レッドさんの華麗()なる珍道中   作:らとる

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15.(今更ながら)君の名は。

 ピピピ、ピピピ。

 

「…………んむ」

 

 聞き慣れた目覚ましの音と共に、意識がゆっくりと浮上する。いつも通りにそれを片手で止めて……でもいつも通りに起きる気分にはならず、再び布団にもぐりこんだ。

 

 まあ自己嫌悪しかないよね。何してんだ昨日の私。何が酷いって改めて考えてみてもアレが最善策って結論に行き着くことだよちくしょうめ。

 というか私のメンタル脆すぎではなかろうか。えっショック受けすぎだよ自分、何故ぐっすり寝たにも関わらずシリアス持ち越してんだよ。頑張れよ私のメンタル、もっと!熱くなれよ!

 

 はー、次にグリーンと会ったら一体どんな顔すればいいんだろう。会った瞬間に舌打ちでもされてみろ、今度こそ立ち直れないぞ私。というか現在進行形で立ち直れてないんですがそれは。

 ああ、もう、なんだってこんなにも悪い方向にしか事を進められないんだ自分。コミュ障か、コミュ障がいけないのか、そんなもんどうしろっていうんだよぅ。やっぱり世界は私に厳しすぎるんだ、神様なんて嫌いだ……。

 そもそも私のメンタルが弱いのが一番の原因なのでは?この腐りきったメンタルを鍛えさえすれば万事上手くいくとかそういうことない?ほら、グリーンに嫌われてもびくともしないくらいの。それくらいの強度があればきっと今後傷つかずにすむんじゃなかろうか。修行?修行なのか?

 

「……そうだ、旅に出よう」

「ぎゃうッ!?」

 

 おうリザード、起きとったんかワレ。

 

 

 

 ……というか。

 よくよく考えんでもすでに旅には出ていましたね、はい。いやでもほら、惰性で旅を続けるのとちゃんと目的のある旅をするのとではまた別の話だろうし。え、図鑑?あれはどちらかというと惰性というかついでの域だから、まあ、うん。

 

 ま、そうはいっても実際に武者修行とかやれるわけでもない。だって手持ちの皆まで巻き込むわけにはいかんですし。仮にいつか武者修行の旅に出るとしてもそこらへんはちゃんとしていかないとね。立つ鳥跡を濁さず、というやつだ。

 今ばっかりは十八番の現実逃避も封印してこれからのことを考えなければならない。いつまでも逃げてられるわけでもないのである。そしてこの場合のこれからのことっていうのは、まあイコールでグリーンのことになるわけでして。

 

「どーすっかなー……」

 

 いかんせん目的地が一緒、辿るルートもほぼ一緒。これで一度も出会わないなんてどれだけ低い確率になることやら。そもそも次のクチバの時点でエンカウント率がべらぼうに高いのである。サントアンヌ号イベントほんとギルティ。

 とはいえひでんマシン的な意味でもポケモンバトル的な意味でもあのイベントをスルーするのはできるだけ避けたい。かといってあんなこと言ってしまった直後にグリーンと顔を合わせるのは気まずい。そんなんどうしろというのか。

 

「ううー……」

 

 グリーンらしき人を見かけた瞬間に全力ダッシュ、っていうのはまず真っ先に除外された。なんてったって豪華客船だ、そんな所で走り回るなんていくら何でもマナー違反すぎる。

 グリーンが船から出てくるのを確認してから入る……のは、ああでもずっとあそこに停泊してるわけでもないからまずいか。どのタイミングでグリーンが来るのかもわからないし、こそこそと一日中豪華客船を監視してたりしてみろ、ただの不審者でしかない。最悪通報されてしまう。

 

「うぐぐぐ……」

 

 うーん、じゃあやっぱり行かない?でも折角マサキさんからチケットを貰ったのにそれを無駄にするなんて。自分で手に入れたならまだしも貰い物を無駄にするなんて許されないだろ。

 ……あえて顔を合わせる?死ぬ気か自分?

