レッドさんの華麗()なる珍道中 作:らとる
今回は作者のアイドルの登場回です。別名:フラグ回収回。
朝起きたら粉々に砕けた岩が目に入りました。昨夜の出来事は最初から最後まで現実でした、現場からは以上です。
夢オチがよかったなあ。さすがに私、人間やめたくはないんだけど。いや、仮にこれがこの世界の常識だったりしたらまだ受け入れられたけどそうじゃないでしょ?……いいや、とりあえず便利になったとだけ思っておこう。私のSAN値のためにも。
それにしても、せめてこの運動神経の三割、いや二割だけでも前世で発揮できたならと思わずにはいられないね、うん。今更すぎて何の意味もないけどな。
さて、現実逃避はそろそろ終わりにして。ピッピはもう図鑑に載ったことだし、後は普通にズバットとイシツブテとパラスをゲットすればもうここに用はない。さっさとハナダシティへ抜けてしまおうじゃないか。
いつも通りトレーナーは全力ダッシュでスルーして、昨日覚えた道順通りに地下へと順調に、順調に降りていく。大事なことなので二回言いました。ちなみに三回ほど道を間違えそうになってピカチュウに助けてもらうということがあったが、むしろ三回で済んだだけ成長したってことだから褒めてほしい。
道すがら図鑑も埋めていって、途中で落ちているどうぐを拾ったり。そうして一時間ほど歩いたところで、ようやく出口のはしごが見えてきた。
上に人がいないことを確認して、するするとはしごを登っていく。そうして登りきれば、そこにはさんさんと日が射す外の景色。おつきみ山、無事攻略です。どんどんぱふぱふー!
ふう、それにしても疲れた。あんな整備されてない道を二日間延々と歩いてたんだ、足の負担がとんでもない。今日はポケセンの部屋でゴロゴロしてたい。これ以上歩いたら足が棒になってしまう。
あー、でもその前に美容院……あるのかな、ハナダシティ。いや見た感じニビシティよりもずっとお店多いし一軒くらいあるだろ。
まずはポケセンへ向かい、ピカチュウとリザードを回復してもらう。何とビックリ、どうやら私のピカチュウについては特別措置みたいな感じでちょっとした伝達が回ってたらしく、トレーナーカードを見せたら説明しなくてもスムーズに回復装置に案内された。至れり尽くせりすぎてもうどうすればいいか。
ついでに周りのトレーナーの話をちらっと耳にしたところ、やたらとマサキの名前が聞こえてきた。ほら、ポケモン預かりシステムの開発者だよ、ポケモンマニアで有名な。そういや、ゲーム通りなら今頃実験の失敗か何かで大変なことになってるんだっけ。……あー、そっか、サントアンヌ号に乗るためにもあのイベントは必須なんだ。乗らないと【いあいぎり】のひでんマシンが手に入らないし。でもゲーム通りのテンションで来られたら私精神的に死ぬ自信あるよ。
ま、いっか。別にそこらへんはその時の状況に応じて判断すればいいだろう。そんなことより、とっとと美容院へ行かないと。
悲しいかな、この街には街の地図なんてものは設置されていない(というかあったところで方向音痴の私がまともに読めるかどうか)。なのでぐるぐると回っていかないとお目当ての店がどこにあるのかわからないのだ。
途中でショーウィンドウから見える可愛い洋服なんかに心惹かれつつ、金欠になりかねないので諦める。ただでさえ美容院で余計にお金が飛ぶんだ、これ以上お金を使ったら旅が続けられなくなってしまう。またお金が貯まったら見にいくとしよう。ミラクルサイクル?普通の11歳児が100万円なんて大金を持っているとでも?
そんな風にしばらく歩いていれば、運良く空いている美容院が見つかった。料金もそんなに高くないし、待ち時間もない、そろそろ私も運が向いてきたのでは?今後はトラブルもなくレッドさんだいしょーりー!みたいな展開になったりとか、え、ない?ま、是非も無いよネ!
