考えてみるとハルケギニアではロボットはゴーレムなのかガーゴイルになるのかわかりにくいところだなって思います。
トリステイン魔法学院の敷地内で、中心部に位置する一番背の高い本塔には食堂がある。
その名は『アルヴィーズの食堂』。
この食堂は学院にいるメイジたち・・・つまり生徒や教師達が使用するためのもので、食堂の中はとても広く裕に百人は座れるほどのとても長いテーブルが三つ並んでいる。 しかしただ広いだけではなく、テーブルには豪華な飾り付けが施され、いくつもあるローソクや花が綺麗に立てられ、食後のデザートのためなのかカゴには色とりどりのフルーツが盛られている。見た目だけでもここは貴族専用の食堂であると思わされるほどだ。
そしてその入り口の前で、さきほどキュルケの使い魔自慢を終えてやっと食堂にたどり着いたルイズとその使い魔であるガンマの姿があった。
「・・・スゴイ」
ルイズの部屋を始めて見た時と同じような反応だが、それ以上にこの食堂の豪勢さにガンマは驚いていた。 ガンマはまだステーションスクエアのバーガーショップにしか行ったことがないため、人間達が食事をする一般のレストランなどを見たことがないが、こことは比較にならないだろうと思った。
そんな驚きながら食堂の中を見回しているガンマに気づいたルイズは、得意げに指を立てイタズラっぽく目を輝かせる
「驚いたでしょ。トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。」
「魔法ダケジャナイ?」
「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」
「モットー・・・」
この学院ではメイジとしてだけでなく、貴族としての教育も行っているのか・・。 たしかにそれなら"魔法が使える貴族"という両方の性質を同時に育てられるということだ。 しかしそうなると、やっぱりシエスタの聞いたとおり魔法は貴族にしか扱えないものというのがこの世界の常識ということになるのだろうか。
「わかった?あんたが住んでたところじゃこんなのお目にかかれないでしょう? 本来ならここは貴族しか入ることを許されないんだけど…あんたは私の使い魔だから特別にここに入ることを許可してあげるわ、感謝しなさい。」
「アリガトウ、マスター。 ・・・デモ、ボクハモノヲ食べレルヨウニ出来テナイ。ソレニ、見タトコロ ココニハボク以外ノ使イ魔ガ確認出来ズ…予想デハ、他ノ使イ魔ハ別ノトコロデ待機サセテイルト思ワレル。 ソレナノニボクヲ入レテ大丈夫?」
ガンマは自分が
「あんたに食事ができるだなんて思ってないわよ。 さっきも言ったようにあんたは私の使い魔なんだからおとなしくしてれば大丈夫よ。それにあんたは魔法も貴族もいない国から来たんだから何も知らないんでしょ? だったら少しでもここでの身の振り方を知っておくのも使い魔の大事な役目よ。 」
普通のゴーレムやガーゴイルだったならばこんなことは必要ないのだが、このガンマは別だ。 この喋るゴーレムはちゃんと知能をもっているし、状況判断(少々抜けてるが)も出来る上に、学習までできるようだ。それならばこのゴーレムにいろいろと学ばせて躾るのもいいだろうとルイズは考えたようだ。
「了解、マスター。 ボクモ、マダ情報ガ不足シテイルタメトテモ助カル」
「よし、決りね、それじゃぁ入るわよ。」
「了解」
話がまとまり、ガンマはルイズの後に続くように食堂の入り口をくぐった。 中に入ると既に席についている生徒達がおり、ガンマに気づいた者はその姿からぎょっとしたり、ルイズの使い魔だと気づいてクスクス笑っているものもをいるが、ルイズは無視を決め込む
ガンマは気にする様子もなく不思議そうに周りみると、壁際に精巧にできた小人の人形のような置物が並んであるのに気づく。
「ルイズ、アソコニアル人形ハ?」
「ああ、あれはアルヴィーズよ。この食堂の名前は『アルヴィーズの食堂』っていって、そのアルヴィーズはあの小人の名前から付けられてるのよ」
「ナルホド・・・」
ガンマはその小人の彫像に興味が出たのか近づき、じーっと見つめた後、その小人の顔を指でちょんちょんとつつく
…ペシッ!