 

「っぐぐぐ…………だーっ!やってられっかー!」

 

 苛立ちを発散するように大声を出し、その勢いのまま起き上がる。そのままずんずんと歩を進め、必要ないくらいの力を込めてカーテンを開け放った。

 窓から入ってくる暖かい陽射し!はい、起きろ自分!このままネガティブしてたってなんのメリットもねーんだよバーカ!大体考えたってロクな案浮かばねえに決まってるだろそういうのほんと苦手なんだよ!タイムイズマネーだぞ無駄なことしてんじゃねえ!!!

 

 というか自分パジャマだったんか。むしろちゃんと風呂入ったんか。しかもポケモンのみんなもボールから出しといたんか。

 やっべえ何も記憶にねえ、昨日どんだけメンタルやばかったんだ。むしろその状態でよくこれだけのことをやれたな自分、そこだけはほめてやろうじゃないか。

 

 さっきの大声のせいかピカチュウとフシギダネも起きたようだし、もうちゃっちゃか準備してさっさとこんな場所お暇してしまおう。一か所に留まってるからこんなネガティブ思考になるんだ、体を動かしてればちったあマシになるだろ。

 とりあえずグリーンのことは後回し、大丈夫大丈夫未来の私がなんとかしてくれる。頑張れ未来の私。未来の私が無言で中指立てたような気がするけどまあ気にしない。細かいことは気にせずにノリとハイテンションで突っ走るのがレッドさんなのです、余計な考えはいらんのです。

 

 さあさ、早く朝ごはんを食べて出かけなければ。昨日はみんなに迷惑かけちゃっただろうし、ごはんはちょっと多めにしておこうじゃないか。

 

「ふふふ……いっぱい食べて大きくなあれ……」

 

 ……丸々と太らせた末に取って食おうとする悪役のようなセリフになってしまった。どうやら思っている以上に精神的にきているらしい。

 

 

 

 

 

 

 まあ、準備が整ったところですぐに出るわけではない。だってそんなことしたらグリーンと出発時間が重なる可能性があるからね!あいつが出てちょっとくらいの時間を見計らって出発しましたとも。

 あとはのんべんだらりと進めばエンカウントする可能性はほぼ0、そしてここらへんのポケモンはまだ捕まえてないから時間を潰すだけの正当な理由がある。それが終われば、あとはひたすらバトルの腕を鍛えるのみだ。

 クチバシティではジムに挑まなければならないから、できるだけレベルを上げて、もっとみんなのサポートを上手くできるようにならなければ。たとえグリーンのライバルでなくなったとしても、この子達と一緒に戦わないわけじゃないからね。

 

 例のノートとペンを取り出して、指示を出しながら、あるいはバトルは任せながら自分に足りないものを探していく。このノートを使い始めたのはつい最近のはずなのに、いつの間にか数ページがびっしりと自分の文字で埋め尽くされていた。

 自分の努力が足りているとは微塵も思っていないけれど、それでもこうして形になっているとなんだか安心する。似たような感覚でいえば、そう、問題集を少しずつ、確実に進めていく時の感覚に近い。まあ、ここ数年はそういうのとは縁がなかったんだけども。

 ……うーん、思考がとりあえず惰性で問題集を解いているだけの典型的なダメ受験生のそれ。結果が出なきゃ意味がないぞ自分。

 

(んー……リザードはだいぶ動きが完成されてきてるけど、今後の進化を考えると完全に型を作るよりかは動きに余裕を持たせた方がいいよね。あとはピカチュウの方が……)

 

 リザードもピカチュウも、私の指示にしっかりとついてきてくれている。着実にトレーナーとしてのスキルはレベルアップしている、と思いたい。きっと少しずつ強くなれているはずだ。

 ほんの少し焦りのようなものも感じるけど、そればっかりは仕方がない。最初のうちはサボっていたわけだし、その遅れは自業自得。強くなりたいばっかりに闇堕ちするのが許されるのは二次元(のイケメンorヒロイン)だけです。こんなコミュ障オタクの闇堕ちとか誰得でもないわ。

 

 うむ、また余計なことを考えてしまっていた。そんなことしてるからいつまでたっても強くなれないんだよ自分、ちゃんと目の前のバトルに集中しないと。

 止まっていた手を動かして、少しでもみんなの役に立てるように頭を働かせる。さて、次の課題を見つけないと。それから次のクチバでのジム戦の対策もしていかなければ――。

 

