レッドさんの華麗()なる珍道中   作:らとる

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USUMプレイ中のレッドさん「レインボーロケット団てなんだよ(困惑)」

お待たせしました……早くスランプを抜けてしまいたい……。
それはそれとしてこう、レインボーロケット団あまりにもシュールですね。思わず吹き出したのは仕方ないと思うんですよ。なぜにレインボー。ネーミングセンスはいずこ。


12.(暴)力は全てを解決する

 >レッドは助けを呼んだ…。

 >しかし誰も来なかった。

 

 ま、当然だよね。知ってた。なので私は薄情もののグリーンを脳内で腹パンして現実に向き合うことにする。

 あ?手のひら返しが早すぎる?いーんだよこういうのはノリなんだから。

 

 キャタピーであれば、今のピカチュウならレベル差もあるし自分の判断で戦っても勝てるだろう。いや、レベルだけじゃ計れないから多分がつくけど、グリーンレベルのトレーナーがゴロゴロいるなんて考えたくもない。まあ危なくなったら指示を出せばいいし、そろそろ完全に指示なしでどれだけトレーナーに通用するかを知りたかったから丁度いいんじゃないかな。

 負ける可能性もないことはないが、仮に負けてももうお金なんてほとんどないからさしてデメリットはないし、むしろそれでロケット団と関わらずに済むなら万々歳である。あっでもピカチュウとリザードが痛い思いをするのは嫌だ……ええい、私にどうしろと。

 

 まあとにかく、バトルは基本ピカチュウとリザードに任せて、私はどうやってロケット団イベントを回避するかを考えるのが最善だろう。

 勿論、その場しのぎは避けなければならない。なんせ私ってば前世で赤緑の二周目プレイしてる最中にあぼんしたから、実はクチバあたりまでしかはっきりとは覚えてませーん!そっから先はボスの手持ちとか大まかなストーリーとかしか覚えてないから下手に動いたら詰むのである!はっはー私の鳥頭め、前世の私を全力で殴りてぇ。

 

 

 ピカチュウが【でんこうせっか】でキャタピーを吹き飛ばすのを見ながら、どうすべきか思案する。

 勝ち負けを考え出すときりがないので、ここは勝ち進んだ場合を想定すべきだ。最悪の事態に備えてさえおけば後はわりとどうにかなるもんである。つまり、ロケット団の勧誘をいかにかわすか、ということになるんだが……。

 

(……無理では?)

 

 きんのたまを貰ってすぐにトンズラという手もあることにはあるが、ほぼ確実に目を付けられる。だってそんなのロケット団だと知った上で景品だけ貰いに来ましたとゲロってるようなもんだからね。帽子を目深に被った上で今後は服装を変えるなりすれば他人と思い込ませることも可能だろうけど、その服を揃えるのにとんでもなく金がかかるので却下。

 かといって勧誘を断れば逆ギレされるのが目に見えてるし、というかそもそもロケット団の名前を出すってことはどうあれ逃がす気はないだろう。そしてボコった所で顔は覚えられるのでどちらにせよジ・エンド。

 

 かーっ!ロケット団に関わるとほんとロクなことがねえ。ロケット団アジトに爆弾仕掛けられたりしない?してくれ頼むから。なんなら私が仕掛けにいくよ。

 大体そもそも、なんで常日頃からあんだけ自己主張した服着てるのにここのおっさんに限って普通の服装なんだ。ロケット団の服着てれば通報して終わりだってのに……。

 

 …………なるほど、通報とな?

 

 そうだよそうだよ、要はあいつが顔を覚えたところで逮捕されてしまえばどうということはないんだ。だってお仲間に人相伝えられさえしなければ、豚小屋に入ったやつに顔覚えられたところで大したデメリットはないんだから。……いや、お礼参りの可能性は結構なデメリットな気もするけど、背に腹は変えられないのである。

 

 そうなると、どうやって逮捕してもらうかがキーポイントになる。大声で助けを呼ぶっていうのは逃げられる可能性もあるからキツいし、ここは無難にバトルで無力化してから何らかの方法で足止め、あわよくば気絶させて、その上で近くの人に警察を呼んでもらうのがいいか。

