ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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ミッションー127:杖にかけて!

謎のメイジ襲撃後の翌朝――――トリステイン魔法学院では、蜂の巣をつついたように大変な騒ぎになっていた。

 

 

何せ、厳重な宝物庫から秘法の『破壊の杖』が盗みだされてしまったのである。それも、巨大な土ゴーレムが壁を力任せに破壊するといった大胆な方法でだ。

平和なトリステイン魔法学院で起こったこの大事件で生徒達は大騒ぎとなり、教師達が事態を収拾するため生徒達を落ち着くかせなんとか混乱は収まったものの、一晩たった今もこの話題でもちきりだ。

 

早朝、学院長のオールド・オスマン氏から教師達に召集令が下され、賊難に遭った宝物庫にはオスマン氏を中心に、学院中の教師が集まった。

 

 

「これは手酷くやられたのう・・」

 

オスマン氏が壁を見上げながら呟いた。壁にはぽっかりと大きな穴が空き、そこから日の光が差し込んで薄暗いはずの宝物庫の中を明るく照らしている。

教師の面々は、壁に空いた穴を見つめ、やぶられるはずのない壁のこのありさまに開いた口が塞がらないとばかりに口をあんぐりと開けていた。

 

大穴の空いた壁の近くには、『土くれ』のフーケの犯行声明が刻まれている。

 

 

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

その声明を見て教師達は、口々に好き勝手なことを喚いている。

 

「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくり、トリステイン中を騒がしているあの盗賊か!魔法学院にまで手を出しおって! 随分とナメられたもんじゃないかっ!」

 

「衛兵は一体なにをしていたんだね?」

 

「衛兵など所詮は平民だ!あてにならん!それより昨日の当直は誰だったんだね!」

 

その声に、ビクリとミセス・シュヴルーズは震え上がった。そして、今にも消え入りそうな声で言った。

 

 

「わ・・・わたくしでございます・・・・」

 

昨晩の当直は自分であった。 まさか魔法学院を襲う盗賊がいるなどと夢にも思わず、一日くらいサボったって大丈夫と思い、ぐうぐう自室で惰眠を貪っていたのであった。本来なら、当直の教師は夜通し門の詰め所に待機していなければならないのに。

 

「ミセス・シュヴルーズ!当直であるあなたはなにをやってたのですか!」

 

教師の一人が、早速ミセス・シュヴルーズを追求し始めた。責任の所在を明らかにしておこうというのだろう。

ミセス・シュヴルーズはボロボロと泣き出してしまった。

 

「も、申し訳ありません・・・」

 

「泣いたってお宝は戻ってはこないのですぞ! それともあなた、『破壊の杖』の弁償ができるのですかな!」

 

「わたくし、家を建てたばかりで・・・・」

 

ミセス・シュヴルーズは、よよよと床に崩れ落ちた。

そこへオスマン氏が間に入った。

 

「これこれ。女性を苛めるものではない」

 

ミセス・シュヴルーズを問い詰めていた教師が、オスマン氏に訴える。

 

「しかしですな! オールド・オスマン! ミセス・シュヴルーズは当直をサボったのですぞ! 責任は彼女にあります!」

 

オスマン氏は、長い口髭をこすりながら、口から唾を飛ばして興奮する教師をじーっと見つめた。

 

「え~と、ミスタ・・・・・ギットリだっけ?」

 

「ギトーですっ! ギ・ト・-! お忘れですか!!」

 

「そうそう。ギトー君じゃったな。 君はいつも怒りっぽくていかんのう」

 

「オールド・オスマンが何度も名前を間違えるからです!!」

 

「すまんすまん。次は忘れんようにしよう」

 

オスマン氏は柳に風と受け流す。オスマン氏は「さて…」と言葉を遮り、教師達を見回した。

 

 

「この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」

 

しかし教師達から名乗りでるものは居なかった。 教師達はお互いの顔を見合わせると、恥ずかしそうに顔を伏せていた。

 

「君はどうなんじゃ、ギトーくん。ミセス・シュヴルーズを非難できるほど、真面目に当直をしておったのかね?」

 

シュヴルーズを糾弾していたギトーも、顔を真っ赤にさせて黙り込んだ。オスマン氏は、呆れたように首を振った。

 