「あれ……もしかして、レッドかい?」

「え?」

 

 なんとなく聞き覚えがある声に、反射的に振り返る。

 背後でリザードが相手を吹き飛ばしたらしい音と同時に視界に入ったのは、いつぞやトキワのポケセンで話をしたジョウトのトレーナーさんだった。

 

 

「……あ、おひさしぶりです」

「ああ、やっぱり。髪型が変わっていたから一瞬人違いかと思……って、どうしたんだい!?顔色が悪いよ!?」

「はあ……」

 

 そうか、私は顔色が悪いのか。別に風邪気味だったりはしないはずだけど……うーん、後で念のため風邪薬とか買うべき?

 いやそんなことはどうでもいい。それよりも重要な問題がある。私は今、とてつもなく大きな壁にぶち当たっているのだ。

 

「…………」

 

 ……えっと。何を話せばいいんでせうか。

 

 顔色悪いとか言われましても、そうですか、心配してくださってありがとうございます、くらいしか言うことがない。むしろそれすら言うタイミング逃した悲劇よ。ほらぁこれだからコミュ障は。

 良い天気ですね?いやいや流石にそんな適当なセリフはちょっと、場合によっては相手を不快にしかねないだろう。えーっと、その後はどうですか?まあ無難……いやでもそもそもこの人が何のために旅してるのかも知らんし、あとこれで何か地雷踏んだらそろそろ私のSAN値が逝ってしまう。

 

「……気分を悪くしたらごめんね。もしかして何かあったのかい?」

 

 とか言ってたらあちら側から話題を振ってくれた。ああ、その気遣いがとても嬉しいような虚しいような。なんやこのコミュ障くらいには思われたかもしれん。事実だけど、事実だけど。

 しかもどうやら心配させてしまっている様子。まあ何かあったといえばあったけど、人に話すようなことでもないし、うん。

 

「いえ、特には。最近、少し忙しかったので」

「そうかい?ならいいんだけど……」

 

 トレーナーさんは、どこか納得できなそうな空気を出しつつもそのまま引き下がってくれた。まあ所詮は一度会話したきりの他人なわけだし、大人ともなればそう他人の事情にずけずけと踏み入るようなこともしないってことだろう。ありがたや、ありがたや。

 

 さて、そういうわけで話題も続かないしそろそろお暇したいんだが。

 

「…………」

「………………ええ、と」

 

 見られている。なんだかじっと見られている。

 いや、不快な視線ではないんだ。トレーナーがトレーナーに向ける視線といえばわかってもらえるだろうか。ここしばらくの間にすっかり慣れたその視線が、目の前のトレーナーさんからびしびしと飛んでくる。

 

 いや、訂正しよう。不快というより、むしろ個人的にはわりと好ましい。リザードやピカチュウじゃあないけど、私だって強いトレーナー、強いポケモンとのバトルは嫌いじゃない。ちょっと前まではなんだかんだと理由をつけてバトルを避けていたけど、もうその必要性はないわけだし。このトレーナーさんの腕前は全く未知数だけど、少なくともジョウトくんだりからわざわざ足を運んできているんだ、きっと相当の腕前の持ち主なんだろう。

 それに、自分が強くなるには強いトレーナーと戦うのが一番だ。ポケモンの経験値的な意味ではレベルの低い相手と戦うのがいいかもしれないけど、それじゃあただレベルが上がるだけだ。本当の意味で強くなったなんて言えない。

 

 ……それに、強い相手とのバトルともなれば、他のことを考えている暇はない。気分を切り替えるにはちょうどいいんじゃないだろうか。

 このまま野生のポケモン相手にバトルを続けていても、なんだかんだで集中できなそうだし。うん、よし。

 

「あ、あの!」

 

 そうと決まれば、トレーナーとしてすべきことはただ一つ。

 

「私と、バトルしてくれませんか!」

 

 そう言って、トレーナーさんに向かって深々と頭を下げる。

 そういえば、もしかしなくても私からバトルを挑むのはこれが初めてのことなんじゃなかろうか。グリーンの時もあちらからだった。ジムについても道中のトレーナーについても挑んでくるのはむこうだったし。ロケット団の時なんて論外。

