レッドさんの華麗()なる珍道中   作:らとる

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熱出して呼吸困難の挙句ぶっ倒れてましたが作者は元気です。皆さんも季節の変わり目の風邪には気を付けてくださいね。

というわけでお待たせしました、茶番&バトル回です。体調のこともありますが、バトル描写が入ったせいで遅くなったともいう。多分今後もバトル描写入る度に更新遅くなりますがご了承ください(クオリティが高いとは言っていない)。


10.幼馴染と!

 まあ、私が一人でうだうだ考えたところでどうこうなるわけもなく。なりもしないチャンピオンだの住みもしないシロガネ山だのについて考えたところで何も産みはしない。そんな下らないことを考えるよりも寝ていたほうがずっと生産的ってもんである。

 何が言いたいかというと、寝て起きたら翌日の昼過ぎでした。大変不健康極まりないが、足の負担とかオフトゥンにくるまっていればメンタルが若干回復することとか考慮すればこういうゴロゴロする時間も必要なのだ。私がそう言えばそうなの。ヒキコモリの至福の時間に文句を言わないでくれ。

 

 私が爆睡している間に何があったのかは知らないけれど、とりあえずフシギダネはそれなりに馴染んでくれたようである。ピカチュウ達とあまり距離をおかずに寝ていたし、この分ならすぐに仲良くなってくれそうだ。なお私とも仲良くなってくれるかは……うん、頑張ろう。昨日の様子からしてまだまだ先は長そうだ。

 

 

 

 とりあえず、まずは今後の方針を決めなければ。

 

 まずフシギダネについてだけれど、やっぱりしばらくはバトルには出さないことにした。仮にトレーナーと戦うことになったとしても、リザードとピカチュウの両方が戦闘不能になったらその時点で敗北宣言をするということで。そもそもこの二匹で勝てない相手に今のフシギダネが勝てるとは思えない。だってピカチュウとリザードのレベルが20代後半なのに対してフシギダネのレベルは10だからね。

 基本的にはボールに入った状態で待機してもらって、もしも本人がバトルをしたい様子を見せたら野生のポケモンでしばらく練習を積むようにしよう。戦いたくないのであれば……うん、そうだな、例えば他地方でのコンテストに向けて練習なんていう手もある。いかんせん保護されるまでの経緯がわからないから、慎重にならざるを得ないのだ。テキトーに行動して地雷踏んだりしたら目も当てられない。

 

 そしてジムについては、先のことにはなるけどヤマブキジムは挑戦しない方向でいくつもりだ。ひでんわざがいらない以上挑戦するメリットが薄いしね。挑戦するのはクチバとセキチク、あとはどれだけ私の身体能力が高いかにかかっている。まずは【いあいぎり】が人間に可能かどうかでハナダジムに挑戦するかを決めて、【かいりき】とかは岩を見付け次第挑戦するつもりだ。

 

 あとは一人称か。とはいえそう簡単に変えられるものでもないし、しばらくは言動一つ一つに気をつけなければ。いや、気をつけなきゃいけないほど喋らないんですけどね。むしろ喋る相手がいないんですけどね。

 ……泣いてないってば。家族とかグリーンとか博士とならちゃんと喋れるもん。初対面とかあまり親しくない人とは何話せばいいのかわからないだけだもん。ネットではちゃんと話せるし、だからそんな可哀想なものを見る目でこっちを見るな!