 

「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ。 まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、私を含め…この中の誰もが夢にも思っていなかったことじゃ。 それもそうじゃろう、ここにいるほとんどが手練のメイジじゃ、誰が好き好んで、虎の穴に入るのかっちゅうわけじゃ。・・しかし、それは間違いじゃった…」

 

オスマン氏は、壁にぽっかりと空いた穴を見つめた。

 

「見てのとおり。 賊はこの宝物庫に忍び込み、『破壊の杖』を奪って行きおった。つまり、この事件は我々の油断と慢心によって引き起こされた結果なのじゃ。そんな体たらくでミセス・シュヴルーズだけを非難できようか? 責任があるとするなら、我ら全員にあるといわねばあるまい」

 

ミセス・シュヴルーズは、感激してオスマン氏に抱きついた。

 

「おお、オールド・オスマン!あなたの慈悲のお心に感謝いたします! わたくしはあなたをこれから父と呼ぶことにいたします!」

 

 

――ギュウウウゥッ!

「ぐほぉっ!?」

 

 

ただその力が強かったのか、オスマン氏は思わずむせた。シュヴルーズは感極まったあまりギリギリとオスマンの体を締めてしまい、オスマン氏は耐えながらもそんなシュヴルーズの尻を撫でた。

 

「え、ええのじゃ。ええのよっ、ミ、ミセス…」

 

「わたくしのお尻でよかったら!そりゃもう!いくらでも構いませんわ!はい!」

 

さらに締める力がはいり、オスマン氏は苦しそうに「おごごご!」と悲鳴を上げてる。

 

「ミセス・シュヴルーズ・・。オールド・オスマンが苦しそうですぞ」

 

見かねたコルベールにそう言われ、シュヴルーズは慌ててオスマン氏を解放した。

 

「ひぃ、ひぃ…尻を撫でるのも楽じゃないのう~」

 

オスマン氏は腰をトントンと叩く。あの上体でも尻を撫でたのは流石というべきだろうが、誰も突っ込んできてくれなかった。皆、一様に真剣な目でオスマン氏の言葉を待っていた。

場を和ませようと体を張ったのに誰も心配してくれないオスマン氏はちょっと寂しい気分になったが、こほんと咳をした。

 

「で、コルベール君、現場を見ていたと言うのは彼女達かね?」

 

「そうです。 三人とも、こちらへ」

 

オスマン氏が尋ねると、コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えてた三人を促した。ルイズ、キュルケ、タバサの三人である。

彼女たちは昨晩現場で『土くれのフーケ』の犯行の一部始終を見ていたため、コルベールに目撃者として連れてこられたのだ。もちろんガンマもいるのだが、彼は使い魔(というかゴーレム)なので数には入っていない。

 

「ふむ・・・・、君たちか」

 

オスマン氏は、三人のほうに向きながら、興味深そうにガンマを見つめた。

 

「・・・?(ボクヲ見テル…)」

 

自分を見つめてるこの人物が、ルイズが事前に説明してくれた学院長オールド・オスマンで間違いようだ。他の教師達とは授業で面識があるが、学院長をこうして目にするのは初めてである。この人物も教師の一人かと思ったが、周りの教師達とは服装が違うし、長い髭に立派な杖や雰囲気なども、明らかにメイジ達のトップとも言える印象を感じられる。現に正面に立っているルイズは、いつもよりも緊張している様子だ。

でも、ガンマはこのオールド・オスマンがどうして自分をじろじろと見ているのか不思議そうに首をかしげたが、かしこまってペコリと頭を下げた。

 

「ハジメマシテ、オールド・オスマン。ボクハE-102γ(ガンマ)。マスター・ルイズノ使イ魔デス」

 

「ほほっ噂で聞いとったが、礼儀正しいゴーレムじゃのぉ。」

 

オスマン氏は温和な表情で微笑んだ。一瞬、チラリとガンマの右腕を見て目を細めたが…。

 

 

「では、あの晩見たことを詳しく説明したまえ」

 

オスマン氏がルイズたちに説明を求めた。ルイズが進み出て、見たままを述べた。

 

 