 ロケット団に入れって襲いかかられたから反撃しました、で正当防衛になるから私はお咎めなし、ロケット団云々を抜きにしても脅迫した時点で罪に問われるから相手も言い訳できまい。仮に言い逃れをしたとしても、この無駄にハイスペックなトレーナーカードによって賞金のやりとりは記録されてしまうから、少なくとも「五人抜きのはずなのに六人抜きとは詐欺ではないのか」と詐欺の方で訴えられる。最悪の事態としては五人抜きのメンバー全員ロケット団でした、なんていうのもあるが……大丈夫だろう、多分。少なくともゲームでは違ったし。

 それに、ロケット団ほど大きな組織なら団員全員の顔を覚えてないだろうから、同士討ちを避けるためにも団員証みたいなものは持っているだろう。荷物検査でもされれば一発アウトに決まってるし、もしこれまでに何かしらやらかしていれば素性がバレてお縄につくことだってあるかもしれない。

 

 あとは、そのバトル後の足止めの方法か。……ピカチュウの【エレキボール】とかどうよ、いやでも事故ならまだしも故意にああいう直接攻撃はちょっと。いやでも余波くらいなら仕方ないもんな!髪の毛バッサリ行くのに比べればマシだと思えや。それか事故を装って足を引っ掛けて転ばせる、むしろこっちの方が無難か。

 私は別に護身術を学んでるとかそんなことはないただの引きこもり気味の通行人Aなので、人を気絶させるにはどこをどうすればいいなんて知らないし。ていうか多分トレーナーがトレーナーに手を上げるのは正当防衛でもマズイのではなかろうか。私トレーナーじゃないけど、ほら一般論としてさ。

 ……おお、やだやだ。なんか思考がサツバツめいてきている希ガス。ここなんかバトル漫画系の物騒な世界だったっけ?それともおかしいのは私の周囲だけなんか?世知辛すぎわろえない。

 

 うん、気にしたら負けだ。やめよう。そうと決まればあとは五人抜きを突破するのみである。いや正直なところまだ帰りたい気持ちが八割ほどなんですがそれはそれ。なんとかなるよなんとかなる、というかなんとかする。

 ふんす、と気合いを入れて顔を上げる。まずはこのトレーナーさんを突破しなければ――。

 

「ピカッ……チュー!」

 

 とか思ってたらピカチュウが目の前でビードルを【でんこうせっか】でKOしていた。いつの間にキャタピーを倒していたのか、というか目を閉じていたわけでもないのに何故気付かなかった自分。うん、なんだろう、この出鼻を挫かれる感じ。…………虚しい。

 

 

 

「おめでとう。あと残り四人だよ、頑張ってね」

 

 バトル中に意識を明後日の方向へすっ飛ばしていたにも関わらず気分を害した様子も見えずに応援してくれた心優しいトレーナーさんに頭を下げ、またピカチュウを抱き抱えて橋を進む。

 よくよく見れば、橋にいるトレーナーは見たところ全員大人のようだ。まあいくらこの世界の成人の基準がとんでもなく低いといったところで子どもを雇うデメリットがゼロなわけではないし、ゲームではない以上当然ではあるんだろう。ゲームとは手持ちが違う可能性も考えたほうがいいかもしれない。

 

「二人目は私。さあ、これからが本番よ!」

 

 とか言ってる間に二人目だ。会釈をし、今度はリザードをボールから出して数歩下がる。

 相手はゲーム通りポッポ、ということは残る一匹はニドラン……えーと♂だっけ♀だっけ、やばいな記憶が曖昧だ。とにかくまあこれで合ってるだろう、多分。

 ポッポ相手ならピカチュウの方がいいかもしれないが、均等に育てたいのと連戦は避けたいのであえてリザードで挑むことにした。腕の中のピカチュウは若干不満そうだが少しは我慢を覚えような。

 

「ポッポ、【でんこうせっか】よ!」

 

 トレーナーが指示を出すのと同時に、リザードが空中に躍り出る。ポッポはその勢いを殺せずにリザードの下を通りすぎ、その動きが止まると同時にリザードが放った【ひのこ】が命中した。

 【でんこうせっか】はスピードが出る分動きが単調になりがちだ。ピカチュウのバトルをボール越しに見ていたからこその反応速度、流石はリザードくぁっこいいぃ。腕の中のピカチュウも触発されたのかそわそわしている。

 

「ぎゃう!」

「くっ……【つばさでうつ】!」

 

 私が指示を出さないせいで、相手はどのわざが来るかわからない。それだけなら野生のポケモンと大差ないけれど、誰かの手持ちである以上戦闘経験がプラスされるから戦いづらさは相当のものなんじゃなかろうか。私だってそんなトレーナーとバトルしたら苦戦するし。

