

 

「グゥッ!」「………」ピキッ

 

 

(なんだ?この情報は!?真由が…いない?)

 

 

少年の手からいくつもの映像が頭に流れ込み、L計画の情景が映っている。

 

 

(そんな…!まさか…!)

 

 

映像からは次々と参加者が死に、同化現象でパイロットがいなくなり、

L計画は完遂したが生存者0という結果で終わっていた。

 

 

(11月…そうだ!なんで俺たちは───!!)パリンッ !

 

 

「うっ!」「……」

「僚!」

 

映像は終わり、手の同化結晶が砕けて少年の手は離れた。

 

「今のは、一体…どうして俺たちは…」「……」ピキッ

 

 

「真由…を……たの……ん…………だ……」ピキピキッ

 

「待ってくれ!どういう意味なんだ!俺たちは──!」

 

 

カシャーン!!

 

 

僚の質問に答える前に、少年は全身から同化結晶が生え、

結晶とともに少年は砕けて消えた。

 

「何を見たの?僚」

「祐未、いいか?多分出来ると思うが…」

 

「……っ!僚!これって…」

 

僚はなんと単独で祐未とクロッシングし、先の映像を見せた。

 

「祐未、何か気がつかないか?」

「…わからない、違和感はあるんだけど」

 

「計画が終わったのは2145年11月、だけど今は…?」

「……!!2145年8月!!」

 

「そして今の感覚、わかるな」

「忘れもしない…メモリージング…!」

 

 

 

メモリージングはアルヴィスの記憶処置であり、

島の子供達は記憶操作がされている。

 

 

「間違いない、俺たち島の全員がメモリージングされてる!」

「そんなっ!?アルヴィス以外にメモリージングだなんて…」

 

 

「………んぅ」「!目が覚めたのか真由」

 

 

「おにいちゃん、あのね」「真由…」

 

 

「みんな、みんないっちゃうの、いかないでっていってもいっちゃうから

おとうさんおかあさん、しらないやさしそうなおじさんおばさん、

おねえさんやおにいちゃんそっくりのおにいちゃんもいたんだよ?」ポタッ…ポタッ…

「そっか…」

 

「それでね、おいかけようとしたの、でもだめだって、

きちゃ、いけないって、みんな…いるがら"、だめ"だっ"で…」ポタッポタッ

「うん…うん…」ぎゅう

 

「う"あ"あ"ああぁぁぁんっ!!ああああぁぁぁぁぁ…」

「いるぞ、ここに…俺たちがいる」

 

「ごっぢじゃ、だめっで!ぞっぢじゃなきゃ、だめだっで!」

「行かなくていい、真由は今、ここにいる」

 

 

 

「帰ろう?真由、俺たちの居場所へ」

「ゔん"っ"!!」

 

 

 

真由は滂沱の涙を流し、僚は真由を抱きしめて祐未と手を繋ぎ、

自分と家族がここにいる事を噛み締めた。

 

 

(何かが起きている、俺たちが気がつかない内に、大きな何かが!)

 

 

僚は家族を必ず守ると、覚悟した。

 

 

 

(絶対に守ってみせる!絶対に!)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーそのひ、わたしは──あくむをみませんでした。ーー

 

 

 

──…今日は…今日だけは見なくてもいいんだよ?マユ──

 

 

 

 

とても、やさしくて、なつかしいこえがきこえました。

 

 

 

 

 

 

 

 




最期の別れの言葉は親しい人ほど言えない、
それはきっと、別れたくないから言いたくないのだろう。

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