「あの、大きなゴーレムがいきなり現れて、ここの壁を壊したんです。ゴーレムは中庭の地面から作られたようでした。塔を破壊するさい、腕を爪のような形のスコップに変えて、宝物庫の壁を抉るように突き刺して破壊してしまいました。 そしてゴーレムの肩には黒いローブを着たメイジが乗っていて、この宝物庫の中から何かを担いで・・・・それが『破壊の杖』だと思いますけど・・・、盗み出した後再びゴーレムの肩に乗りました。ゴーレムは城壁を跨いで草原のほうへ向かって歩きだしたんです。最後にゴーレムは土煙を上げながら崩れ落ちて、後には土の山しか残っておりませんでした。」

 

「それで?」

 

「こちらのミス・タバサが使い魔に乗ってゴーレムを追跡していたのですが・・・、肩に乗っていた黒いローブのメイジは土煙にまぎれて、影も形も無くなっていたそうです」

 

タバサはルイズの言葉に続いて、答えるように小さく相槌を打った。

 

「他に、フーケについて特徴などはわかるかね?」

 

「いいえ、月明かりがあっても真夜中でして、黒いローブを着てること以外は・・・」

 

「ふむ・・・・後を追おうにも、手がかり無しというわけか・・・」

 

オスマン氏は白いひげを撫でた。それからオスマン氏は、気づいたようにコルベールに尋ねた。

 

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね? 今朝から姿が見えんのじゃが」

 

「それがその・・・・私も朝から見えませんので」

 

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

 

「どこなんでしょう?」

 

 

 

 

――――「ただいま戻りました」

 

 

 

 

そんな噂をしていると、ミス・ロングビルが宝物庫の出入り口の前に現れていた。

 

「ミス・ロングビル!どこに行ってたのですか! 大変ですぞ! 大事件ですぞ!」

 

興奮した調子で、コルベールがまくし立てる。しかし、ミス・ロングビルは落ち着き払った調子で眼鏡をくいっと持ち上げ、オスマン氏に告げた。

 

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

 

「調査?」

 

「そうですわ。大きな音で目が覚めて、起きたら学院中が大騒ぎ。その上、宝物庫はこのとおりですわ。もしやと思い宝物庫に駆けつけたら、壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

 

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

 

コルベールは慌てた調子で促した。

 

「それで、結果はどうでしたか?」

 

「はい。フーケの居場所がわかりました」

 

「な、なんですと!?それは本当ですか!」

 

コルベールが素っ頓狂な声をあげた。教師たちもまさかの朗報にざわつきだす。それとは対照に、オスマン氏は冷静な口調で促した。

 

「だれに聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」

 

「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの怪しい男を見たそうです。それに、大きな荷物も抱えてたそうです。おそらく…彼はフーケで、その廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

 

ルイズが叫んだ。

 

「黒ずくめのローブに…大きな荷物? そいつです!フーケに間違いありません!」

 

オスマン氏は、目を鋭くしてミス・ロングビルに尋ねた。

 

「近くの森と言ったな。そこはここから近いのかね?」

 

「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」

 

「すぐに王室に報告しましょう!王室騎士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては・・!」

 

コルベールが提案に、教師達はそれがいいとばかりに賛成意見が飛び交った・・・・・その時。

 

 

―――"カァァンッ!"

 

オスマン氏の杖の先端が地面に強く打ち付けられた。

 

 

「 馬鹿ものっ!! 」

 

 

オスマン氏は首を振り、クワッと目を向いて怒鳴った。怒鳴り声が宝物庫内にビリビリと響きわたり、周りの者は固まった。ガンマは老人とは思えないほどの迫力にパチクリとカメラアイを点滅させた。

 

「今から王室なんぞに知らせても間に合いはせんわ! フーケに逃げる時間を与えるだけじゃろう! その上、身に掛かる火の粉を己で払えぬようで、なにが貴族じゃ! これだけのメイジが雁首揃えとるというに、魔法学院の宝が盗まれたのじゃぞ! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らが解決する!!」

 

ミス・ロングビルは小さく微笑んだ。まるで、この答えが来るのを待っていたかのようであった。

オスマン氏はコホンっと咳払いをすると、有志を募った。

 