カットのみで受付をすませ、そのままシャンプーへと案内される。美容院のシャンプーって気持ちいいよね、気持ちよすぎて眠くなるくらい。
うとうとしながらシャンプーを終わらせ、そのままカットへ。……美容院の何が嫌ってさ、美容師さんがめっちゃ話しかけてくるのが辛いんだよね。シャンプーが天国ならカット中はさながら地獄か。そのせいでコミュ障としては最も利用したくない施設のうちの一つでもあるんだ。まあだからといってこの不揃いな髪の毛を上手く整えるなんて素人にできるはずもないから泣く泣くここに来たんだけど。
「それじゃあ、どんな髪型にしますかー?」
「えっと……とりあえず、長さを整えてもらえますか?」
「あ、これですね。すっごくバラバラですけど、何かあったんです?」
ノーコメントで。いやだって、ロケット団と戦った挙句【どくばり】で髪の毛ぶっちぎられましたーなんて言われたらリアクションに困るでしょ。というか明るいテンションで話しかけてくる人に返答するのってちょっとキツイものがあるんだ、ぼかぁ要望伝えるので精一杯です。
「うーん……一番短いところに合わせるとかなりボーイッシュな感じになっちゃうんですけど、それでも大丈夫ですか?」
ボーイッシュ、ボーイッシュかあ。まあ今の服装なら特に問題はないだろうし、背に腹は代えられないだろう。何年かすれば元の長さに戻るだろうし、それまで女の子らしい服がお預けになるくらいか。
頷いて、そのまま目を閉じる。私は寝ていますアピールだ、こうすれば美容師さんも話しかけてくることはない。ちょうどシャンプーのおかげでうとうとしてるし、昨日深夜まで起きてたせいであんまり寝れなかったから一石二鳥ってやつだね!じゃ、おやすみなさーい。ぐう。
「はーい、終わりましたよー」
美容師さんの声で、はっと目を覚ます。いけないいけない、思ったよりもぐっすり眠ってしまっていた。カット中はともかくドライヤー使われても起きないとか相当だぞ。
眠い目をこすりながらゆっくりと開け、鏡を見る。随分とすっきりした首筋からして相当短くなったんだろうことは想像に難くないけど、さてさて一体どんな髪型になったんだろう。
「………………」
「一番短いところに合わせてみたんですけど、これでどうですか?」
わーお。なんということでしょう、鏡の中には前世でよく見たリメイクレッドさんの姿が。
私が思わず呆然とすれば、鏡の中のリメイクレッドさんも同じ顔をする。つまりこのリメイクレッドさん=私、こんなひどいことがあっていいのか。
いや、ボーイッシュになるとは聞いてたけどさ、ピンポイントでこの髪型って。こんなの絶対おかしいよ。ボーイッシュどころか傍からみたら普通に男の子にしか見えないでしょこれ、何者かの悪意を感じざるをえない。
とはいえ、私が長さにしか言及しなかったせいでこうなったわけであり、美容師さんに非はない。これ以上切ったら余計男の子っぽくなるだけだし、この髪型で妥協すべきなんだろう、うん。
無言で頷き、そのまま会計をすませて外にでる。帽子を被れば360度どこから見てもリメイクレッドさんな私の完成だ。
…………運が向いてるとか言ったの誰だよ。
憂鬱な気分のままポケセンへ戻る。そのまま部屋で不貞寝したい気持ちもあるけど、さすがにこんな時間から寝るのは不健康すぎる。下手に生活リズムを崩すと朝起きれなくて旅に支障が出かねない。とはいえ足も疲れてるし、さてどうするか。
ポケセン内でできることなんてあんまりないし、とぐるりと見渡したところで、ふと隅にあった本棚が目に入った。
イメージとしてはORASのポケセンに置いてあったものが近いだろうか。そう冊数は多くないものの、ポケモン関係の本や雑誌がずらりと並んでいる。あれか、よく病院とかの待ち時間に読むために置いてあるやつか。これだったら座って読めばいいから足を休めることもできるし、時間をつぶすのに丁度良いだろう。
ブリーダー向けの雑誌、トレーナー向けの雑誌、あ、だいすきクラブ向けのものもある。どれも気になるけど……うん、今必要な情報を集めるんだったらトレーナー向けのものを読むべきだろう。私はトレーナーじゃないけど、ほら、彼を知らずして己を知るは一勝一負すというやつだ。備えあれば憂いなしとも言うね。
さて何か面白い記事はないかなあ、と思ったところで、ジムリーダー特集なるものが目に留まる。ひでんわざを使うためにも今後バトルすることになるし、私はゲームでの彼らしか知らないから、読んでおいて損はないだろう。
特集と銘打っているだけあって、手持ちの一部が紹介されていたり、インタビューなんかがいくつか載っていたりと中々に充実している内容だ。トレーナーでなくても純粋に楽しめるあたり、この記事書いた人の腕の良さがわかるというもの。後でバックナンバーとかも見てみようかな。
さすがに細かい手持ちの情報や戦法については触れられていないものの、手持ちの内の一匹だけでも情報があるだけでかなり取れる対策に違いがでてくる。それを鑑みれば、ここに載っている情報はどれも重要なものばかり。覚えておけばいずれ対戦する時にもかなり役立つに違いない。
おお、ついでにバッジについても軽く触れてあるじゃないか。ちょうどよかった、この世界においてひでんわざがどんな感じなのか気になっていたんだ。ほら、昨夜の【いわくだき】、あれオッケーなのかとか。
それらしい記述がないかと隅々まて読んでいくと、バッジの効果についてまとめてある枠の外に、小さく注釈のようなものがついているのに気付く。ふんふんなになに……?
