ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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かなりお久しぶりです。書いたり書き直したりの繰り返しでなんとかできました。

〔追記〕
少し文章の追加と編集をしました。


ミッションー128:破壊の杖奪還作戦

―――準備を整えたルイズ達四人(三人と一体)は、ミス・ロングビルを案内役に早速出発することにした。

 

オールド・オスマンが手配してくれた馬車は、"キャラバン"という名の幌馬車であり、積載量が多く、一台で大量輸送を行うことができるものだ。 わざわざこの馬車にしたのは重量の重いゴーレムであるガンマも一緒に乗れるようにと、オールド・オスマンが配慮してくれたのだ。 幌馬車であるが、屋根の幌は取り外されており、道中で襲われたときに、すぐに外へ飛び出せれるほうがいいということでこのようにしたのである。

ミス・ロングビルは御者を買って出て、御者台から馬車を引く二頭の馬の手綱を握っている。 その後ろの座席にはルイズ、キュルケ、タバサの三人が座っており、ガンマは体が大きくて座席に座れないので、一番後ろの荷物置きに足を畳んで座っている。

 

 

 

 

ガタゴトッ…ガタゴトッ…ガタゴトッ・・・

 

 

 

「ふわぁ~…」

 

「はしたないわよ、ツェルプストー」

 

「だって~、やることもないし退屈だもの。それにこの馬車ってばすわり心地もよくないし、お尻がいたくなっちゃったわ」

 

欠伸をするキュルケに、反対側の席にいるルイズが注意したが、キュルケは退屈そうにん~っと大きな胸を強調するように堅くなった背筋を伸ばした。

空を見上げれば、燦々と輝く太陽の日差しがキュルケ達に注がれ、ポカポカと暖かく眠気に誘われるが、揺れる上に座り心地のよくない馬車の中では横になることもできない。『土くれのフーケ』を捕まえるという大事な任務を受けてるというのにキュルケのこの緊張感の無さは褒められたものではないが、目的地に到着するまでまだ時間がかかる、魔力を温存するためとは言っても彼女にとってこの時間は苦痛のようだ。

 

「ねぇタバサ、出発してからどのくらいたった?」

 

タバサは、ちらりと空を見上げ太陽の位置を確認し、ぽそりと言った。

 

「ちょうど1時間…」

 

「まだ1時間なの?はぁ~・・あと数時間も移動だんて、退屈で死んじゃいそう」

 

愚痴りながら頬杖を着き、深くため息をつく。キュルケはミス・ロングビルのほうに向いた、彼女は御者を買って出てからというものずっと喋っていない。

キュルケは、黙々と手綱を握る彼女に話しかけた。

 

 

「ミス・ロングビル・・・・、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」

 

ミス・ロングビルはにっこりと笑った。

 

「いいのです。わたくしは、貴族の名を失くしたものですから」

 

キュルケはきょとんとした

 

「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」

 

「ええ、だけどそれは肩書きだけで、メイジであっても平民と同じなんです。でもオスマン氏は貴族や平民だということにあまり拘らない方で、私を秘書として雇ってくださったのです」

 

「ふーん・・・・・ねぇ、ミス・ロングビル。差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

 

ミス・ロングビルは困ったように優しい微笑みを浮かべた。

 

「そんな、お話しするほどのものではありませんわ」

 

「いいじゃないの。教えてくださいな」

 

やんわりと断りをいれるが、キュルケは興味津々といった顔で、御者台に座ったミス・ロングビルににじり寄る。

するとルイズがキュルケのその肩を掴んだ。キュルケは振り返ると、ルイズを睨みつけた。

 

 

「なによ、ヴァリエール」

 

「よしなさいよ、昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」

 

キュルケはふんっと呟いた。荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。

 

「まだフーケの隠れ家まで遠いのでしょう? 暇だからお喋りしようと思っただけじゃない」

 

「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのはトリステインじゃ恥ずべきことなのよ」

 

キュルケはそれに答えず、足を組んだ。 そして、嫌味な調子で言い放った。

 

「ったく・・・・、あんたがカッコつけたおかげで、とんだとばっちりよ。何が悲しくて、泥棒退治なんか・・・」

 

ルイズはキュルケをじろりと睨んだ。

 

「とばっちり? あんたが自分で勝手に志願したんじゃないの」

 