「ッ!?」
突然、つつかれた小人が動き出してガンマの手をはたく。 これにはガンマも驚いていた、ロボットのエネルギー反応などなかったのにどういう原理で動いたのか理解できず不思議そうにその小人を見つめる。
「ふふ、アルヴィーズは魔法のかかった魔法人形なのよ、つまりガーゴイルね。 その子達は恥ずかしがりやだから無闇に触らないほうがいいわよ」
「動クト、思ワナカッタ・・・」
「普段は動かないけど、夜中になると動き出して踊りだすのよ。」
「踊ル・・・。」
再びアルヴィーズに視線を向ける。
これが"ガーゴイル"か・・・スキャンしたところ体は青銅でできているだけで他に変わったところは見受けられなかった。 魔法がかかった人形ということは、魔法の力で動いているということなのはたしかだが・・・そのエネルギーが感知できないのはどういうことだろう? 構造は自分のようにロボットというわけではなく、彫像そのものが動いたようなものだった。
「ほら、気になるのは分かるけどおとなしくしていなさい。 アルヴィーズに役目があるように、あんたにも使い魔としての役目があるでしょ?」
「了解・・」
そうルイズに言われ、ガンマはアルヴィーズから離れルイズの元に戻り、三つある長いテーブルの真ん中のテーブルに向かうとルイズが座る席へたどり着く
「椅子を引いてちょうだい。 まず使い魔は主人の気の利くように動くのが第一よ」
椅子のほうへルイズは首をくいっとかしげると、桃色のブロンドの長い髪が揺れる。
「了解、マスター」
ガンマはそれに答えるように椅子を引き、ルイズはそれを当然のように座り、ガンマは次にどうするか訪ねる
「マスター、次ハ何ヲスレバ・・?」
「そうね・・・じゃあ私の食事が終わるまで私の側に控えてなさい。終わったら次の指示を出すから」
「了解、コノママ待機スル・・」
ルイズの後ろに控えるように立つが、次第に集まってきた生徒達が自分の席に座っていき、三つある長いテーブルが生徒達で埋まる中・・・その中で2メイルもあるガンマが一際目立っていた
「おい、あれ見ろよ。ずいぶん変なゴーレムだな」
「ゼロのルイズが呼び出した使い魔だろ?あんな貧弱そうなゴーレム初めて見たぜ」
「でもよ、昨日あのゴーレムルイズを抱えた状態で馬より早く走ったって聞いたぜ」
「え! あんな細い手足でか!?」
「細いからこそ早く動けるんじゃないの?きっと速さに特化したゴーレムよ」
「だけど金属で出来てるんでしょ? 流石にそれだと無理に動かしたら折れるんじゃないかしら?」
ヒソヒソヒソヒソ……と、ガンマを見て昨日喋べれることと帰るときに他の生徒達を追い抜いたのがうわさになっているようで、それが聞こえたルイズはまんざらでもない様子だ。
ガンマもそれが聞こえたようで、やはり他の生徒達も自分のことをゴーレムかガーゴイルと思ってるようだ。 だが、わからないのはゴーレムとガーゴイルの違いだ。ガーゴイルはさっきのアルヴィーズを見れば意思をもった人形というのはわかるが、ゴーレムの場合はなんなのだろうか?
「(・・・・ソウイエバ目覚メタ時、ボクガマダ一言モ喋ッテ無カッタラ"ゴーレム"ト呼ビ、喋ッタ後ニ一人ノ生徒ガ『ガーゴイルだったのか!?』ト言ッテイタ・・・)」
っということは、ゴーレムとはガーゴイルとは逆の、意思を持たない人形を意味しているということだろうか? だがそれだと自我を持っている自分はガーゴイルということになるが、高位のゴーレムというのも自我をもったゴーレムということだろう・・・これらの違いがよくわからない。
ガンマがそう考えてる間に、生徒達のテーブルには豪華な料理の数々が並んでいく。 でかい鳥のロースト、鱒の形をしたパイ、焼きたてのパン、湯気が立ち上るシチュー、サラダ、ワインなど、とても朝食として食べるには豪華すぎるものばかりだった。
そうして料理が並び終え、さきほどまで喋っていた生徒達が一斉に静まる
「"偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします"」
ルイズも含め全員が目をつぶり、祈りの声が唱和される。