えーっと、簡単にまとめると。どうやら、【いあいぎり】と【いわくだき】、あと【かいりき】については【フラッシュ】同様ポケモンをボールから出さなくても使えるらしい。どうやってだよと思ったけど、どうやらボール越しに指示さえ出せば、【いあいぎり】や【いわくだき】が樹を切ったり岩を砕くのに最適なダメージを与えるだけの衝撃波を出してくれたり、【かいりき】なら使いたい方向にボールを向けていれば一定のパワーで押していってくれる、らしい。いやなんかここらへんはちょっと分かりづらい説明だったんだけど、大体そんな感じで合っているはずだ。
確かにポケモンは個体によってこうげきのステータスが違うから、実際に【いあいぎり】や【いわくだき】を使ったらこうげき低過ぎて上手くいかなかった、とか【かいりき】の威力が高すぎて岩が粉砕されて破片が飛び散って大惨事、なんてことにもなりかねない。……それにしても、このシステム開発した人天才すぎでは?ポケモン世界は天才が多すぎてインフレ起こしてる印象がですね。
対して【なみのり】や【そらをとぶ】なんかはいわゆる免許みたいな扱いらしい。どうも、このひでんわざが必要になる場面は大体危険が伴うから、トレーナーとしての腕前がそれなりになければ命に関わるということで法律で定められているとのこと。まあ、【なみのり】してたら海難事故に、【そらをとぶ】で墜落しました、なーんてことになったら目も当てられないし。もしもバッジを持っていない状態でひでんわざを使っているのがバレた場合はトレーナーの資格剥奪だとさ。ヒーコワイ。
とりあえず、【いわくだき】については別に免許とかじゃないっぽいのが救いか。よかった、知らない内に法律違反とかほんと洒落にならないからね。まあそもそも人間が【いわくだき】するなんて想定されてないだろうけどさ。
というかこれもしかして、私ヤマブキジムに行く必要なくなったのでは?だって【いわくだき】できるし。あれだけ大きな岩ができるんだったらそこらにある小さな岩なんてもっと楽だろ。【いあいぎり】と【かいりき】はまだわからないけど、もしかしたらこれも可能だったりして。……たしかハナダシティには【いあいぎり】で通れる道があったよな、後で試してみよう。
ひでんわざについての確認も終わったところで、そのままぱらぱらと読み進めて頭の中で相手の手持ちへの対策を練っていく。そろそろ手持ちも増やさないと今後は厳しくなってくるかな。とはいえ今のところこれといって捕まえたいポケモンがいるわけでもないし……。
「…………?」
ふいに足元に小さな衝撃が走ったことで、思わず雑誌から顔をあげる。視線を下ろせば、そこには一匹のフシギダネがぶるぶると怯えた様子で縮こまっていた。
一体どうしたんだろうか。怪我をした様子はなさそうだし、野生のポケモンでもなさそうなんだが。とりあえず一旦雑誌を閉じて、攻撃の意思がないことを示すために手の甲で顎の下を撫でる。……あれ、これでいいんだよね?たしかこういう場合は下手に目を合わせちゃいけないとか言われてたはず。あと頭の上から撫でるのもだめなんだっけか。いや、本当はいきなり撫でるのもまずいのかもしれないけど、でも下手に腕をぶらぶらさせてるよりは多分ましだろう。
頭の上に乗せていたピカチュウには一度降りてもらい、フシギダネから距離をとってもらう。これで危害は加えないとわかってもらえるはずだ。
「…………」
「……ダネッ」
しばらく無言で撫で続けていれば、少し警戒を解いてくれたのか、おそるおそる足元に座り込むフシギダネ。何だか博士の研究所にいたフシギダネを思い出してほっこりする。元気にしてるかな、あの子。
いやしかし、一体この子はどこから来たんだろう。まさかポケセンの中でポケモンを捨てる命知らずなトレーナーはいないだろうし、となると逃げてきたとか?いや、でもざっと見たところ結構大切にされてるみたいだけど。なんにせよ、この子のトレーナーが見つからない限り私も手の打ちようがない。
「ああ、やっと見つけた!こんなところにいたのね、フシギダネ」
おお、噂をすればなんとやら。ポケセンの奥の方から現れたのは、この子のものらしきモンスターボールを持った一人の女の人だった。女の人は一瞬遅れて私のことに気付いたらしく、丁寧にお辞儀をしてくれた。
「すみません、この子がご迷惑を……」
