聖杯問答、それは英霊たちによる英霊たちの為の英霊の格を競う場である。
まぁ、結局みんな聖杯が欲しいわけなので話し合いは最終的に物理になる。
つまり、肉体言語で会話すれば最速で解決って訳だ。
「イスカンダル、貴様とて……世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わったはずだ。
その結末に、貴様は、何の悔いもないというのか!今一度やり直せたら、故国を救う道もあったと……そうは思わないのか?」
「ない。余の決断、余に付き従った臣下たちの生き様の果てに辿り着いた結末であるならば、その滅びは必定だ。痛みもしよう。涙も流そう。だが、決して悔やみはしない」
「そんな――」
「ましてそれを覆すなど!そんな愚行は、余と共に時代を築いたすべての人間に対する侮辱である!」
それにしても、マスター同士では会話しないから暇だな。
そんなことを思っていたら、何やらセイバーの姉ちゃんが説教されていた。
何してんだよ、まったく。
『過去を変えるか、世界を騙すんだなきっと』
「お前は何を言ってるんだ?」
「こ、この人……何を一人でブツブツ言ってるんだ」
俺の方を見て、何やら言ってるが聞こえてるんだからな。
それにしても、セイバーの姉ちゃんが凹んでる横でアイツは何をしているんだ?
「……これが王のスメル」
「うわぁ」
『うわぁ』
ドン引きである。
なおランスロットの願いは説教されたいという奴で、そんなにされたいならしてやるよとセイバーの姉ちゃんに一発殴られた。
でも、姉ちゃん的には別にあれいらないから怒ってないんだけど的なことを言ってたような気がする。
つまり、別に気にしてない相手に気にしてるんだろ、裁いてくれよと詰め寄る傍迷惑なアホの勝手な暴走だった。
何してんだよお前、あと怒られるために怒りそうなことするなよドMなの?
さて、そんな英霊達を見ていたら何やら見知った気配を感じた。
『フン、何かと思えばこのような場で密談かねウェイバー・ベルベット君。どうやら卑劣な輩の側には、同類である卑劣な者が集まると相場は決まってるらしい。大方、騙し討ちの算段でもしていたのだろう。よろしい、ならばこれから行うのは決闘ではない。誅伐だ』
「なんか一人で盛り上がってるオッサンが来たぞ」
ランサーが俺達の前に歩いてくる。
その後ろで、銀色の液体を従わせたオッサンが現れた。
な、なにあれかっけぇー、超欲しい!
『す、水銀ちゃん!』
「知ってるのか、ラッセー」
『にゅるーんってくるぞ、にゅるーんって』
にゅるーんだって!?水銀ちゃんとは、一体何者なのだ……。
「悪いが、主の意向なのだ。さぁ、剣を取れ!今こそ、決着を付ける時だ」
「ランサー……私は……」
「王よ、ここは私が出ましょう。構わんな、輝く貌のディルムッド!我が名はランスロット、王の剣である円卓の騎士が一人!」
「良いだろう、いずれは争う定め、いざ尋常に勝負!」
何を勝手に決めてるんだよと思っていたら、オッサンと目が合った。
目と目が合う瞬間、好きだと気付いた……んな訳あるかい。
「何見てんだよ」
「貴様がバーサーカーのマスターか。何度か煮え湯を飲まされたが、驚くべき魔力だ。そして生身で英霊と対峙できる力量、伝承保菌者で間違いないな」
「違います」
「…………本当は?」
「…………違うって言ってんだろ、ハゲ」
ドヤ顔が困惑に至り、最後は怒りに彩られた。
生え際気にしてたのかな、ハゲって言ったの怒ってそうだ。
スクラップだか、シャラップだか、なんかオッサンが言った瞬間に水銀が此方に伸びてくる。
「魔術師として稀有な『水』と『風』の二重属性に共通する『流体操作』を基本とした術式で金属であるにも関わらず、常温で液体の形状を取る水銀を高速、高圧と自在に操作する。これによって防御力、破壊力を獲得している。また、昇降機のような移動手段としても応用が可能だ!おまけに敵の所在を発見する自動索敵すら備えている。まさにロード・エルメロイならではの戦闘魔術、貴様に堪能してもらうとしよ――」
「よし、キャッチ!そして、確保ォォォ!」
此方に向かってくる水銀を掴んでそのまま篭手にぶつけていく。
篭手の中に収納すれば支配権はこっちの物である。
「エェェェェェェェ!?」
『説明はフラグだって分かんだね』
「俺のターンはまだ終わりじゃないぜ、喰らえ天の鎖!」
俺の篭手から鎖が伸びる、それを水銀が防御して壁となり防ぐ。
まだだ、まだ終わらんよ!