 

 まあ、大雑把だけどこんなもんだろう。細かいことはその場に応じて臨機応変に対応すればいいし、図鑑を最優先に、いのちだいじにで頑張っていこうじゃないか。

 

 

 寝ている三匹を起こし、寝惚け眼のリザードとフシギダネをボールに入れる。ピカチュウを肩に乗せ、そのまま遅めのブランチを済ませて例の細い木の元へ。

 今までは気にして見ていなかったから見付けられるかどうかは不安だったけど、幸い一目瞭然なこともあって目的の木はあっさり見つかった。

 

 見た目としては、XYやORASのものよりは2Dドット絵の頃の木に近いだろうか。他の木に比べれば細いけれど、かといって普通に折れるかというとそんなことはない、といった太さだ。周囲は柵やら木やらで囲まれているし、これじゃあ横をすりぬけて通るみたいなのは難しいだろう。

 さて、【いあいぎり】なしでこれをどうするか。ゲームみたいに切るなんていうのは最初から候補になっていない。だって手刀で【いあいぎり】なんてできるわけがないしね。あと燃やしたりすると周囲に火が移って火事になるからこれも却下。となると、へし折るか引っこ抜くかの二択なんだが。

 

 こういうのは岩と違って殴ってどうにかなるものでもないし、やっぱりここは引っこ抜くのがベストだろうか。根っこの長さ次第では折る方向のシフトした方が良さそうだ。といっても、殴って折れる太さじゃないから蹴りになってしまうけど。

 

 幹に両腕を回し、腰を低くして力を込める。何してんだコイツみたいなピカチュウの視線は気付かないフリ。そのまま体を上にずらしていけば、少しずつ、少しずつ、幹が上に持ち上げられていく。

 

「…………わっ!」

 

 そして、急に感触が軽くなる。当然、力をこめていた私はそのまま反動で後ろに向かって倒れることになり、あわてて肩から飛び降りたピカチュウを横目に、木に押しつぶされる形で地面に倒れ込んだ。

 

「痛い……」

 

 背中と尻のダメージがとんでもないな、この方法。次はちゃんと踏ん張れるようにしなければ。……うん、ピカチュウ、その信じられないものを見る目はさすがに傷付くからやめてくれないかな。痛みも合わさって涙目になってしまいそうだ。

 まあ、目的は達せたんだからこれでよしとしようじゃないか。意外と根は短いみたいだし、タイミングさえつかめれば今回みたいに無様に倒れることもないだろう。とはいえ私は毎回こうやってダメージ受けたいと思えるようなマゾじゃないし、ちゃんと体を鍛えるべきなのかもしれない。腹筋とか、腕立て伏せとか……あとはスクワットとかでいいのかな。ああ、今後もかなりの距離を歩きまわるんだから体力もつけないと。先は長いなあ。

 

 ……よし、それじゃ、ハナダジムは行かずにこのまま進んでしまおう。

 あばよチャンピオンへの道!これで後はロケット団にさえ関わらなければ私の平穏は約束されたも同然だ!もうなにも恐くない!

 

 

 

 昨日一日しっかりと休んだおかげで、体力気力は共にマックス。やる気いっぱいのリザードとピカチュウを引き連れ、アーボを図鑑に記録し、ついでにレベル上げにいそしむ。レベルはそれなりに上がってきたから、次は随分と数が増えてきたわざの熟練度を上げなければ。

 いくらわざの数が多くても、それを上手く使いこなせないのであれば宝の持ち腐れ。威力が低くても隙が小さく連発しやすいもの、威力は大きいがその分溜めの時間が長いもの、ひとつひとつの特徴をしっかり把握してその状況における最適解を導けるようでなければ一流のトレーナーとは言えないだろう。

 

 まずはリザードに自分の判断で野生のポケモン相手にバトルをさせつつ、家から持ってきた(というかリュックに入れられていた)ノートにそれぞれのわざの特徴をがりがりと書き出していく。きっと本来はゲームにおけるレポートみたいな使い方をすべきなんだろうけれど、細かいことは気にしてはいけない。そもそもあれレポートというよりはただの日記なのでは……?

