レッドさんの華麗()なる珍道中 作:らとる
今回は、皆さんお待ちかねのあいつらの登場回です。なお活躍できるとは言っていない。
というわけで、祝・ニビジム攻略!賞金も手に入ったしこれで脱金欠。やったね!
モンスターボールやキズぐすりに加えてあなぬけのヒモも買い込んだし、これでピッピが出るまでおつきみ山で粘ることができるというわけだ。赤緑内でも屈指の低確率、嗚呼悲しきかなリアルラックの低さ。サファリパークとか論外。
ちなみに、お金について気になっているそこの君、実はトレーナーカードはプリペイドカードみたいな機能も備えているのである。ポケセンやフレンドリィショップで入金ができたりする他、トレーナーがバトルした際の賞金のやり取りが自動で行われるスグレモノ。まあ、私もご丁寧にトレーナーカードと一緒にリュックに入れられていた説明書を読んで初めて知ったんだけど。
なんでもこの機能については、昔賞金を支払わずに逃げてしまう輩が一定数いたからそのためなんだとか。これでゲームにおいて長年の疑問でもあった“どうして悪の組織はご丁寧に賞金を払っていくのか”問題にケリがつきましたね……だからそのハイテクをどうして他に以下略。
それならカードにお金を入れなければいいと思うじゃろ?ところがどっこい、トレーナーカードを使った支払いでない場合、各ショップでのお買い物が割り増しになってしまうのである。まあ普通に服とか食品とか買う場合には店舗によってはトレーナーカードでの支払いを受け付けてなかったりもするから時と場合によるけども。
それに加えて、トレーナーカードにお金を入れておけば、いざお財布を盗まれた時なんかでもカードを使って支払いができるのである。万が一カードを盗まれた場合でも顔写真なんかはごまかせないから悪用しようと思えばすぐにバレてしまうし、防犯面もバッチリ。なんというか、良く考えたなあ。
まあ、そんな説明はさておき。トキワの森同様トレーナーはダッシュでスルーして、暗くならないうちにおつきみ山へ向かうとしよう。
びゅんびゅんと風を切りながら走ることの爽快感といったら、いや別に運動が特別好きなわけじゃないけど気分の問題として。前世に比べて明らかにスピードが速くなってるし、普段から運動しているわけでもないのにどうしてこんなに速く走れるのかはちょっと不思議だ。そういう才能でもあったのかな?ありがたいけど、何だかちょっとだけ複雑な気分。
……運動神経がよくなったからといって体力が増えたわけではなかった。まあ当然と言えば当然だ、ただでさえインドア派だというのに、短距離走もかくやというスピードであれだけの距離を走れば体力の消耗も激しいってもんである。途中のポケセンに着いたあたりでダウンするとか、あたしってほんとバカ。おいしいみずを差し入れてくれたジョーイさんには感謝しかない。
ちなみに、ポケセンの中にゲームにも出てきたおっさんがいたのにはもう笑うしかなかった。あのニヤニヤしながらコイキングを500円で売りつけようとしたあのおっさん。ところでご存知だろうか、交換と違って金銭が絡むポケモンの売買は違法でこそなけれど資格が必要である。近くで新聞を読んでいたジュンサーさんにチクったら案の定無資格だったためお縄についた。ざまぁ。
そうして一休みした後、近くの草むらで図鑑埋めとレベル上げ。何度も捕獲にチャレンジしたおかげか、リザードが上手く手加減できるようになったのが最大の収穫。これなら今後の捕獲は楽になりそうだ。捕獲に失敗して地に沈んだオニスズメの犠牲は無駄にはならなかったのである。
ピカチュウも普通のトレーナー相手くらいなら指示無しで確実に勝てるくらいには強くなったし、これでもうハナダシティ方面の段差をうっかり下ってしまった時に後悔するようなこともなし。改めまして、いよいよおつきみ山へのチャレンジである。
ピッピが出るまで先になんて進んでやらないぞ。ズバット?イシツブテ?パラス?どんと来いや。お前らが全滅するのが先かピッピが出るのが先か、それとも私が音を上げるのが先なのか、運だめしといこうじゃないか。
いくぞおつきみ山――――ポケモンの貯蔵は十分か。
――結果を言うと。
「…………迷った」
まあさ、ちょっと考えればわかることだったよね。おつきみ山の内部は洞窟だ。薄暗い、道が曲がりくねってる、そうくれば方向音痴の末路なんてひとつだけ。つまりは立派な迷子である。ピカチュウの呆れたような視線が痛い。泣きたい。
途中で広場があったから金銀みたいな感じなのかそうか、それなら迷わないなーなんて思ったのがフラグだったのか。まさか赤緑と金銀がごちゃ混ぜになったようなダンジョンだなんて誰が考えただろう。ただでさえマップなんてほぼ忘れ去っているのになんて鬼畜な所業。あなぬけのヒモ買っといて本当によかった……!