 着地からコンマ数秒でバックステップをして【つばさでうつ】を回避したリザードが、広げられた翼の付け根に【ひっかく】をお見舞いする。急所への鋭い一撃に、レベル差もあってかポッポはそのまま戦闘不能になった。

 

「行きなさい、ニドラン!」

 

 続いて出てきたのはニドラン……♀かな?実物を見たのは初めてだけど、カラーリングからして合ってるはずだ。

 さて、22番道路をスルーしたこともあってニドランは初見である。今後のためにも、リザードがどう動くのかしっかりと頭に刻み込むとしよう。

 

「【どくばり】!」

 

 指示を受けたニドラン♀が、リザードめがけて角を突き出す。リザードは左へ体をずらすことで避けると、そのまま【ひっかく】で相手の体を吹き飛ばし――その場でぐらりと姿勢を崩した。

 

「……やば」

 

 そうだ、すっかり忘れていた。ニドランに直接攻撃は悪手なのだ。

 ニドランのとくせいには【どくのトゲ】がある。そう、直接攻撃をすると30%の確率でどく状態になってしまうアレだ。とくせいが発見されたなんて話は今のところ聞かないけど、発見されてないだけで存在することに変わりはない。警戒を怠った私の馬鹿野郎!

 

 ゲームと違い、トレーナー同士のバトルにおいては基本的にどうぐの使用はできない。もちろんそれには理由があって、どうぐの使用を解禁するといつまでもバトルが終わらないこと、そしてどうぐの使用中に相手が攻撃してきた場合にトレーナーも巻き込まれる恐れがあること、つまるところここが現実世界であるが故の弊害というヤツだ。私は悲しい(ポロロン)。

 きのみを持たせることができないこの赤緑時代では、どくけしが使えない以上状態異常の回復手段はゼロ。どく状態の場合は時間との戦い、短期決戦で何とかするしかないのだ。

 短期決戦、つまりは【ひのこ】か【りゅうのいかり】といった現時点での高火力かつ直接攻撃でないわざでの突破。迂闊に近づいて【どくばり】を食らったり【どくのトゲ】再びなんてのは絶対に避けなければならない。毒の摂取量なんて増えてもいいことないのである。

 

「リザード、距離を取って【ひのこ】か【りゅうのいかり】!」

「させないわ、もう一度【どくばり】よ!」

 

 リザードは一瞬の躊躇いの後、私の指示通りにバックステップをしながら【ひのこ】を吹き出す。もろに食らったニドラン♀が怯んだところにもう一発。どく状態のせいか着地が上手くいかなかったせいで二発目はかする程度だったが、ありがたきはレベル差の暴力、ニドラン♀は回避が間に合わずにそのままダウンした。二人目クリアである。

 

「ぎゃうーっ!」

「まってリザード、手!手!」

 

 勢いよく駆け寄ってきたリザードを受け止め、大慌てでリュックからどくけしとキズぐすりを取り出す。

 とりあえず怪我を治すために一度離れてもらい、傷口にどくけしとキズぐすりを吹きかければすぐさま傷が塞がっていく。どくが一瞬で回ったかと思えば解毒や回復も一瞬、もう私はこの世界のテクノロジーに驚くのも疲れてきた。そういうものだと思えばいいのかこれは。そうなのか。

 

 キズぐすりはまだ残りがそれなりにあるから、この分なら残り三人くらいはいけそうだ。とはいえさっきの【どくのトゲ】みたいなのもあるから、ちゃんと目の前の戦い一回一回に集中しないと。

 二人目のトレーナーさんに会釈をして、リザードをボールに戻す。お次はお待ちかね、ピカチュウの番だ。油断せずに行こう、なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャー!」

 

 宙高く跳び上がったピカチュウの【たたきつける】がマンキーの頭部にクリーンヒットする。得意の接近戦を制することのできなかったマンキーはぐるぐると目を回しながら倒れ込み、トレーナーのボールへと収まっていった。

 以上、五人目のトレーナー戦終了。相手の手持ちが一体だけなこともあって出し惜しみせずにいけたのが良かったのか、今までにないタイプのポケモンが相手でもかなり上手い立ちまわりだった。相手のトレーナーさんもグリーンには及ばないまでも中々の腕前だった、グリーンとバトルしていなかったらもっと苦戦していただろう。

 

「いやあ、大したもんだ。まだ小さいからって油断できないな!」

 