 それにしても、なかなか手間がかかるな。バトルレコーダーみたいなのがあれば録画したのを後から一時停止とかスロー再生できるんだけれど、生憎そんな便利なものはまだ開発されていないのである。つまり頼れるのは自分の動体視力と記憶力のみ、前世の電子機器に溢れた生活が恋しくてたまりませんな。

 

 リザードのかっこいい雄姿を心のアルバムに焼き付けつつ、手元は高速でメモを取る。【ひっかく】や【ひのこ】はかなりの熟練度だけれど、旅立ったばかりの頃にその二つばかり使っていたせいでどうしても他のわざとの差が大きいのが気になるところだ。あとは咄嗟の回避が左に偏っているのも課題かな。一回二回のバトルなら問題はないけど、同じ人と何回もバトルする機会があればそこを狙われる可能性もあるだろう。

 となると、しばらく【ひっかく】と【ひのこ】はあまり使わずにバトルするのが一番だろうか。でもそうすると攻撃手段が【りゅうのいかり】のみに……ああ、いや、一応【いかり】は覚えてるのか。でも正直これを使うとなるとかなり戦法が限られるから対策もしやすいだろうしなあ。【えんまく】とかも上手く使えるようになりたいし、【にらみつける】も腐らせるのはちょっと惜しい。ゲームみたいに四つのわざに限定して如何に上手く戦うかみたいな訓練をすればそれなりには上達するだろうか。

 

「……リザード」

「ぎゃう?」

 

 新たに一匹アーボを倒したリザードをちょいちょいと手招き。あー首をちょっと傾げるリザードほんと可愛いわ愛してる。でもアーボを戦利品とばかりに引きずってくるのはやめような、この間の【どくばり】実はちょっとトラウマなんだ。少し反応が遅かったら命がなかったともなれば流石にちょっとビビるって。

 

「とりあえず、【りゅうのいかり】、【えんまく】、【ひっかく】だけを使ってバトルしてみてくれる?」

「ぎゃうっ!」

 

 さすがにいきなり攻撃手段が【りゅうのいかり】のみというのもあれだから、片方だけ使わない状態でバトルにチャレンジしてみる。とはいえここらへんの野生のポケモンはレベル差の問題で一撃必殺なので、基本的には先手必勝とばかりに攻撃するか、あるいは相手の攻撃パターンを読んで回避してからの一撃を食らわせるかなんだけれども。

 何回か戦闘を繰り返したところで、わざの構成を切り替えてまたバトル。それを何ループかすれば、だいぶ安定してわざを使えるようになってきた。うん、今日はこんなところかな。あとは復習を重ねていけばいいだろう。

 

 

 さて、お次はピカチュウの番。リザードをボールに戻し、肩にのっていたピカチュウを地面に降ろす。

 ピカチュウの方は、何故か覚えている【たいあたり】も含めてわざは全部それなりの熟練度といったところだ。なのでそれぞれ平行して練習していけば特にバランスが偏ることもないだろう。

 

 問題は、行動の端々に独特のクセがあることだ。野生の状態でトキワの森のトップに立っていただけあってバトルはかなり慣れているけれど、いかんせん動きのひとつひとつの隙が大きかったりする。わかりやすく言えば、格闘技なんかにおける我流みたいな感じだろうか。いやバトルにおいては我流も何もあったもんじゃないけれど、例えとしてね。

 例えば、着地ひとつとってみてもそうだ。着地した際にそこで一呼吸置いてしまう癖がついているせいで、そこを狙われたらほぼ確実に攻撃が直撃してしまう。相手のポケモンのすばやさによってはそこから相手のペースに持っていかれることもあるだろうし、かなり致命的な隙だといっても過言ではないだろう。

 

 とはいえ、ピカチュウの動きは既に完成されつつある。これを一からやり直すのはかなり時間がかかるし、今の動きからいかに隙を取り除いていくかに焦点を当てたほうが効率的だ。

 そうなると、野生のポケモン相手ではいささか厳しいものがある。なにせ相手はそんなことこれっぽっちも考慮してくれはしない。

 

 というわけで。

 

「ピッカチュ!」

「ぎゃう……」

 

 こうなったらもう手持ち同士で戦わせるのが一番だ。ボール越しとはいえお互いに戦闘を見ているから相手の癖は熟知しているし、実力も拮抗しているからある意味一番理想的な対戦相手と言えるだろう。

 

 草むらから離れた場所に陣取り、手を上に向けて伸ばす。審判と違って旗はないから格好がつかないのは御愛嬌。

 頭の中でゴングが鳴り響くのと同時に勢い良く腕を振り下ろす。ピカチュウvsリザード、レディーファイッ!