 

 ちらっと姿勢はそのままに視線だけを上げれば、私の勢いに驚いたのか目を白黒させるトレーナーさんの姿。もしかしてあんまりな勢いにドン引きされてしまったんだろうか。いやトレーナーなんていっつも目が合った瞬間に挑んでくる生き物なのに私のこれはダメとかだったら死にます。人間関係って難しい。

 

「……あ、ええとその、急いでたりしましたか、それならその、お時間を取らせて申し訳ありませんでした!気にしなくて大丈夫ですので!」

「え、ああいや、そういうわけじゃないから頭を上げてくれないかな?」

 

 はー、優しいかよ。浄化されて死んでしまう。なんて人間が出来すぎている人なんだ。神か。もうあなたが神でいいよ。アルなんとかさんって誰ですか。

 むしろその場に額をつきたくなるのを堪えて頭を上げる。肝心のトレーナーさんはといえば、慈愛に満ちた微笑みをたたえていた。……後光が見えた。尊さで死ぬ。あれこれどっちにしろ死んでしまうんか私?

 

「とはいえ、今の手持ちだとな……レッド、君はジムバッジはいくつ持っているんだい?」

「へっ?あ、えっと、グレーバッジだけです。これからクチバに行こうと思ってたので……」

「それなら、ちょっと先にポケセンへ行ってきてもいいかな?手持ちの回復と交換だけ済ませてしまいたいんだ」

 

 手持ちの交換、というと、もしかしてレベル差を考慮してくれているんだろうか。まあ確かにレベル差があんまりにも離れているとまともにバトルできずに終わる可能性もある。そもそもバッジの数によってジムのトレーナーの手持ちが変わるのはそういう理由があってのことだし。

 こちらとしても、強敵と戦う前に回復を済ませておきたい気持ちはあるし、むしろ万全の体制で戦えるのにノーという理由もない。リザード達もそろそろ疲れてきてるだろうし、ここらへんで少し休憩を入れるべきだろう。

 

「あの、ご一緒してもいいですか?私もみんなを回復してからバトルしたいので」

「ああ、大丈夫だよ。というか、そこまでかしこまらなくても……」

 

 むりれす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 回復もすませ、いよいよファイトである。

 実は途中ポケセンへ向かうときにまた話題がなくて結局トレーナーさんの後ろに無言でついて歩くという端から見たら何事かと二度見されるようなこともあったような気がする?そのイメージは間違ってるわ、イリュージョン、幻想よ。

 

「それじゃあ、このあたりかな」

 

 そう言ってトレーナーさんがくるりと振り返ったのは、つい先日グリーンとバトルしたスペース。いくらバトルしても周りに影響がなさそうな場所が限られているとはいえ、なんとも嫌な偶然である。

 とはいえ、何も知らないトレーナーさんにそんなことを言うわけにもいかず。無言でうなずき、ある程度の距離を取って立ち止まる。

 

「それで、フシギダネは戦わないってことでいいんだね?」

「……はい」

 

 グリーンの時には事前に言うのを忘れていたため、今度はあらかじめ事情を伝えておいた。トレーナーさんが持っているボールは四つ、つまり単純計算でリザードとピカチュウがそれぞれ二匹ずつ倒せばいいんだけれど……。

 

(ま、そう簡単にはいかないよね)

 

 向き合った途端真剣な表情になったトレーナーさんを見ればわかる。かなりの実力者なんだろう、圧迫感のようなものすら覚えてしまう。グリーンの時とはまた違う、もう完成されてきている強さだ。

 これは負けるかもしれない、という考えは打ち消した。そういう考えのままバトルするほど馬鹿馬鹿しいことはない。勝つにしろ負けるにしろ、全力でバトルしたいからこそ挑むんだから。

 

 

 さて、リザードとピカチュウ、どちらから行ってもらおう。トレーナーさんの手持ちを見たことはないから、相性の予想は全くできない。強いていうならリザードへの対策は取られている可能性が高いくらいか。

 バッジの数を聞かれたってことはレベル差はそんなに無いようにしてくれたんだろう。となると、経験の差が勝敗を分けるはず。ここは慣れているリザードに行ってもらって、相手の戦い方をある程度把握してからピカチュウにバトンタッチするのが一番か。