 豪快に笑うトレーナーさんに何と返していいかもわからず、とりあえず深く一礼する。足元のピカチュウもそれに倣って少し頭を下げたりして、それにまたトレーナーさんが笑い声を上げた。……うん、本当に出会う人出会う人キャラが濃い気がするなあ。

 

 で、まあ、五人抜き達成である。うん、トレーナーとの連戦は今後ジムに挑む以上は避けられないからすごくいい訓練になった。ちょっとだけだがレベルも上がったのに加え図鑑も少し埋まったし、かなり有意義なバトルだったと思う。

 ただし、気を抜くわけにはいかない。ここからが本番、俺達の戦いはこれからだ!というのは冗談にしても、割とガチで私の人生がかかっているのだ。

 

「五人抜き達成おめでとう。それじゃあ、橋を渡ってすぐのところにいるスタッフから景品を受け取ってくれ」

 

 勝者を讃える言葉と共に地獄への片道切符を押し付けられた私は、トレーナーさんから距離を置いたところで立ち止まる。

 腕の中のピカチュウは怪訝そうな顔。当然だ、ピカチュウはまだ事情を知らない。私は知らないまま戦場に放り出すような鬼畜になった覚えもないし、心の準備くらいはさせてあげるべきだろう。断じて五人抜きに挑戦する羽目になった意趣返しとかではない。

 

「さてピカチュウ」

「ピカ……?」

 

 死にかけの表情筋を叱咤し、当社比120%増しくらいの柔らかな微笑みを浮かべる。さながら菩薩のごとし、ふふふ、私もやればできるじゃないか。

 

「次に会うトレーナーはロケット団です」

「チャアッ!?」

 

 反射的なのかなんなのかピカチュウが腕から飛びあがろうとしたが、HAHAHAこちとらいわくだき(素手)をやった身だぞ逃げられるとでもお思いか。そもそもの元凶はピカチュウなのでこれくらいの意趣返しは許されるだろうきっといや絶対。

 ここまでくれば死なばもろとも、いや死なないために最善を尽くしにいくんだがそれはそれ。別に今晩のブラッシングなしなんていじめをするわけじゃないんだから許してもらえるだろう。それにほら、覚悟ができてるのとできてないのとじゃえらい違いだしね。やだ私ってばなんて優しいんだろう、みんな私を見習うべきだよ。そしてロケット団は滅べ。

 

「なので遠慮はいらん、ヤレ」

「……ピカチュ!」

 

 あらピカチュウさんイイ笑顔。そうかそうか、そんなに遠慮なく戦えるのが嬉しいかー。可愛いやつめ、うりうり。無事ポケセンに戻れたらちょっと夕飯を多めにしてあげよう。勿論リザードもね。

 え、ところで変換がやばい方に思えるんだけど気のせいか、だって?……君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

 

 

 

 

 というわけで。

 

「…………あの」

 

 目の前にはちょっと恰幅のいい(マイルド)、ひげを生やしたスーツ姿の男。なんかもう、スーツの着崩し方とか明らかにまともな人じゃないオーラとか、どうして職質されずにこうして五人抜きなんてやれてしまっているのかがとても疑問でたまらない。ザル警備かよ、それともあれか、ロケット団わりと勢力強いから経歴誤魔化すのは楽勝ですってか。先入観のせい?アーアーキコエナーイ。

 会議室にでも置いてありそうな長机を前にパイプ椅子に座っていた彼は、ゴールデンボールブリッジを渡ってきた私の声に顔を上げ、これまたうさんくさい笑みを浮かべて立ち上がる。ニヤニヤ、いやニタニタと形容するのがふさわしい笑い方、一般人に紛れこむならどうして人好きのする笑み一つ浮かべられないのか。対人スキルが圧倒的に足りてないぞロケット団(盛大なブーメラン)。

 

「おお、お見事!五人抜きおめでとう!賞品にこれをプレゼントしよう!」

 

 そう言って手渡されたのは、太陽の光を浴びて目に痛いほどピカピカと光りを放つ金色の球。子供の片手に乗るほどの大きさのそれは、見たことはないがきんのたまで間違いないだろう。ゲームでも思ったが、なんだかんだ賞品はくれるあたり律義というかなんというか。