 

 

 おおっとぉ、まず仕掛けたのはピカチュウ選手!【かげぶんしん】を使った後、トリッキーな動きで相手に行動を悟らせず、徐々に距離を詰めていく!対するリザード選手は……き、キター!【りゅうのいかり】!当たればいくらピカチュウ選手のタフネスでもひとたまりもないですが、果たしてどのような対策をするのでしょうか。ピカチュウ選手、一度距離を取って大きく跳躍!【りゅうのいかり】の効果が切れたタイミングでリザード選手目がけて落下、これは大胆な作戦、どうでしょうか解説の……い、いなーい!そもそも解説なんていない!仕方ないので実況が解説を兼ねていこうではありませんか!

 ……え、うるさい?普通に実況しろ?真顔でこんなハイテンション実況されても困る?そんなー。

 

 上空から降ってきたピカチュウの【たたきつける】を、しかしリザードは必要最低限の動きで何なく避ける。ピカチュウもそれは分かっていたんだろう、僅かな動きから回避する方向を見切り、【でんきショック】を放つ。息もつかせぬ猛攻に、さしものリザードもたたらを踏んだ。

 ピカチュウがそのまま着地をする。……そう、どうしてもここでピカチュウは大きな隙ができてしまう。ましてや距離を取っていない状況であれば、どうなるかなんて自明の理。反撃とばかりにリザードの【ひっかく】で吹き飛ばされ、【ひのこ】の追い撃ちがかけられる。

 

「そこまで。……お疲れ様」

 

 これ以上白熱したらひんし状態になりかねないので、ストップをかける。これでピカチュウも自分の動きの拙さがわかっただろうし、あとはトレーナーが指示を出して上手く修正していけばいい。経験値こそ入らずとも、ある意味それ以上の収穫になったはず。フシギダネもバトルを見たところで特に嫌がることもなかったし、この分ならあまりおっかなびっくり接したりする必要もなさそうだ。

 

 

 

 リザードをボールに戻してまたポケセンへ一直線、そして回復を終えてからフレンドリィショップでボールを買い足す。……お金がなくなってきた、そろそろトレーナーとのバトルも視野にいれるべきか。旅立つって知ってたらもっとお小遣い貯金してたのに。子どものお小遣いなんてゲーム一つで一気に吹っ飛ぶんだからな。

 ハナダシティの周辺にはたしかそれなりにトレーナーがいたはずだし、適当に何人か捕まえれば資金は何とかなるだろうか。あーでもゴールデンボールブリッジ(直訳したところで至極健全なネーミングである、いいね?)はなし、あそこは確かロケット団関係だから触れるな危険。

 

 それじゃあ、パッと見て安全そうなトレーナーにだけ勝負を挑むことにしよ……。

 

「ようレッド!お前こんなとこうろちょろして、た……おま、その髪どうした!?」

 

 うー。

 

「……ひさしぶり、グリーン」

「お、おう……って、そうじゃないだろ!一瞬人違いかと思ったぞ!?」

 

 相変わらず11歳のくせして嫌味なくらい顔の良いグリーンが、やたらと大きな声を出しながらがっくんがっくんと揺さぶってくる。元気そうで何よりですイケメン滅べ。

 とりあえずちょっと気持ち悪いからまず揺さぶるのをやめてほしい。あと人違いかと思うほどに変わってるのか、結構ショックだ。むしろそれなのに何故私だとわかったのか。……服か。まあ帽子もトップスも真っ赤っか、しかもお気に入りの服を着回してるんだから分からないはずもない。仕方ないだろ赤が好きなんだよ。