「あんたが一人じゃ、ガンマが危険じゃないの。 ねぇ、ゼロのルイズ?」

 

「どうしてよ」

 

長く赤い髪をいじりながら、ちらりとガンマのほうを見やる。

 

「あの時ガンマが動けなくなってたのは、あなたが原因なんじゃなくって? ヴァリエール」

 

「…っ!」

 

キュルケの指摘に、ルイズは言葉が詰まった。

 

「あんなに足の速いガンマが逃げ遅れるだなんておかしいじゃない。どうせ貴方のことだから腰でも抜かしてて、ガンマに助けられたのよね? そうじゃなければあんな状況にならなかったはずよ。 それに……いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ? ガンマに戦わせて自分は高みの見物。そうでしょう?彼には魔法の銃があるんだしね」

 

 

「誰が逃げるもんですか!! あんなでかいだけのゴーレム、私の魔法でなんとかしてみせるわ!」

 

「魔法?誰が? 笑わせないで!!」

 

 

二人は再び睨み合い、バチバチと火花を散らし始めた。 隣にいるタバサは止めるわけでもなく相変わらず本を読んでいる。

 

「二人トモ、現在任務中…喧嘩ハ、ダメ」

 

ガンマがおろおろしながらも無機質な声で間に入り、二人をとりなした。

 

「ま、いいけどね。せいぜい怪我をして足でまといにならないことね」

 

キュルケはそういうと、手をひらひらと振ってみせた。ルイズは悔しそうにぐっと唇を噛んでいる。

 

「マスター、落チ着イテ」

 

「落ち着いてるわよ!・・・ん?」

 

イライラしながら怒鳴り、ふとガンマの背中を見ると・・・自分がプレゼントした剣ではなく、キュルケの剣を背負っていることに気がつく。

 

 

「ガンマ、私があげた剣はどうしたのよ」

 

「? 決闘ノ結果、コノ剣ヲ装備スルコトニナッタカラ、現在デルフハ学院ニ待機サセテイル」

 

昨晩の勝負の結果、キュルケの剣を装備することが決まったので、現在デルフはシエスタに預かってもらっているのだ。 できればデルフの意思も尊重したかったが・・・貴族にとって決闘は自信の名誉を賭けたものでで、ルールは絶対であり使い魔である自分にはどうすることもできない。それに剣は片手でしか使えないし、長い剣を二本も装備してては動きにくくなって任務に支障がでてしまう。

シエスタに預けて後にしようとした際、デルフが 『あれはなまくらだからやめといたほうがいいと思うんだがなぁ』 と言っていたが・・・"なまくら"とはどういう意味なのだろう? 何か問題があるということなのだろうか?

一度スキャンしてみたが、この剣は他の武器と同じような金属であることはたしかだし、店主は『魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ』と説明していたから、魔法の効力によって攻撃力が向上しているということかもしれない。 魔法のエネルギーを感知できない自分には判断がつかないし、なまくらの意味は不明だが・・自分のルーンの効果もあるし、武器としては問題はないだろう

 

 

「そう・・・・だったわね(あんなに喜んでくれたのに・・・)」

 

「勝負に勝ったのはあたし。文句はないはずよね?ゼロのルイズ」

 

「・・わかってるわよ」

 

うつむくルイズを他所に、キュルケは「そうだわ!」と思い出したようにパンッと手を叩いた。

 

「ねぇガンマ、依然言ってたあなたの国のお話を聞かせてくれる? あなたの国にどんなものがあるのかとても気になってたのよ」

 

キュルケはキラキラと目を輝かせて、期待したようにガンマを見つめる。 どうやら前にガンマの国の話を聞くことを約束していたのを思い出したようだ。その話が聞こえたタバサもピクリと反応し、本から顔を上げて視線をガンマに向けた。

 

「ア・・デモ、マスターニ…」

 

「あら、もしかしてあたしと話すなって言われたの? それなら大丈夫! ようは、"あたしだけ"と話ちゃダメなんでしょ? だったら今ここにはタバサやミス・ロングビルもいるんだし、問題ないんじゃない?」

 

たしかにそれなら命令に反していることにならないから、話してもいいのだが・・・それをルイズが容認するだろうか? ガンマは困ったようにカメラアイを主人に向けた。

 

 

「・・好きにすれば」

 

ルイズは意外にも、一言だけ淡々と言って了承した。しかしルイズはガンマに背を向けており、表情が見えない。

 