とはいえ、ただ迷ったからというだけであなぬけのヒモを使っていたら何度チャレンジしたところでキリがない。ここに来るまでの道順を覚えていないということはまた迷う可能性が高いということだし、自分の方向音痴ぶりは自分がよくわかっている。あなぬけのヒモは高いし、できるだけ使わずにおつきみ山をぬけてしまいたい。
さて、それじゃあどうやっておつきみ山を攻略しようか。
周囲のトレーナーに道を聞こうにも人見知りのコミュ障にそんな度胸もなし、そもそも目があった瞬間に勝負を挑まれるので却下。ピカチュウもリザードもおつきみ山は初見なので道案内を頼むのも無理。
結論:自力でなんとかするしかない。
……うん、頑張ろう。大丈夫大丈夫、手掛かりがないわけじゃないし。
手掛かりというほどのものでもないかもしれないけれど、赤緑におけるおつきみ山では地下を目指せばわりと何とかなるもんである。化石しかり、ピッピの出現率しかり。だからとにかく下を目指していけばきっと何とかなるだろう。多分。目的を果たしたらあなぬけのヒモを使えばいいし、帰り道の心配はいらないのが救いだ。
というわけで、トレーナーとエンカウントしないように細心の注意を払いつつ、目を皿にして地下へのはしごを探す。迷子をこれ以上悪化させないように、ところどころで目印になりそうなものをチェックするのも忘れない。ついでにわんさか湧いてくるズバットさんはピカチュウの【でんきショック】でお引き取り願う。ピッピに何個ボールを使う羽目になるかわからないので捕獲は後回しだ。
……。
…………。
駄目です。無理。先にポケモン達の気力が尽きました。
レベル差とか諸々の関係でダメージこそなけれど、いかんせん野生のポケモンとバトルばっかり繰り返していれば疲労はたまる。ゲームでいうPP切れとでも言えばいいだろうか、こうなってはこれ以上の探索は望めない。
仕方ないのであなぬけのヒモを使おう。洞窟の近くのポケセンで回復してから仕切り直しだ。えーん私の550円。いやまあ途中でひとつ誰かさんの落とし物で拾ったからプラマイゼロと言えばそうなんだけども。
リュックからあなぬけのヒモを一本取り出す。縛ってあるのをほどいていけば、結構な長さの縄が地面に落ちていく。うん、で、これどうすればいいんだ。一緒に入ってた説明書曰く転送装置の簡易版みたいな感じらしいけど、使用方法が全くわからん。クレーム入れてやろうか、たしかシルフカンパニー製だよな。……やめとこ、何かフラグが立ちそう。
とりあえず試すだけ試してみよう。こう、外に出る~外に出る~って念じる感じで。気分はエスパーポケモンのテレポート、ってなんかちょっとまって視界がぐるぐる回り出して、え、もしかしてこれ私が回転して――。
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!「私はあなぬけのヒモを使おうと思ったら、いきなり体が回転しだしてまばたきの内に最後に使ったポケセンの前に移動していた」な……何を言っているのかわからねーと思うが、私も何が起こったのかわからなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……【さいみんじゅつ】だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
え?長い?もっと簡潔に?いや、ほんとにこれしか言えないんですけども。ただ強いていうなら三半規管が弱い人は酔うんじゃないかなとしか。あ、でも手元に縄は残ったよ。うんともすんともいわないから使い捨てなのは間違いないだろうけど。
この縄どうしよう。捨てるべきかと思ったけど、これだけの長さのロープなら何かの役には立ちそうじゃない?ちょっと嵩張るけど持っていって損はないかも。うん、そうしよう。
さーて、とっとと回復して再チャレンジだ。今度こそ迷わないぞ!