 

「色々あって」

「だからその色々が……お前髪のばすって言ってなかったか?もしかして何かあったのか?」

 

 あー、そういやそんなこと言ったっけ。でもそれ記憶を思い出す前だから少なくとも2年は前だぞ、よく覚えてたな。これだからイケメンは。

 あと妙に鋭いのもイラッと来るよね!何かっていうかロケット団が云々というか、そもそも旅にさえ出なければこんなことにはなってないんだぞ、原因の一端はお前にあるんだからなー!

 

「…………」

「……あー、言いたくないならいいんだけどよ。まあ、ちゃんと旅してるみたいでよかったぜ」

 

 恨めしげな視線を向ければ、グリーンも思うところがあったのか渋々といった様子で体を離してくれる。うっぷ、この程度で気持ち悪くなるとか、今後は三半規管も鍛えなければいけないのか。いやどうやってだよ。

 まあ、何だかんだでピカチュウやフシギダネと出会えたのはグリーンのお陰なわけだし、そこは感謝している。あとちゃんと旅しているというよりは帰れないから旅をしてるんだけどね。……図鑑を埋めれば帰ったときにお母さんに放り出されることもないだろう、多分。逆を言えば図鑑をある程度埋めない限りは帰れないと思われる。

 

 というか、私としてはグリーンがまだこんな所にいるのが予想外だったんだが。あれだけちんたらしていたわけだし、そろそろクチバに着いていてもおかしくないと思ってた、というかむしろそうであってほしかった。

 なんでかって?ゲームやってた人ならわかるだろ。ここはハナダ、目の前にはライバル、そんなイベントはひとつだけ。

 

「ま、そんなことより、せっかく会ったんだ。俺もお前もトレーナー、やることは一つだろ?」

 

 ノーノー、ワターシトレーナージャナイヨー。だからその構えたモンスターボールから手を離して、どうぞ。

 だけど悲しいかな、バトルの気配とくればうちの戦闘狂が黙っちゃいない。ピカチュウは私の肩から飛び降りると、かかってこいと言わんばかりに頬袋から電気を放つ。こうなったらもう私には止められない。

 ええい、腹を括れ私。手を抜くなんてグリーンに対する最大の侮辱、やるからには全力でやるってもんだろう。えーっと、こういう時は確か……。

 

「……バトルしようぜ?」

「いや、なんで疑問形なんだよ。あと口調どうした」

 

 ネタにマジレスするのは悪い文明。グリーンは知らないから仕方ないというツッコミは受け付けませんのであしからず。

 

 

 ゲームと違って、その場で即バトルなんて非常識なことはしない。道路で出会ったならまだしも、ここは普通にハナダシティの出入り口である。こんな所でバトルしたら他の人が通れず顰蹙を買いかねない。

 ハナダシティの外れ、ちょっと開けたところへと移動して、改めて距離をとってグリーンと向きあう。

 

「よーし、はじめようぜ!」

 

 グリーンがボールから出したのはLv.18のピジョン。レベルではこちらが上だけれど、決して油断できる相手じゃない。

 こういうのをオーラとでもいうんだろうか、明らかに強者だとわかる風格がある。トレーナーとバトルしたことなんてほとんどないから確実なことは言えないけれど、少なくともジムトレーナーやあのロケット団のしたっぱとは段違いだ。既にジムリーダーと同格に近いか、あるいは――。

 

「ピカ!」

「……わかってる」

 

 集中しろといいたげなピカチュウの鳴き声に、思考を打ち切って正面を向く。公式戦と違って合図なんてものはない。じりじりと続く睨みあいは、グリーンの方から破られた。

 

「ピジョン、【かぜおこし】!」

「ピカチュウ、【かげぶんしん】!」

 