「…………いえ」
迷惑どころかむしろ癒されてました、という意味もこめて首を横に振る。名残惜しい気もするけれど、おやが来てしまったのなら仕方ない。もう一度だけフシギダネを撫でると、伸ばしていた腕を引っ込めた。
障害物もなくなったところで、女の人がフシギダネをボールに戻そうとしゃがみこむ。ところが、フシギダネはいやいやと首を振り、私の足の裏へと引っ込んでしまった。アレー?
「す、すみません!この子、いつもは人間を怖がってばかりなのに……フシギダネ、トレーナーさんの迷惑になるでしょう、ボールに入りなさい」
「ダネッ!」
女の人の説得に対して頑として動こうとしないフシギダネ。私の足を挟んでこんなことされてるとすごいシュールなんだが、これ私にどうしろと。というか人間を怖がってばかりって……え、え?なんで私は大丈夫なんだよ。
どうすることもできず、居心地の悪さから視線をさまよわせる。助けてピカチュウとか思ったところで、あの子がこっちに来たら今度はフシギダネが怖がってしまうし。八方ふさがりとはまさにこのことだ。
「……あの」
「え、あ、ごめんなさい。まさかこの子がこんなに頑固になるだなんて思いもしなかったもので……」
いや、それはいいよ別に。むしろ癒しを提供してくれたんだから感謝こそすれど迷惑だなんて思うもんか。私が気にしているのはそっちじゃなくて。
「…………この子、怖がりなんですか」
初対面なのにこんな突っ込んだこと聞いていいのかはわからないけど、なんだか気になるというか放っておけないというか。女の人にもなついていないようだし、ちょっとくらいは手助けしてあげたい気もするのだ。
……いや、ほんとは会話するだけで精神のライフがゴリゴリ削れてるけどね。でもせっかく撫でさせてくれたんだし、それくらいはしてあげたい。このままお別れとか後味悪すぎる。
「はい。私は傷付いたポケモンを保護しているんですが、この子は一昨日にうちに来たんです。保護したときにはすごくボロボロで……やっと怪我は治ったんですが、どうしても心を開いてくれなくて」
おうふ、なんてこったい。予想以上に事情が重かった。ボロボロって……普通にバトルしただけじゃまずそうはならないだろうし、一体何事だよ。仮にピカチュウが全力エレキボールを放ったところで一時間もすれば回復するのがポケモンクオリティだぞ、それ相当やばいんじゃないか。
うーん、そう考えると、ますます私が撫でさせてもらえたのが不思議になってきた。やっぱりあれかな、まずは傷つけることのできるものから距離を置いて、ゆっくり慣れていってもらうしかないのか。私については……あれか、
「でも、本当にどうしましょう。このままじゃ動いてくれそうもないし……」
足元のフシギダネを見れば、未だに女の人に対して警戒心丸出しで唸り声を上げている。助けてくれた恩人なんだからもう少しなついてあげてもいいだろうに、なんというか不器用な子だなあ。ああでも、色んなポケモンを保護しているなら一匹一匹と触れあう時間は自然と少なくなっちゃうだろうし、そうなるのも仕方ないのかもしれない。他にも一緒に保護活動してる人がいればまた別なんだろうけど……。
じっとフシギダネを見つめれば、視線に気付いたのか、つぶらな瞳が見つめ返してくる。ああ、私に某組織の王様みたいなポケリンガル的機能があればと思わずにはいられない。この子が怖がってる原因されわかれば、いくらでも対処しようはあるっていうのに。まったく自分の不甲斐なさに涙が出そうだ。コミュ障なのはともかく、こういう肝心な時に役に立たないのは本当にどうなの自分。これがグリーンだったら颯爽と解決していくんだろうに、どうして幼馴染みとこんなにも出来が違うのか。
溜め息を飲み込み、手持無沙汰にフシギダネを撫でる。喉の下を撫でて喜ぶのは猫だと思ってたけど、フシギダネはこれでいいんだろうか。もっとよろこぶところとかあるのかな、ポケパルレってどうだったっけ。
……それにしても、私はいつまでこうしていればいいんだろうか。
沈黙に耐えかねて女の人の方をちらりと見てみれば、そこには真剣な表情で私とフシギダネを見つめる姿。女の人はしばらく悩んだような様子を見せた後、やがて決心したかのように口を開いた。
「その、トレーナーさん。あなたさえ良ければ、この子を連れて行ってもらえないかしら?」
ファッ!?