「ほら、あなたのご主人様もこう言ってるんだし、大丈夫よ」

 

「・・・・」

ガンマは主人の様子が気になったが・・・話す許可を得たのでキュルケ達に、話しても問題のない可能な限りの情報でステーションスクエアの街の話をすることにした。

 

「了解。 デハマズ、ボクガ居タ場所ニハ海岸線ニ"ステーションスクエア"ト言ウ平和ナ都市ガアリ、ソコハ大勢ノ人間達ガ」

 

「・・・・」

 

キュルケ達が楽しそうに話してる中、ルイズは、ちらっとその様子を見たけど、何も言わなかった。

 

 

 

 

―――『あの時ガンマが動けなくなってたのは、あなたが原因じゃなくって? ヴァリエール』

 

 

 

 

ただ・・・・先ほどのキュルケの言葉が、ルイズの耳から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ルイズ達を乗せた馬車は深い森に入っていった。 馬車が通る道を鬱蒼とした樹々が左右から覆って薄気味が悪く、古代遺跡が眠るミスティックルーインの密林地帯ほどではないが・・ガンマ以外の人間であるルイズ達の恐怖心をあおるには十分の暗さだ。 これだけ草木が生い茂った森ではいくら昼間でも日が通らず、人を寄せ付けないようだ。

 

さらに馬車を進めていくにつれ、道がだんだんと険しくなっていく。 走らせるごとに馬車が悪路の影響でガタゴトとゆれて、振動がもろにルイズ達に響いてくる。

すると、生い茂る木々が馬車の走行を遮るように道を塞いでいた。

 

「これ以上は進めませんね。ここから先は、徒歩で行きましょう」

 

馬車を止めるとミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車を降りた。 ガンマも歩行モードへと折りたたんだ足をガシャガシャと広げ、右腕の銃を構え辺りを警戒しながらルイズ達につづく。

 

森を通る道から、人が通れるほどの小道が続いている。人が通りやすいように人為的に草木を切り取られてるところを見るに、小屋へと続いてるルートのようだ。ガンマは回りに危険が無いかをサーチし辺りを見回していると、キュルケが左腕に手を回してきた。

 

「なんか、いやだわ、暗くて怖い・・・・」

 

怯えるような仕草をし、ガンマの金属の腕に身体をくっつける。

 

「キュルケ、ソンナニ体ヲ密着サセルト、歩キニククナル」

 

「だって~、薄暗くて~、すごくこわいんだもの~」

 

キュルケはうそ臭い調子で言い、大きな胸がガンマの腕に当たっていた。夜に比べればそんなに暗くはないのだが、そんなに怖いのだろうか? まだ怒ったルイズのほうが怖いと思うのだが・・・、と見当違いなことを思いながら不思議そうに首をかしげる。

ルイズも怖がってないだろうかと気になって、斜め後ろに緑のカメラアイを向けた。

 

「マスターハ、大丈夫?」

 

心配そうに聞こうとしたが、ルイズはふんっと顔を背けた。

馬車でのやり取りから、ルイズは何故か不機嫌になっている、また怒らせるようなことをしてしまっただろうか・・・。

 

 

 

 

 

馬車を降りて徒歩で幾ばくかの道のりを進んでいくと、薄暗い森の奥から陽光が照らし出されてるのが見えだし、そこを出ると一行は開けた場所にたどり着いた。

広さはおよそ魔法学院の中庭ほどの広さで、森の中の空き地といった風情である。 広場の中央にはミス・ロングビルの情報どおり、一軒の廃屋があった。

 

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

 

ミス・ロングビルは廃屋を指差して言った。 廃屋からは物音一つせず人が住んでいる気配はまったくない。ガンマはカメラアイを動かし、ズームアップしながら廃屋を見回した。

ミスティックルーインの探検家が使っている木造の小屋と似た作りをした掘っ立て小屋のような作りだ、隣には朽ち果てたボロボロの釜と壁板がはがれた物置が並んでおり、薪がたくさん詰まれている。 小屋の状態を見るに、もう何年もほったらかしにされているようだ。

四人と一体は小屋の中から見えないように森の茂みに身を潜め、ガンマは頭を枝木でカモフラージュ(のつもり)をして隠しながら廃屋を見つめた。

 

 

「静かね・・・ホントにフーケがいるのかしら」

 

