『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者のは、至急冒険者ギルドに集まってください』
いつもの様に冒険に洒落込もうとしていた俺達は、受付嬢の叫ぶような勧告を聞いた。
ほぉ、魔王軍でも攻めてきたかと意気揚々と外に出る。
ラッセーはこめっこの頭の上でアホらしいと面倒臭がっていた。
「キャ、キャベツだぁぁぁぁ!」
まるで、呂布でもみたモブのように冒険者の一人が叫んだ。
キャベツ、お前は何を言ってるんだ?
「あ、あれ!」
「キャベツだぁぁぁぁぁぁ!」
アイエエエエエ、キャベツ、キャベツナンデェェェェェ!?
空を覆い尽くす緑の竜巻、否、空を舞うキャベツの群れである。
雄叫びを上げ、冒険者達が走り抜けていく。
だが、キャベツはその冒険者の攻撃をタイミングよく躱しカウンターを決める。
剣を弾かれ、胴体がガラ空きになった冒険者、その身体に四方八方からキャベツがツッコミ冒険者が吐血しながら倒れた。
慌てて近寄れば、既に虫の息であった。
肋骨は折れ、背骨も折れ、内臓に幾つかのダメージは伺える。
パリィからの致命傷連打、恐ろしいキャベツである。
「キャベツ……何かに……」
「治れ」
俺の身体が光り輝き、膨大な魔力が奇跡を起こす。
でぇじょうぶだ、聖杯で復活できる。
魔力があれば大抵のことが出来るので、名も知れぬ冒険者は見事復活した。
ワンチャン聖杯ヤッタ―!である。
「なんでだぁぁぁぁぁぁ!」
どこかの冒険者が、俺のようにキャベツに驚いたのか疑問の声を上げていた。
きっと田舎から来たか、俺のような異世界人なのだろう。
誰だって驚く、俺だって驚く。
しかし、恐ろしいのはキャベツが人を容易く殺せるという事実だ。
雑魚だと思ったが、囲まれたら死んでしまうのである。
単独撃破が望ましい、恐ろしい強敵だ。
「すごいね、食べ物がいっぱいだね」
「もう少し危機感を覚えるべきだ」
いや、ある意味俺がいる時点でこめっこの安全は確保されてはいるのだが、しかし目の前で成人男性が死にかけた光景を見た後に美味しそうって、吐血見たはずなのに美味しそうって。
こめっこは姉が野垂れ死んでいても、そんなことよりお腹が空いたとか言いそうだ。
「うおぉぉぉ、デコイ!」
「あ、あれは!」
「俺達を庇って、自分から囮になったんだ!」
「クルセイダーだわ、あれこそクルセイダーの鏡だわ!」
ほら見たことか、近くにいた女騎士がキャベツに嬲られているではないか。
金属鎧が食物繊維の連鎖に為す術もなく剥がされていくのだから、恐ろしい。
あの女騎士だけ、エロゲみたいな世界観で生きてて紙装甲なんじゃないかと言うくらい簡単にボロボロになっていく。
「もっとだ、もっとだ!フハハハハ、おぉキャベツよ掛かってこい!」
もしかして、バーサーカーの類じゃないだろうか?
あれ、喜んでないか?俺の目がおかしいのだろうか。
「フォルスファイア」
「むっ」
何故か、キャベツ達が急に動きを変えた。
今まで広がるように戦っていたキャベツの群れが、統率された動きを持って俺の方向に飛んできたからだ。
まるで、何かに引き寄せられたかのようにキャベツが怒り狂い気性を荒くして襲い掛かってくる。
「やったね、キャベツが増えるよ」
「…………」
こめっこ、お前が原因か!
