レッドさんの華麗()なる珍道中 作:らとる
マサキの口調がよくわからなくて似非大阪弁になってしまいました、すみません……。何かおかしな所があったら指摘していただければ嬉しいです。
と、いうわけで。
「私が……マサキの家に、来た!」
「ピッカ!」
マサキの家の玄関の前で拳を天に突き上げる。ピカチュウもノリノリで真似してくれて可愛いったらない。
……往来で何してんだとか言わないでいただきたい、私もやってから一気に恥ずかしくなったから。誰も周りにいないのが唯一の救いだ。
昨日は結局事情聴取やら何やらで気がつけば夕方~なんて事態だったので来れなかったが、今日はもうゴールデンボールブリッジには誰もいなかったので邪魔するものは何もない。道中のトレーナーをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、気が付けば増えていたトレーナーカードのお金と共に私はマサキの家に辿り着いた。
目の前には普通の一般家庭よりも広めの一軒家。研究家でもあるから研究機材とかを置く以上大きくなってしまうものなんだろう。これだけ広いと一人暮らしは掃除が大変そうだなあ、なんてどうでもいいことを考えたり。
そういえば、結局一日経ってしまったわけなんですが、まだポケモンと融合しちゃったりしてないんだろうか。もしも昨日からその状態だったりしたら……うん、私ならSAN値がゴリゴリ削れるな。
いやだってさ、考えてみ?完全にポケモンになるならある意味ご褒美だけど、中途半端に体のパーツが人間のままとかそれただのホラーじゃん。ゲームが違ったら敵モンスターとして出てくるやつだよ、マッドサイエンティストの実験台みたいな感じで。
まあ、そんなものは実際に見てみないと分からない。何はともあれ目的を果たさなくては。
ゲームの主人公のような常識なしとは違い、インターホンをしっかりと鳴らす。この時代はまだマイクだのカメラだのはついてないし、流れる音楽がこう、なんかすごく懐かしい、えーっとあの、ほら、わかる?ファ○マの入店音と同じ音楽の。……ファ○チキください。
で。
「……返事がない」
屍ではない、はずだ。留守だろうか。あるいは研究の最中で手が離せないとか。だとすると拍子抜けというかなんというか。
うーん、いやでも、例の合体融合事件の可能性もあるから心配っちゃ心配だし、あと一回くらいはインターホン押してみようか。ポチッとな。
…………シーン。
「…………出な」
「うおおおおっ!ちょい待ち!待った!」
「おおう」
なんだ、普通にいたらしい。まあインターホン1回目はちょっと間に合わなかったりするよね、わかるわかる。
扉の向こうではトタトタとやたら軽やかな足音が玄関に近づいてくる音。そしてドアノブが軽い音を立てて下がりーーそのまま開くことなくつるりと元の位置に戻る。
「あでっ!」
そしてそれと同時に扉の向こうで何かの墜落音。……うーん、何だか嫌な予感。
「あー、すまんすまん。ちょおそっちから開けてくれん?今厄介なことになっとるんや」
「……はあ」
あ、これは……確定かー。そっかあ既に事故ってたかー。いやむしろ何故その状態でドアを開けようなんて思ったのか。
まあ、ここで見捨てるなんて良心が咎めるし、フシギダネの件も早く解決しないとだし。まあたかだかちょっとしたグロ画像程度ならネットとかゲームで散々見たし大丈夫だろ、多分。
ドアノブに手をかけ、向こう側にいるであろう誰かさんに当たらないように慎重に扉を開けていく。
果たして、開いた扉の向こう、地面からそう離れていない場所に浮かび上がったその影は。
「おー、おおきに!こんな体で困ってt」
「失礼しました」
閉めた。
「……は!?ちょ、なんで閉めるん!?」
はっはっはー、なんか聞こえるけどキノセイダヨネ。うんうん、私は何も見てないし聞いてないぞ。私は今時コラでしか見ないようなグロい生物なんて見てないぞう。
思わず肩の上のピカチュウと顔を見合わせる。頼みの綱のピカチュウはこれまでに見たこともないようなビビり顔をしていた。……うん、悲しいかな、あれは私の見間違いではなかったらしい。
仕方ない、腹を括ろう。まあ一度見てればショックは薄れるし、別に私グロゲーとかホラゲ―は好きでやってるタイプだし!別に現実にそういうのがいたって襲いかかってきさえしなければいけるって!