見事にフラグを回収したことをここに記しておきます。
結果を言うと、ありました、はしご。ここに至るまでに再突入からえーっと……四時間経ってる。アホかな?途中でどれだけ歩きまわっても同じ目印しか見付けられなかったときは発狂しそうになったね。なんで二度も迷ってるんだって話である。私が悪いんじゃない、こんな複雑な作りをしているおつきみ山が悪いんだ。
いかんせんトレーナーと視線を合わせないためにこまめにダッシュしてたから疲労がハンパない。はしご見つけた瞬間思わずその場にへたり込んだね。ついでに腹が盛大に鳴った。周囲に人がいなくてよかった、もし一連の出来事を知られていたら羞恥心から首を吊れるね。
というかお腹が減って当然、既に夕飯時を過ぎている。慌ててその場でご飯とか諸々出して遅めの夕飯にした。リザードとピカチュウにも、無理をさせてしまっているお詫びにちょっと大目にポケモンフーズをあげる。ごめんね、あと少しだけ粘らせてくれ。
まあなんだ、逆に考えるんだ。これだけ遅くにもなれば、さすがに地下にいるトレーナー達も撤退するだろう。そうすれば大して苦労することもなく目的を果たせるだろうし、最悪野宿になったところで広場の方にいけば野生のポケモンに襲われることもない。結果オーライというやつである。
そうと決まれば早速行動だ。さすがに深夜に活動することほど不健康なことはないし、ちゃっちゃと終わらせてしまうとしよう。
目の前の穴から見える古びたはしごに足を乗せ、慎重に降りていく。こういうのは老朽化とか細かいことは考えないほうがいい、そして下も見ないほうがいい、なぜなら足が竦むから。そのまま勢いで降りてしまえば怖いものなんて……。
「ごふっ!?」
なんか。今、はしご以外のものを踏み付けたような。
おそるおそる、下を見下ろす。自分のスニーカーがはしごの下にいたらしい誰かさんの黒い帽子を思い切り踏みつけてて、んでもってその誰かさんが全身黒ずくめで怪しい奴ですと全力で自己主張してるような格好してて、極めつけには服の胸元に大きくRとかプリントされてたりして。
どう見てもロケット団です、本当にありがとうございます。
……いやまてまてまて!これやばくないか!?なんでよりにもよってこんな所にロケット団いるの、迷子なの馬鹿なの!?
踏みつけたのは私が悪いけどそもそもお前らがこんなところで悪事働いてるのが悪いっていうかでもそれで私が踏んづけたのが正当化されるわけじゃないから結局私にも非はあるわけでっていうか流石に頭踏むとか申し訳ないにもほどがあるしでもだからといってどうしろとって感じだしあばばばば。
よーし私は何も見なかった。このまま上に戻ってしまえば全部なかったことに。
「こ、このクソガキ……!」
なりませんよね、知ってた。
とはいえロケット団と戦って顔を覚えられて行く先々で襲いかかられるとか絶対に避けたい。何の為にトレーナーにならないようにしてると思ってるんだ。自分から死亡フラグ立てにいくなんて馬鹿かドMのすることです。そして私はそのどちらでもない。
大丈夫、この身体能力を駆使すれば顔を見られる前に退散することだって……あの、ピカチュウさん、ちょっと待ってあの、今肩の上で動かれるとただでさえ不安定な姿勢が崩れ、あ。
「…………!?」
急にバランスを崩した体が、そのままはしごから放り出される。ロケット団のしたっぱの頭を越え、洞窟特有のゴツゴツした地面へとまっしぐら。スローモーションのように流れていく景色がまるで他人事のよう――ってそれは死ぬやつだ馬鹿野郎!
反射的にたまたま足に触れた何かを蹴ることで勢いをつけ、そのまま空中でくるりと一回転。そして綺麗に両足を揃えて地面に着地すれば、気分はまるで新体操部。いや前世で通ってた高校にそんな洒落たもんはなかったけど。人間死ぬ気になればなんでも出来るもんである。火事場の馬鹿力ってすごいね。
まあ、助かったとはいっても一時的なものでしかないんですが。
「一度ならず二度までも……やれ、ズバット!ポケモンマフィア、ロケット団の強さをあの生意気なガキに思い知らせてやるんだ!」
何故かお腹を押さえてうずくまっていたしたっぱが、やたらお怒りの様子でお約束のような説明口調と共にボールからズバットを出す。そして出てきた瞬間にピカチュウの【でんきショック】が炸裂し、そのまま地面に落ちていく。この間一秒、これはひどい。強さを思い知らせるとは一体……。
正直なところ逃げたくてたまらないけれど、でも不戦敗でしたっぱに賞金取られるのも癪に障る。咄嗟に帽子を目深にかぶったとはいえ、こんなのでどれだけ誤魔化せることやら。ううう、一体どうすれば。
「なっ……ええい、アーボ!【どくばり】だ!」
もちろん、私がそう思ったところで相手は待っちゃくれない。新たに繰り出されたアーボがミサイルのように飛ばしてきた【どくばり】を、ピカチュウは【かげぶんしん】を使うことで危なげなく回避する。【どくばり】はピカチュウが生み出した分身もとい残像のようなものをすり抜け、そのまま背後にいた私の元に一直線、っておい危ないだろうがなにすんだ!