自ら危険に飛び込み、キャベツを得ようとするとは剛毅である。
『虎穴に入らずんば虎子を得ずとはこの事か』
「難しいことは分からん」
取り敢えず、目の前のキャベツをどうにかしないといけない。
考えるより先にパンチが出た。
パリィして来るキャベツをパンチで気絶させ、それをこめっこが齧る。
時間差攻撃をしてきて、逆にダメージを食らって落ちたキャベツを、こめっこが齧る。
飛んでる最中に俺に睨まれて止まったキャベツに、ジャンプしたこめっこが齧る。
音ゲーか何かと言わんばかりに、俺の回りでぐるぐる飛びながら向かってくるキャベツを千切っては投げ千切っては投げる。
どこかで、それを千切るなんて勿体無いという言葉が聞こえたが知ったことではない。
そして、戦場にキャベツの千切りと無傷の俺とお腹を抱えたこめっこがいるという光景が出来上がっていた。
夜になった。
こめっことキャベツとキャベツ、あと次いでにキャベツとオマケでキャベツ、デザートにキャベツを食べまくる。
その横で、何故かめぐみん達のパーティーが一緒に食事を取っていた。
狭い狭い、座りきれない。
邪魔だ、帰れよ。
「……納得いかねえ。キャベツが、なんでこんなに美味いんだ」
「それは経験値が溜まってますからね」
少年はカズマ少年というらしい。
東の、それはそれは遠い国からやって来たとのことだ。
そこは定期的に地震が起きるのだが、そこに住む人々は世界中の国家が崩壊するレベルでも平然とアニメを見るという。
しかも、兵士1人が刀1本で100人以上斬り殺せるほどの戦闘能力と有り余る予備の日本刀を持ち、毎年死人が出るにも関わらず、柔らかく白い粘着性の食べ物を年の初めに食べるそうだ。
さらに、その国の王様は二千年前から血が継承されているらしい。
そんな修羅の国で、彼は日々モンスターと戦いつつ自宅を守っていたが運悪く女の子を助けようとして死んでしまったらしい。
「すごいね!兄ちゃんは強いんだね」
「あぁ、裸でG級クエストをこなした物さ。ドラゴンだってあの頃は簡単に倒していた。今は弱体化してしまったがな」
「なんだと!」
「び、びっくりするな!急に立ち上がるなよ、なんだよ!」
「ドラゴンが裸の相手に負けただと、それはドラゴンではない。きっとワイバーンだ、ワイバーンに違いない。
君は、きっと熟練の戦士なのだろう。序盤中盤終盤、隙がない戦いをするのだろう、だがドラゴンは負けないよ。
だって負けたら、ドラゴンは最強じゃない。負けるってことはドラゴンじゃない、はい論破!」
「あっ、ハイ」
俺は論理的なのだ、俺の言葉にカズマ君も納得である。
それはそうと、そんなに強いなら俺と戦うべきだろう、そうするべきだ。
「カズマ、食べないなら私に下さい。紅魔族は膨大な魔力を生成するため、皆が大食漢なのです。ということで下さい」
「やらねぇよ、どうしてもって言うなら一口までだ」
「わたしにもください」
「全部お食べ、そうだジュースもどうかな?すいません、何か飲み物を!」
「カズマ!どうした、貴方は私の妹に甘いんですか!差別です、どうして私は一口なのに!」
「……フッ」
「あーあーあー!」
こめっこがめぐみんに不敵な笑みを浮かべた。
おいおい、まだ食べるのか。俺も大概だが、貴公は食べ過ぎではないか。
めぐみん、恐ろしい子。
こめっこもキャベツだけだが、スゴイ食べるな。
「所で先程思ったのだが、食後の運動にやらないか?」
「えっ、いや、俺ってばノーマルなので」
『因みに内容は戦わないかだぞ』
「コイツ、直接脳内に……ファミチキ下さい」
『この順応力である。やりおるわ』
俺のお誘いをラッセーがフォローする。
まさか、ホモと間違われるとか予想外である。
しかし、俺の誘いを自称女神のアクアが静止する。
この女、神性を感じさせながらもそのポンコツ具合から神の血を引くだけの人間と見た。
まぁ、その高すぎる神性からか自分を女神アクアだと思いこんでる可哀想な子らしい。
「辞めておきなさいよ、カズマってば最弱職なんだから瞬殺よ」
「うるせぇよ。因みに聞くが、アンタって職業は何なんだ?」
「俺は職に付いてないが?」
「えっ?」
「えっ?」
「お前のような無職がいるか!べーわ、やっぱ異世界やべーわ。何だよ、自宅警備員すら強すぎんだろ」