それはある日のことだった。
「誰だお前」
「俺はアザゼル、ヴァーリの父親だ」
「なんだって、オラァ!」
俺はアザゼルを殴った。
ヴァーリの親父はガキの頃のヴァーリをボコボコにしていたからだ。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
『相棒、それは別の父親だぞ』
「なんだって、ラッセー早く言えよ」
ボロボロになったアザゼルを回収し、ヴァーリの元に連れて行く。
ヴァーリは笑いながら殴ってきた、悪い間違えたみたいだ。
アーシアに頼んで治療してもらうと、アザゼルは唐突に言い出した。
「慰謝料を要求する」
「金か?」
「俺の実験に付き合ってもらおうか。そのバイト代で慰謝料ってことにしてやろう」
包帯だらけで、動くことが出来ない状態でアザゼルが要求してきた内容を飲むことにした。
最近、転移装置を作ったらしい。
これがあればどこでもいけるそうだ、すごい。
「それで、このカプセルに入れば良いのか」
「あぁ、これで転移出来るはずだ」
『嫌な予感しかしない、合体してドラゴン人間になったりしないだろうなぁ』
ラッセーは相変わらず、何を言ってるのか分からなかった。
それはそれとして、転移装置が黒い煙を出してバチバチ言い始めた。
「いつまでこうしたらいいんだ、アザゼル……あれ、いないぞ?」
『いかん、爆発するぞ!間違いない!逃げるんだ相棒!』
「うん、分かっ――」
その時、目の前が真っ白になった。
気付けば、俺は知らない家にいた。
「ゲホッ、ゲホッ……なんだよ、何が起きたんだ」
「どこだ、ここ?」
最初に気付いたのは血の臭いだ。
ムッと匂った臭いに顔をしかめる。
なんか、足元に魔法陣あるけどどうなってんだ。
「むぅぅぅぅぅ!」
「子供が拘束されてる?変わった趣味だな」
よく見たら、首が取れた死体がある。
ふむ、殺人現場ってところか。
「えっと、アンタってもしかして悪魔とか?」
「悪魔ァ……俺は、ドラゴンだァ……」
「なにそれ、ダサっ……アンタさぁ、良い歳してマジで――」
「フンッ!」
ムカつくなと思っていたら、気付けば俺は殴っていた。
すまない、壁にめり込ませてしまってすまない。
「うわぁ、綺麗……何だよ、こんな所に――」
「あっ」
口から吐血したまま横になる青年、やべっマジかよと思って脈を取る。
し、死んでる!やっぱり、死んでるわこれ。
『安心しろ、ソイツは殺人鬼だ』
「あぁ、そうなんだ。でも死ねばみんな仏様だ、主よまた一つ貴方の元に迷える子羊が向かわれました。彼に安息をお与えください」
取り敢えず、祈りを捧げておく。
これくらいしておけばいいだろう、手違いで殺したけど許してくれ。
「さて」
「うぅ!?うぅぅぅぅぅ!」
「少年、助けに来たぞ」
『手遅れ感がスゴイ』
ビビる少年に近づき、口にされたガムテープを取ってやる。
どうした、なんか言えよ。
「大丈夫だな」
「うん」
「警察を呼ぶんだぞ」
そう言って、外に出ようとした瞬間に掌に痛みが走った。
なんだこれ、痣?
うお、眩しいぞなんだこれ!?
「問おーう。我を呼び、我を求め、キャスターの座を依り代に現界せしめた召喚者……其は、何者なるや?」
「えっと、兵藤一誠。職業フリーター。趣味は喧嘩全般。アーシアとかドラゴンが好きです」
「分かるぞ、貴様ぁ!聖女を汚したな!この匹夫めがぁぁぁぁ」
「うわ、あぶ」
何やらピガーと光ったと思ったら、魚みたいなギョロ目のおっさんが現れて掴みかかってきたので殴り飛ばした。
スゴイ、なんかそのまま粒子になって消えていった。
何だったんだ、新手の悪魔か?おのれグレモリー、またやりやがったな。
『いやいやいや、アレがそれってことはまさか』
「知ってるのかラッセー」
『青髭の旦那とかヤバイだろ。ゼロっぽいな』
独り納得するラッセー、なんだ持病の謎電波受信中か。
取り敢えず、さっきと同じで外に出ようと思ったので出ることにする。
それにしても何だったんだ一体。
「知らない街だ、冬木市?JRは通ってるのか?」
『駒王町とかないからな、別世界だぞここ』
「なんだって!?どうやって、帰ればいいんだ……」
アザゼルめ、これでは帰ることも出来ないじゃないか。
しかし、そんなことで悩む必要はないとラッセーが言う。
『聖杯というのがあってだな』
「邪竜を復活させるあれか」
『それを使えば帰れる』
ラッセー曰く、聖杯というのを争うバトルがこの冬木市では行われているらしい。
そして、そこでは英雄の幽霊を使った英霊バトルっていうのがやってるそうだ。
優勝者には聖杯が与えられ、なんでも願い事が叶うらしい。
ただ、聖杯ってのはバグってるからもしかしたら破滅的な方向に願いが叶えられるみたいだ。
最悪ダメなら危険だが殴って次元の壁に穴でも開けろとのことだ。
「そうか、俺はマスターってやつなんだな」
『そうだ』
「まずは英霊をゲットしないと、英霊マスターにはなれないってことだ」
『うんうん、うん?お前は何を言ってるんだ?』
大丈夫だ、ポケモンには詳しいんだ。
まずはウロウロして英霊を手に入れないといけない。
英霊は伝説ポケモンと一緒で一度倒すと二度と出てこない、つまりゲット出来ない。
だから、できるだけ瀕死にして……仲間になれって言えば良いのかな?
