こめっこは冒険の傍ら、街を散策することを趣味としている。
特に最近好きなのは自分の父親が作った魔道具を見に行くことである。
「じゃじゃーん、これは誰でもスティールが出来る石です」
「すごーい、すごーい!」
「でも盗賊職しか使えないんだろ?」
「…………」
そこはウィズと呼ばれるリッチーの営む魔道具店。
始まりの街にある、意味が分からない店だ。
正直に言うと、無駄に高性能な無駄な物が多い。
もはや勇者とかが魔王を倒して二週目に入ってから開店する仕様の店なんじゃないだろうか。
始まりの街にしては、終盤の金が有り余ってる高レベルの冒険者がやっと買える金額の商品だしな。
後は、装備しても弱体化するかコレクションの意味しかないネタ商品とか。
「これは読んだら灯りが出る魔道具ですよ」
「暗いと読めないな」
「あ、暗視のスキルを取れば……」
「灯り、いらなくないか?」
まさにネタアイテム。
しかし、それを作っているのはこめっこの父親なのである。
おい、だから貧乏なんじゃないか?
「まぁ、買うのだが」
「えぇ!?」
店にある商品をあるだけ購入したら、店主が悲鳴を上げた。
おい、お前店主だろ。
何を驚いてるのだ?
「まさか買うなんて……」
「店主、君は商売に向いてないんじゃないか」
『きっと胸に栄養が取られて頭の中身腐ってるんだぜ。リッチーだけに、ぐべぇ!?』
ラッせーが首根っこを掴まれて悶ていた。
笑顔で殺しに来ている店主、ははは元気だな。
何か良いことでも合ったのだろうか。
「これで砂糖水以外の食事が出来る」
「空腹は、辛いよねぇ……」
こめっこがボソッと言った言葉が印象的だった。
ギルドに着いたらいつものカエルクエストである。
そろそろ、高レベルのモンスターを狩りたい所だがラッセーの指示的にこの街に居たほうが良い。
こめっこのレベルも上がりにくくなってるしな。
レベルを下げて、ポイントだけ貰うのはどうだろうか。
ポイントが手に入ってからレベルをリセットすればまたポイントが手に入るじゃないか。
「わーい、高ーい!」
「よしこめっこ、籠に入ったポーションを投げるんだぞ」
まぁ、そんなことを考えつつ狩りに遊びを盛り込んでみる。
今回はせっかく買ったネタ道具を使う。
まず、どこでも使える水洗トイレを草原に設置する。
噴水の如く水を噴射するウォシュレット機能、音によって聞こえなくする消音機能。
一見素晴らしく思えるが、デメリットとして水圧が強いこととモンスターがよってくることが挙げられる。
そんな物を設置したら、カエルが水を浴びつつ音に釣られて寄ってくる。
水圧が強すぎてケツから血が出ることに定評がある水洗トイレだが、ドラゴンには関係ない。
俺は普通に座った。なお、ズボンは水浸しである。
『いや、馬鹿だろ』
「水着にすればよかったか……」
『そういうことじゃないんだけどなぁ』
まぁカエルがそんな俺を取り囲むまでが俺の作戦であった。
俺は篭手から鎖を出してこめっこを頭上に上げていたのだ。
この鎖、こめっこを持ち上げることも出来る不思議鎖なのだ。
でもって、こめっこは籠いっぱいに爆発するポーションを持っている。
「いくよー」
後はカエルごと俺に向かって爆発するポーションを投げる。
それだけでカエルの討伐が楽しく出来るのだ。
なっ、簡単だろ?
「というわけで、今日も経験値を稼いだな」
「ふくが、耐えきれないとは、もうてんでした」
『いや、普通気付けよ』
今日もいつものように食事を取る。
最近、こめっこの分だけ支払わないで良くなってきた不思議。
店員のサービス精神が遂にここまで来たかと実感する。
そんな風に食事をしていると、尋常でない気配が漂ってきた。
馬鹿な、この俺がここまで接近されるまで気づかないだと!?