「それでは、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

 

 

「「「・・・・・」」」

 

 

しかし、誰も杖を掲げなかった。困ったようにお互いの顔を見合わすだけだ。

 

「…どうした? おらんのか! 大盗賊『土くれのフーケ』を見事捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」

 

オスマン氏はキョロキョロと辺りを見回すが、教師達はまったく名乗りをあげなかった。 しかしそれは仕方の無いことだろう・・同じメイジとは言ってもこっちは学院の教師。相手はあの『土くれのフーケ』、三十メイル級のゴーレムを操り、魔法衛士隊をいくどと退けしまう実力をもった恐ろしい大盗賊だ。 それに並大抵のメイジが立ち向かう等、無謀の極みである。

普段は自身の魔法に鼻をかけてる教師達のこの情けなさに、オスマン氏は嘆かわしいとばかりにため息をついた。

 

俯いていたルイズが、すっと杖を顔の前に掲げた。

 

「っ!ミス・ヴァリエール!?」

 

ミセス・シュヴルーズが、驚きの声をあげた。

 

「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて・・・・」

 

「誰も掲げないじゃないですか」

 

ルイズはきっと唇を強く結んで言い放った。

唇を軽くへの字に曲げ、ルイズは真剣な目をしていた。ガンマは予想外のルイズの行動にポカンとしながらそんなルイズを見つめていた。

 

「マスター、ソノ任務ハ・・」

 

「あんたは黙ってなさい」

 

危険であると注意しようとしたが・・・ルイズにキッと睨まれ、ガンマは言葉を出さなかった。

 

「…しょうがないわねぇ」

 

ルイズがそのように杖を掲げてるのを見て、しぶしぶキュルケも杖を掲げた。

 

「ツェルプストー! 君も生徒じゃないか!」

 

コルベールが驚いた声をあげると、キュルケはつまらなそうに言った。

 

「フン。ヴァリエールに負けられませんわ」

 

キュルケが杖を掲げてるのを見て、タバサも掲げた。

 

「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」

 

キュルケがそう言ったら、タバサは短く答えた。

 

「心配」

 

キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。

 

「・・・・・」

 

 

 

――チャキッ・・・

 

 

「っ! ガンマ・・」

 

三人の掲げた杖に、ガンマの銃が加わった。

 

 

「ボクノ任務ハ、マスター・ルイズヲ守ル事。マスターガ行クノデアレバ、使イ魔トシテ ボクモ同行スル」

 

無機質な声で、ガンマは答えた。この任務は危険であるが、自分にはそれを止める権限がないし、ルイズ達だけを行かせるわけにもいかない。ガンマは緑のカメラアイで、真っ直ぐルイズを見つめた。

ルイズは唇を噛み締めて、お礼を言った。

 

「ありがとう・・・・、タバサ…ガンマ・・・・」

 

そんな三人と一体の様子を見て、オスマン氏は笑った。

 

「うむ、そうか……。では、お主たちに頼むとしようか」

 

「オールド・オスマン! わたしは反対です! 相手はあの大盗賊なんですよ!? 生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」

 

「では、君が行ってくれるかね? ミセス・シュヴルーズ」

 

「い、いえ・・・、わたしは体調がすぐれませんので・・・・」

 

「彼女達は、敵を間近で見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いとるが?」

 

タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。教師達が驚いたようにタバサへ視線が集まった。

 

「それって本当なの? タバサ」

 

キュルケも知らなかったのか驚いている。

 

「マスター、皆驚イテイルガ…『シュヴァリエ』ハ ソンナニ凄イコト?」

 

「当たり前よ! いい?『シュヴァリエ』は、王室から与えられる爵位の称号のことなのよ!」

 

ルイズがガンマに説明してくれた。『シュヴァリエ』は言わば階級の一つのようなもので、爵位としては最下級の称号であるのだが、タバサの年齢でそれを与えられるという事自体が驚きなのである。男爵や子爵の爵位ならば領地を買う事で手に入れる事も可能なのだが、シュヴァリエだけは違う。純粋に業績に対して与えられる爵位・・・、つまり実力の称号なのだ。