 受け取ったそれを素早くリュックにしまう。今にもとんずらするために走り出そうとする足を叱咤してその場に立つことの大変さといったら。体は正直とはまさにこのこと、こらそこ、(意味深)とかいわない。いや、まあ、ほら、ね?勧誘されずにスルーされる可能性もあるし、この五人抜きの人が普通に一般人なんていう展開の可能性だってゼロじゃないし。というかむしろ今でもその可能性を信じてるからね私、信じる者は救われるんだよね、あれなんか違う。

 

「ところで……ここだけの話、ロケット団に入らない?」

 

 デスヨネー。

 

「……」

 

 まあ、予想はついてたし。なーに言ってんだオメェ、と半目になりながらロケット団のしたっぱを見やる。11歳児にこんなことされたら馬鹿にされてるとしか思えないだろ、私ならイラっとくる。

 案の定したっぱは私の目が気に食わなかったのか、一瞬こめかみをひくつかせる。しかし一瞬で元の笑顔を浮かべてみせるあたり、最低限の自制心はあるらしい。まあここで子どもに襲いかかったら負けたような気分になるだろうしね。

 

「俺達はポケモンを悪いことに使おうっていうグループだ!さあ、入りなよ!」

「…………」

 

 ご丁寧に説明どうもありがとう。だが断る。……なんて言うのは簡単だが、こう、なんだかつまらないよね。どうせバトルになるなら散々おちょくってからでもいいはずだ。ロケット団に慈悲などいらぬ。

 とはいえ、私の煽りスキルはそう高くない。いやネット上でならいくらでも煽れるのだが、いかんせん現実では何を言えば煽れるかは分かっても口が動いてくれない。なので最終手段:無言耐久レースである。

 

「……入らないの?」

「………………」

 

 ルールは簡単。相手の問いかけに対しひたすらに無言を貫くだけ。相手がキレたらこっちの勝ち、無言に耐えきれずに喋ったら負け。

 

「入ってよ!」

「……………………」

 

 だがしかし、いかんせん飽きてくるのが欠点か。相手が段々と苛立ってきているのを見るのはなかなかに楽しいけど、面白いリアクションの一つでもないとやっぱり面白みがないというかなんというか。あと声がでかい、うるさい。

 しっかし、11歳児にまで勧誘の声をかけるなんて、ロケット団はよほど人手が足りないと見た。いや、ただ単に実力があれば年齢性別関係無く勧誘するってことなのかもしれないが。……下手な企業よりもホワイトなのでは?能力重視の雇用ってわりとすごいし、いやいや給与がどれくらいかわからないことには。

 

「入れよ!」

「…………………………」

 

 まあ冗談だけど。犯罪行為とか死んでもごめんである。私だって人並みの善心は持ち合わせているのだ。こう、コミックでいうワンシーズン限りの重要モブキャラクターとかでいそうなくらいには。

 

 

 とか言ってる間にしたっぱの顔が段々と赤くなってきた。おお、人って本当に怒ると顔が赤くなるもんなんだな。実際に見たの初めてな気がする。

 

「……断るって顔してんな。それなら……無理矢理入れてやる!」

 

 いやどんな顔だよむしろ表情筋働いてたのか、という心のツッコミは当然届くことなく、したっぱは手持ちのアーボを繰り出す。対するは安定のピカチュウ、そして相手のリアクションを待たずに【でんこうせっか】でアーボ……の尻尾めがけて突進。

 なんで尻尾?と思うかもしれないが、簡単な話、そこが急所だったのだ。人間でいう足の小指と言えば分かりやすいだろうか。箪笥とか扉にぶつけた時の猛烈な痛みといったら。

 

 見事尻尾の先端部分に的中したお陰で、アーボはあまりの痛みからかその場で痙攣する。ごめんなー痛いよなーすごく気持ちはわかる。だが恨むならロケット団の手持ちになってしまった不幸を恨んでくれ。

 大丈夫、せめてできるだけ苦しくないようにするからさ。私が嫌いなのはロケット団であってその手持ちに罪はないのである。

 

「ピカッ……」

 

 そして相手がスタン状態(ポケモンにそんな状態異常はない)になった隙に、とどめを刺さんとピカチュウが大きく跳び上がる。尻尾に力を込めて【たたきつける】の構えを取り、自由落下によるダメージボーナスも相まって当たればまず間違いなく必殺となる渾身の一撃――。

 

「チュー!」

 

 いやまあそれ以前に倍近くレベル差がある時点でお察しなんですが。

 

「ジャアァァ……ボ」

 

 なんだかアニメでもゲームでもない、そう、昔お世話になったポケモンスタジアム2のわなげの時のような鳴き声と共にぐったりと倒れ込んだアーボ。南無南無。君の尊い犠牲を無駄にはしないよ……!

