ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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ミッションー125:射的ゲーム

「・・・むっ」

 

 

本塔の外壁に張り付いて思案に暮れていたフーケは、向こうから誰かが近づく気配を感じ取った。

 

「見回り? こんな時に…」

 

とんっと壁を蹴り、小さく『レビテーション』の呪文を唱えながら地面に飛び降りる。 回転しながら落下の勢いを殺し、『レビテーション』の効果でふわりと地面に着地する。 それからすぐさま影の中に溶け込むように移動して植え込みに消えた。

物音を立てないように指で植え込みの葉の間を空けてから、フーケは気配を感じた場所を覗き込んだ。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

中庭に現れたのは、キュルケを筆頭にルイズ、ガンマ、そしてタバサだった。

 

「マスター、決闘ノ中止ヲ求メル」

 

「しつこい、もう後には引けないのよ!」

 

「シカシ、校則違反…」

 

「そんなの承知の上よ!これは、私のプライドの問題よ! それともなに? あんたは私があのキュルケに負けるとでも思ってるのっ!?」

 

「イエ、ソノヨウナコトハ…」

 

「だったらあんたは黙ってご主人様が勝つところを見てればいいの!わかった!?」

 

「了解・・・」

 

キュルケとルイズが決闘を行う場まで移動する最中も、ガンマはなんとか主人を説得しようと試みているが、怒りで冷静さを失っているルイズはガンマの説得には耳を貸さず、感情的になってるようでガンマの言葉を跳ね除けており、ガンマは困り果てていた。

ガンマは肩に引っさげたデルフを鞘から抜いた。

 

 

「デルフ、助言ヲ求メル。ドウスレバイイ?」

 

「おいおい相棒、俺は剣だぞ? ガーゴイルのおめぇにもわかんねぇことを俺に聞いたってわかるわきゃねぇだろうが」

 

「ソウカ・・・」

 

呆れたように金具を鳴らすデルフにそう言われ、吐けないはずのため息を吐く仕草をした。 ルイズのプライドという固定観念は理解できないが、このような事態になってしまったのも、自分がちゃんと剣をえらばなかったことが原因だ。 それに自分もルイズの命令を無視して決闘を行ってしまった前科があるため、人のことを言える立場ではない。 でもルイズやキュルケにも怪我をして欲しくないし、やはりどちらかを選択するべきだったのだろうか・・・?

 

 

ガンマが悩んでるうちに、キュルケ達は中庭の中央広場にたどり着いた。

 

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

キュルケが振り返って言った。ガンマは心配そうに言った。

 

「マスター、キュルケ、本当ニ決闘ヲ実行スルノカ?」

 

「そうよ」

 

ルイズもやる気満々である。ルイズもキュルケも、自分が中止を求めようとしても決闘を止める気配はなさそうだ。 だがガンマはそれでも自分の意見を述べた。

 

 

「デモ、決闘ハ危険…。二人ガ怪我ヲ負ウ可能性アリ。ボク、二人ニ怪我ヲシテ欲シクナイ…」

 

ガンマは無機質な音声を落として言った。その言葉に、二人は少し冷静なる。

 

「たしかに、決闘で怪我するのもバカらしいわね。」

 

「…そうね」

 

キュルケがそう言うと、ルイズも頷いた。

 

「でも、宣言した以上決闘を取りやめるつもりはないわよ。あんたとの決着をつけないと気がすまないもの」

 

「そうこなくっちゃね。なら、ルールを変更する必要があるわ」

 

キュルケは指を顎に当てて別の決闘方法を考えてると、後ろでずっと本を読んでいたタバサがキュルケに近づいてきた。タバサはキュルケの耳元で何かを呟く。それから、キュルケの持ってる剣とガンマのデルフリンガーを指差す。

 

「あ、それいいわね!」

 

キュルケは微笑むと、ルイズに手招きした。

 

「ルイズ、ちょっと耳貸して」

 

「なんなのよ…」

 

キュルケはボソボソと呟く。

 

「あ、それはいいわ」

 

ルイズも頷いた。三人だけで話が進み、話の内容が伝わっていないガンマは頭に?を浮かべて首をかしげてると、三人は一斉にガンマの持ってるデルフのほうに向いた。

 

 

「・・・相棒、なんであいつら俺を見てんだ?」

 

「理由、不明…」

 

 

ガンマとデルフは、なんだかとても嫌な予感がした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

『おいこらぁーーっ!! 魔剣をなんだと思ってやがんだこのバカ女どもっ!! 降ろしやがれえ~~っ!!』

 

 

デルフは抗議の声を上げるように金具をガチガチと鳴らしてるが、鞘を縄で固定されてるから声を上げる事も出来ず誰も返事をしてくれなかった。

本塔の上からデルフ、そしてシュペー卿の剣が束ねられた二本をロープで吊るされ、空中にぶら下げられていた。

塔の屋上には、風竜が二本の剣に結びつけたロープを銜えて支えており、剣をぶら下げている。タバサはウィンドドラゴンに跨って塔の上から見下ろしていた。

はるか地面の下には、小さくキュルケとルイズ、その隣にガンマの姿がある。

 