そっと、そーっと扉を開く。足元のあたりには、やっぱり見間違いではなかった紫色の生物……コラッタ、らしきもの。
「あ、開いた」
が、何故か顔面だけ人間だった。うん、もうパーツとかがなんか合成写真もかくやというくらいに人間で、顔面が明らかにコラッタの身体じゃありえない動き方をした。
「…………ぎ」
「ぎ?」
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
無理無理無理やっぱり無理だってー!かえる!おうちかえるー!
「……すみませんでした」
「いや、ええよ。わいかてこんなん見たら逃げるかもしれんし……」
マサキ……だと思われる謎のグロ生物は、私の謝罪を苦笑しながら受け入れる。いやほんと失礼すぎた。でもやっぱりあんまり進んで見たいものではないのも確かなのです。私ホラーとかグロとか平気だと思ってたけどあれです、三次元はだめでした。何でだ……おばけ屋敷とかは平気なのに……一体何が違うというんだ。
正面から向き合うのにも一苦労というかなんというか、思わず目を逸らしそうになってしまう。マサキのためにも自分のためにも早く解決したい。切実に。
「…………ええと、その、わた……僕はレッドです。えっと、マサキさんを訪ねにきたんですが、あなたで合ってますか?」
「おん。わいはマサキ、人呼んでポケモンマニアや!……あー、ちゃうねん。これは実験に失敗してポケモンとくっついてもうただけなんや。わいは普通に人間やで」
「それは流石にわかります」
こんな生物が普通に闊歩してたらちょっと……いやかなり精神衛生上よろしくない。子どもが泣く。ゲームのレーティングが一気にDあたりまですっ飛んでしまう。
「……あの、それ、どうにかならないんですか?」
「た、助けてくれるん!?」
「あ、はい」
ぱっと顔を明るくするマサキ。きっと本来ならイケメンなんだろうに、悲しいかな、状況が状況なせいでただのグロ画像である。
喜色満面といった様子のマサキには悪いが、そういうのいいから早くしてほしい。一刻も早くそのグロ画像を見なくてすむようにしたいんですごめんなさい。
「ほなら、わいがそこの転送マシンに入るさかい、分離プログラムを頼むで!」
「……?」
いや、とか言われましてもね?こっちは初めて来たばっかりで何が何やらさっぱりなんですわ。分離プログラムとはなんぞや、何故人が全部理解している前提で話を進めるのか。
ゲームではただパソコンを調べるだけでよかったけど、現実ではそうもいかない。だってこれ明らかにミスったら一貫の終わりじゃん、最悪命に関わるやつじゃん。ちゃんと分かるように説明ぷりーず。
「あー、そこのパソコンのデスクトップの上から三つ目のアイコンをダブルクリックして、後はエンターキー押せばなんとかなるで。ほな、よろしゅう!」
マサキはそう言うと、素早く二対の転送マシンのうちの右に入り、器用に後ろ脚で内側から扉を閉めた。
……ええと、上から三つ目だったか。専門用語ばかりで目が滑る画面には目を通さず、そのままエンターキーを押す。それと同時に転送マシンの方からやたらと大きな機械音が響き、やがて一際大きな音と共にマサキが入った方とは反対の転送マシンが開くと、一人の男性が転がり出てきた。
「げほっごほっ……やあー!おおきにおおきに、助かったわ!」
そう言って快活な笑みを浮かべる男性は、紛れもなく前世においてゲームやら何やらで見たマサキそのものだ。マサキと融合したはずのコラッタは見当たらないから、きっと預かりシステムの方に無事転送されたんだろう。
それにしても、何をどう失敗したら融合なんてしてしまうのやら。あれかな、実験に失敗したと思って転送マシンを覗きこんだらその瞬間に作動しちゃったみたいな感じなのかな。……今後は転送マシンの取り扱いには細心の注意を払った方がいいかもしれない。使ったこと無いけど。
「で……あんさん、レッドやったか?わいのポケモンコレクション見にきたのちゃうんか?」
おっと、そうだったそうだった。あまりのグロテスクぶりに本来の目的を忘れるところだった。