 

「ぐっ……ええい、手加減してやれば調子にのりやがって!いけ、ズバット!」

 

 したっぱは更に顔を真っ赤にすると、すぐさまアーボを引っ込める。後がないからか必死すぎて見ていて笑え……ごほん、痛々しい。

 本当に三下のような台詞ばっかり言うもんだから笑いをこらえるのに必死なこっちの身にもなってくれ。手加減って、手加減って!今この瞬間ばかりは表情筋の死にっぷりに感謝したぞ私。

 

「【エレキボール】」

「ズバット、【きゅうけ……うおおお!?」

 

 ズバットが動き出すよりも早く、【エレキボール】が見事に直撃。……チッ、したっぱにはかすった程度か。まあ仕方ない、端から簡単に済むなんて思ってはいなかったし。

 しかし、ズバットが一撃で沈んだのはまずい。バトル中ならまだしもバトル後に攻撃なんてしかけたら故意だとゲロってるようなもの、というか巻き込むだけならまだしも直接攻撃とか流石に寝覚めが悪い。この間のは怒ってたのとテンションのせい、あとは偶然のおかげでできたようなもんなんだから。

 

「小僧、ほんと強えな……それだけ強けりゃロケット団でも偉くなれるだろうに……」

 

 いや本当にそういうの興味ないんで。働きたくないの、引き籠もってたいの。大体犯罪組織で偉くなったところで嬉しくも何ともないわ。まだチャンピオンになった方が……ま、まs、マシ、うん、多分。あと小僧じゃなくて小娘なんだなぁ。

 

 って、いやそれどころじゃないだろう。とりあえず相手が動く気配がないとはいえ、警察を呼ぼうとすればまず間違いなく抵抗するだろうし、かといってこの場を離れれば逃げてしまう。さすがにロケット団と名乗ってそのままこの場に居座れると考えるほどお花畑な脳味噌はしてないだろう。

 とりあえず時間稼ぎをして、誰かが通りかかるまで……いやでもそんな都合よくいくとは思えないし、やっぱりここは転ばせてからマウントを取って叫ぶとか、いやでも所詮子供と大人じゃ体格違いすぎて押さえるのは厳しいのでは。

 

「……チャ?」

 

 と、唐突にピカチュウが耳をピクピクと動かしながら訝しげに辺りを見渡す。なんだなんだ、もしかして他にもロケット団がいたとか?とっとと逃げた方がいいんだろうか、いやでも今こいつから目を離したら顔を覚えられたまま逃げられちゃうし。

 とかモタモタしている間に私の耳にも複数の足音が届く。いやいや、そんなに大量に仲間がいるとか聞いてないんですけど、ちょっと待ってこれは本気で全力疾走しないとまずいヤツでは――。

 

「通報にあったロケット団だな!動くな、警察だ!」

 

 …………え?なぜにポリスメン?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、どうやら五人抜きの最後のトレーナーさんが通報してくれていたらしい。

 

 なんだか不穏な空気だったからこっそり盗み見ていたらロケット団だと暴露したのが聞こえ、急いで近くにいたジュンサーさんに伝えたとのこと。……せやな、あれだけ騒いでたら丸聞こえだーな。

 この間の泥棒事件もあって警備が厳重になっていたこともあり、すぐに駆け付けることができたんだそうだ。一瞬でも全員ロケット団ではとか疑ったりしてほんとにごめんなさい。

 

「いやあ、無事でよかったよ!しかも返り討ちにするなんて将来有望だな!」

 

 そう言ってまた豪快な笑い声を上げるトレーナーさんに何度も頭を下げる。ありがとう……本当にありがとう……!冗談抜きであなたは私の命の恩人です。

 多勢に無勢、数の暴力によりロケット団のしたっぱは無事逮捕されたし、そのまま塀の中にぶち込まれるそうだ。これで一安心、ようやく本来の目的を果たせるというもの。

 

 さあ、気を取り直してマサキの家へと向かうとしよう!えいえいおー!

 

「ああ、ごめんねボク。ちょっとこれから事情聴取に付き合ってもらってもいいかな?」

 

 マサキの、家に……駄目かー、そっかー。

 …………ねえ、これ、私がgkbrしながらロケット団に立ち向かった意味なかった感じなんです?


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