 今まではわりと勝ち抜きみたいな感じのバトルばかりだったから、戦況次第での入れ替えっていうのもそろそろ慣れていかないと。いつまでもごり押し戦法じゃ勝てるバトルも勝てなくなるだろうし。

 

 パン、と頬を叩いて気合を入れる。ジムに挑んだ時のように、全力で勝ちにいこうじゃないか。

 ボールからリザードを出して、ピカチュウはそのまま腕の中に。さあ、いよいよバトルだ。

 

「よ、よろしくお願いします!…………」

「うん、こちらこそ……どうかしたのかい?」

 

 …………。

 ………………あの、すんごい情けないかつ馬鹿みたいなこと言ってもいっすか。

 

「…………すみません」

「え?」

「お名前お聞きしてもいいですか」

 

 トレーナーさんが、予想外だと言わんばかりにその場で沈黙する。ついでに自分の足元から何かを噴き出すような音が聞こえてきた。リザード、君わりといい性格してんな?

 そうだね、よくよく考えなくても今までずっとトレーナーさんって呼んでたね……ほら、別にバトルの前に名乗る文化とかないし。ゲームみたいに『トレーナーの〇〇が勝負をしかけてきた!』みたいな文面が表示されることもないし。トレーナーカードのデータでバトルの履歴を見て初めて相手の名前を知るみたいなことも多いからね、チカタナイネ。

 

「……ああ、そうか。そういえば、まだ名乗ってなかったね」

 

 苦笑するトレーナーさんを見て、更に申し訳なさが込み上げてくる。

 あの、ほら、人の名前なんて呼ばなくても生活していけるじゃん!コミュ障特有の現象なのかもしれないけど!それを突き詰めた結果として初対面の人相手に「あれこの人知り合いだっけ?」とか思いながらそれなりに親し気に接して去り際にフレンドリーな人なんですね~とか言われて羞恥心に悶え死ぬ現象が起きるんだけど!

 

 よーしやめよう。なにもこれ以上自分の傷を抉ることはない。

 結果としてちゃんと聞けたわけだし、これで今後への教訓にもなったろ、ほらぁ円満解決!

 

「す、すみません、バトル前にこんな」

「いや、こちらも名前を聞いただけで名乗っていなかったからね。むしろこれは僕の過失だ、気にしないでほしい」

 

 はーーーーやはり神では。自分の性格の悪さもあって罪悪感で死ねる。今日だけで何回死ぬんだ自分。軽率に死にすぎだぞ自分。

 なんでこんなにも情けないというか決まらないんだ自分。あんだけ気合入れてたのにすぐこれなんですよお。

 

 そんな風に自己嫌悪をしている私のことを見かねたのか、トレーナーさんが優しく微笑む。い、イケメンだ……性格容姿共にイケメンだ、非のつけどころがない。

 

「僕の名前はハヤテ。よろしくね、レッド」

「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 イケメンスマイルを浮かべたトレーナーさん――ハヤテさんが、そう言って手を差し出す。手の形からしておそらく握手をしてくれるってことだろうか。

 おそるおそる手を出して握りこむ。ああ、至近距離で放たれるスマイルが目に痛い。視覚と精神を同時にぶん殴られる感覚ってこういうものなのか。

 

 ……それにしても、ハヤテ、ハヤテ……なーんかどっかで聞いたことのある名前のような。いや、前世で見た漫画の主人公じゃなくて。もっとこう、ポケモン関係で。

 いやでもゲームにしろアニメにしろそんな名前の登場人物はいなかったと思うんだけど。でもなんとなく誰かに似てるような、似てないような……こう、青っぽい髪とか片目が隠れてるのとか……はっ、もしやキタロー!(そもそもゲームが違う)

 

「それじゃあ、改めて。……始めようか」

 

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 再び真剣な目になったハヤテさんと距離を取る。今はただ全力でバトルをするのみ、余計な雑念はゴミ箱にポイだ。

 

 すーはーと大きく深呼吸し、リザードと頷きあう。そして指示を飛ばすために口を開いて――――。


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