 一瞬遅れて出した指示に従い、ピカチュウが素早く【かぜおこし】を回避する。直撃こそ避けたものの、【かげぶんしん】で生み出された分身は風によってかき消され、余波で体勢が少し崩れてしまう。

 

「よし、そのまま【すなかけ】だ!」

 

 そこに畳みかけるように、【すなかけ】によって生じた砂が風に乗って運ばれてきた。【でんこうせっか】でかわすものの、通常の【すなかけ】と違って全方面から飛んでくる砂を全て防ぐことはできず、ピカチュウが反射的に目を閉じる。

 

「頭上右斜めに【でんきショック】!」

 

 けれど、こういう時こそトレーナーの出番だ。目が使えなくても攻撃はできる、私はそのサポートをすればいい。細かい指示を出す暇はないから大雑把な方面だけを伝えれば、通常よりも長い溜めと共に電撃が走っていく。予想外の反撃に、接近してきたピジョンは翼に直撃を受けてそのまま地面に落ちてきた。

 ようやく目が開けられるようになったピカチュウが、隙を見逃さず【たいあたり】を繰り出す。直撃を受けたピジョンは、しかし空中に放り出されたのを利用して即座に体勢を整える。

 

「いいぞピジョン、【でんこうせっか】!」

 

 すばやさを生かして懐に潜り込まれ、ピカチュウはそのまま勢い良く弾き飛ばされる。それでも転んでもただでは起きないとばかりに宙を舞いながら【でんきショック】をもう一発、効果抜群のわざを立て続けに食らったピジョンは今度こそ倒れこんだ。

 

 ……予想以上に強い。正直に言おう、まさかこれほどとは思ってもみなかった。

 相性だけじゃ計れないのは私だって理解しているけれど、レベル差だってあるのにこれだけ削っていかれるとは。

 

「くっそー……頼んだぞ、コラッタ!」

 

 ひんしのピジョンがボールに戻され、次に現れたのはコラッタ。グリーンが腰につけているボールは4つ、この分なら手持ちはゲームと同じと見ていいだろう。

 

「いけ、【ひっさつまえば】!」

 

 当たったら死亡確定じゃないですかーやだーいや死なないけど!回避一択、流れるようなモーションでピカチュウがコラッタの攻撃をいなす。そしてすれ違いざまに【たいあたり】、バランスを崩した隙にもう一度【かげぶんしん】。よし、だいぶ実戦に組み込めるようになってきたぞ。

 野生とトレーナーの手持ちではかなり動きは違うけれど、それでも身体構造までは変わらない以上、戦い慣れたコラッタを相手取るのはそう難しいことじゃない。相手の動きが素早かろうと、急所を的確に狙っていけばいずれは疲弊して動きが鈍くなる。あとはそこを狙ってとどめを刺せばいい。

 

「【でんこうせっか】!」

「こっちも【でんこうせっか】だ!」

 

 レベルの高さによる素早さの差を活かし、着実にダメージを与えていく。ニビジムの時とは違って連戦にも慣れてきているから、途中でピカチュウがバテることもない。ペース配分を乱すこともなくトレーナーの指示なしに繰り出される攻撃に、少しずつコラッタの動きが遅くなっていく。

 けれど、グリーンのトレーナーとしての腕はかなりのもの、もちろんそう簡単にいくはずもなく。恐らく私の狙いを途中で悟ったんだろう、ピカチュウの【でんきショック】をすんでのところで回避したコラッタをボールに戻し、代わりにケーシィを交代で出してきた。

 

「それじゃ、こいつでどうだ!」

 

 私もピカチュウも初見のポケモンということもあって、ピカチュウはそのまま攻撃をせず、一度私の近くへと戻ってくる。考えなしに突っ込まないのは賢い選択だけれど、こればっかりは相手が悪いとしか言いようがない。

 