瞬時に頭を横にずらすことで直撃を避ければ、後方で針が壁に衝突するような音がする。……直撃してたら、なんて考えたくもない。おいしたっぱ、なんでオメーが顔面蒼白になってんだぶっ飛ばすぞ。
いや、それはいい。いやよくはないけどまあ結果的に無事だったから考えないことにする。問題はもっと他にある。
首のあたりに手を伸ばせば、本来そこにあるはずの感触がなく、手のひらはそのまま空を切る。首と服の襟の間あたりになんだかチクチクとした感覚があって手に取ってみれば、そこにはけっこうな量の髪の毛が。
……まあ、少し考えればわかることだ。頭を勢いよく横に動かせば、当然髪の毛は一瞬遅れて動くことになる。そしてさっき【どくばり】を回避した時にそれが髪の毛に当たっていたとすれば、あの勢いであれば切れてしまうことだって十分にあり得るだろう。
おう、ところでしたっぱさん。髪は女の命って言葉を知ってるか。
「……やっちゃえ、ピカチュウ」
雷球閃耀。ロケット団滅ぶべし慈悲は無い。
目の前には黒焦げになったアーボと、同じく電撃をあびて気絶したしたっぱの姿。正直こんなんじゃ足りないし、はらわた煮えくりかえっているのも確かだけど、一時の衝動に身を任せるのはよくない。びーくーるびーくーる。
とりあえずピカチュウが【エレキボール】と思しきわざを習得してくれたから、それだけは感謝してやろうじゃないか。……確認したところ図鑑に載ってなかったから、確実にそれと言えるわけではないけれど。博士の口ぶりからして未発見のわざが図鑑に表示されることはなさそうだし、【エレキボール】はたしかかなり後の世代から導入されたはずだから、つまりはそういうことなんだろう。
だが感謝するのはそれだけだ。そしてひとつの善行で積み重ねた悪行が帳消しになるわけもなし、一生恨んでやるからな。
さて、勢いで気絶させてしまったが、これから私はどうするべきか。
このまま警察を呼ぶ、なーんてことはできるはずもない。何故ならこの時代にポケギアなんていう便利なものはまだないのである。警察呼びに行く間に起きてしまう可能性もあるし、そうでなくても他にもいるであろうお仲間に回収される可能性が高い。大の大人を外まで引き摺って行くのなんて論外、そもそも私は迷子の身。
じゃあ放置か、というとそれはそれで問題がある。なにせこれだけのことをしたんだから、帽子を目深にかぶっていたところで特徴なんかを覚えられてしまったことは想像にかたくない。これが原因でロケット団に目をつけられたりしたら何のためにトレーナーにならないでいるのかわかったもんじゃない。これも却下。
ではどうするか、答えは簡単だ。要は、このしたっぱが覚えていたところで口にしなければモーマンタイなのである。
このまま解放すれば、きっとこのしたっぱはもれなく私のことをロケット団に逆らった不届き者とかなんとかいって上司に報告するだろう。なら、報告もできないくらいに恥ずかしい思いをさせてやればいい。それかトラウマにしてやればいいのだ。
全裸にひんむいて放置する?ノー、私はこんな男の貧相なイチモツをわざわざ目にしたくはない。
どっかに埋める?ノンノン、さすがに私まで犯罪者になるつもりはない。こんな下っ端ごときのために犯罪を犯すとか論外。
……もっとこう、ユニークなものを実行しようじゃないか。相手を辱めることができ、指差して笑ってやれるような、そんな私にとって一石二鳥な復讐を。
ところで、皆さんは拘束というと何を思い浮かべるだろうか。普通に腕とか足をぐるぐる巻き?ああ、一番メジャーなのは手錠だろうか。ガムテを使ったようなのなんかはエロ同人でもよくあるやつだ、でもあれはがすときめっちゃ痛いから勘弁してあげなよ。
私はその全てに駄目だしをしよう。そう、拘束とはかくあるべき、その最たるものがあるじゃないか。まさに芸術とも言える拘束術、だれしもが一度は耳にしたことのあるその文化。
――そう、亀甲縛りだ。
亀甲縛り。
最近じゃあ、SMプレイなんかで有名じゃなかろうか。元々は米俵みたいな大きくて重いものを縛るのが主流だったりした縛り方で、縄が亀の甲羅の模様によく似た六角形を形成することから亀甲縛りと呼ばれるようになったのが始まり。割と実用的かつ簡単なので、覚えておいて損はない、かもしれない。少なくとも世間一般でのイメージ等を考えれば人前で披露するのは避けるべし。
ちなみによく亀甲縛りと言われているのは模様が菱形だったりするが、あれは厳密には菱縄縛りという別物なので注意されたし。
まあ、うだうだと言ったが、要は亀甲縛りは世間一般からしたらMな人がやられて喜ぶプレイなのである。それで人前に出るとかどんな変態だよ、みたいに思われるだろう。
で、だ。ロケット団のしたっぱがこんな洞窟でそんな姿で寝っ転がってみろ。他者からどう見られるかなんて想像に難くない。ついでに縄をきつめに縛れば股間に入るダメージは……おわかりいただけただろうか。
……ところでほら、旅人に必須とも言えるあなぬけのヒモってアイテムがあるじゃろ?そんでもって、もう効果が無くなった縄が私の鞄に入ってるだろ?