夜とはいえ、二つの月のおかげでかなり視界は明るい。上から吊るされた二本の剣が、小さく揺れているのが二人と一体の目に見えた。

キュルケが腕を組んで言った。

 

「いいこと? ヴァリエール。 あのロープを切って、先に剣を地面に落としたほうが勝ちよ。勝ったほうの剣をガンマに使ってもらう。いいわね?」

 

「わかったわ」ルイズは硬い表情で頷いた。

 

キュルケ達が行う決闘は、以前ファイナルエッグで性能テストを行った射撃訓練プログラムと似たものだ。

あの時は制限時間内に各箇所に設置されたナックルズとテイルスに似せた人形、そして最終ターゲットのソニックの人形を破壊することを目的とした訓練内容だったが、この決闘のルールでは魔法でターゲットを吊るした縄を切って落すことが勝利条件となっている。月の光で明るいから見えずらいことはないが、人形とは違って縄を切って落すことを目的としたルールだから、対象も人形よりも小さく、当てるのは至難だろう。だがこれならお互いが怪我をしないで済むようだ。

しかし、その的となってしまったのがデルフとキュルケの剣である。たしかに、お互いの剣の使用権利をかけた勝負であるなら理にかなっているかもしれないが・・・的にされたデルフが気の毒だ。

 

『相棒なんとかしてくれー!!』

 

「(デルフ、現状救出不可…申シ訳ナイ)」

 

今もなおデルフは金具を鳴らして助けを求めてるように見えるが・・、彼には悪いが決闘が自分の意思に関わらず現在進行形で行われてる以上、二人の邪魔をするわけにもいかないし"黙って見ていろ"と主人のルイズに命令されているので、自分ではどうしようもできない。

せめて二人の魔法がデルフに直撃しないことを願うしかない。

 

 

「どんな魔法を使うかは自由。ただし、あたしは後攻。それぐらいはハンデよ」

 

「いいわ」

 

「じゃぁ、どうぞ」

 

ルイズは一歩前にでると、杖を構えた。屋上のタバサが剣を吊るしたロープを振り始めると、ゆらりゆらり…と、振り子のように剣が左右に揺れる。

動かさなければ、『ファイヤーボール』等の魔法の命中率が高いものならば、簡単にロープに命中させることができる。 あの剣は一定の間隔で揺れているから、タイミングさえ合えば命中させることができるはず。

 

 

―――しかし・・・・命中するかしないかを気にする前に、ルイズには問題があった。魔法が成功するかしないか、である。

 

 

ルイズは悩んだ。どれなら成功するだろう? いや、そもそも成功した試しなどなかった・・・。

 

『風』系統や『火』系統どころか、『水』や『土』だって爆発しか起こしていない。『サモン・サーヴァント』でゴーレムであるガンマを召還することには成功したらから、『土』系統の可能性もあるかもしれないが、基礎の『錬金』だって失敗している。ましてや、『ファイヤーボール』を唱えたところで爆発を起こすのが関の山だ。

その時になって、キュルケが『火』が得意であることを思い出す。

キュルケのことは嫌いだが、悔しいが魔法の技術に関してはほんの少しだけ認めている。『火』系統の授業でファイヤーボールの実習が行われた中で、キュルケは遠く放れた的に一発も外すことなく見事に命中させたことがあった。

キュルケの腕ならば剣のロープをなんなく切るだろう。 失敗は許されない。

 

「(…でも、できるの?私に・・・)」

 

もし失敗したら・・・・ガンマはキュルケが買ってきた剣を使うことになる。プライドの高いルイズに許せることではなかった。だがそれだけにプレッシャーがかかる・・・。

ルイズの目に不安が過ぎった。

 

 

チラリと横に目を向けると、ガンマが静かに主人のルイズを見守っている。

 

 

 

――――「(ええい!しっかりしなさい、ルイズ! ヴァリエール家の三女であり、由諸正しい旧い家柄を誇る貴族の私が、あのツェルプストーを相手に失敗を恐れてどうするの! ガンマにすごいところを見せてやるんでしょう!)」

 

 

 

ブンブンと頭を振って、弱気になってる自分に活を入れてそう言い聞かせた。ルイズは悩んだ挙句、『ファイヤーボール』を使うことに決めた。 小さな火球を目標めがけて打ち込む魔法である。

短くルーンを呟く。――きっと、魔法は成功せず爆発するだけで終わるかもしれない・・・・。 でも、使い魔であるガンマは、あの魔法の銃で一発も外さずにギーシュのゴーレムを撃ち抜いてみせたではないか。主人である自分にだって、あのロープくらい簡単に当てられるはずだ!

ルイズはキッとロープを睨みつけ、杖を握りしめる。

 

呪文の詠唱が完成すると、ルイズは気合を入れて、杖を振った。

 

 

 

―――――ドオォォォンッ!!