 ケーシィははっきり言って脅威たりえない。何故ならわざマシンを使わない限りは【テレポート】以外のわざを覚えることはなく、そしてこの時点のライバル戦ではわざマシンは使用されていないからだ。

 問題なのは、それなのにケーシィを繰り出してきたグリーンの意図だ。性格が悪いというかなんというか、グリーンは私が持久戦に持ち込もうとしたのを察して同じ戦術を取ってきたのだ。多分だけれど、【テレポート】で攻撃を避け続けることでこちらの体力を削り、疲弊したところでコラッタかゼニガメに交代してダメージを与えるつもりなんだろう。相変わらず意地悪なやつだ。棚上げ?一体何のことですかね。

 

 繰り出されてすぐのタイミングで攻撃できればベストだったけれど、さすがにそれは高望みが過ぎるというもの。とはいえ【テレポート】での移動先なんてわからないし、一旦は様子見しかないだろう。

 

「ピカチュウ、【でんこうせっか】!」

 

 必中系の攻撃があればよかったんだけど、生憎そんな便利なものは覚えていない。つまりは【テレポート】するよりも早く攻撃を当てるしか打開策はないというわけだ。確率は敵、はっきりわかんだね。

 弾丸のごとく飛び出したピカチュウの【でんこうせっか】が、【テレポート】で姿を消す寸前のケーシィの体にかする。やっぱり回避に専念できる分あちらの方が動きやすいんだろう。それでも全く攻撃が効かないわけじゃない。

 

「もう一度【テレポート】!」

「【でんきショック】!」

 

 少しずつ、少しずつケーシィのダメージが増えていくけれど、その分ピカチュウの疲労も蓄積されていくのが目に見えるよう。いくらスタミナが増えたとはいえ微々たるもの、このままイタチごっこを続けていたらグリーンの思う壺だ。

 けれど、ピカチュウが何度も攻撃してくれたお陰でなんとなく相手の動きは読めてきた。【テレポート】も万能じゃない、移動先に現れる直前、ちょっとした空間の揺らぎのようなものができる。そこを狙いさえすれば、確実にダメージを与えることができるはずだ。

 

 ピカチュウの【でんきショック】がケーシィの尻尾をかすめ、空中を走っていく。それと同時に視界の端、ピカチュウの丁度右あたりが陽炎のように歪むのが見えた。

 

「右に【エレキボール】!」

 

 これ以上長丁場にするわけにはいかない。最大火力でもって一撃で終わらせる!

 

「やべっ……!」

 

 グリーンが一瞬遅れて事態を察した様子を見せるけれど、今から指示したところで【テレポート】を途中で止めることなんてできはしない。ケーシィは姿を現した瞬間、【エレキボール】の直撃を受けてそのまま動かなくなった。

 

 これで半分。けれどそろそろピカチュウのダメージも限界に近付いてきている。最後に控えているゼニガメはリザードと相性が悪いから、できれば万全の状態でのバトルは避けたいけれど……。

 

「頼むぜコラッタ!【でんこうせっか】!」

 

 もう一度現れたコラッタが、素早くピカチュウに接近して【でんこうせっか】を食らわせる。先程までの疲労もあって直撃したピカチュウは、思わずその場でたたらを踏む。反撃の【でんきショック】も尻尾をかすめる程度に留まり、明らかに動きにキレがなくなってきていた。

 

「ピカチュウ、【たたきつける】!」

「コラッタ、【ひっさつまえば】!」

 

 チャンスと見たのかグリーンが出した指示と同時に、私の指示通りにピカチュウが走り出す。この一撃で決めるつもりなのだろう、コラッタが迎え撃つ姿勢を取る。

 ピカチュウが大きく振りかぶった尻尾がコラッタに当たるのと同時に、がらあきの胴体にコラッタの前歯が突き刺さる。一瞬の硬直の後、ほとんど同じタイミングでピカチュウとコラッタが地面に倒れ込んだ。