い、いやいやいや、流石にそんな責任重大なことは。いや私はトレーナーじゃないけど今はそんな細かいことは置いといて、それにしたってバトルする機会だってあるのに、そもそも初対面の私にこのフシギダネを預けるだなんていくらなんでも無謀すぎるだろう。
「その子、あなたには少し心を許しているみたいだもの。このまま引き離すよりは、あなたと一緒に行かせた方がこの子のためになると思うの。あちらのピカチュウもとても懐いてるみたいだし、あなたなら安心して任せられるわ。もちろん無理にとはいわないけれど……」
…………えーっと。
「……君はそれでいいの?」
「ダネダネ」
仕方ないな、とでも言わんばかりに一鳴きしたフシギダネが、私の足下にどっしりと座りこむ。うーんこの、明らかに妥協してやってます的なふいんき(なぜか変換がry)が何ともいえない。
とはいえ、確かにこのままじゃ何も解決しないのも確かだ。このままゆっくりと付き合っていけばフシギダネだって女の人に懐いてくれるだろうけど、女の人だってフシギダネだけを見ているわけにもいかないだろうし。
「……私でいいなら」
それに悲しいかな、私は典型的なNOと言えない日本人なのである。そして無理にとはいわないけど、という断ったら罪悪感マシマシな言葉選び、これではっきり無理だと言える人がいたら見てみたい。
女の人からフシギダネのボールを受け取り、腰につける。これで手持ちは三匹になったけど、今の状態でフシギダネをバトルに出すつもりはない。そもそもバトルしたいのかどうかすらわからないし、そこらへんは様子見だろう。とりあえずは仲良くなれればそれでよし、ということで。
「それにしても、ちょっと珍しいわね」
「……?」
唐突な女の人の言葉に首を傾げる。珍しい、とは一体なんぞや。私別におかしなことをしたはずはないんだけれども。
「ああ、ごめんなさい。男の子なのに私っていう子は初めてみたものだから、つい」
いや私女の子です、と言いかけたところで気付く。そういやさっき美容院に行ったばかりで、つまり今の私は傍からみたらリメイクレッドさんそのままなのだ。確かにこれを女の子というには無理がある。スカートはいてればまた別だろうけど、それはそれで似合わない気がするし。
えー……そっかー変かー。つまりなんだ、今後ずっとそういう変な子として見られる可能性があるということか。なにその人生ハードモード。これからは一人称も変えろとかそういう。ナンテコッタイ。
とはいえグリーンみたいにオレとかいうのは流石にハードルが高すぎるし、じゃあ無難に僕あたり?慣れるまで時間がかかりそうだけど、でも変な子ども認定されるよりは……ただでさえコミュ障という欠点があるのにこれ以上は私の精神衛生に関わる。ちくしょう、そもそもロケット団さえいなければ私がこんな思いをせずにすんだんだ。やはりロケット団は早急に滅んでいただきたい。
……ところで、さ。御三家入手イベントってピカチュウ版だけだったような気がするんだけど、まさかこれがそのイベントなんてことはないよね?。ほら、こういうイベントにありがちな無言で他人の家を訪問とかやらかしてないし、まさかそんなはずは。頼むそうだと言ってくれ。