ポケモンを見れるというのは心惹かれるけれど、やっぱり折角旅をしているんだから旅先で出会った方が楽しいし、今回はそれはお預け。首を横に振り、腰のモンスターボールの一つ、フシギダネが入ったボールをマサキに見せる。
「この子のことで、少し相談があるんです」
「ほー……んで、今はあんさんの手持ちに、っちゅうわけか」
マサキの言葉に頷き、フシギダネの顎の下を撫でる。かなーりざっくりとした説明だけれど、分かってもらえただろうか。またもや一方的にしゃべくり倒すだけだったからコミュ障の心配はせずにすんだけど……いやちょっと待て、上手く伝わらないからこそのコミュ障なのでは?もしやこれもコミュ障の証なのでは。
ちなみにそのフシギダネはというと、私の膝の上に座りながら、正面のマサキを思いっきり睨みつけていた。というか最早威嚇の域、さしものマサキもこれには閉口したほどである。いや、これでも前進した方なんだよ?相変わらず上から撫でようとするとツルで叩かれるけど、最近はその威力も弱めにしてくれてるし。
「ちなみに、フシギダネを見つけたっちゅうねーちゃん以外の人間に会わせたことはあるん?」
「ボールから出たことはない、です」
「ほなら、ジョーイのねーちゃんにボールを渡す時に抵抗したりは?」
「えっと……ないと思います」
バトルをボール越しに見ている時も、他のポケモンと一緒にいる時も、特に反応を示すことはない。ただ人間と直接向かい合うと途端に警戒してしまう、というわけだ。
それを伝えると、マサキは難しい表情で黙り込む。……どうだろう、何か少しでもヒントがあればいいんだけど。
「んー……可能性としては、せやな、前のトレーナーによっぽどえげつない扱いされとったんかもしれんなぁ。上から撫でるの嫌がるんやろ?せやったら手ェ上げられとった可能性もあるで」
「…………」
あー……やっぱりその可能性は高いのか。胸糞案件すぎて腹が立つ。うう、名前も顔もしらないトレーナーを首ひっつかんでシェイクしてやりたい。いや、可能性の話であって確定ではないんだけれども、でも確かにそうであれば納得は行くわけで。
誰だよそんなことしたの、ロケット団か、それともあいつらとは関係なくクソみたいな悪人の仕業なのか。いつか見つけたら絶対天誅下してやる。
「野生の中で傷付いたんやったら他のポケモンに怯えるはずやろ?せやけど話聞く限りポケモン同士は問題なし、あんさんのピカチュウとも仲良くしとる。ほなら人間相手に何かあったっちゅう風に考えるんが自然やろ。ボール越しなら怖がらんのも、ボールん中なら安全圏やからやろな」
そうなの?とフシギダネに視線を向ければ、ふいっとそっぽを向かれてしまう。ああ、ポケリンガルがあればいいのに……。
がっくりと肩を落とすと、マサキが慰めるかのように頭を撫でてくる。うう、折角助言してもらったのにほとんど進展がないだなんて。フシギダネの心も分からないし、もうあまりの自分の情けなさに涙が出そう。
「ま、あんま気負わん方がええで。あんさんのペースで向き合えばええねん」
はー、優しすぎか。そもそも押し掛けた身なのにここまで親身になってくれるとか聖人君子かよ……さっきはグロ画像とか思ってほんとごめんなさい。今日から足向けて寝れないわ。
こんなどもってばっかりの人間の話もちゃんと聞いてくれるしさあ、っていうかそうだよ話しやすいんだよ、私がコミュ障にもかかわらず会話がスムーズに進むっていう。ああ、これがコミュ力、私には遥か遠い世界……。
「ありがどうございまず……!」
「お、おん……え、なんで顔押さえとるん?」
貴方の優しさと自分の情けなさにほんとに涙が出てきたからです。
とりあえず、これで少しは進展した。あとはどうすべきか、なんだけど。
「やっぱりバトルにはまだ出さない方がいいですよね……あとは、専門家に見せたりとか」
「せやったら有名なオーキド博士に見せればええんちゃう?ほら、マサラタウンの」
「…………あ」
……あ。そうだね。そうだね!?