 

「ピカチュウ!」

 

 ピカチュウはボールに戻すわけにはいかないので、倒れ込んだその場所まで向かって抱き上げる。グリーンは既にコラッタをボールに戻し、最後のひとつ、ゼニガメが入っているボールを構えていた。

 

「いけっ、ゼニガメ!」

「リザード、お願い!」

 

 ボールから出てきたゼニガメとリザードが、距離を取って睨みあう。研究所で仲良くしていた二匹だけれどそれとバトルは別物、どちらも負けず劣らずの気迫だ。

 ほぼ最悪のパターンといってもいいだろう。リザードが消耗なしでバトルできるのが不幸中の幸いといったところか。なんにせよ、泣いても笑ってもこれで勝負が決まる。

 

「ぎゃうっ!」

「ゼニガメ、【みずでっぽう】だ!」

 

 トレーナーの指示なく行動したリザードに一拍遅れてゼニガメが口から水を吹き出す。けれど相性もあって警戒していたリザードは危うげなく避けてみせ、そのままわざを放った直後で動けないゼニガメに【ひっかく】で襲いかかる。しかしそれは寸でのところでゼニガメの甲羅に遮られ、攻撃を弾かれたリザードは大きく後ろに跳躍した。

 

「よし、また【みずでっぽう】!」

「ゼニッ!」

 

 弱点を突きにくるせいで、迂闊に攻め込むことができない。相性が絡まない【りゅうのいかり】は全方位に攻撃できる代わりにリーチはそこまで長くない、仮に接近できたとしてもわざの発動までに少し時間がかかるから、その隙を狙われる可能性が高いのだ。となるとどうしても【ひっかく】がメインになってしまうが、近付けない状態では攻撃を当てるなんて以ての外。

 さて、どうする。このまま一進一退の攻防を続けていたところで相性の不利がある以上長引けば長引くほどこちらの敗色が濃くなる。何とかして【りゅうのいかり】を当てることさえできればいいんだが。ここはダメージが少なくても確実に削っていくべきか。

 

「リザード、【ひのこ】!」

「ぎゃうー!」

 

 相性の不利を承知でリザードが吐き出した【ひのこ】が、ゼニガメの腕に命中する。効果今ひとつとはいえノーダメージというわけではないから、ほんの少しだけゼニガメの動きが鈍くなり、そこを狙ってリザードが再び飛びかかった。

 

「ゼニガメ、【あわ】!」

 

 しかし、それはグリーンの機転によって防がれた。ゼニガメが出した【あわ】にもろに当たってしまい、リザードがのけぞってしまう。

 

「【たいあたり】!」

 

 追い撃ちをかけられたリザードは、そのまま弾き飛ばされる。そして空中で体勢を整え、そのまま着地――できず、地面についた足を滑らせた。

 

 予想外の事態に、思わず思考が停止する。視線をやれば、リザードが足をつけたそこだけが、雨上がりのようにぬかるんでいた。

 

(…………まさか!)

 

 リザードがかわした【みずでっぽう】、もしもあれが地面に当たっていたとしたら。そして二回ともが近くを狙っていたとしたら。

 

「【みずでっぽう】!」

「ッリザード、【りゅうのいかり】!」

 

 動きの止まったリザードに【みずでっぽう】が迫る。回避は間に合わない、ならこの姿勢で可能なのは遠距離攻撃、そして狙いが定められない以上使えるのは【りゅうのいかり】のみ。ギリギリ当たるか当たらないかという距離だけど、何もできずに負けるなんて無様な真似はしたくない。

 リザードの身体から、ゼニガメめがけて衝撃波が走っていく。【みずでっぽう】を放った姿勢を保ったままのゼニガメへと迫り―――あと少し、小指の先ほどの距離を残して掻き消える。

 

 そして、【みずでっぽう】の直撃を受けたリザードが、鈍い音を立てて倒れ込んだ。


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