気付けば、俺は知らない空間にいた。
うむ、あの程度で死ぬ俺ではないのだがなんでだろう。
咄嗟にパンチして防いだ気がするんだが、分からない。
「はわわわわわわ」
おや、何やらちっこいのがいるな。
あっ、違うわ。なんか、俺が大きい感じだわ。
あれ、なんか俺が本来の姿に戻ったようだな。
それにしても、本来のドラゴン形態は大きいから見えにくいは……まぁ、ゴマを見るような物だからな。
仕方ないので、何やら現地人らしき者に顔を近づける。
「ド、ドラゴンってとっても可愛らしい顔をしてると思うの」
「…………」
「ぎゃぁぁぁ、食べても美味しくないわよ!美味しくないったらぁぁぁ!」
急にどうしたんだお前、とキョトンとする。
呼吸したついでに俺の鼻息がブワッと髪を逆立ててしまってビビらせてしまった。
わざとやないねん、身体が大きいから仕方ないねん。
「出てって!私の前から出てって!アンタみたいなヤバイのとか聞いてないの!」
「お前は何を言ってるんだ」
「キャァァァァ、シャベッタァァァァァァ!?」
テンションが振り切れてる青い髪の女が半狂乱になる。
正直、ドン引きである。
それより、ここは何処なのか教えてください。
と、思っていたら何やら変な魔法陣が足元に現れた。
おっ、おっ、なんだこれ、乗ってればいいのか?
そして、俺の視界は急に変わり違う場所に移動していた。
そこは、何処とも知れない荒野だった。
何やら遺跡らしき物が見える。
そして、俺の足元にはこれまた米粒程の小さい何かがいる。
だから、身体が大きくて見えないんだけどなぁ。
「わが名はこめっこ、家の留守を預かる者にして紅魔族随一の魔性の妹!わが召喚に応じたあくまよ。われと契約を交わすがよい」
「悪魔だぁ?俺はドラゴンだ」
「じゃあ、ドラゴンと契約する」
いや、契約するってなんだよ。
っていうか、あれか。あの魔法陣はこの子供が書いたのか、子供なのにスゴイんだな。
「お嬢ちゃん、ドラゴンっていうのは何ていうか自由で最強で最強な生物なんだ。つまり、答えはNOだ」
「いけにえです」
『捕まったクマー』
幼女が何やら掲げていた、それがクエーと悲しい声を上げていた。
というか、ラッセーだった。
おぉ、ラッセーよ捕まってしまうとは情けない。
「ほんとうは晩御飯にするつもりだったけど、あげる」
『言うことを聞くんだ、コイツ俺のこと齧りやがった!やると言ったら、実行するぞ、絶対だ!』
ラッセーもこんななりだがドラゴンの端くれ、それを捕食しようとはやりおるわ。
このこ大物かもしれない。
「ソイツを離してやってくれないか」
「しってるよ、等価交換って奴だよね。何をくれるの」
「えっ、う、うーむ。なんだろうな、何が欲しいんだ?」
「この世の全部」
「全部かぁ……ちょっと無理だなぁ他の物にしてくれないか」
俺の回答に幼女は不満そうにして、そして少し悩む。
子供って欲がないから、スゴイことを要求してくるな、俺びっくりだよ。
「じゃあ、魔王にしてくれたらいいよ」
「魔王か、魔王もちょっと無理だなぁ」
「もう、わがままばかりだなぁ」
我儘なんだろうか、願い事の規模が凄すぎてちょっと出来ないんですが。
もっと、シンプルで簡単なのなら叶えられるんだがな。
「仕方ないから何か食べ物がいい。もう三日も食べてなくて、満足するまでたべたい!」
その幼女の回答に、全俺が泣いた。
俺の上に幼女が乗り、その上にラッセーが乗る状態で俺達は移動することにした。
目的は食い物を求めてである。
「人里が見えてきたな」
「あそこに住んでるんだよ」
なるほど、どうやら里から飛び出して近くの場所で遊んでいたらしい。
そして俺を召喚したとのことだった。
召喚したのだろうか、追い出したあの青い髪の女と呼び出そうとしたこめっこのパワーが重なってなんやかんや偶然の結果な気がする。
とはいえ、約束を破ることはいけないので何か食べ物を見つけないといけない。
「敵襲、敵襲だ!」
「喰らえ、インフェルノ」
「カースド・ライトニング」
「カースド・クリスタルプリズン」
里に近付くと、何やら魔法が放たれた。
どうやら警戒させてしまったらしい。
「お腹すいたね」
『現在進行形で襲われてるのに、なんてマイペース』
襲われてると言っても、この程度可愛いものである。
はっはっは、無駄無駄無駄ぁ!