よくよく考えたらそれが一番早かったのでは?何故忘れていたのか……いやでもグリーンも普通にスルーしてたし。
「……連絡してみます」
「知り合いなん?」
いやあ知り合いどころじゃないんですわ。
「近所です」
「近所」
「幼馴染が博士の孫で」
「幼馴染」
「グリーンっていって、あの、多分わ、僕の前にここに来てたと思うんですけど」
「……むしろそれで何で忘れとったん?」
あれじゃないかな、身近すぎてってやつ。多分。
まあ、マサラタウンへはクチバ経由でないと帰れないし(段差登るってのもできるかもしれないけど折角ならやれることはやってしまいたい)、しばらく先になってしまうだろう。モニター越しで済ますにはデリケートな問題すぎるしね。
何はともあれ、とりあえずは今まで通りゆっくり仲良くなっていけばいいだろう。方向性が少し定まったわけだし一歩前進、ここに来たのも無駄じゃなかったってことで。
それじゃあ、そろそろポケセンに戻るとしよう。あんまり長居するとマサキさんも研究できないだろうし、たまには早めに休んでポケモンとゆっくり過ごすのもいいってものだ。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
「ん?いやあ、むしろわいも助けてもろたしおあいこっちゅうか、むしろあんさんは命の恩人やから返したりんくらいや」
「…………?」
いや、命の恩人は大袈裟すぎでは。
「あのままやったら最悪餓死しとったしなあ。あの体、冷蔵庫とか開けられんかったし」
「……!?」
ほんとにヤベーやつだった。よかった間に合って!本当によかった!!
でもまあ、フシギダネについてのアドバイスも貰えたし、そもそもこっちはマサキさんの事情を知ってて遅れたんだからむしろ責められてしかるべきというかもにょもにょ。いや、言ったところで何で知ってたんだって話になるから藪蛇になってしまうんだけども。
「せや。お礼っちゅーのもなんやけど……これやるわ!」
とか考えている間にマサキさんが取り出したのは一枚のチケット。……おお?これはまさか。
「今、クチバの港にサントアンヌ号が来とんのや。ポケモントレーナーもぎょうさん来るらしいで。あんさんもトレーナーなら腕試しの機会は多い方がええんちゃう?」
んっんー善意が痛いぞー。ごめんなさい、私ポケモン連れてるけどトレーナーじゃなくて……旅してるのも成り行きなんで……。
あーでもでも、サントアンヌ号に乗れば【いあいぎり】のひでんマシンが手に入るんだよなあ。ハナダジム挑んでないから普通にバトルでしか使えないけど、ないよりはある方が便利だろうし……どうしよう。
「チケットもろたのはええんやけどパーティーとか好きやないからな、代わりに行って遊んでえな」
……まあ、そういうことなら受け取っても損はないだろう、多分。もしかして誰かに押し付けたかっただけなのでは、という言葉は飲み込んでおいた。
お言葉に甘えてチケットを受け取る。豪華客船なんてこんなことでもないと入る機会なんてないし、まあ気楽に楽しめばいいでしょ、うん、そうしよう。
チケットを折れないように慎重にリュックに仕舞い、フシギダネをボールに戻す。さて、暗くなる前に帰らないとまたジョーイさんに怒られてしまう。
「それじゃあ、失礼しました」
「おおきに、また来たってー」
改めて頭を下げ、実験用の器具やら資料やらが散らかっているのを踏まないように玄関へと向かう。
何となく振り向いてみれば、マサキさんは実験のせいで散らかった室内の片付けもそこそこに転送マシンに張り付いていた。……えーっと。
「……実験、気を付けて下さいね」
「ん~……」
マサキさんはといえば、生返事をしながらひらひらと片手を振るのみ。…………ふ、不安だ。
玄関の扉を閉めて、溜め息をひとつ。
「……ね、ピカチュウ」
「ピカ?」
「次に通りかかった時ものぞいた方がいいかもね」
「チャア!」
サントアンヌ号のチケットのお礼も兼ねて、とか。いや、多分大丈夫だろうけど念の為。
(途中から地の文でマサキ→マサキさん呼びになっているのは、レッドの中での印象が、あくまで知らない人間という存在からフシギダネについてアドバイスをくれた優しい人という扱いになったからです。分かりづらくてすまんの)