礼装の性能が戦力差ではないことを教えてやる。
「ウオリャァァァァァ!」
「なっ、馬鹿な!?」
無理矢理引っ張ることで、水銀が引っ張られる。
別に解除してもええんやで、そしたら鎖で背骨が折れると思うけどな。
「なんという強化魔術、ええい!Scalp!」
「ほぉ、鱗を剥ぐとはやるねぇ……」
「あ、ありえん!貴様、人間か!」
相性が悪かったな、中々やるようだが魔術師はドラゴンを倒せない。
ドラゴンを倒すのはいつだって剣士(物理攻撃)で戦うものだけである。
『凛ちゃんの五倍は性能がいいケイネスだったが、相性が悪かったな。せめて、八極拳を習っておけば』
「魔術より身体を鍛えたほうが早いんだよ!あと魔術は使ってない、これは素だ」
「水銀の重さは13キロ、単純計算で100キロは超えてるんだぞ!ありえん!」
「ところがぎっちょん、現実です。目の前の奇跡を否定するとか、魔術師としてダメだろそれ!」
綱引きの要領で引っ張ること数十秒、目の前に引き寄せられた水銀を千切っては篭手に入れを繰り返す。
液体化して防ごうとしてるが、それより早く取り込めば問題ない。
水銀の壁を千切って、剥がしていけば驚愕するオッサンの顔があった。
「こんなものは、魔術の冒涜だ!貴様、それでも魔術師の端くれか!」
「俺はドラゴンだ、ボケ」
「ドラ……ゴン……まさか、幻想種の力を取り込んでいるのか?より強い神秘による魔術を作用を利用して」
「細かいことは気にするなよ」
ありえんとかブツブツ言うオッサンの顎にパンチする。
掠れるようにすることで、脳を揺さぶる。
脳が震える、相手は気絶した。
「よし!」
「よしじゃねぇだろぉぉぉ!魔術じゃなくて、物理じゃねぇかぁぁぁぁぁ!」
『ウェイバーがツッコミ、そうかここはカーニバル時空だったのか。もしくはぐだぐだ時空』
「ケイネス殿!くっ」
ランサーが此方を見る、そこに飛びかかるランスロット。
いいぞ、鉄パイプで戦ってるとかスゴイぞ。
あと、その槍とか欲しいから抑えてろよ。
「安心しろ、峰打ちだ」
「マタマモレナカッタ……」
「同じNTR属性持ちですが、このランスロット容赦はせん!」
ランスロットが怒涛の攻撃を繰り出す。
それに対し、ランサーは二本の槍では力負けすると判断したのか黄色い槍を上空に投げ赤い槍を両手で持つ。
「はぁぁぁぁ!」
「なっ!?」
ランスロットの鉄パイプが赤い槍に触れると同時に、普通の鉄パイプに戻り破壊される。
なんてことだ、あの槍はどうやら魔術的ななんやかんやを解除するらしい。
俺はその光景を見ながら、黄色い槍を篭手に収納した。
「くっ、アロンダイトさえあれば」
「だったら殴ればいいだろ」
「それが出来たら苦労はしない」
仕方ないな、アロンダイトをレンタルしてやるか。
「ランスロット、新しいアロンダイトよ。そーれ!」
「ちょ」
「俺の槍が……ぐあぁぁぁぁぁ!?」
ランサーが俺の投げたアロンダイトに串刺しにされる。
それでも最速のサーヴァントか、何か動揺していたようだが戦場で動揺するとは情けない。
緊張感が足りないんだよ、お前。
「ら、ランサーが死んだ!」
『槍を奪って動揺した所を串刺しとか、この人でなし!』
「ランスロット、やはりあの時切るべきでしたか!」
「お、王よ!お待ち下さい!今のは」
「ありゃないわ、騎士の決闘を邪魔するとか礼儀知らずも程があるぞ」
何やらライダー達がおこだが、お前ら喧嘩してたんじゃないの?
取り敢えず、俺は赤い槍も消える前に回収するのだった。
「あぁぁぁぁ!そうまでして、貴様らは勝ちたいか!」
「うるせぇ!」
『言わせてやれよ』
負けたやつに慈悲はない。