振り向けば、そこには仕事帰りの職人たちの姿が見える。
おかしい、確かに尋常でない気配がする。
馬鹿な、これほどの気配の持ち主が職人達に混ざっているというのか。
いや、恐らく気配を職人達に誘導することが出来る程の技量を持っているのだろう。
つまり、あそこにはいない。
どこだ、どこにいる……。
「どしたの、イッセー」
「う、うむ……何でもない」
「ふーん」
あの青い髪の女、どこかで見たような。
気のせいだろうか。
恐ろしい程の実力者なのか、いるはずもない場所に気配は漂っていた。
自分の気配を隠蔽して、別の場所に気配を漂わせる。
どんな技術だろうか、まるで意味が分からんぞ。
特に、神だと思わしき気配が馬小屋から漂うってどういうことだ。
馬の神様なのか?馬の神様ってなんだよ、知らねぇぞ。
次の日、俺は頭の片隅でチロチロしている神の気配が気になって仕方なかった。
「イッセー、あれ」
「めぐみんだな」
ギルドに着くと、こめっこが服の裾を引っ張る。
どうやら、めぐみんを指差していたようだ。
うん?ちょっと待て、あの青い髪の女ではないか。
「あっ、倒れた」
『あぁ、飯とか食べてなかったんだろうな』
めぐみんが膝を着く、そんなになる前に妹に頼れば良かったのにプライドが許さなかったのかもしれない。
めぐみんは青い髪の女とジャージの少年に突っ掛かっていた。
ジャージか、この世界にも存在していたんだな。
ちなみにめぐみんは眼帯をパッーン!されて目を抑えていた。
「むちゃしやがって……」
『たぶんカエルの討伐に行くんだろうなぁ』
「そうなのかー」
まぁ、カエルの討伐は最初にやることだからな。
アイツら、金属の装備があれば捕食の攻撃してこないから簡単に倒せる初心者用のモンスターだしな。
「あっ、ゆんゆん」
「どうして壁の方を向いてるんだろうか?」
『そっとしておこう』
壁と喋ってるゆんゆんは無視することにした。
今日は魔法実験の練習台だ。
魔法耐性と体力に自身がある方が募集されていた。
薬を飲んだり魔法を打ち込まれるだけの簡単な仕事である。
なお、体力不足なのか何人か怪我したらしい。
全く、軟弱な奴らである。
「あっ、姉ちゃん」
「ヌルヌルしてるな」
『そっとしておこう』
夕方、めぐみんがおんぶされていた。
なんでヌルヌル何だろうか、汚くないだろうか。
何やら騒いでいるが、絡まれると面倒なので逃げたほうがいいだろう。
「行くぞ、こめっこ」
「あっ、あぁー!そこ、そこの二人!」
「むっ、見つかったか」
立ち去ろうとした所をめぐみんに呼び止められた。
ヌルヌルで男に抱きついてる姉をこめっこに見せるのは教育的によろしくないのだが、仕方ない。
呼び止められたので、めぐみんの元に行く。
「おい、アンタ!コイツの知り合いなら、引き取ってくれよ!」
「こめっこ、貴方の方からもカズマを説得して下さい!お願いします」
「うん、分かった」
その言葉にめぐみんが目をキラキラさせる。
対して、ジャージのカズマと呼ばれる少年は気まずそうだ。
「わが名はこめっこ、ドラゴンを駆りし紅魔族随一のグルメリポーター!」
「これはどうも……えっ、グルメリポーター?」
「姉ちゃんを幸せにして下さい」
「ちょ、こめっこ!何か勘違いしてますよね!ねっ!」
「誰が、こんな……姉ちゃん?あれ、俺が結婚したらこの子は義妹?」
頭を下げるこめっこに、カズマとやらは苦悩の表情を浮かべた。
何かを天秤に掛けている。
「うわぁ、引くわー。ロリコンニート」
「ろろろ、ロリコンじゃねーし!悪いが、こんな欠陥魔法使いはこっちから願い下げだ」
「姉ちゃん、どんまい」
「こめっこ!待って下さい、どうして私がフラれたみたいな流れになってるんですか」
「ぬるぬるで、男に捨てられても、こめっこは味方だよ」
「おいやめろ、事実だけど人聞きの悪いことを言うんじゃない!いや、分かった!分かったから、精神攻撃はやめてくれ!」
こめっこは満面の笑みで姉に親指を立てた。
うん、まぁ本人が満足なら良いんじゃないか。
なお、姉は顔を真赤にして帽子で顔を隠していた。