『おい、なんか違うぞ』
「あっちに気配がする」
『話を聞け!』
大丈夫だって言ってんだろ、子供じゃないんだから分かったよ。
ラッセーのわからず屋は置いておいて、俺は気配のする方に移動する。
海か、港の倉庫街に来たぞ。
おっ、なんか音がする。
野生の英霊がバトルしてるみたいだ。
「槍使いと剣使いの英霊だな、ランサーとセイバーって奴だ。俺は聖杯戦争に詳しいんだ」
「誰!?新しい、マスター?」
「おっす、俺は兵藤一誠。通りすがりのマスターだ」
俺が英霊達の方に近づくと、銀髪の姉ちゃんが話しかけてきた。
普通の人間より魔力を多く感じる、というか本当に人間だろうか。
にしては骨格から筋肉まで左右対称で均整が取れてやがる。
「まさか、頭のそれは竜種……貴方、キャスターのマスターね!サーヴァントを実体化させないのは余裕のつもりかしら?」
「キャスター?あぁ、キャスターは死んだもういない!」
「えぇ!?まさか、だってアレはアサシンで……でもタイムラグがあったしやっぱりキャスターなのかしら?」
「アイリスフィール!くっ、こんな時に」
むむむ、バトル中に英霊が姉ちゃんを心配していた。
つまり、野生の英霊ではないみたいだ。
とすると、これが英霊同士のバトルってことか。
トレーナーはどこにいるんだ?
見聞色の覇気を使ったら、意外と多いことが分かった。
俺には見えないが建物の上に一人、クレーンの上に一人、離れた場所に二人、スゲー離れた場所に二人、あと地下の方に二人、意外といっぱいいた。
「フン、サーヴァントの実体化すら出来ない三流魔術師が参加しているとは、所詮は極東の島国程度が知れる。邪魔だ、雑魚はさっさと失せるがいい」
「なんだお前、喧嘩売ってんのかこの野郎」
その喧嘩買うわと、地面を何度か蹴る。
六式の剃による高速移動、奴の近くまで一飛びである。
「ケイネス殿!」
「むっ、槍か」
だが、その移動を鋭い槍の一撃が邪魔をする。
目の前に伸びてくる穂先を、俺は篭手の突いた腕で弾くようにして防ぎ、相手を見た。
目の前には爽やかなイケメン、男じゃなきゃ惚れちゃうレベルのイケメンだ。
「やらせはせんぞ、メイガス!」
「何を言ってるんだ?俺はイッセーだ」
「ハァァァァァァァ!」
「紙絵」
鋭い槍の応酬が俺に対して行われる。
だが、見聞色と風圧を利用して避ける紙絵の併用で難なく交わす。
「英霊と張り合ってる!?」
「馬鹿な、三流魔術師ではないのか」
俺の移動を邪魔をし、イケメンが攻撃を仕掛けてくる。
絶妙な槍使い、俺の動くであろう場所に先んじて穂先が動くのだ。
自分から槍に当たりにいってるような感覚に陥るほどの技術だ。
クソが、邪魔なんだよ!
「いい加減にしろ、ダイヤモンドダスト!」
「吹雪!?魔術か!」
「何をしておるランサー、相手はただの魔術師だぞ!」
牽制で、俺の魔力を拳に込めて凍気を発生させる。
結果、相手は怯み距離を取る。
ふぅ、ひょっとして曹操より巧みに操ってないか?
「まぁ、関係ねぇ!ブッ潰す」
「相手に取って不足なし、来い!」
俺とイケメンの間で視線がぶつかる。
外野の女騎士とか放置で、今まさに始めようとした時だ。
「Aaaaaaaarrrrr―――!!」
「ラッセー、空からおっさんが」
なんか戦車に乗ったおっさんが現れた。