その称号を得ているということは、タバサは王室からも認められるほどの実力をもったメイジということだ、一見無口で大人しい印象の少女にしか見えないが・・・自分の世界でもあの青いハリネズミが人間達から英雄と呼ばれてるのだし、見た目ではわからないものだ。

 

タバサがシュヴァリエの称号をもっていることで、宝物庫の中がざわめいた。 オスマン氏は、それからキュルケを見つめた。

 

「次にミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

 

キュルケは得意げに、髪をかきあげた。タバサもすごいが、キュルケも軍人家系だったことにガンマは驚いている。

それから、ルイズが自分の番だとばかりに可愛らしく無い胸を張った。

 

「あ~・・・ミス・ヴァリエールは・・・えっと・・」

 

オスマン氏は褒めるところがなかなか見つからなくて困ってしまった。 二人に比べるば彼女は問題児という印象しか浮かばない。ルイズは言葉に詰まらせてるオスマン氏に不安な表情が浮かんできている。

気まずくなったオスマン氏は目を泳がせていると、彼女の使い魔の存在がいたことを思い出した。

 

「そうそう!ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で…、その、うむ、なんだ、大変勉強熱心で努力家であり、将来有望なメイジと聞いているが?

しかもその使い魔は!」

 

それからガンマを熱っぽい目で見つめた。

 

「ただのゴーレムが自我を持ち、あのグラモン家の息子である、ギーシュ・ド・グラモンが操る七体のゴーレムと決闘して、魔法の銃を用いて見事勝利したと聞いておるぞ? 」

 

オスマン氏は思った。このゴーレムが、本当にあの"ロボット"であるのなら・・・・本当に…本当に伝説の『ガンダールヴ』でもあるのなら・・・・。

『土くれのフーケ』のゴーレムに遅れをとることはあるまい。

コルベールが興奮した調子で、後を引き取った。

 

「そうですぞ!なにせ彼は強力な魔法の銃を持った高位のゴーレムであり、あのガンダー・・・」

 

ゴヅッ!

 

オスマン氏は慌ててコルベールの足を杖で突いた。

 

「あいたッ! い、いえ、なんでもありません!はい!」

 

コルベールが自分の足を摩ってると、教師達はすっかり黙ってしまった。オスマン氏は威厳のある声で教師達に言った。

 

「この中で三人に勝てるという者がいるのなら、一歩前に出なさい」

 

異議を唱える者は誰もいなかった。反対するものがいないと確認したオスマン氏は、ガンマを含む四人に向き直った。

 

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

 

 

「「杖にかけてっ!」」「…杖にかけて」

 

ルイズとキュルケとタバサは、凛々しい表情(タバサはずっと無表情だが)になって直立すると、杖を掲げて宣言した。それからスカートを摘み、恭しく礼をする。

 

「アイアイサーッ。オールド・オスマン」

 

ガンマは右腕の銃をジャキンっと敬礼のように構えた。卵型のへんてこな姿ではあるが・・・無駄の無い動きで銃を構える動作は、勇敢な兵士のようだ。

 

「では、馬車を用意しよう。それでフーケの隠れ家に向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」

 

「はい。オールド・オスマン」

 

「戻ってきたばかりで疲れとるじゃろうが、彼女達を手伝ってやってくれ」

 

ミス・ロングビルは頭を下げた。

 

「元よりそのつもりですわ」

 

 

 

 

 

――――そうして捜索隊が決まったことで集まった他の教師達は解散し、捜索隊メンバーとなったルイズ達はミスロングビルと共に出発のための準備へと向うことにし、宝物庫を出ようとした。

 

 

 

 

 

《…………ピコンッ》

 

 

 

 

「ッ!!」バッ

 

 

宝物庫をあとにしようとルイズ達のあとをついて行ったガンマは、一瞬、センサーにある反応を検地し、振り向き宝物庫を見回した。

 

 

「(・・・・一瞬ダガ、機械カラ発セラレル微弱ナ電磁波ヲキャッチ。反応ガ弱スギテ解析不能……何故、宝物庫カラ・・・)」

 

 

「何してるの、早く来なさい」

 

「ア…了解・・」

 

 

ルイズに呼ばれ、ガンマは宝物庫を少しだけ見つめると、ルイズ達の後をついていった。


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