リュックからおもむろに長い縄を取り出し、じりじりと距離を詰める。教育に悪いのでピカチュウに帽子をかぶせて視界を遮るのも忘れない。
さあて、ロケット団のしたっぱさんよ、社会的に死ぬ準備は万端か?
だあいじょーぶダイジョーブ、いけるいけるいけるって!おとこのこだからはずかしくないもん!
\アッーーー!!!/
……ふう、いい仕事したわ。こっちとしても胸がスカッとしたし、これでこいつも懲りるだろう。いやあ、善行を積むって気分がいいなあ。
え、なになに、なんで亀甲縛りなんてもののやり方を知ってるのかって?そりゃあ、ネタ芸人として押さえておきたいもののひとつでしょ?なお披露する機会はごくわずかな友人にしかなかったけれどそれはそれ、これはこれ。コミュ障なんてそんなもんだ。
したっぱをずるずると通路の真ん中に引き摺っていき、そのまま放置。アーボはもうノータッチで。
さあて、それじゃあ次はどうしようか。このまま下に降りていけば他のロケット団とはちあわせすること間違いなし、それじゃこの縄が無駄に使われてしまったことになってしまう。そんなもったいないことは避けたい。物に罪はないのだから。
うん、そこらへんにちょうどよく子どもひとりくらいなら隠れられそうな岩があることだし、ロケット団が撤退するまでそこで息を潜めているとしよう。
***
その日、とあるロケット団のしたっぱは不幸だった。
おつきみ山なんていう辺境まで足を伸ばすはめになり、カセキなどというあるかどうかもわからないものを探して延々と暗い洞窟を歩きまわる任務を言い渡される。これが不幸であると言わずしてなんといおう。
俺はこんなところでくすぶっているようなやつじゃないんだ、なんていう苛立ちと共に足音高く洞窟を進んでいく。そろそろ見張りの交代の時間だというのに肝心のその見張りは定位置におらず。全くあいつはどこで道草をくっているのやら、なんて独り言がもれてしまうのも仕方ないのだ。
「おい、そろそろ交代のじか、ん……ヒィッ!」
しかし、それは不幸の序の口にすぎなかった。見張りの交代を告げに探しに行ったそこには、俗に言うSMプレイで有名な縛り方で通路のど真ん中に転がされている同僚の姿。
苦悶の表情を浮かべて横たわるその姿におぞましさを感じ、思わず男はその場で踵を返した。
「た、大変だ!あいつが、あいつが……!」
男の声に反応したのか、カセキさがしに来ていた他のしたっぱがわらわらと集まってくる。最初は鬱陶しげな表情を浮かべていたその誰もが、倒れているしたっぱのあまりの惨状に言葉をなくした。
誰が、一体どうやって。そもそもそんな騒ぎなんて少しも聞こえはしなかったし、そう簡単にやられるような奴じゃないのはここら一帯にいたトレーナーを一緒に追い払ったしたっぱ達がよく分かっている。
「……に、逃げるわよ!」
沈黙を破ったのは、ここに来ていたメンバーの中で唯一の女のしたっぱだった。真っ青な顔で震えるその姿は、服装さえなければあの大胆不敵なロケット団だとはわからないほどだ。
本来ならば諌めるべき立場にある他のメンバーも次々に同意する。こんな所業を平然と行うような得体の知れない輩が近くにいるかもしれない状態で、仕事なんてできるわけがない。それがその場にいる全員の総意だった。
メンバーの中で最もガタイの良い男が縛られている男を担ぎあげ、統率も何もあったものではない動きで洞窟を走っていく。こんな不気味な場所からは一刻も早く逃げ出したい、したっぱ達の頭にあるのはただそれだけだった。
後に、意識を取り戻した例のしたっぱが、「あ、悪魔だ……赤い悪魔が……」と呟いたきり口を閉ざしたことでこの一件は迷宮入りするのだが……それはまた別の話。