食べ物への感謝の言葉なのはわかるが・・・・この豪華な料理が本当に"ささやかな糧"と言えるのだろうか? ガンマはなんとなく祈りの言葉とこの豪華な料理の内容の差に矛盾があるように感じるが、貴族にはこれが普通なのだろうと納得する。
そうして祈りの言葉が終わり、全員が食事をし始める。 ガンマはその様子を緑のカメラアイで見回して観察する。
食事をしている生徒達はそれぞれ違ってて、肉汁たっぷりの鳥のローストにかぶりつく太めの生徒や、他の生徒と雑談ばかりしてあまり食事が進んでいない者、黙々とサラダを食べながら本を読んでいる眼鏡を掛けた青い髪の少女など様々だ。 食べ終わった食器を片付けたり、次の料理を運んだりとメイドたちがせっせと働いている。
そしてその中にシエスタの姿があった。
「ア・・・シエスタ」
「ん? シエスタって・・・あんたに洗濯の仕方を教えたって言うメイド?」
「ウン、シエスタモ忙シイノニ、片腕デシカ洗エナイボクニ洗濯ヲ手伝ッテクレタ。」
ルイズは食事を終え好物のクックベリー・パイを食べながら、ガンマの視線の先にある一生懸命に働いている黒髪のメイドに目を向ける。 ここハルケギニアでは珍しい人種の黒髪の少女、顔はなんとも愛嬌があって可愛らしい子だ。 胸も・・・チッ 結構あるな。
普段メイドの名前などいちいち覚えたりはしないのだが・・今回自分の使い魔に手を貸してくれたこのメイドのことを覚えておくことにしよう。今度会ったらお礼も言いたいし・・ガンマのことを理解してくれる人物がいてくれるなら嬉しいことだ
「ルイズ、気ニナッタケド・・ココデハドンナ料理デモ出セレルノカ?」
「ん? そりゃあそうよ、ここの料理は一流のコックが作っているものばかりなんだから、作れないものなんてないと思うわよ」
ルイズは料理のことを聞いてきたガンマに首をかしげながら答える。 ゴーレムである彼が料理に興味を持つなんてどうしたんだろうかと思ったようだ。
「ソレデハ、"ハンバーガー"ト言ウ食べ物ヲ知ッテルダロウカ?」
「ハ……ハンバアガア? 何よそれ、あんたの国の食べ物?」
「ソウ、ボクノ住ンデイタトコロノ都市ノ人間達ガ、一般的ニヨク食べテイタモノ。 "ジャンクフード"ト言ウ分類ニ分ケラレル、手軽ニ食ベラレルモノ」
どうやらガンマはここの豪勢な料理を見て、ステーションスクエアにあったハンバーガーショップの食べ物のようなものもあるのかと思って聞いたようだ。 一度あそこの店員に話した際に、買い物に来たロボットだと思われていたが、任務の情報収集するさいに話してるうちにガンマは興味本位でハンバーガーやジャンクフードの作り方を店員に聞いて教えてくれた。
だがハンバーガーと言うものはルイズの口ぶりからするとないようだと思ったが、予想外にルイズが食いついてきた。
「へぇ~、あんたのところの平民達ってそういうの食べてるんだ・・・。 具体的にはどういうものなの?」
「マズ、"バンズ"ト言ウ丸イ焼キタテノパンヲ横ニ
「・・・な、なんか・・・すごそうな料理ね」
ルイズはガンマのハンバーガーの作り方を聞いて、でかい肉の丸焼きを色んな調味料を塗った大きなパンに挟んだ物を想像した。ステーションスクエアの平民達はそんな胃がもたれそうなものをいつも食べてるのだろうか・・・。
・・・・じゅるりっ
そんな下品な音が聞こえるほうに目を向けると、ルイズの席から何個か離れたところにいるローストチキンを食べていた太めの生徒が涎をたらしていた。どうやらガンマの説明したハンバーガーを聞いてルイズと同じような想像をしたようだ。大食いの彼なら喜んで齧り付きそうな食べ物なのはたしかだろう。(流石に引くが)
興味をもったのか眼鏡をかけた青髪の少女もチラチラとガンマを見ていた。
ルイズも異文化の食べ物に興味を持ち始め、ガンマに他にないか聞いてみた
「ね、ねぇ、他にもその国の食べ物ってしってるの?」
「アル程度ノデータアリ、説明ハ可能」
「他にどんなのがあるの? 教えて頂戴!」
「了解。 他ニモ、フライドポテトヤ ピザ ナド・・・」
そうして、食事時間が終わるまでガンマの国の食べ物の話で花を咲かしていた。
ガンマは自我に目覚める前も好奇心が強かったんじゃないかなって想像してます