「襲撃カラ10時間ガ経過…既ニ逃走シテイル可能性アリ」

 

「でも、昨日あれだけゴーレムで暴れたから、かなりの魔力を消費してるはずよ。まだ中で休んでるかもしれないわ」

 

ルイズ達は小声で話し合う。フーケの巨大なゴーレムは作りだすのにかなりの魔力を消費する。まだ中にいるとしたら失った魔力を回復させるため、拠点にしてるこの小屋で休みをとっている可能性がある。

まだ核心があるわけではないが、とにかくあの中にいるのなら、この場合奇襲が一番である。ルイズ達は、ゆっくりと相談をし始めた。

 

タバサはちょこんと地面に正座すると、皆に自分の立てた作戦を説明するために枝を使って地面に絵を書き始めた。 ガンマは身を屈めながらその絵を覗き込む。

 

 

―――作戦はこうだ。 まず、偵察兼囮役が小屋の傍に接近し、中の様子を確認する。 そして、中にまだフーケが居れば、フーケの意識を囮役に向けさせ、外へ誘導する。

小屋の中ではゴーレムを作りだすための土がないから、フーケお得意の土ゴーレムは使えないのだ。他のメンバーはそれぞれ小屋の四方に配置し、裏口からも逃げないよう取り囲む。そして、フーケが外へ出たところを魔法で一斉攻撃する。 土ゴーレムを創り出す暇すら与えずに、集中砲火で沈めるのだ。・・・・といった段取りである。

 

なるほど・・・とガンマはカメラアイを点滅させ理解する。 前にキュルケが部屋に入ろうとした生徒を蝋燭の火を使って吹き飛ばしたように、メイジの扱う属性魔法にとっての万物の根源をなす"元素"があれば、魔法の性能が格段にあがる。 たしかにフーケのゴーレムは強力だが、元である土がなければ土ゴーレムを作りだすことは難しくなり、発動させるための呪文さえも封じられたらいくら"スクウェアクラス"のメイジでも、手も足もだせなくなるというわけだ。

 

「それで、偵察兼囮役は誰がやるの?」

 

ルイズが尋ねた。タバサは指を指し短く言った。

 

「彼が適任」

 

全員が一斉にガンマを見た。ガンマはきょとんとしている。 普通ならばゴーレムなどに偵察など無理だろうが、ガンマは通常のゴーレムよりもスピードが速く、あんな真夜中で高所からゴーレムに乗ってるフーケを見つけ出すほどに目もよい、それにフーケはガンマを魔法で動けなくして踏み潰そうとしたのだ。そのゴーレムが近くまでいると知ったら、簡単に誘き出せれるはずだ。

タバサはそれらのことを想定し、偵察兼囮役にガンマを指名したようだ。

 

「ガンマ、危険かもだけど・・・あの小屋にフーケがいるかどうか調べてきてちょうだい」

 

「アイアイマムッ マスター・ルイズ」

 

主人の命令を受け、ガンマはコクリと頷いた

 

 

シャキンッ

 

 

ガンマはキュルケから貰った名剣を鞘から抜いた。 剣を握った左手のルーンがキラキラと光だすと同時に、自身の機体の機能が向上し、体に羽が生えたみたいに軽くなる。

 

「動かないで」

 

「?」

 

するといきなりタバサはガンマの近くに来て小さく呪文を唱え、ガンマの足に杖を向けた。

 

「ミス・タバサ、一体何ヲ…?」

 

「『サイレント』。音が鳴らなくなる」

 

ガンマはきょとんとしながら確かめるように足を動かす。 すると不思議なことに地面を何度も踏みつけても、普段からガシャガシャ鳴る足音はまったくの無音となっている。

すごい・・授業でデータはとってはいたが、実際に音を消してしまうだなんて、本当に不思議な現象だ・・。

 

「アリガトウゴザイマス、ミス・タバサ」

 

お礼を言うとタバサはコクリと頷き、全員に目を配った。全員準備がいいことを確認すると、合図をだした

 

「作戦開始」

 

 

――――ババッ!