所詮は、脆弱な人間である。
「き、効いてない」
「お前は逃げろ、ここは俺が食い止める」
「お、おい何を言ってるんだ」
「誰かが足止めしなきゃならない、そうだろ?何、あとで追いつくさ!」
俺があくびを搔いていると、下ではシリアスな雰囲気で会話が繰り広げられていた。
何やら悲壮な覚悟で俺に挑むつもりらしい、それでも意味はないと思われるんだがな。
「行くぞドラゴン!うおぉぉぉぉぉ」
「むっ、来るか?」
「テレポート!」
「…………」
目の前にいた紅魔族らしき男達がいっせいにその場から消えた。
あれ、戦う流れじゃなかっただろうか。
「うちの芸風だから」
「芸風……変わった種族なんだな」
なんだか不完全燃焼な状態で、俺は地上に降りて里に近づいて行くことにした。
なお、俺の上では高ーいとはしゃぐこめっこがいる。
「あれはぐりふぉんを石化して飾ってるんだよ」
『ほへー』
ドシン、ドシンと地面を揺らしながら、俺は紅魔族の里に近づいた。
すると、里の中から何やら人がわらわらと出てきて俺の前に一人のオッサンが現れた。
「静まり給え、静まり給え!霊峰ドラゴンズピークのドラゴンたる方が何故このように荒ぶるか!」
「俺はべつになんたらピークのドラゴンじゃないのだが」
「キャァァァァシャベッタァァァァァァ!?」
仰天するオッサン、なにそれ流行ってんの?
俺が喋るとみんな同じ反応をするので困る。
俺が困惑していると、俺の頭の上でこめっこが仁王立ちしてパサッとマントを翻した。
「わが名はこめっこ、家の留守を預かる者にしてドラゴンを駆る紅魔族随一の魔性の妹!」
「あ、あれはひょいざぶろーさんの所のこめっこちゃんだ」
「スゴイ、ドラゴンに乗ってるぞ」
「ドラゴンは言っている、ご飯を用意しろと!」
……言ってない!
しかし、何を思ったのか里の人達はははぁと拝んでから蜘蛛の子を散らすように動き出した。
暫くして、食べ物がたくさん集まる。
これは、恐喝なんでは……まぁいいか。
「わーい、ドラゴンすごーい!」
「フフン、俺の凄さが分かったか」
『チョロいわぁ~超チョロいわぁ~』
褒められて悪い気はしない。
それに、これで満足するまできっと食べたはずである。
「こめっこや、俺はそろそろ行こうと思う」
「えー、ダメ」
「何だと!満足するまで食べただろ」
「もっと食べたい」
……あれ?
「今、食べただろ?」
「うん」
「お腹いっぱいだよな」
「うん」
「満足しただろ?」
「してない」
「えぇ……」
満足してないって、どうしたら満足するんだよ。
もう、これで満足するしかねぇだろ!
「じゃあどうしろと」
「分かんない!」
「…………」
『もう、満足するまで食べさせるしか無いだろう』
こめっこの頭の上で、あくびをしながラッセーがそう嘯いた。
そうか、そうかぁ……。
「そうだ、お母さんのとこ行ってくる」
「う、うむ」
何やらこめっこが母親らしき者の所に行き、俺の方を指差しながら会話をしている。
お金、食べ物、ドラゴン、何やら色々と聞こえてくるがよく聞こえない。
「帰った」
『おかえり~』
「よし、行く」
「どこにだよ」
こめっこは明後日の方向をさしながら言った。
「姉ちゃんのとこ」
「どこだよ」
こめっこはドヤ顔で俺の方を見て、数秒してから言い放った。
「あはは、分かんない」
その快活なまでの笑顔を見て、俺は思った。
コイツはきっと大物に違いない。