 

 

 

杖の先から出るはずの火の玉はでることはなく、一瞬遅れて、デルフの後ろの壁が爆発した。爆風で、デルフは大きく揺さぶられる。

 

『バッキャロー!俺を粉々にする気かーッ!!』

 

爆風の衝撃で揺さぶられながら、声を出せないがデルフの怒鳴り声が金具の音から伝わってくる。

 

 

「そ……そんな・・・・」

 

ルイズは憮然とした。ロープはなんともない、運よく爆風で切れてくれたら、と思ったが甘かったようだ。 本塔の壁には爆発の影響でヒビが入ってるが、今のルイズにそれを気にする余裕はなかった。キュルケは・・・・腹を抱えて笑っていた。

 

「ゼロ! ゼロのルイズ! ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするの! 器用ね!」

 

ルイズは黙ったまま俯く。

 

「あなたって、どんな魔法を使っても爆発させるんだから! オマケに魔法も当たってないんじゃ話しにもならないわよ! 少しはガンマを見習ったら? あっはっは!」

 

「・・・・っ」

 

ルイズは悔しそうに拳を握り締めると、ガクッと膝をついていた。

 

「さ~て、次はあたしの番ね。」

 

キュルケは、狩人のような鋭い目で剣を吊るしたロープを見据えた。 タバサがロープを揺らしているので、狙いがつけずらい。

それでもキュルケは余裕の笑みを浮かべた。ルーンを短く呟き、手馴れた仕草で杖を突き出す。『ファイヤーボール』はキュルケの十八番である。

 

 

ボウッ!

 

 

杖の先から、メロンサイズほどの大きさのある火球が現れ、剣のロープめがけて飛んでいった。勢いよく飛んでゆく火球は狙いたがわずロープに見事ヒットし、一瞬でロープを燃やし尽くした。

 

 

 

――ブチッ ヒュウウゥゥゥゥーーー・・

 

 

 

『あ~~れ~~~~!』

 

デルフ(とキュルケの剣)は地面に落ちていく。 その下はクッションなどはなく、本塔の屋上から地面までかなりの距離があり、このまま地面に落ちればいくら金属でできた剣といえど無事ではすまないだろう。

すると屋上にいたタバサが杖を振り、二本の剣に『レビテーション』をかけてくれた。 加減された呪文のおかげで、フヨフヨとゆっくりとした遅さでデルフは地面に降りてきた。

 

「デルフ、キャッチ」

 

ガンマは落下地点にかけよって両手で二本の剣を受け止めた。

 

「デルフ、大丈夫?」

 

『し…死ぬかと思ったぞ・・・』

 

デルフは力なく金具を鳴らす。二本とも念のためスキャンを行ってみたが、どこにも壊れてるところはないことを確認して安堵する。

 

後ろのほうでは、キュルケは勝ち誇って笑い声を上げている。

 

「あたしの勝ちね! ヴァリエール!」

 

「・・・・・・」

 

ルイズは口を閉ざしたまましょぼんとして座り込み、地面の草をむしり始めた。

 

 

 

 

――――― 一方身を潜めていたフーケは、中庭の植え込みの中から決闘の一部始終を見守っていた。

 

 

 

 

「どういうことだい…? あの壁に、ヒビを入れちまうだなんて・・」

 

フーケは宝物庫の壁を見て我が目を疑った。 信じられないことに、ルイズが放った魔法でスクウェアクラスの『固定化』が掛かった辺りの壁に亀裂が入ったのだ。

ルイズが唱えた呪文は『ファイヤーボール』なのに、杖の先から火球は飛ばず、代わりに壁が爆発した。

あんな風にモノが爆発する呪文なんて見たことがない。 あまつさえ、あの要塞並みの分厚い壁にヒビを入れたのだ。それはつまり・・・、あの爆発の呪文がスクウェアクラスの『固定化』をかき消すほどの威力があるということになる。そんな強力な呪文が存在するのか?

四大系統の中に爆発を起こす呪文などないはずだ。いったい、あの魔法はなんなのだろう…?

 

 

フーケは頭を振って雑念を振り払った。理由はどうあれ、壁にヒビが入ったのはフーケにとって好都合、これはまたとないチャンスなのだ!

 

「この機会を逃す手はないね・・・!」

 

フーケは杖を取り出すと、薄く笑みを浮かべて呪文を詠唱し始めた。長い詠唱が完成すると、地面に向けて杖を振る。

 

 

――ボゴゴゴゴォォ…!

 

 

音を立てて、地面が生き物のように動き、盛り上がった。盛り上がった部分が次第に形を成していき、巨大な土の腕が地面から生え出した。

 

 

「さぁ、あんたの出番よ。"ゴーレムちゃん"!」

 

 

―――土くれのフーケが、本領を発揮したのだ。




実写版ソニックどうしてああなった・・・(´・ω・`)

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