 

 

合図と同時に、ガンマはすっと一足飛びに小屋の傍まで近づいた。 825kgもの重量があるにもかかわらず地面に着地しても『サイレント』の効果で足音が消え、無音のまま地面がめり込んだだけだ。 これなら気づかれずに小屋に近づけそうだ。

魔法がこんなに便利だったとは・・とガンマは関心した。

 

「偵察・・・偵察・・・」

 

関心はさておき、そのまま任務を続行して窓に近づき、恐る恐ると中を覗き込んでみた。

 

小屋の中はそこまで広くはなく、リゾートホテルの一部屋分ほどしかないようだ。 部屋の中央に埃の積もったテーブルと、倒れた椅子、そして老朽化で崩れた暖炉が見えた。テーブルの上や床には空になった酒瓶が何本かころがっている。 そして部屋の隅には、外にあったものと同じ薪が積み上げられていた。 暖炉の中には炭の山が出来ているところを見るに、ここは元々炭焼き小屋だったのだろう・・、他には、木製の大き目のチェストが置かれているくらいだ。

一見もぬけの殻のように思えるが、ガンマは念のためカメラアイで部屋の全体を生体センサーで調べだした。カメラアイがチカチカと何度も点滅する。

 

 

―――キュィィーン・・・

 

 

「・・・生体反応無シ。コノ小屋ニハ、人間ハイナイ」

 

 

ガンマの生体センサーは生物のもつ熱や生体エネルギーを感知する機能が備わっている。 たとえ床や天井にかくれていようと、人体から発せられるエネルギーは隠すことはできない。 そのセンサーに反応がないとなると・・・やはりここにはもういないのだろうか。

しかし、相手はメイジの盗賊、土くれのフーケである。 いないと見せかけて、どこかでこちらの出方を伺っているかもしれない、タバサが魔法で音を消したように、人間の生体反応を隠すことも可能なのだろうか? だがセンサーで魔法のエネルギーを感知できないのではどうにもできない・・・・・どうしたものか・・・。

 

ガンマはどうするべきかとしばらく考えたあと、やはりここは魔法に詳しい彼女たちに任せるべきと判断し、皆を呼ぶことにした。

ガンマは頭の上で、両手を交差させた。誰もいなかったときの場合のハンドサインである。 隠れていた全員が恐る恐る近寄ってきた。

 

「中ニハ、誰モイナイ」

 

ガンマは窓に指を指しそう報告した。 タバサはドアに向けて杖を振った。

 

「・・・罠はないみたい」そう呟いて、ガチャリとドアを開け、中入っていく。 キュルケとルイズも後に続いた。ガンマは残って見張りをしようとしたが、ミス・ロングビルだけは中に入ろうとはせず、小屋の前に留まった。

 

 

「ミス・ロングビル、中に入ラナイノデスカ?」

 

「私はこの辺りを見張っていますわ。ガンマさんは皆さんの護衛をお願いします」

 

「シカシ ミス・ロングビル・・・貴方カラ長時間ノ移動ニヨル疲労ヲ検地。ソレニ、マダドコカニフーケガ潜ンデイル可能性ガアリマス。ドウカ、無理ハナサラナイデクダサイ」

 

ガンマは心配そうに無機質な声で言った。ミス・ロングビルは土くれのフーケを追ってから何時間も寝ずに移動して道案内までして同行してくれた。通常なら人間は疲労で睡眠をとらなければならないのに。

 

「ありがとうございますガンマさん・・・でもご心配なく、わたくしも伊達にオールド・オスマンの秘書は勤めておりませんわ。ガンマさんの銃ほどではありませんが・・これでも魔法には自身がありますの」

 

ミス・ロングビルはニコリと笑いかけた。

 

「デスガ・・・」

 

「もちろん無理はいたしませんわ、あくまで見張りですからね。 それに、ガンマさんこそ、いつどこでフーケが襲ってくるか判らないのでしたら、ミス・ヴァリエールの傍にいたほうがいいと思いますよ? ガンマさんは、主人を守るのが勤めなのでしょう? ですから、見張りはわたくしに任せてください」

 

「・・ワカリマシタ。デスガ、モシフーケガ現レタラ、スグニオ知ラセクダサイ。スグニ救援ニ向カイマス」

 

と言って、ガンマは「デハ、オ任セシマス」とペコリと頭を下げると遅れながらドアをくぐっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・本当、優しい"ゴーレムちゃん"だねぇ・・・・・壊しちゃうのがもったいないくらい」

 

 

 

―――――ミス・ロングビルは、先ほどの彼女とは思えない、不敵な笑みを浮かべていた。


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